
2006.12.15
【第3回】 入社8ヶ月目
■ごあいさつ
いつもご愛読有り難うございます!
気付けばもうすっかり冬の気配で、街はクリスマスムードでいっぱいですね。
さて、今回は入社8ヶ月目の頃のプロジェクトをテーマに書かせて頂きます。
今から思い返しても、あの頃は人生史上で最も働いた時期だったかもしれません。
入社8ヶ月目:超・大規模プロジェクトに入る。「不可能な検証作業」を続けて死にそうになる。
"無い"ものを、"無い"と主張するのは非常に難しい
【ストーリー】
前のプロジェクトが終わりに近付いた頃、とあるシニアの方のブース(=パーティションで区切られた座席)付近から、たまたま何やら電話で話している声が聞こえて来た。
「A社のプロジェクトが取れたのか!それはおめでとう!では早速、メンバーをアサイン(=プロジェクトに投入)しなきゃな。今は誰がアベイラブル(=空きがある状況)だっけ?」
A社といえば、日本を代表する超・ビッグクライアントである。しかも私が非常に興味がある分野の会社だ。これは何としてでもアサインメントを勝ち取らねばと思い、電話が終わると同時に私はシニアの方に話しかけた。
「あのー、私、そろそろ今のプロジェクト終わるんですけど・・・。A社の案件、取れたみたいですね!良ければ、やらせてもらえないでしょうか。A社の業界は昔から好きなので、多少の知識はあると思いますので」
こうして、運良く私はA社プロジェクトにアサインされた。しかし驚いたのが、そのメンバーの多さである。ディレクター1名、シニアアドバイザー2名、シニアマネジャー1名、マネジャー1名、コンサルタント1名、アナリスト1名、そして私という、なんと総勢7名もの大プロジェクトである。通常の戦略プロジェクトであれば3名程度が普通であるため、ざっと2倍以上の規模である。
しかも、超・ビッグクライアントだけのことはあって、メンバーに"えらい人"が多い。マネジャー以上が5名に対し、コンサルタントとアナリストという「実作業部隊」は2名しかいないというメンバー構成である。
「船頭はたくさんいるのに、船をこぐのは2人だけか・・・」
プロジェクト結成当初から先が思いやられたのだが、悪い予感は見事に的中した。
「高田君、市場はこんな分布になっていると思うんだけど、数字を分析しておいてもらえない?」
「高田君、競合の動向についてはこういう仮説が成り立つと思うんだけど、記事検索で何か事例を調べてまとめておいてもらえない?」
「高田君、この論点に対しては、この業界のアナロジー(=類似例)で仮説が検証出来ると思うんだよね。ちょっと調べておいてもらえない?」
「高田君、・・・」「高田君、・・・」「高田君、・・・」「高田君、・・・」
作業の嵐である。
とにかく日々、依頼をこなす毎日が続いたのだが、ここであるシニアマネジャーから、今でも忘れられない「ありえない作業依頼」が来た。
「高田君さ、アメリカの大リーグの野球選手の年俸評価の制度を調べておいてもらえないか?恐らく彼らはしっかりデータを取っていて、年俸は打率、打点、得点、ホームラン数、出塁率、なんかの関数で表されていると思うんだよね。その関数を調べてもらえないか?」
言いたいことはわかるが、普通で考えて、そんなものが入手出来るとは到底思えないので、少し反論してみる。
「え、そんなテーマ、調べるのはちょっと無理なんじゃないですか・・・?」
「何が無理なんだよ!調べたのか?取り敢えずいいから調べてみてよ」
水掛け論になるので、一旦引き下がって、調査を開始した。しかし、予想通り、そんなスペシフィックな情報が出てくるはずもない。無駄なリサーチが続き、いたずらに時間だけが過ぎる。
「高田君、出来た?」
「え、いえ、まだです・・・。やっぱり無さそうなんですけど・・・」
「無いことはないだろう。どっか探せばあるんじゃないの」
「えぇ、でもだいぶ調べたんですが、無いんですよね・・・」
「そりゃ、調べ方が悪いんだよ。もうちょっとしっかり調べて」
「はい・・・」
しかし、そんな情報は出てくるはずもない。海外オフィスに連絡を取ったり、専門の調査会社を調べたり、スポーツ雑誌を取り寄せたり、膨大な英文雑誌データベースをひたすら検索したり、がむしゃらに考えられる手段を片っ端から実行するが、やはり情報は出てこない。
「無理だ・・・」
死にかけていたその時、前のプロジェクトで一緒だったコンサルタントの山田さんに言われた。
「高田さぁ、今やってる調査、何調べてんの」
「アメリカの大リーガーの年俸を計算する、関数を調べてるんですが・・・」
「え、それ真剣に調べてんの?そんな大リーガーの年俸の計算式なんて、ある訳ないじゃん。」
「でしょう!? 私もそう思ってるんですが、上の人がきいてくれなくて・・・」
本当につらい作業が続いていたので、この作業が「無謀で意味がない」ことに山田さんが同意してくれたぐらいのことでも、嬉しくて涙が出そうになる。しかし、続けて厳しい言葉が発せられた。
「上が聞いてくれないんじゃなくて、おまえの説明の仕方が悪いんだよ。"出来ません""ありません"と言われても上も困る訳だから、無いなら無いで、なぜ無いと言えるのかをきちんと証明しなきゃ。」
「はい・・・」 山田さんの指摘はいつも極めて的を得ていて、返す言葉もない。
「実は、"無いです"と主張するのは、非常に難しいんだよ。"有る"ということを主張するには、"有りました"と1つ例を示せばそれで終わりだろう?でも"無い"ものは、"無いです"と言っても"どこかにあるんじゃないの?"と必ず言われる。だから、"無いです"と主張する時には、それがいかに"無い"のかを自分で立証すべく、ロジックを固めないと駄目だ。
例えば、データソース(=情報源)をMECE(=ミーシー、漏れなくダブり無く)に切り分けた上で、アプローチ可能なデータソースには全て当たったけれども見つからないとかね。キーワード検索をかけたなら、キーワードをMECEに記録しておいて、"何かあるんじゃないの"と言われたら"このキーワード以外に、では何があるのですか"と切り返すぐらいじゃないと。口で"出来無さそうです""無さそうです"と幾らいっても、そんなのじゃ上は納得しないぞ」
「無いものが、無いと証明するのは難しい、か・・・」
確かに、自分が今までやってきた作業を振り返ると、がむしゃらに"出来ない検証作業"に没頭していた。しかも、作業そのものをMECEに捉えて「無いものが、無い」と証明する努力もせず、上に対しては口頭で「出来ません」「無さそうです」と言っていただけであった。
山田さんのそのアドバイスは、今でも私の「仕事のやり方」に大きな影響を与えている。
- Point
- 今日のポイントは、検証作業において「無いものを、無いと証明するのは難しい」という話である。仕事において、上司や顧客から何かを依頼された時、「探したけれど、見つかりませんでした」「そういう例は、ありませんでした」といった形で、「無い」と主張しなければならない状況は時々発生する。簡単な例では、「その日は、セミナー会場はどこも先約が入っていて抑えられませんでした」「顧客調査の結果、特に問題はありませんでした」などである。
「無い」と主張をした場合、必ず反論で「何か有るんじゃないの」と言われる。ストーリーにも書いたが、「有る」ことを証明する場合は、「有った」現物を示せば良いので簡単なのだが、「無い」ことを証明するのは非常に難しい。しかし、これが上手く出来ないと、半永久的に「何か有るんじゃないの」と言われ続ける羽目に陥る。「無い」ことを主張する場合、最重要なのは、まずは「ロジックを組んで証明をしにかかる」ぐらいの気概を持つことである。口頭で「無いです」と言っているレベルでは、相手を諦めさせることは難しい。次には、「検討プロセス」や、「情報源」といった、結果に繋がるための手段をMECEに切り分け、「手段がこれ以上ないので、結果もこれ以上無い」といったロジックを組むのが定石である。
「無い」ことに対して相手を納得させられるか否かは、ビジネスパーソンとしての「信用」に大きく関わってくる。納得させることが出来れば「無かったけれども、良く頑張ってくれた」という評判に繋がるが、納得させられなければ「他に何かあるだろう。何をやってるんだ、あの人は」という悪評につながってしまうのである。
「無い」ものが「無い」と証明する重要性とその方法を覚えておいて頂き、これからの業務に活用して頂ければ幸いである。
今回は、検証作業において「無いものを無い」と証明するために、ロジカルシンキングの1つのポイントである"MECE"を用いるというお話をしました。次回は、コンサルタントの必須能力である「仮説構築力」について、短期集中プロジェクトでの事例を元に、お話をしようと思います。
次回も楽しみにしていて下さいね!
※注意:ストーリーはあくまでも「実体験に基づくフィクション」であり、私の所属していた企業の内情について書いているものではありませんので、予めご了承下さい。

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高田 貴久 氏
プレセナ・ストラテジック・パートナーズ 代表パートナー東京大学理科Ⅰ類中退、京都大学法学部卒業。大阪府出身。世界で最も長い歴史を持つ戦略コンサルティングファーム、アーサー・D・リトル入社。
多数の経営改革プロジェクトに参画、プロジェクトリーダー、採用担当、教育担当などを務める。その後、元クライアントであるマブチモーター株式会社にて、社長付兼経営企画部員として、当事者として変革を牽引。ボストン コンサルティング グループ コンサルタントを経て、プレセナ・ストラテジック・パートナーズ設立。グロービズ・マネジメント・スクール講師、早稲田大学エクステンションセンター講師。
若手コンサルタント育成活動「PCUの会」主宰、就職活動支援サイト「外資コンサル.com」代表。
著書に「ロジカル・プレゼンテーション」(2004年、英治出版)。東洋経済新報社「Think!」など、寄稿も多数




















