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第12回 / 3年2ヶ月目 (最終回)
 【第12回】 3年2ヶ月目(最終回)
(2007.9.18)
 

■ごあいさつ
どうもこんにちは! 「コンサルスキルを身に付けろ!!」を担当しております、高田です。かなり秋らしく、涼しくなってきましたね。秋というのは私が社会人としての一歩を踏み出した、とても思い出深い季節です。

お盆明けに連絡があり、大慌てで引っ越し準備をしたこと。学生時代に乗っていた改造車の売却が間に合わず、春日部でガレージ付きの安アパートを借りたこと。秋入社は自分一人だったため、研修も殆ど受けずに仕事が始まったこと。同期もおらず、2週間昼・夜ずっとローソン弁当を食べたこと。色々思い出します。

さて今回ご紹介するのは、前回の続きとなります。このプロジェクトは私が最初にいたファームでの最後の仕事となりました。この時点ですでに私は転職することが決まっていたのですが、職務を全うすべく最後までプロジェクトリーダーを努めました。刻々と変化する「クライアントの期待値(=エクスペクテーション)」を、いかにコントロールしたかを読み取って頂ければと思います。

 
 

ストーリー
今回のプロジェクトも、前回と同様の大手メーカーA社の事業売却関連のプロジェクトである。(内容はフィクションです)

前回に、ようやくプロジェクトが前向きに進む体制となったという所まで話をした。体制を立て直すのは大変であるが、そこからアウトプットを出していくことが本業であり、それはそれで更に大変な道のりが待っていた。

プロジェクトは既に期間が半分以上過ぎており、残る時間が全然ない状況である。とにかく前回は「お詫び」だったのでアウトプット無しで何とか場をしのぐことが出来たが、次回はアウトプットがない状況は絶対に許されない。

クライアントが期待しているアウトプットは一体何なのだろうか?いまさら聞くわけにもいかないため、想像するしかない状況である。

私は考えた結果、やはりまず大切なのは「クライアントが知らない情報を提供すること」だろうとの結論に至った。というのは、それまでのプロジェクトの進め方は、クライアントから頂いたデータを元に、「考え方」や「視点」を提供するといったアウトプットが中心だったからだ。ロジックで価値を感じてもらえないならば、ファクトで勝負するしかない。

私はそこから、他のメンバーと共同でクイックヒットを打つべく情報の収集を行った。最も短納期で他にはない情報を得られるデータソース、それは「インタビュー」である。特に民間の調査会社や、業界団体の職員など、「その道に詳しい人」に話を聞くのが最も手っ取り早い。相当な数の人物にコンタクトを取った結果、運良く3名ほどにインタビューを行うことが出来、業界他社の動向などについて有用な情報を手に入れることが出来た。

次の報告会の反応は上々であった。「そうそう、こういう情報が欲しかったんです」「こんな情報、どうやって集めたんですか?」「よく短期間でここまで出来ましたね、さすがですね!」と、多くのねぎらいの言葉を頂き、報告会は和やかな雰囲気のうちに終了した。

しかし、難しいのはここから先である。クイックヒットを打ったのはあくまでも「初めて出塁した」ということであり、得点が入った訳ではないし、勝利が決まった訳でもない。「業界動向」は確かにクライアントの関心事ではあるが、プロジェクトの最終アウトプットにどこまで直結するかといえば、実はそれ程でもない。今回の打席はクイックヒットで良かったが、近々どこかで勝利に結びつくべく、得点を入れなければならないのだ。

次にクライアントが期待することは何だろうか?今回のプロジェクトは、事業売却関連である。とすれば、最後のゴールは「高い値段で売れた」という結果を手にすることだ。であれば、どこかのタイミングで「この事業は幾らなのか」という値付けをし、「どこが買ってくれそうなのか」という当たりを付けるという進め方が本筋なのである。

次の報告会で、我々は「事業価値の算定について」の考え方を持って行った。前回はファクトで勝負して価値を認めて頂いたが、今度はロジックでの勝負である。それまではロジック中心の進め方でうまく行っていなかったため、内心はかなりハラハラしながら報告会の場に臨んだ。

結果は、それなりに良好であった。「こんな考え方は初めて聞いた。勉強になった」「確かに、そろそろこういう議論も必要だ」ということで、更に検討を続けることとなった。

そこから2週間ほど、事業価値算定に向けた検討が続けられたのだが、ここで新たに別の問題が浮上してきた。クライアントが事業価値算定のロジックの「正確さ」にこだわり続けるあまりに、検討がまた前に進まなくなってきたのである。

「この製品は違うので、もっと細かくカテゴリを分けて計算してはいけないのでは?」「この情報は、我々の感覚とは少し違いますね。もう少し、この数字が大きければ、最終金額はもっと大きくなるのでは?」「この情報は我々も知っています。そうではなくて、我々が知りたかった情報は、こういう話なのですが」

確かに正論で言えば、ロジックの精度を極限まで高めて「この事業は幾らだ」という価値を高い精度で算出することが出来れば素晴らしい。しかし、現実問題は、やはり幾らロジックの精度を高めた所で、取れる情報や将来の予測には限界があるために「絶対にこの金額だ」という数字を1つ定めるのは極めて困難なのだ。

目的は試合に勝つことである。今回のプロジェクトで言えば、最終的に、事業がうまく売却出来れば良いということだ。ところが、検討を続けているうちに「1イニングでどれだけ沢山の得点が入るか」「どれだけ、ヒットやホームランで観客を魅了するか」といった方向、つまりは個別の報告会において「毎回、どれだけ目新しい情報を持ってくるか」「どれだけ緻密なロジックや斬新なフレームワークでプロジェクトメンバーを驚かせるか」といった内容に期待値が移ってしまっていたのである。

そこにはたと気づいた私は、クライアントの期待値を本来の方向に引き戻すべく、新たな進め方を提案した。

「確かに、ファクトもロジックも、まだ不完全です。ただ、事業価値の計算結果を緻密に詰めることが目的ではなく、この事業をどこかに売却することです。その時に、こちらが納得出来る金額になっていて、相手も納得出来る理由付けがあれば、それで良いですよね。ここから先は、実際に売却する相手を探す活動に、力を入れませんか?」

全員が「それは、その通りだ」と合意してくれ、プロジェクトはまた動き出した。売却先候補のロングリストを作成し、そこから様々な条件で絞り込みをかけてショートリストを作成する。優先度の高い企業幾つかに、実際にコンタクトを取ることとなった。

そこでクライアントの1人から、こう持ちかけられた。「我々はこういう仕事は初めての経験なので、最初のコンタクトをして頂けないでしょうか?」

クライアントの期待は、我々がコンタクトを取り、場を全てセットアップしてもらいたい、というものであった。しかしこの依頼については、申し訳ないが私はお断りをさせて頂いた。

というのは、コンサルタントは「コンサルティング契約」に基づいて業務を行っているため、クライアントの行為を「代理」する権限までは頂いていないのだ。つまり、我々が表に立って交渉の最初のフェーズを手がけた結果、もし仮に何か問題が発生した場合には、我々は責任を取れる立場にないのである。杓子定規なことを言うようであるが、それが「コンサルティング」という仕事なのだ。

クライアントの期待に応えられない代わりに、我々は最大限のサポートを行った。電話でアポイントを取る際の、トーク内容の作成。交渉当日にクライアントが持参する、説明資料の作成。当日の議論のアジェンダや、注意点。当日に相手側から聞き出しておくべき情報。最大限のサポートを行った結果、1社手応えがある企業がみつかり、話がトントン拍子で進み始めた。

そしてそこから半月ほど経過した、プロジェクトの最終報告当日。私は非常に焦っていた。というのは、最終報告の資料が全くまとまっていなかったからである。手を抜いていた訳でもないし、時間がなかった訳でもない。プロジェクトの内容として、完全に「実行段階」にあったために、企画書に改めてまとめるような内容が、なかったのである。

企画段階であれば最終成果物は報告書となるが、実行段階の途中では、作ってもせいぜい経過報告書である。しかも完全に実行のボールはクライアント側にある上に、我々にも情報を開示出来ないような最終段階に入っていたために、経過もよくわからない。それでも何とか紙の最終報告書を作ろうと努力したが、万策尽きた。どう頑張っても、書くことがないのだ。

ほぼ手ぶら状態で、紛糾を覚悟で臨んだ最終報告会であったが、予想に反して極めてスムーズに報告は進んだ。そして最後には、クライアントの責任者、そしてメンバーたちから、多くの感謝の言葉とねぎらいの言葉を頂くことが出来た。中でも感動的だったのは、最初に私がプロジェクトリーダーを交代した時に最も激しく批判をしていた人が、最も温かい言葉をかけて下さったということである。

クライアントの期待値は、もはや「紙の最終報告書」には、なかった。実際に今進みつつある案件こそが、プロジェクトの最終アウトプットだったのだ。

その後は機密案件ということもあり、私も最後どうなったかは詳細には知らされていない。ただ、当時のクライアントと3年ほどしてから再会した時に、「あの時のあの案件ですが、うまく行きましたよ」という話を聞き、胸をなで下ろしたのを覚えている。

Point

今回のプロジェクトでは、クライアントの期待値は刻々と変化した。クライアントの期待に応えなければプロジェクトはうまく回らなくなってくる。しかし、「本筋ではないもの」にまで答え続けていても、やはり回らなくなるのだ。難しいのは「本筋ではないアウトプットを、どの程度出すか」というバランスの取り方である。

コンサルティングは接客業であり、クライアントも人間であるが故に「これは最終目的に関係がないので、やりません」「これは、契約外なのでやりません」と杓子定規に仕事をしているとプロジェクトはうまく回らない。かといって、何でもかんでもやってしまうと、クライアントの期待値が「本筋ではない」所で高まってしまい、最終目的に向けての検討が疎かになってしまったりする。

結局は、プロジェクト全体の流れを見ながら、前回のアウトプット、次回のアウトプット、最終ゴールまでの道のり、メンバーの関心事、バリューの出具合・・・など様々な要素を加味して判断を行うしかない。

この「エクスペクテーション・コントロール」、つまり「クライアントの期待値をうまく管理する」というスキルは、プロジェクトリーダーにはもちろんのこと、そこからシニア層となる人には必須である。

まず最低限、プロジェクトの起承転結が自分で設計出来るようになること。そして、私が最大限大事だと思うのは、「現場にいること」である。

コンサルティングは「現場」から遠い仕事だと言われるが、コンサルティングには、立派にコンサルティングの「現場」がある。プロジェクトメンバーは、自部門でどのような仕事を日々行っているのか。プロジェクトで毎日どのような議論がなされているのか。「現場」に張り付いて状況を確認することが、まずはクライアントの期待値を正しく理解する第一歩なのだ。

ポジションが上がれば上がるほど、「現場」に行く機会は減ってくる。しかし、どんな立場になったとしても、「現場」で何が起きているのかを、自分自身の目で確かめ、初心を忘れずクライアントと向き合うことが、コンサルタントとしてのあるべき姿ではないだろうか。


このコラムを担当してから、ちょうど1年経ちました。今回が最終回となります。皆さんのスキルアップの一助となるように、と思って書いておりましたが、お役に立ちましたでしょうか。去年の自分と、今年の自分で、何か変化はありましたか?

私自身も、自分の過去を振り返り、そこで学んだ内容を整理することで、様々な気付きが得られました。今の自分が知らず知らずのうちに出来るようになっていることも、昔の自分は出来なくて苦労していたんだな、と。

最後に、私がこだわっている「生き方」を、2つだけお話をしたいと思います。まず1つは「後から“懐かしかった”と思えるような、今を過ごす」ということです。

このコラムも、過去の経験を振り返って書いていますから、自分としてはかなり「懐かしい」気持ちでいっぱいになりました。ただ、いつもそこで感じるのは、「自分が過ごしているこの“今”を、5年後に振り返って、懐かしいと思えるか?」ということです。もし、後から“懐かしかった”と振り返ることが出来るような“今”を過ごしていれば、まだ自分は成長しているはずです。逆に“懐かしかった”ばかり感じているようであれば、今の自分はもう輝いていないということになります。

「懐かしいな」と感じた時は、「後から“懐かしかった”と思えるような、今を過ごせているだろうか」と、ぜひ考えてみてください。

もう1つは、「初心生涯」という考え方です。これは本にサインをする時に必ず書いている言葉なのですが、人間、歳を取るとだんだん昔の気持ちを忘れてきます。その結果、「出来てあたりまえ、出来ないヤツの努力が足りない」と部下のせいにしてしまったり、先程の「コンサルティングの現場にいく」ではないですが、「現場は若いものに任せて、指示を出すのが自分の仕事」と他人事になってしまったりします。

「出来なかった頃の、フレッシュな気持ち」をずっと忘れずに努力を続けることが、人として大事なのではないかと、いつも感じています。

「初心生涯」でお互いこれからも頑張りましょう!
自戒の念もこめて。1年間、ご愛読ありがとうございました。


※注意:
ストーリーはあくまでも「実体験に基づくフィクション」であり、私の所属していた企業の内情について書いているものではありませんので、予めご了承下さい。