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注目企業インタビュー エムスリー株式会社 谷村格代表取締役社長・西章彦取締役

エムスリー株式会社

日本の医師の半数以上が参加するネット上の情報コミュニティーを提供

まずはエムスリーの現在のビジネス内容や規模について教えてください。

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【谷村】当社のポータルサイトであるm3.comは登録制になっています。対象は医療従事者、つまり医師や看護師ですが、現在、医師会員だけでも14万2千人が登録をしています。日本の医師の数は約25万7千人といわれていますから、その半数以上が登録をしていることになります。

ではm3.comを軸にどのようなサービスを行っているかと言いますと、まずはネット上での情報提供サービスです。毎日の医療関連ニュースの掲載や、医療関連サイトにのみ絞った検索結果が得られるサーチエンジン、製薬会社との情報交換ツールとして開発した「MR君」など、多彩なメニューを揃えています。

また、医師や看護師同士のコミュニティスペースとしての掲示板サービスも行っているほか、医師・看護師・薬剤師のための転職支援サービスも行っています。こうしたサービスの提供により、現在は平日でも1日に5~6万人がログインをしています。医学界で最も人が集まるといわれる医学会総会でも入場者数は2万人程度。それと比較すると、いかに日々多くの関係者がm3.comや付随サービスを利用しているか理解していただけると思います。

製薬会社との情報交換ツールである「MR君」は医療先進国のアメリカにもないサービスで、ネットを介した初のビジネス特許を'05年1月に取得したとも聞いています。

【谷村】複数の製薬会社が1つのプラットフォームを通じて、多数の医師と情報を流通できるようなサービスは、たしかに世界でも例がありません。もちろん1製薬メーカーが、自社のサイトを通じて医師に情報を投げかけるようなアプローチはこれまでにもあったわけですが、そうすると医師はいくつものメーカーサイトを巡っていかなければならない。これでは手間も時間もかかってしまいます。

私はマッキンゼー在籍時より、数多くの医師からお話を伺ってきました。彼らが求めているのは、薬の効能や副作用の情報など医薬に関する最新のデータで、これらを限られた時間の中でいち早く獲得して患者の皆さんに貢献したいと望んでいるのに、環境がなかなか構築されない現実が存在していました。

では、製薬メーカーの視点で見たらどうなのか。現在日本にはMRが5万5千人、医薬品卸のMSが3万人の合計8万5千人が活躍していますが、医師との人数比でいえば3対1、一方アメリカでは7対1と非常に効率が悪く、一人あたりのコストも多くかかることになることから、大変生産性の悪い環境といえるでしょう。

こうした医療界における構造的問題をITツールの駆使によって解決したサービスの一つが「MR君」です。「MR君」は改革志向が結実した典型例だといえるのではないでしょうか。「MR君」の開発で目指したのは、医師と製薬関係者がともに活用できる第三者的存在の共通プラットフォームにすることでした。

医師はもともとITリテラシーが高いので、ネット上のプラットフォーム利用にもすんなり適応できる。一方、製薬メーカーのMRは、「病院に出向いて医師との面談でコミュニケーションをとる」という既存の情報提供の他に、新たな発信ベースを持つことができる。このように、双方の求める「最新情報を効率よく」という願望を同時に満たすことで、高い評価と支持を得るようになったのです。

「情報流通の密度とスピードをさらに向上させたい」というニーズは、日本に限りません。医療現場でのネット活用でも先進性が高いアメリカにさえ、「MR君」のようなニュートラルなポジショニングのプラットフォーム提供は成されていませんでした。それゆえ、海外各国でも高い評価を得たのです。'06年4月には韓国版の「MR君」をスタートさせました。そして近々、アメリカでもこのサービスを開始するところです。

エムスリーのビジネスは、あくまでも医療従事者だけが対象なのでしょうか?

【谷村】設立当初はそうでした。しかし、今やm3.comはどこよりも多くの医療従事者のネットワークが整った場になりました。そこで、m3.com登録中の医師の中で賛同いただける方に協力を仰ぎ、一般向けに「Ask Doctors」というサイトをオープンしました。会員の方々が健康に関して抱く疑問や不安に、「m3.com」に登録する医師の一部が回答するというスタイルのサービスです。

例えば頭痛がする時、「いったいどういう病院の何科に診てもらえばいいか」といった疑問を抱えて困った経験は誰にでもあるはず。「Ask Doctors」には、あらゆる専門領域の医師が参加していますから、このような疑問にすぐに答えてもらえます。

また、最近ではセカンドオピニオンの重要性が日本でも叫ばれています。1人の医師の診断だけで治療を決定するのでなく、もう1人の意見、つまりセカンドオピニオンを求める傾向が強まっているのです。

ところが、実際にかかりつけ以外の医師にも診てもらう、という行動には気兼ねや不安もつきまといます。それが「Ask Doctors」であれば、インターネット上の問答ですから、主治医に気兼ねせずに質問ができる上、この場でセカンドオピニオンを得られなくとも、どういう医師に診てもらえばいいのか教えてもらうことも可能です。

エムスリーにおける「コンサルタント」の役割

こうしてうかがってくると、エムスリーにはまだまだ無数の可能性があるように感じます。谷村さんは、エムスリー立ち上げ時から、これほど多様なビジネスモデルを想定していたのですか?

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【谷村】いいえ(笑)。私はマッキンゼー在籍時にヘルスケア業界を担当するコンサルタントとして「医療界や製薬業界に必要なもの、変えるべきものがいくつもある」と考えていました。そして「インターネットという新しいツールを介して、今までにないサービスを提供しよう」との想いでエムスリーを起業したのは事実です。

しかし、では最初から具体的な事業構想をいくつも抱えていたかというと、必ずしもそうではありません。例えば、m3.comのメニューが現在のように多様になったのは、医療従事者の方々や製薬・医療機器業界の方々の要望を柔軟に採り入れていったことによる成果です。

例えば「MR君」の場合も、今とは異なるスタイルでスタートしていました。当初は各MRが自分の担当する医師へ情報を発信していましたが、医師が自由にMRを指名して情報を取り出せるようにしてから、情報のクオリティが上がり、結果トラフィックも向上しました。MRの中には3万人以上の医師が登録する「カリスマMR」も登場してきています。

我々は「医療の世界に改革を」という高い志を持っています。しかし、机上のロジックだけで改革が実現するような領域ではないことも事実として受けとめています。

大切なのは医療に関わるあらゆる立場の方々に、真に受け容れられるようなサービスを提供していくこと。エムスリーのような中立的存在がこれを実現できれば、例えば「病院に行くと当然のように何時間も診察を待たされる」というような患者サイドの不満も解消していくでしょう。そう信じて今も事業の改善拡充を進めているのです。まず実行して形にする。その上で、要望や問題点の解決を吸収しながら改善を施す。起業時から今にいたるまで、この姿勢は不変です。

先に例で挙げた「病院での待ち時間」の問題1つを取り上げても、すべての病院が解決できた状態でないことは、読者のみなさんも体験上ご存知のはずです。医療界には「解決を急ぐべき課題」がまだまだあります。しかし、すなわちそれは「解決策を提示できる場面がいくつも残されている」ということ。そしてこれはエムスリーにとってビジネスチャンスでもあるのです。世にない独自のサービスで医療界を変えていきたいという強い思いで、エムスリーは今後も新たなサービスを生み出していきたいと考えています。

この記事を読む人の多くは、コンサルティング業界への関心が高い人たちです。谷村さんがマッキンゼー時代、ヘルスケア領域で驚異的な成果を上げた「伝説の人」だと知る人も少なくないはず。いったい、どんなお気持ちでコンサルタントから、実業の世界への転身を決めたのでしょう?

【谷村】そんなに難しい理由はありません。面白いことができそうだと思ったからです。そして実際に始めてみて、本当に面白いと感じています。言うなれば、映画の『マトリックス』に登場するような呪縛から解き放たれたような感覚。そういうものが今の私にはあります。

今回の人材募集についても、同様に「脱マトリックス」的で事業会社志向のコンサル出身者に期待をしているのでしょうか?

【谷村】コンサルティングファームにいたかどうかという点を、私たちは重視していません。確かにエムスリーは私のような元コンサルタントと、西のような元製薬業界マンによって設立した会社ですが、今後参画してくれる人について、前職がそうした業界である必要は一切ないと思っているのです。

「エムスリーのコンサルタント」になった場合、どのようなミッションを担うことになるのでしょう?

【谷村】例えば「MR君」のようなツールを用いて、どんなマーケティングを行うことができるかを、製薬メーカーなどに提案する仕事があります。

また、m3.comというプラットフォームを通じた多業種とのアライアンス締結などの局面も急増しています。圧倒的な医療従事者ネットワークを獲得したm3.comですから、この場を活用した新たなビジネスを確立しようというお話を多様な企業からいただいているのです。コンサルタントは「どんなサービスをどんなコンテンツで、どう展開するか」という提案をプラットフォームのオーナーとして担っていきます。

さらには、「MR君」などの独自プログラムやサービスを海外展開する際にも、コンサルタントが活躍します。地域ごとに異なるルールやカルチャーを理解した上で市場を開き、参加希望の企業にアドバイスをしていく存在にもなります。

もちろん、医療に関わるコンサルティングをするわけですから、知識は必要です。しかし、だからといって医療や製薬の業界にいた経験が必須ではありません。仮に今コンサルティングファームにいる人ならば、クロスインダストリーに案件を抱えている人も少なくないと思います。未知の業界の専門家たちを相手にしていることも多いでしょう。ヘルスケア業界の案件を担当したことのない人がエムスリーに来たとしても、ファーム在籍時と大きな違いはないはずです。

では、やはりファーム出身者向きなのかというと、そういうわけでもない。事業会社にいた人でも、例えば、新規事業の立ち上げを最初から最後まで支えた経験などがあれば、それは即エムスリーでも役に立つのです。

誠実さ、当事者意識、ビジネスセンスを問う

「どこにいた人か」ではなく「何ができる人か」ということが、最重要だと?

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【谷村】そうなりますね。私としては3つの要素を重視しています。第一に人としての誠実さを強く求めます。「企業に入る前と入った後とで、最も変化の少ない要素は何なのか」という調査結果を以前目にしたことがあるのですが、そこでも「誠実さ」が最も高かった。知識やスキルは後からでもついてきますが、誠実さはそうはいきません。

二番目に重視するポイントは、当事者意識があるかどうか。今、エムスリーには他社にはない可能性が広がっています。やりたいこと、やるべきだと思えることがいくらでもありますから、私としては事業ごと任せられるような人に来てほしいと考えています。だからこそ、前職で事業立ち上げを経験している人にも期待するのです。困るのは「やりたいこと」がわき出てこない、思考停止傾向の人。依頼されればその仕事に取り組むけれども、うまくいかなかった時は、依頼した人の責任だと考えるようなタイプ。こういう人は、エムスリーでは難しいでしょうね。

そして、三番目に重視するのがビジネスセンスの有無です。アカデミックな言葉を口にして満足するような人ではなく、目の前の仕事を率先して動かしていける人、と言えばいいでしょうか。エムスリーはインターネットという変化スピードの速いプラットフォームの上にいます。どんどん可能性を追いかけて実行できる人でなければつとまりません。

「コンサルティングファームに在籍していて、エムスリーに興味を感じた人」に、どんなメッセージを送りたいと思いますか?

【谷村】本気で事業会社の一員になろうと考えているならば、「早ければ早いほうがいい」と言いたいですね。私自身、35歳でエムスリーを起業したわけですが、「もっと早くすればよかった」と思っているほどです。もちろん、マッキンゼーで学んだことは今も非常に役立っています。しかし、事業会社という最前線でしか磨けないスキルもあるし、若いうちでなければ体験できないタスクもある。そう実感したのです。

逆に、「PEやVCに行ってから」などと考えている人がいるならば、「それは後からでもできるじゃないか」と言いたい。本当の最前線を知りたいと思っていても、40や50歳になってからでは転身なんてできません。エムスリーには、最前線の現場があり、まだまだ未開拓な領域を自ら切り拓いていくチャンスがある。そうした最前線を掘り起こすというミッションを担うわけですから、将来的にコンサルタントとしての自立を考えているような人にとっても、絶好の成長フィールドだと言えるのです。

プロフィール

谷村 格氏
代表取締役社長

1987年4月、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。1999年12月、同社のパートナーに就任。2000年9月、エムスリーの設立と同時に、同社代表取締役兼CEO(現任)

写真:>西 章彦 氏

西 章彦 氏
取締役

外資系製薬メーカー出身。MR、マーケティングを経験後、2000年10月、エムスリーに入社。2004年1月、同社取締役に就任(現任)

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