毎月刊でこれまで124回、一度も休まず連載を続けてきましたが、しばらくお休みします。
「えーっ」という方は是非、「第1回 SFが教えるヒトの本質(前編)」から読み返していてください(笑)
まだまだ発見がいっぱいあると思います。
そして気になることがあれば、自ら探究を。
発見と探究のくり返しで、学びは進み、自らの発想につながります。
またお会いする日まで、みなさんの研鑽を期待します。
では!
※全文お読みになりたい方は、三谷3研 HPへ
三谷 宏治
K.I.T.虎ノ門大学院 教授(ビジネスアーキテクト専攻)
ヒトは五感のうち、視覚にほとんどを頼っています。受け取る情報のおよそ80%が視覚を通してだともいわれます。その視覚を支える感覚器が「眼」です。単純な構造の単眼、それが寄せ集まった複眼(*1)、ピント調節を行えるレンズを備えたレンズ眼。色々な仕組みがありますが、対象のカタチを認識できるのは、複眼やレンズ眼に限られます。
そして、この地球上で最初にカタチを明確に認識できる「眼」を手に入れた生物は、三葉虫(さんようちゅう)でした。
今から5億44百万年前から、5億43百万年前の、"わずか"100万年の間にそれは起きました。そしてそれは、生命のビッグバン的発展の始まりの時期でもあります。
それまでの34億年の緩やかで柔らかな進化の時代を経て、生物は5億43百万年前、突如として多種多様な形態を取り始めました。固い殻や骨、歯、筋肉を持ち、高い攻撃及び防御能力を発揮し始めたのです。それまではほとんどが、柔らかいウニョウニョした生き物だったというのに。これがいわゆる「カンブリア爆発」です。
その余りに「突然」の大発展ぶりに、かのダーウィンでさえ説明に窮しました。徐々に変化と淘汰が進むとした我が進化論は誤りであったのか、と。
英人生物学者のアンドリュー・パーカー(Andrew Parker、1967~)は、2003年、その永年の謎に「光スイッチ説」で答えました。
「カンブリア爆発は、視力(光)を得た三葉虫が引き起こした」と唱えたのです。「眼」という圧倒的な感覚器を備えた生命種の誕生が、すべてを変えたのだと彼は言いました。
生き物の本質は、より多くより長く繁栄することです。その為にはより多く食べ(補食)、より少なく食べられる(回避、防御)こと。そしてもし、生活環境が変わればそれが「淘汰圧(とうたあつ)」となって、新しい環境に有利な生き物たちが、より多く繁栄することになります。
5億43百万年前、温暖化でも海洋汚染でも天体衝突でもなく、まさに三葉虫が他の全生物種に対してその最大の淘汰圧となりました。三葉虫に食べられぬよう、あるものは固い殻を持ち、あるものは素早く逃げ回るために骨と筋肉を持ちました。
外部環境変化でなく、生物間の「競争」環境が、生物全体に急激かつ大きな進化(カンブリア爆発)を促した。これがパーカーの「光スイッチ説」です。
それから3億年経って、時代は中生代。恐竜たちの全盛期のお話です。
この頃、われらの祖先である哺乳類は、恐竜に圧倒され、棲む「場所」を「夜」に求めていました。恐竜たちの眠る夜の世界でなら生きられると。
そこで必要とされたのは嗅覚(*2)です。「鼻」を発達させ、嗅ぎ分けられる化学物質の種類を増やすことで、哺乳類はそれから1億年を夜行性動物として生き延びました。マウスの嗅覚受容体遺伝子数は1037もあります。恐竜の子孫と言われる鳥類の10倍以上です。
しかし、その貴重な嗅覚を捨てた哺乳類がいます。それが、ヒトです。ヒトはより強力な視覚を得、代わりに嗅覚を封印したのです。
哺乳類のほとんどはこの世を「二色」で見ているのに対し、ヒトやゴリラ、ヒヒといったサルたち(類人猿と旧世界ザル)は「三色」で見る三色視を獲得しました。これで得られる情報量は格段に上がったでしょう。
しかし、何かを得るためには何かを捨てなくてはいけません。生物が、ある機能を創り出し、維持するには膨大なエネルギーを必要とするのです。
ヒトを始めとした昼行性のサルたちは、不要となった嗅覚受容体遺伝子を次々と眠らせていきました。ヒトでいえば元来802あった嗅覚受容体遺伝子のうち、414はもう機能していません。
「進化」の反意語は何でしょう? それは「退化」ではなく、「停滞」もしくは「絶滅」です。
では「退化」の反意語は?
答えは「発達」。進化とは、発達と退化を組合せながら進み続けることに他なりません。
ヒトの進化を見ると、その「退化」ぶりが目につきます。近縁であるチンパンジーと比べても、身体的能力は著しく低いものです。上肢(腕)一本で体を支えることも出来ませんし、下肢(足)でモノを掴むことも出来ないし動きも遅いもの。
ヒトはその退化で生み出された余力をすべて「脳容量の拡大」に費やしたといえるかもしれません。ヒトの脳の大きさはチンパンジーの3倍以上、しかも大食いです。重さでは身体全体の2%しかない脳は、全身で費やされる酸素の20%、ブドウ糖の25%を使っているのです。
しかも大きくなりすぎたヒトの胎児の頭は、成熟してからでは母親の産道を通れず、実質的に未熟児のまま生まれてくることになりました。自立して歩けるようになるまでに1年もかかる未熟さです。世話する親もろとも天敵に狙われやすいという、巨大なリスクを背負うことにもなりました。
しかし大容量を確保した脳は、お蔭で他のサルには不可能な、抽象化や概念操作といった高次の処理を可能にしました。言語を発達させコミュニケーション能力も高めました。これこそヒトの絶対無二の武器でしょう。ヒトは他の機能や成熟出産を捨てることでこれを獲得したのです。
進化は、外部環境だけでなく内部競争によっても引き起こされます。「眼」を超えた、新しく強力な感覚器が世界の全てを変えるかもしれません。
同時に進化とは新しい機能を獲得することだけで起こるのではありません。生命40億年の進化の果てにいる我々は、実は様々な潜在能力(遺伝子)を持っています。そのうちのどれを発現させ、どれは眠らせておくのか、そういった整理整頓の組合せは億や兆を軽く超えるでしょう。
何を得て、何を捨てるのか。何を鍛え、何を遊ばせるのか。
それを組織において意識的に行っていくことこそが「経営」という技なのです。
参考資料
・『眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く』アンドリュー・パーカー(草思社)
・『眼の進化』Wikipedia
・『五感の遺伝子からみたヒトの進化』郷康広・颯田葉子(日経サイエンス 2006年3月号)
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地球温暖化に伴って、今、二つの指標が注目されています。一つが「CO2(二酸化炭素)排出量」、もう一つが「投入水量」です。
前者は言わずと知れた、温暖化ガス(*1)であるCO2の排出量そのもの。国全体での削減目標もありますが、特定の商品やサービスを利用したときに、どれだけのCO2が排出されるのかを示す指標でもあります。例えば1人が500km(東京~大阪)移動する際に発生するCO2は、鉄道が10kg、バスが27kgに対して乗用車はなんと87kg。大量交通機関の圧勝といえるでしょう。そして意外とCO2排出量が多いのが航空機です。CO2排出量は56kgで鉄道の5倍以上掛かります。
投入水量も、元々まで辿ると意外な結果が出ます。
穀物では白米が1kg当たり3,600リットルで、小麦の2,000リットル、トウモロコシの1,900リットルを圧しています。しかし、問題は肉類。とりわけ、牛肉が凄いのです。
1kg当たりで比べると、投入水量は鶏肉の4,500リットル、豚肉の5,900リットルに対し、牛肉はなんと20,700リットル。トウモロコシなどを飼料とし、育成に時間が掛かるせいなのですが、まさに牛肉は水の缶詰といえるでしょう。
ゆえに、提供に必要な総水資源量で言うと、牛丼1杯に1,890リットル、ハンバーガー1個に1,000リットルという恐るべき数字となります。因みに月見蕎麦が750リットル、讃岐うどんが120リットルです。
「水」は、今後数十年で逼迫する資源の最たるものと考えられています。
2050年までに世界人口は80億人以上になるのに、使える淡水資源(地球上の水の2.5%のみ。残りは塩水)は大して増えません。そのままでも約30億人が水不足に苦しむでしょう。
もし温暖化が2℃進めば、プラス10億人が、水不足に苦しむといわれています。暖かくなれば、冬の間、山間部に蓄えられる水(氷河や残雪)が減り、かつ夏の間、高い気温が蒸発量を増やして土中の水も奪っていくからです。
しかしただ節水といっても、今われわれが、何に水を使っているのか、その理解無くして適切な対応はありえません。
日本の家庭で使われる水は、1人あたり1日平均250リットル。但し、そのうち、飲み水は数リットルに過ぎません。ターゲット(重みのあるダイジなもの)はトイレ水であり、風呂水、炊事・洗濯の水なのです。
トイレでは大洗浄に1回13リットル(1975~93年)掛かっていたものが、2006年には6リットル、2012年には3.8リットル(*2)で済むものが出ています。トイレ水の7割もの削減であり、家庭使用水全体の2割減に貢献します。(年間では240リットルのお風呂236杯分もの節約になる)
さらには隠れた節水トイレ機能に、流水音発生器(*3)というものがあります。ある女子大ではこれだけで4割以上の節水になったとか。
お風呂の水は入浴法によりますが、毎日入るとして1日4人家族で240リットルの計算になります。
・湯船に180リットル、シャワー等が5分で60リットル
としましょう。
前者を減らすためには(身体のためにも)半身浴。数分間の半身浴は自律神経の働きを高め、冷え性の改善にもつながります。後者を減らすためには節水シャワーヘッドが有効でしょう。
これら2つで、3~4割もの節水になります。全体でいえば1割弱となります。
炊事の水のほとんどは、調理ではなく食器洗いなどに使われます。油汚れは事前に紙で拭き取る、流し洗いせず水を溜めて洗う、なども実用的な節水法ですが、ここでも強力なのは機械の力を借りること。つまり食洗機を使うことです。
5人分の食器洗いには、お湯を貯めてつけ置き洗いしても1回75リットルの水が必要ですが、最新型の食洗機ならわずか6.5リットル(*4)ですみます。なんと9割強の節水です。全体でも16%ほどの節水となるでしょう。
洗濯機の節水ではドラム型が優れていて2014年モデルでは、6kgの洗濯をするのに53リットル(2012年モデルでは96リットル)というもの(*5)もあり、1回あたり数十リットルの節水が図れます。もちろん普通の洗濯機でも、風呂の残り湯を「洗い」工程に使えば、それだけで数十リットルの節水となります。
全体では1割程度の節水となるでしょう。
これらすべてを積み上げれば、家庭使用水の半減が達成されます。ただしこれらの施策を、即座に全家庭に普及させなくては、なりませんが......。
2015年3月12日、カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)の水文(すいもん)学者ジェイ・ファミグリエッティ(Jay Famiglietti)は、「カリフォルニア州の貯水池にはあと1年分の水しか残っていない」との警告を発しました。
カルフォルニア州では2011年から干ばつが続いており、2013年には年間降水量が過去最低を記録しました。ロサンゼルスでは年間降水量110ミリ。例年の4分の1未満に過ぎませんでした。樹木の年輪から調べた結果、過去500年で最悪という干ばつでした。
貯水池は干上がる寸前に追い込まれ、カリフォルニア州の多くの都市が「芝生への水まき禁止」「レストランでの水提供自粛(*6)」「プールの水張り禁止」「洗車禁止」などの強制的な節水策を打ち出し始めました。
しかし2015年1月には雨期であるにも関わらず、サンフランシスコでは降水量ゼロを記録。水不足が解消する兆しはありませんでした。ファミグリエッティはNASAによる宇宙からの観測データを元に、断じました。「雪解け水は期待できない」「明日からでは遅い。今すぐに給水制限などの対策を講じるべきだ」
2015年4月1日、カリフォルニア州のブラウン知事はついに、25%の節水を義務付ける(*7)措置を発表しました。
ただ何かを徹底しようとするのであれば、政治(義務付けと罰則)だけでなく、経済メカニズムへの組み込みが必須です。
全ての行為や成果に「お金」という指標をつけるのがこれまでの経済原理だとすれば、投入水量や使用水量も金額換算して、商品価格に入れ込んでしまうことなのでしょう。少なくとも、全ての商品のタグに「金額」だけでなく、(「CO2排出量」や)「投入水量」が表示される時代が、すぐそこまで来ています。
さらに踏み込むなら、オフセット(相殺)という考え方もあるでしょう。CO2なら「排出権購入によるオフセット」や「CO2固定化に寄与する植林活動への寄付や投資でオフセット」が事業として成立(*8)しています。水、についても今後、同様の概念が導入されるかもしれません。
ところが省エネ先進国だった日本が今、新エネルギーの開発やCO2削減や、この「水」の問題において、なんら世界のイニシャティブを取れていません。
これで、いいのでしょうか? いいわけがありません。
世界の水危機を、日本のチャンスに! 節水技術や設備、その開発・運用ノウハウを世界に!
参考資料
・『世界の水危機、日本の水問題』東京大学教授 沖 大幹
・『運輸・交通と環境 2007年版』交通エコロジー・モビリティ財団
・「とっても節水・節約」パナソニックHP
・「「500年に一度」の水不足:カリフォルニア州の現況」ハフィントンポスト日本版(2014.02.05)
・「CALIFORNIA DRYIN'」UCAR AtmosNews
・四国カーボン・オフセット市場 HP
読者のみなさんへ
慶応大学の一般向け講座、「夕学五十講」。丸の内シティキャンパス(MCC)で4/22(水)夕刻、講演します!有料(5000円前後)で定員300名の会場も「満席」まであと一歩!演題は「イノベーションとビジネスモデルの本質~個人に求められるもの~」です。ご興味ある方は、こちらから。
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]]> 2015年3月14日、北陸新幹線が開業しました。それに向けて首都圏ではテレビもイベントも、この1~2ヶ月は「北陸」一色です。(少なくとも北陸出身の私にはそう見える(笑))
起案から実現までなんと50年。北陸新幹線は、官民一体となった北陸政財界の執念の賜といえるでしょう。
でもこの北陸新幹線、最初の地元案(1965年)では、東京・新宿・甲府・松本・富山・金沢・福井・京都・大阪を結ぶルートで、全長550kmという長さのものでした。これは東海道新幹線の全長(実キロ)515kmに対して、十分競争力のあるものであり、「いざというときの迂回ルート」の名目も立つものでした。
このプランでわかることは2つ。
・北陸、に新潟は(ほとんど)含まれない。富山・石川・福井のこと
・飛騨山脈をトンネルで突っ切って最短ルートを目指す
です。しかし、北陸地方の人口の少なさ(3県あわせて300万人(*1))と、政治力の弱さから、このプランはどんどん遅れ、かつ歪なものになっていきました。
まずは山陽や上越・東北などが優先され、北陸新幹線は、北海道・九州新幹線と同じ整備新幹線(予算が付いたら順次つくる)の扱いになりました。そして、北陸新幹線の路線プランは、まずは上越新幹線の高崎経由となり、そのまま長野経由となりました。更には、飛騨山脈をトンネルで突っ切ることは不可能という判断から、ルートを大きく北にとった上越妙高経由となりました。
1998年の長野オリンピックにあわせて、1997年、長野までを「長野新幹線」として開業にこぎ着けましたが、それが富山、金沢に延びるまでにはさらに18年を要しました。
しかも、福井を含めた敦賀までの開業予定(*2)が、今から8年先の2023年春。その先、京都・大阪への接続に至っては、ルートすら決まっていません。もしそれが決まったとしても、東京・大阪は700km以上に達し、もはや東海道新幹線の迂回ルートとしての役割は果たせないでしょう。2027年に中央新幹線(リニア)が東京・名古屋を45分でつなぐようになればなおさらです。
2015年3月14日開業の北陸新幹線とはつまり、首都圏と富山・石川を結ぶ高速鉄道線だということです。東京駅から富山までは最短2時間9分、金沢までは2時間31分。純粋な所用時間でも十分航空機と戦え、その乗降・乗り継ぎなどの利便性を含めれば圧勝でしょう。
でも、福井は関係ありません。すでに東海道新幹線の米原経由で最短3時間26分のものが、北陸新幹線利用だと金沢乗り換えで最短3時間31分となるだけ。東京駅と各駅間の所用時間をYahoo!の「乗換案内」で比べてみると、
といった感じ。
福井にとって、北陸新幹線開業による時間短縮効果は、まるでないのです。まったくもって残念なことながら。
それでも福井には、大観光地 金沢のコバンザメになる手が残っています。
金沢は、第2次世界大戦中に京都と同じく空襲を受けず、約450年間にわたり地震の被害もなかったため、伝統的な街並みがそのまま残っている稀少な地方中核都市です。人口45万人ながら、この小京都は年間700万人もの観光客を集めます。福井への県外観光客、は市としてはその半分以下に過ぎません。
しかも、福井への県外観光客の8割方は関西・中京地区からであり、関東からのそれは7%弱。
もし金沢が首都圏からの観光客を(その目論見通り)大きく伸ばすならば、そのヒトたちに、もう一時間足を伸ばしてもらうコバンザメ戦略が成り立ちうるでしょう。
九州新幹線での鹿児島県指宿市がまさにそうでした。
九州新幹線が2011年に鹿児島中央駅まで延びた際、そこから電車で1時間の指宿市にも大きなプラスとなりました。2010年に年間372万人だった観光客は、2013年には393万人にまで伸びました。特に外国人観光客は大幅に伸びています。
その原動力は、「ここにしかない楽しみ」です。
・世界的にも珍しい天然「砂むし温泉」。年間30万人が利用する
・にっぽんの温泉100選(*3)「郷土の食文化ランキング」第1位(2014年度、週刊観光経済新聞)
・JR九州の観光特急「指宿のたまて箱(*4)」。運行時には沿線の市役所職員や住民が手を振ってくれる
JR九州の生み出した独創的な「指宿のたまて箱」は、2~3両編成で「いぶたま」と呼ばれています。1億6千万円をかけて改造された特殊車両は、ドアから白い煙を吐き、海を見るために座席が外側を向き、子ども向けの図書コーナーを備えます。
300年もの昔から愛されてきた「砂むし温泉」は、その効用が医学的にも説明(*5)がなされるようになりました。砂むしに入ることで血液循環が進んで身体がリフレッシュされ、その効果は普通の温泉のなんと3~4倍だと結論づけられています。
2014年度、指宿温泉の白水館は「家族旅行にお勧めしたい宿泊施設」部門でも、日本の全温泉旅館中3位になりました。
う~っむ、さすがに魅力的です。
では、首都圏からの観光客たちに、金沢駅からもう1時間南西方向に、足を伸ばさせる原動力を何に求めるべきでしょうか? 福井にある、差別性のある(金沢にない、魅力的な)観光資源とはいったい何なのでしょう?
現状、観光地ごとの県外観光客ランキング(2013年度)は「道の駅」などを除くと、
1. 東尋坊(延べ96万人、昨年度比+1%、金沢駅から車で76分)
2. 恐竜博物館(59万人、+33%、車で94分)
3. あわら温泉(55万人、+2%、電車で37分)
4. 一乗谷朝倉氏遺跡(47万人、▲7%、車で79分)
5. 大野まちなか(44万人、12%、車で98分)
6. 氣比神宮(44万人、▲5%、電車で95分)
7. 大本山永平寺(40万人、▲4%、車で76分)
となっています。
それに対して、福井県庁が2015年2月に案を公表した「観光新戦略」ではズバリ、2. 恐竜博物館、と、4. 一乗谷朝倉氏遺跡、の2ヶ所を今後の中核観光地に据えています。
・「恐竜キッズランド構想」の推進(野外博物館・まちなかダイノスクエア等の整備)
・「一乗谷朝倉氏遺跡」を全国一のフィールドミュージアムに
加えて、3. あわら温泉、を1. 東尋坊や三国湊との「周遊滞在型エリア」にレベルアップしつつ、食べ物が日本一美味しい「食の國ふくい」の発信、をしようとしているのです。
コシヒカリ発祥の地として「食の國ふくい」はわかりますが、何をウリにするのでしょう? 答えはなんと「丼(どんぶり)」です。福井と丼をかけて「福丼県(ふくどんけん)」を名乗り、東京ドームの地域イベントにも出店していました。
これで、金沢から福井に足を伸ばそうと思ってもらえるかは、正直わかりませんが、なんとワールドカップならぬ「ワール丼カップ」も3/14・15と開かれたようです。福井の各地はもちろん、宮城、鹿児島、東京、京都、大阪、長野、石川、愛媛、高知からも「代表」が集まりました。
JR西日本も頑張っています。
・金沢・福井間の「特急ダイナスター」を新設。既存の金沢・大阪サンダーバード23往復、金沢・米原(名古屋)しらさぎ16往復に、1日3往復が追加
・大野・恐竜博物館・永平寺・あわら温泉を巡る観光周遊バス「恐竜博物館・奥越前めぐりバス」を新設。
ちょっと残念なのは、「特急ダイナスター」がただのサンダーバードなこと。せめて恐竜ペイントとか出来ませんかねぇ......。
では、私の友人・知人に「福井に行ったことあるか?」と尋ねると、ほとんどがNOと答えます。でも「金沢には行ったことある!」と言う人は多いので、どこを回ったかと聞くと、「東尋坊でカニを食べた」とか「永平寺で座禅を組んだ」とか言ったりします。......東尋坊も、永平寺も福井です(-_-メ)
でも、恐竜好きの少年少女に聞くと、みな言います。「フクイの恐竜博物館に行ってみたい!絶対行く!」と。彼・彼女らにとって、恐竜博物館は巡礼すべき聖地なのです。
そう、やっぱり今の福井の絶対的コンテンツは恐竜しかない(国内で見つかった恐竜6種の内、福井での発見が4種!)のです。
福井県庁もわかってます。3月7日には福井駅西口駅前広場に、巨大な恐竜モニュメントを3体、設置しました。フクイラプトル、フクイサウルス、フクイティタン、いずれも福井県勝山市で発掘された「フクイ」産の恐竜たちです。原寸大で、しかも、動いて叫びます。もちろん皮膚の色やら叫び声は推定に過ぎませんが、なかなかの迫力。
ついでに福井駅(*6)の駅舎も恐竜たちの姿でラッピングしました。
〔朝日新聞デジタル〕
金沢からもう一歩、足を伸ばしてみませんか?
さて今回は、福井出身者として最大限、福井の宣伝をしてみました。
2歳半から福井で育ち、学んで18歳で東京に(まずは浪人生としてですが)出ました。それだけで、福井県としては1000万円以上の損失です。せっかく地方自治体として保育・教育コストをかけてきたというのに......。
県内に雇用がないわけではありません。求人倍率は日本トップクラスで、住みやすさも、幸福度も、子どもの知力体力も、日本で1位2位を争います。でも、大学は少なく、文学部・法学部・理学部はありません。大学進学者の7割近くが県外に行くことになります。それ自体は子どもたちに「自立の覚悟」を促すので悪いことではありませんが、年間3000人の若者がそうやって福井を出、1000人しか戻らないのでは計算が合わなくなります。もっと多様な職場・魅力ある職場が必要です。
福井にもっと多様で魅力ある雇用を生み出すためにも、恐竜たちに頑張ってもらいましょう!
参考資料
・「福井県経済の構造分析と戦略」日本銀行福井事務所(2011)
読者のみなさんへ
ご意見ご要望はぜひ、HPのお問い合わせまで、お寄せください。
]]> スターバックスやマクドナルドでコーヒーの類を買うと、ほとんどの場合「プラスティック製の使い捨てフタ付き」で出てきます。なぜなのでしょう?
それはズバリ、「(熱い)液体がこぼれないようにするため」です。店頭で受け渡しをするとき、事業者が一番避けたいことが、これなのです。1970年代からこのフタ(業界用語でリッド(*1)という)はジワジワ進歩を遂げ、バルブ式の飲み口がついたものなどが生まれました。ちょっと出っ張っていて、押すとプチッと穴が開くあれです。
そういった発明を大きく後押ししたのが、1992年のステラ・リーバック(Stella Liebeck)による訴訟でした。マクドナルドのドライブスルーでコーヒーを買った彼女(当時79歳)は、コーヒーのフタを開け損ねて膝にコーヒーをこぼし、対処の遅れなどもあって重度のヤケドを負いました。彼女は賠償額(20万ドル)の支払いを求めてマクドナルドを訴え(*2)、勝訴します。陪審員たちの心証を損ねたマクドナルドに課された賠償額は、懲罰的損害賠償額も含めて、なんと270万ドル(*3)!
それを受けてまず改良されたのは注意書きです。リッドには大きく「Caution(注意)」「May Be Hot(きっと熱いよ)」などと書かれるようになりました。
そしてガレージ起業家たちが「より開けやすく(でも勝手には開かない)」「より飲みやすく(でも熱すぎない)」「より安全な(ヤケドしない)」プラスティック・リッドの発明・開発に挑み、多くの特許をとりました。でもそこで覇権を握ったのは、老舗ブランドである「SOLO(*4)」のSOLO TRAVELERでした。
SOLO TRAVELERは、スターバックスを初めとした、多くのコーヒーチェーン店、ファーストフード店で採用されています。そしてこれまで、数々の改良を重ねてきました。
スターバックス・ラテのホットなどに添えられるリッドは今、どんなカタチなのか思い浮かべられますか?
答えは、こんなカタチ、です。
確かに、ここには様々な工夫が見て取れます。
・全体がドーム状:飲料上部のクリーム状の部分がつぶれないように
・下段と上段の境目:この凹みのお陰で外しやすくなっている
・飲み口近くの凹み:上唇がちょうど納まり、飲み物を吸い上げやすくなる
他にも、
・上部の小さな穴:空気穴。これを閉じると飲み物が出ない
・飲み口の穴の大きさ:一度に内容物の多くが出てこないように
そう、小さな工夫だらけ。このトラベラー・リブはSOLOの知財(知的財産)の塊なのです。下記はこのリッドの原形となったものの特許図です(米国特許 第4589569号)。
少し冷めた状態のコーヒーを、フタをしたまま少量ずつ飲めるように、楕円型の飲み口は小型(横3/6インチ、縦3/16インチと決まっている)であり、その周りは側壁に囲まれています。空気との接触面積を増やして冷ますためです。また、上唇が直接コーヒーに当たらないようにD型の凹みは十分大きく深く成型されています。
安全性や飲みやすさはいいとして、肝心の味や香りはどうなのでしょう?
カップにフタをしてしまうことで、当然、香りは抑制されます。でも、スターバックスの日本の広報担当者曰く、味は良くなるそうです。
「ラテやカプチーノの場合、エスプレッソの上にスチームミルクを入れていますが、フタを外して飲むと、混ざり合わずに一気に出てしまうんです」
「ですから、上のもの(スチームミルク)と下のもの(エスプレッソ)とが、バランスよく出て本来の美味しさが楽しめるために、フタをして穴から飲むことをお勧めしています」
確かにそういわれてみればそんな気もします(笑)
みなさんのお気に入りのカフェでは、どんな「リッド」が使われているでしょうか? たとえばタリーズだとこれ、です。
この優美なリッドのカタチには、どんな秘密が隠れているのでしょうか。何だかドキドキです。
ぜひ、リッドのカタチの謎を、探究してみてください。
実はスターバックスのSOLO TRAVELERリッドで、残った謎がひとつ。D型の凹みの底に小さな穴がぽつり。これは一体......。
みなさんの答えを募集します。
参考資料
・「Who Made That Coffee Lid?」PAGAN KENNEDY(The New York Times、2013/10/25)
・「Why is the Solo Traveler the dominant coffee cup lid?」Brian Roemmele(Quora、2012/5/16)
・「Solo Cup Company」Wikipedia
・「Dart Container」Wikipedia
・「マクドナルド・コーヒー事件」Wikipedia
・「スタバとかの穴のあいたフタつきカップを考える」Excite Bitコネタ(Excite、2008/1/22)〔注:文中、トラベラーリットとあるが、トラベラーリッドの誤り〕
・「米国特許 4589569」
読者のみなさんへ
2月中の1ヶ月間、紀伊國屋新宿南店で「ビジネス✕サイエンス 三谷教授のヒミツの本棚」フェアが開催中です。棚2本58冊、すべて私の選書です。ぜひ、足をお運びください。
ご意見ご要望はぜひ、HPのお問い合わせまで、お寄せください。
]]>お正月休みの3.4日に全国で50万人を動員してトップに躍り出たのが、ディズニーアニメの『ベイマックス』(原題 Big Hero 6、12/20公開)でした。同時期公開の『妖怪ウォッチ』を押さえての堂々の首位でした。
興行収入は公開3週間ですでに40億円を突破し、ディズニーアニメでは『アナと雪の女王』に次ぐ数字を叩き出しています。
見ればすぐわかりますが、この映画は「日本」的要素が全体の7割くらいを占めます。
・主人公と兄:ヒロ・ハマダ(14)、タダシ・ハマダ(21)
・舞台:サンフランソウキョウ(街は日本語だらけ。ラーメンの屋台もある)
・ケア・ロボット:顔が神社の鈴のカタチ ( ●―● )
元となった漫画(アメリカンコミック)の「Big Hero 6」では、主人公全員が日本人で舞台は東京だったというのですから、そういう意味では当然かもしれません。でも漫画の原作者2人(*1)は、れっきとしたアメリカ人ですし、ディズニーの映画制作スタッフも、監督2人(*2)をはじめ主要な人たちは全員が外国人です。
なのに『ベイマックス』は、そのワールドプレミア(世界最初の上映(*3))が東京で行われました。製作総指揮のジョン・ラセター(*4)(John Alan Lasseter)は、言います。
「日本、東京、そして宮崎駿さんに、私は人生で大きな影響を受けてきました」
確かに、『ベイマックス』は過去の「日本アニメ」の結晶体ともいえるような作品なのです。ストーリーもそうなのですが、ここからは私が個人的に感じた、とってもディテールの話です。細部に魂は宿る。
だから、この記事を読むのは、映画を1回見たあとがいいでしょう。2回目は是非、こんなところを感じながら鑑賞いただきたい!というちょっとマニアックな鑑賞法のススメです。
主人公のヒロを守るベイマックスは、もともとが医療ケア用の柔らかいロボットです。分厚いビニールでできた風船のようなロボットで、空気を抜けばキャリーバッグサイズに収りますが、スイッチが入ればボヨンとした愛らしい感じ(*5)に膨らみます。そう、まるであのトトロのように。
主人公のサツキたちが大トトロと、最初に出会うシーンを憶えていますか?
そう、サツキとメイが小トトロを追って大楠のうろに落ちたとき、その底で眠っていたのがトトロでした。その大きく柔らかなお腹に、2人はボヨンと落ちたのでした。
『ベイマックス』にもちょうどそんなシーンがありました。
ヒロとベイマックスが高所から落下したとき、ベイマックスはヒロを抱えて自分が下になり、落下の衝撃を和らげました。落下の直前、自らの体にふだんより空気を余計に入れるという小技付きでした。
どちらも、「落下と柔らかなお腹でのキャッチ」でした。
しかし後半、鎧やロケットパンチ(これは『マジンガーZ』!)などをつけてベイマックスが「バージョン2.0」になってからは、まるで『宇宙の騎士テッカマン』(*6)でした。ヒロがベイマックスに乗って空を翔るシーンは、テッカマンが愛機ペガスに乗って宇宙を翔る姿にそっくりでした。
ヒロは激情の中でベイマックスのコア・プログラムを抜き取り、敵役を傷つけようとします。途中で、コア・プログラムを取り戻したベイマックスは、ふたたびヒロが同じことをしようとしたとき、それを拒みます。「わたしはケア・ロボットだからヒトを傷つけることはしない」と。
それはまるで、ロボットであるベイマックスに、自らの魂が宿ったかのようでした。
この「機械の心」というテーマはアトムに始まり、キカイダー(*7)受け継がれたものです。不完全な良心回路 ジェミニィを埋め込まれたキカイダーは葛藤します。しかし、「心」を持ったがゆえに自分自身で考え判断し、行動できるようになったのです。
『ベイマックス』のなかでもっともインパクトが強い登場人物は、歌舞伎の隈取りの面を着けた仮面の男Yokaiでしょう。ヒロとベイマックスを襲い、ヒロが発明したマイクロボットを操るのですが、そのシーンを見た瞬間、思いました。これは『AKIRA(*8)』だと。
大量のマイクロボットをその体の一部のように操り、うごめく巨大な様は、『AKIRA』で最後、制御を失ってしまった鉄雄を思い出させるものでした。鉄雄は超能力の暴走によって、その体が膨張・巨大化してしまったのですが、Yokaiも同じく、その異形は破滅への道でした。
映画の原題でもある「Big Hero 6」からもわかるように、『ベイマックス』の後半はヒーローたちの物語です。「6」ですが、ロボットであるベイマックスを除けば人間5人のチームです。これぞまさに、『科学忍者隊ガッチャマン(*9)』や『秘密戦隊ゴレンジャー(*10)』を始祖とする、正義の味方の鉄板フォーマットといえるでしょう。
リーダーが若い熱血漢・少年タイプであること、大柄な力自慢がいること、などの類似点とともに、女性が5人中1人でなく2人なこと、その性格付けのバランスなどの相違点を楽しむのもいいでしょう。ベイマックスでは、ガッチャマンにはいない超おちゃらけキャラ(フレッド)が、いい味出しています。
『ベイマックス』の舞台は、サンフランシスコと東京を足して2で割ったような未来都市、サンフランソウキョウです。製作スタッフたちが東京を訪れて取材しまくったこともあり、随所にリアルな東京が詰め込まれています。かにや巨大招き猫の立体看板や、ビルの壁面を飾るディスプレイ、街頭のごちゃごちゃした電信柱などなど。
でもやっぱりここは、未来都市なのです。本予告編の1:57のシーンを見てください。
これは、少し未来の風力発電装置です。すでにMITのスピンオフ・ベンチャーであるAltaeros Energyが、直径10メートルのプロトタイプ(*11)を製作、実験をくり返しています。
空中高くに保持することで安定した強風が期待でき、設置場所を選びません。都市におけるエネルギーの地産地消が実現できるかもしれない、未来技術のひとつです。昨年末、ソフトバンクが700万ドルの出資を決めたことで、高度100メートルでのテストも始まりました。
サンフランソウキョウには、そんな未来技術が詰まっています。あなたはいくつ、見つけられますか?
『ベイマックス』は、こんなオタク的なアニメファン(だけ)でなく、子どもに大人気のコミカルな映画でもあります。映画館に行けば、上映中、子どもたちの笑い声がいっぱい聞こえてきます。では、その中でも、もっとも子どもたちの笑いをとっていたシーンはどこでしょう?
それはズバリ、ここです。まずは公式サイトにあるこちらのシーンを見てください。
ベイマックスとともに窮地を脱した主人公ヒロが、交番に駆け込んだときのシーンです。ヒロが必死で「マイクロロボットが」とか「仮面を被った怪人が」とか危機を訴えるのですが、ロートルの警官はまったく取り合いません。そのときベイマックスが、やおらセロテープで、傷ついた自らの体の修復をするのです。柔らかな腕に、穴がいくつか空いてしまったようです。
左腕に自分で空気を入れて、膨らまします。すると「ぶしゅー」っと空気が3ヶ所から吹き出します。それを1ヶ所ずつ彼はテープでふさいでいくのですが、ここで子どもたちは大笑いします。
さらに穴をふさぐにつれ、その「ぷしゅー」の音階が高くなっていくので、また大笑い。
3つふさいで修理完了かと思いきや、ベイマックスはゆっくり、今度は右腕の修理を始めます。また3ヶ所の穴から空気が吹き出して......。まったく同じ作業がもう一度、ゆっくりくり返されます。
子どもたちは、もうたまりません。面白いことのくり返しが大好きなので、ずっと大笑いです。ディズニーは、子どものことを理解しているなあと感じた瞬間でした。
私が見つけた「子ども大笑いポイント」はここでしたが、みなさんの周りではどうでしたか? そして、そのポイントは、子どもたちのどんなツボを押していたのでしょうか?
そんな鑑賞法も、2回目以降は是非してみてください。
『ベイマックス』のちょっとマニアックな鑑賞法のご紹介でした ( ●―● )。
参考資料
・「魔法の映画はこうして生まれる」NHK総合(2014/11/29放送)
・「ベイマックス公式サイト」ディズニー・ムービー
読者のみなさんへ
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ご意見ご要望はぜひ、HPのお問い合わせまで、お寄せください。
]]> ある日友人から、こんな問題を出されました。
「なぜ欧米の雪だるまは3段なのでしょう?」
そう言えば、その通り。ディズニー映画『アナと雪の女王』に出てくるお茶目な雪だるまオラフも3段です。一体なぜなのでしょう?
パーツごとの役割を考えたら、わかるかもしれません。
上段は頭、中段は胴体、下段は足です。合わせて3段。
これでは答えになっていないですよね。質問の意図は「日本の雪だるまは2段なのに、欧米の雪だるまはなぜ3段なのか。その差の理由を答えよ」なのでしょうから。
では日本の雪だるまと比べてみましょう。日本の雪だるまは、上段は頭、下段が......胴体と足?
いえ、違います。日本の雪だるまには、足はないのです。本当は手も。
だって、もともと「だるま」なのですから。
日本の「だるま」人形の姿は、達磨大師の伝説から来ています。
中国禅宗の開祖といわれるインド人仏教僧である達磨大師は、壁観(へきかん)を唱えました。「壁のように動ぜぬ境地で真理を観ずる禅」というものです。
それが、達磨大師が「壁に向かって座禅をした」という誤解が生まれ、更に日本では、おかしな伝説が生まれました。
「壁に向かって九年の座禅を行ったことによって手足が腐ってしまった」
というのです。本当は寒くて「被」という掛け布団を頭から被って座禅をしていただけだというのに......。
手足が「被」に隠れていたために、「だるま」人形でもだんだん省略されて、描かれすらされなくなりました。
そして、こうなったわけです。
そして日本の雪だるまは、その名の通り、手足のないカタチが主流となりました。
もちろん欧米の雪だるまは、「だるま」人形と関係ありません。だから手も足もあっていいのです。だから足の部分があって3段なのでしょう。
本当は、この問題、問い自体が間違っているわけです。
欧米のものは、雪だるまではありません。snowman、スノーマン、雪男、雪人、なのです。そしてそれが3段なのはむしろ、自然なことなのでしょう。
だから本当の正しい問いはこうなるのでしょう。
「どうして欧米でつくられる雪人形は3段で、日本の雪人形は2段なのか」
そして答えは、
「欧米ではヒト(スノーマン)としてつくられ、頭・胴・足の3段である。日本ではだるま人形(雪だるま)としてつくられ足が省略されて2段となった」
問いは必ずしも正しくありません。いや、多くの場合、間違っています。
正しく問う力をつけましょう。それにはまず、与えられた問いを疑う、その姿勢から。
参考資料
・「ふるさと小包 早来雪だるま」北海道ファンマガジン
・「だるまのモデルになった達磨大師とは」必勝だるまのdaruma INDEX
・「達磨忌(だるまき)10月5日」曹洞宗公式サイト・曹洞禅ネット
読者のみなさんへ
9月発売の『ビジネスモデル全史』、発売後即重版で4万部!そして、なんと『経営戦略全史』に引き続いて、ダイヤモンドHBRベスト経営書の第1位になりました。ダイヤモンドHBR 読者のみなさんによる投票で決まりました。著者として、とてもうれしい賞です。12月10日からは全国の主要書店さんでそのフェアが行われるはず!
ご意見ご要望はぜひ、HPのお問い合わせまで、お寄せください。
みなさんは、自分が最初に読んだ本のことを、憶えていますか?
私自身に記憶はありませんが、読み始めたのは5~6際の頃のようです。小学校への入学式直後、40日間の入院をしました。そのとき先生方が「本の差し入れ」をしてくださり、それが40日間で累計100冊になった、と聞いているからです。
でも、なぜ小学校入学前に本が読めるようになったのかは、わかりません。母も記憶にないというか「2歳上の長女には最初の子だったからいろいろ教えようとしたけれど、あなたには何もしていない」だそう。きっと、姉の横にいて「門前の小僧習わぬ経を読む」状態だったのでしょう。
以来45年、本は私の人生の「最大の友」であったと言っても過言ではありません。
読書はヒトの知識を拡げるだけでなく、「思考力」「想像力」の向上に役立ちます。もちろん本来、本は楽しむために読むものであって、トレーニングの道具ではありません。でも、ヒトが(イメージや暗号でなく)言語で思考し、その言語が文字という図形で表されるがゆえに、読書という行為はヒトの脳を鍛える最高のトレーニングのひとつなのです。
書かれた文章を読むとき、脳はさまざまな働きをしています。
「図形の視覚的特徴を抽出する」「図形を認識(記憶にある特徴パターンと照合)する」「単語に区切る」「パターンの組合せから単語の意味を抽出する」「単語を組み合わせて文章の意味を仮につくる」「それまでに想像されていた状況にその意味で合うか当てはめる」
視覚、記憶、意味、想像など脳のあらゆる機能が総動員され「組み合わされ」ます。それこそが、ヒトの脳の特長である「巨大な連合野」の強化につながるのです。マンガでも絵本でもなく、本だけが「言葉」から情景を思い浮かべ、主人公たちの心を想像する力を育(はぐく)むのです。
このあたり、詳しくは『プルーストとイカ』などを読んでいただくものとして、問題は「どうやったら読書好きの子どもにできるのか?」です。そんな質問を、親向けの講演でもよく受けます。
さて、なんと答えましょう。
私自身の例は参考になりません。親も気づかぬうちに本好きになっていた、ので。代わりにわがやの3人娘たちの例で見てみましょう。
結局答えは、「本を好きにならせる」ではなくて、まず「好きな本を見つける」、次に「そこから芋づる方式で横展開する」方法でした。そしてその鍵は「図書館(や図書室・書店)」と「Amazon(などのネット書店)」です。
まずは立ち読みしまくって、子ども自身が「好きになれそうな本」を見つけることです。
どんな子どもにでも「魔法の一冊」がきっとあります。文字が小さくて絵が少なくて文字ばっかりで、でも、なぜか引き込まれる、そんな本が。
三女にとっては「王さまの本」がそれでした。
王さまシリーズは寺村輝夫さん(2006年没)のライフワークです。1956年から40年以上にわたって31冊が刊行されました。
どこかの国に住む、わがままな王さまが主人公のお話で、特に、真剣な学びや寓意があるわけではありません。でも、その強烈なわがままさと数々の失敗(と時々の成功)が楽しい、そんな本です。
三女は小学3年生のとき、これで「小さな活字がいっぱいの本」を読む楽しみを、初めて覚えました。
それまでいろいろ試したけれど、最後まで読み通すことのなかった「小さい活字」の本。そういった本を読む楽しさを「王さま」は無邪気に教えてくれました。それから彼女はひたすら王さまシリーズを読みはじめました。
さあ、まずは立ち読みから。自分に合うものを「探す」だけなのですから、最初から買う必要なんてありません。
そのための最適な場所は学校や地域の図書館・図書室であり、大手の書店でしょう。どんどん、ちょこちょこ、読みましょう。そして「読みたくなる」魔法の一冊を、見つけるのです。
首尾良くそんな本が見つかったら、次にどうするか。
シリーズものであれば、まずそれを片っ端から読みましょう。同じ作者で攻める手もあるでしょうし、もしくは同じようなテーマで、というのも。
結構面白い、有力な手があります。それが「Amazonつながり」です。
Amazonではどの本を選んでも、必ず「この本を買った人はこんな本も買っています」情報が示されます。これを辿っていくのです。
王さまシリーズの第1作「おしゃべりなたまごやき」を買った人は、「エルマーのぼうけん」(ルース・スタイルス・ガネット)も買っています。うんうん、これも良い本だよねえ。この著者は他にも本、出してたっけ。
ルース・スタイルス・ガネット、をクリックすると「エルマーと16ぴきのりゅう」や「エルマーとりゅう」が出てきます。
ああ、この3部作がガネットの代表作なんだ。講談社から英語でも出ているや。コメントを読むと中学生程度の英語でも読めそうです。
こうやって、魔法の本の幅を拡げていくのです。
慌てる必要はありません。本を読む習慣さえ付けば、その内、興味の範囲は拡がってきます。
私は、高校卒業まで、読む本のほとんどはSFや科学系の本(ブルーバックスなど)だけでした。でも浪人時代、たまたま手にとった『竜馬がゆく』(全8巻、司馬遼太郎)が、その興味を幕末史や歴史小説にも向けてくれました。
楽しく読書量をこなしてさえいれば、読解力はついてくるので、興味がどこへ向かおうと大丈夫です。
三女が「王さま」の次に気に入ったのは、『若おかみは小学生!』シリーズでした。
突如両親を亡くした小学6年生の「おっこ」が祖母の営む温泉旅館に引き取られ、ひょんなことから若女将修行を始めることに......。2003年からこれまで、既に20巻を数える令丈(れいじょう)ヒロ子さんのヒット作です。
最初、中学2年生の次女が図書館から借りて読んでいた第1巻を、小学4年生の三女が横から又借りして、はまりました。三女は一ヶ月余りで、あっという間に全巻を読み切ったのです。
三女がこの本で見いだしたもの。それは「もっと小さい活字」で「挿絵が少なく」て「登場人物が多い」本の面白さ。言ってしまえば、普通の本の、楽しさでした。
それまで決して本好きとはいえなかった三女は、この辺りから読書に加速がつき、中学を卒業するまで、毎年、年間1万ページを読むようにまでなりました。
普通の本の楽しさにつながるまで、図書館と本屋さん(含むAmazon)をどんどん探検させましょう。
そうして、子どもたちの思考力・想像力を飛躍させるのです。
参考サイト
・『プルーストとイカ 〜読書は脳をどのように変えるのか?』(インターシフト)メアリアン・ウルフ
・第33号:三谷文庫 創設記念授業(後編)
・第96号:幸せにつながる子育て ~ニュージーランド1000人32年間の追跡調査から
本の感想、お待ちします。ぜひHPのお問い合わせまで、お寄せください。
]]> 2014年9月18日刊行の『ビジネスモデル全史』に続き、この10月7日には『戦略思考ワークブック』(ちくま新書)が発刊となりました。筑摩書店によるちくま新書は、この10月がちょうど発刊20周年とのことで、オビにも力が入っています。
その上、新書ではとても珍しいことですが、書店の店頭で「関連する人気の単行本に並べる」展開を頑張っています。つまりは『ビジネスモデル全史』『経営戦略全史』のお隣に置く作戦です。くまざわ書店大手町店だと、こんな感じ。
未だにほとんど書店は、こういった展開をやりませんし、許しません。単行本、新書、文庫、マンガの区分は絶対のものであり、売り場は別々です。各々、「担当者」が違い、その担当者からすれば、自分の縄張り(売り場)で他の本が売れても自分の数字(売上)にならないからです。それでは貴重な店頭スペース資源を割く価値がありません。
かといってこれを崩すと、毎日押し寄せる数百冊の新刊を捌ききれません。売上減に悩む書店に、「テーマ別編集」や「ジャンル混合の棚づくり」といったことをやる余力は(ほとんど)残されていないのです。だから売上が伸びない、の悪循環......。
でもやれないことではありません。分野を絞って、品揃えを絞ってやることです。くまざわ書店大手町店はわずか30坪の小型店ですが、日本有数のビジネス街という特性を活かし、近隣の大型店と競っています。がんばれ、山本善之店長!(笑)
話が逸れました。そうそう、『戦略思考ワークブック』です。
この本は、私の21冊目の著作です。私は自分の著作ジャンルを3つに分けていますが、そのひとつ、「意思決定力」に属するもので、そのジャンルとしては7冊目にあたります。「重要思考」というオリジナルの論理思考法を中核に、書く力・伝える・ほめる力、自分・みんなで決める力、などについて書いてきました。
その中でこの本の位置づけは「個人学習教材」、テーマは「重要思考」そのものです。
つまり、重要思考を、(学び)練習するための本なのです。20問の問題があり、20個の答えがあります。でもその解法は1プロセスしかありません。それが「重要思考」です。
ボストン コンサルティング グループでの業務の傍ら、28歳頃から一般のビジネスパーソン向けの「研修講師」を務めるようになり、アクセンチュアに転職した32歳からは、グロービスのような社会人向けの教育機関で、定常的な科目を持つことにもなりました。そこで感じた大きな違和感が、「重要思考」という名の論理思考の誕生につながりました。
受講生はみな熱心。ケース等の予習に何十時間も掛けて、クラスに乗り込んできます。「発言点」でも評価されるので、授業中の発言も活発です。
「DELLはなぜ成功したのかな?」という問いに対しても、「ダイレクトモデルだからです!」「消費者の声を聞いて商品開発をしたから」「在庫が少なかったから」「納期が短かったから」と、10や20、すぐその理由が上がります。
でも、なんの議論にもなりません。みんな「という点も(成功要因として)1つあると思います」というだけなので、否定しようがなく、次のヒトも他の「成功要因」を1つ加えて終わり、です。
知りたいのはそんな「成功要因の候補リスト」ではなく、「成功のメカニズム」であり「もっともダイジな成功理由」なのに。
みなの発言がただ言いっ放しに終わり、議論しようとしてもすれ違ってしまうわけは簡単でした。
「これがすごい(競合品より優れている)」と言うばかりで、「これ、がダイジ(顧客にとって価値が高い・コストで多くを占める)」を言ってないからです。
「在庫が少なかったから」勝ったと言いたいなら、そもそもそのビジネス(PC販売)において、「低在庫がダイジ」と言わなくてはなりません。もし在庫の多寡が影響しない業界(例えばダウンロード可能なネットコンテンツビジネス)なら、「低在庫」なんてどうでもいいことです。でも、生鮮品を扱う業界であれば在庫の多寡は生死を分けます。粗利の低いスーパー業界でいえば、生鮮品が1つ売れ残れば、10個売って儲けた利益を吹き飛ばします。PCもまた同じ。製品寿命が短く(3~4ヶ月)て、粗利が低いので、在庫を何ヶ月分も抱えたら終わりです。
つまり「在庫が少なかったから成功した」わけではなく、「PC業界では在庫の収益インパクトが大きく、DELLはその在庫が他社の数分の1だったから成功した」のです。まず言うべきは「在庫が収益にとってダイジ」であることです。そこでの議論が最初にあって、やっと「誰がすごい」「何が素晴らしい」の話に意味が出るのです。
そんなことをクラスで伝え続け、それを整理したのが「もっとも単純なビジネス論理思考」としての「重要思考」でした。(内容の詳細は、『戦略思考ワークブック』をご参照ください)
近年われわれは、海外から「ロジカル・シンキング(論理的思考法)」(の一種)を取り入れ、それを学生や若手社会人たちが熱心に学んでいます。きっと延べでいえば100万人以上がその洗礼を受けたことでしょう。そしてここ数十年、その内容はほとんど変わらず一貫しています。
でも、社会が論理的になったようには、ちっとも感じられません。感情的な意思決定や不条理に溢れています。いったい、なぜなのでしょう?
それはみながその学びを、実際には活かせていないからです。会社の実務にも、自分の人生にも。
そして、自分の身についていないから、他人に広めることができません。それでは、チームや家族、友人たちと論理思考の力を共有し、その成果を得ることもないでしょう。
感情や不条理に負けないための論理思考が、日本にもっともっと拡がっていくためには、大きな2つのギャップがあると感じます。
ひとつは、「内容の難しさ」。もうひとつは「練習の不足」です。
一般に教えられている「論理思考(ロジカル・シンキング)」はもともとが、経営コンサルタント向けの玄人版です。いわば職業軍人向けのコンテンツをわれわれは学んでいるわけです。骨格をそのままにして「高校生向け」とかをつくっても、結局使いこなせるわけではありません。
練習の不足も深刻です。何かひとつの技を身につけようと思ったら、何百回・何千回とくり返す必要があります。でも教科書だけ読んでも、理解できるだけで、くり返しになりません。実例集や問題集はそのためにあります。しかし、実務に即した論理思考の問題集はほとんどありません。あっても、もとがプロ向けなので、アマチュアには解答が難しすぎます。
この本はその2つのギャップを埋めるのに、きっと役立ちます。
まずは、何がダイジかをハッキリさせること。そしてそれに対して逸らさずに議論を尽くすことなのです。それだけです。
それを私は「重要思考」と名付けました。コンサルティング会社内やクライアント先でそれを広めるだけでなく、社会人向けの大学院や小中高校大学での授業や講演を通じて、じわじわ広めています。
これまでそれを、
(1)教科書『正しく決める力』(2009)→改訂・文庫化『一瞬で大切なことを決める技術』(2014)
(2)教科書『一瞬で大切なことを伝える技術』(2011)
(3)事例集『実例で必ず身につく! 一瞬で大切なことを決める技術』(2012)
という形でまとめることができました。
そしてこの『戦略思考ワークブック』は最後の「問題集」 (の前編)にあたります。ただこの1冊だけでも完結できるように、第1章には教科書的な内容も含んでいます。①②をお読みの方は、第1章「営業と重要思考」から、そうでない方は序章からお読みいただければと思います。
そしてこの本を、読み(解き)終わったら?
「重要思考」を実際に使ってみるしかありません。「営業」「サービス」「マーケティング」「事業戦略」、そして「事務作業」の各ビジネス現場で。
論理思考の方法論はこれひとつで十分です。いくつも身につける必要はありません。いや、そもそも思考法を使いこなすには、数百回もの練習が必要なので、いくつもにチャレンジする時間もないはずです。
ただよいニュースがひとつ。思考法の練習には、たいしてお金がかかりません。グルメやスキー、芸術系の趣味を究めようと思ったらお金がいくらあっても足りませんが、重要思考の練習には、身の回りのすべてが題材になりますし、練習相手も割と簡単につくれるはず。
最後にこんな一文を書いたら、それが手書きのまま、巻頭を飾ることになりました。
さあ、軽く高性能なOSとして、自分とチームに「重要思考」のインストールを!
『戦略思考ワークブック』には書題として、【ビジネス篇】って添えてあります。もしこの本に人気が出たら、【ライフ篇】【子育て篇】とか出すつもり、なのですが......(笑)
さてどうなりますか。それはみなさんの、ご支持次第。
お知らせ:『ビジネスモデル全史』読書会のご案内
『ビジネスモデル全史』ですが、発売1ヶ月で4万部を突破しました! 内容をご紹介するセミナーも10月15日 日本橋セミナー@丸善 日本橋店で一段落。ここからは、読者による読書会が始まります。
・11月1日(土) FED主催@文京シビックセンター
・11月10日(月) アカデミーヒルズ✕ディスカヴァー共催@平河町森タワー
各々、参加の条件等がありますので、お気をつけください。そして、人数制限もあるので、お早めに~。
また、「ハーバード・ビジネス・レビュー読者が選ぶベスト経営書2014」の投票締切りが10月26日に迫っています。まだの方は是非、こちら、から投票を。DHBR読者及びイベント参加者が投票できますので。
では、本の感想、お待ちします。ぜひHPのお問い合わせまで、お寄せください。
参考サイト
・「頼りになる書店員さん 第13回」ダイヤモンドオンライン
2013年4月刊行の『経営戦略全史』と、この9月18日刊行の『ビジネスモデル全史』は、基本、事実に基づいたノンフィクション(歴史書・経営学書)です。ですがその各章の頭には、必ず「巨人たちの午後」という名のフィクションがついています。
たとえばそれは、江戸時代に革新的な呉服屋「越後屋」を創造した三井高利(たかとし、1622~1694)と、シリコンバレーの中核となったスタンフォード大学リサーチパークを戦後つくったフレッド・ターマン(1900~1982)の対談。時空を超えた巨人たちの楽しい会話が、長崎訓子さんのイラストとともに楽しめます。
でもなんで、(一応)バリバリのビジネス書である、『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』に、こんなオモシロ架空対談が、いっぱい載っているのでしょう。もちろん私が書いたからなのですが......。
もともとはただの気分転換でした。『経営戦略全史』をもくもくと書いていた(といっても2ヶ月半で全部書き上げたが)2012年の末、本文を書くのに飽きたとき、そんな対談を書き始めました。書き始めたら楽しくなって、「それなら架空対談だけで1章つくってやれ」と書き続けました。結局、9本も書きました。
といっても、どうしても本に入れたい、というものではなく、「ディスカヴァーが嫌がったら引っ込めよう」程度のもの。あくまで私の趣味の産物でした。
でも編集の原さんが面白がり、「バラして各章の冒頭に置きましょう!」と。「本当にいいのか?」と思いながらも、『経営戦略全史』ができあがりました。長崎さんのイラストが入ることで、物語(ショートコント)が本当に活き活きとしたものになり、びっくりしました。『ビジネスモデル全史』を書くことになったときも、当然、でも気分転換に書くことにしました。8本が、書き上がりました。
せっかくですから一部、ご紹介しましょう。
メディチ家を築いたジョヴァンニ・ディ・ビッチとスクエアを立ち上げたジャック・ドーシー
ドーシー(以下 ド):あなたがメディチ家の開祖といわれるジョヴァンニ・ディ・ビッチ・デ・メディチさんですね。お目にかかれて光栄です。 さてこの『ビジネスモデル全史』ですが、9/12からは全国の主要22書店(リストは下部に)で先行販売がされています。9/18からは全面展開され、Amazonからの発送も始まるはず。
みなさんの前でお話しする機会もいろいろです。
・9/11 刊行直前セミナー(アカデミーヒルズ、ディスカヴァー21共催@平河町)【無事終了】
・9/21 名古屋セミナー@名古屋A+LIVE
・9/24 大阪セミナー@グランフロント大阪(紀伊國屋 梅田本店、グランフロント大阪店、本町店 共催)
・10/3 虎ノ門セミナー@KIT虎ノ門大学院(ダイヤモンドHBR、KIT共催)
・10/10 八重洲セミナー@八重洲ブックセンター
・10/15 日本橋セミナー@丸善 日本橋店
各々、参加の条件等がありますので、お気をつけください。そして、人数制限もあるので、お早めに~。
先行販売店リスト
◆札幌:紀伊國屋書店 札幌本店
◆東京:丸善 丸の内本店、丸善 日本橋店、紀伊國屋書店 新宿本店、紀伊國屋書店 新宿南店、啓文堂書店 渋谷店、三省堂書店 神保町本店、三省堂書店 有楽町店、八重洲ブックセンター、リブロ 池袋本店、ブックファースト 新宿店、ブックファースト 渋谷文化村通り店、有隣堂 ヨドバシAKIBA店、有隣堂 アトレ恵比寿店、TSUTAYA 神谷町駅前店
◆川崎:丸善 ラゾーナ川崎店
◆名古屋:ジュンク堂書店 名古屋店、三省堂書店 名古屋高島屋店
◆大阪:紀伊國屋書店 梅田本店、紀伊國屋書店 グランフロント大阪店、紀伊國屋書店 本町店
◆福岡:ジュンク堂書店 福岡店
では、本の感想、お待ちします。ぜひHPのお問い合わせまで、お寄せください。
LEGO話はまた次回!
レゴブロックで有名な、LEGO社の栄枯盛衰物語『レゴはなぜ世界で愛され続けているのか』を、読みました。秀逸でした。
英語の原題は『BRICK by BRICK』です。慣用句として「積み上げ式で」くらいの意味ですが、BRICKがレゴそのものを指すだけでなく、LEGO社の大成功・大失敗のあとの革新的再生の過程を見事に表してもいます。それは確かに一歩一歩、1個1個のイノベーションの積み上げでした。
本の最初の数十頁は、レゴブロックの創造と革新、そして成長の物語です。その「カチリとハマる(*1)」高い品質へのこだわりや、射出成型(*2)によるプラスティックブロック製造という先見性(*3)。そしてシリーズを超えて(レゴとデュプロ(*4))も「つながる」統合性。レゴってそんなに凄かったんだと「はじめて」知りました。自分自身、遊んだ経験があまりなかったからです。
わが娘たちにはなぜかレゴ(青いバケツと赤いバケツ)を与えましたが、自分自身は幼少期、レゴとは無縁でした。私のブロック原体験は、ダイヤブロックでありBブロックでした。
小学校就学前のある年、クリスマスの朝のことです。目覚めると、枕元に大きな脱衣カゴが置いてありました。中には、山盛りのBブロック!
Bブロックは、幼保育園向け事業ジャクエツ(福井県敦賀市)の商品です。基本ピースの断面が「B」の形をしているのでBブロックです。
Bブロックは、いわば究極のブロックだといえるでしょう。基本ピースにはポチが2つしかなく、つなげるという機能を考えたとき、これ以下だと棒しかできません。でも、この「B型」の基本ピースだけで、無限の造形が可能です。(私がもらったのは、基本ピースだけ200個)
私はそれからの数年を、Bブロックとともに暮らしました。宇宙船、潜水艦、サンダーバード、剣に盾、ひとりでなんでもつくれました。
ブロックが大きくて子どもが呑み込んでしまうこともないので、親としても安心(*5)だったでしょう。
子どもの頃、もうひとつ楽しんでいたのがダイヤブロックでした。純日本産(カワダ)です。
1960~70年代のレゴは「高価な輸入品」であり、私は存在すら知りませんでした。ダイヤブロックこそが日本の子どもたちの「レゴ」だったのです。
ダイヤブロックとレゴを比べると、
・システム:同様。ただし基本サイズは違う(ダイヤとレゴを混ぜては使えない)
・色:ダイヤは多色で「透明」あり。レゴは基本6色で「透明」はほとんどない
・はめやすさ:ダイヤははめやすく、外しやすい。レゴはキッチリはまるので精巧につくれる(が外しづらい)
・耐久性:ダイヤは柔らかめ。レゴの方が丈夫で壊れにくい
私が気に入っていたのは、基本ピースセットに少ししか入っていない「透明」ブロックでした。基地の窓にしたり、戦闘機のキャノピー(風防)にしたり、パトカーの赤色灯にしたり。
ダイヤブロックの名称も、ここから来ています。最初に発売されたセットが、白以外全部、透明色のブロックだったからです。
Bブロック同様、家ではかなりの時間、ダイヤブロックとともに過ごしました。もっと「透明」ブロックがあればと思いながら、家や基地、宇宙船といったさまざまな独自の造形に挑み続けました。お手本はなく、あるのは頭の中の妄想だけ。基本パーツだけによる、無限の小宇宙がそこにはありました。
電子ゲームも何もない時代、ブロックは、小学生の私の貴重な遊び道具でした。でもそれから長女が5歳になるまでの20年間、ずっとブロック遊びを忘れていました。いや、完全に忘れていたわけではなく、たまにおもちゃ屋さんの店頭で、ダイヤブロックやレゴブロックのパッケージを目にしては「違うんだよなあ」と独りごちていました。
ブロック玩具の世界シェア9割を握るLEGO社は、この35年間、大きな成功と失敗、再生を経験してきています。
LEGO社の売上高が10億デンマーククローネ(DKK(*6))に達するまで、創業から1978年までの46年間かかりました。しかし次の10年で、その5倍になりました。
・手足と顔のついたミニフィギュアの導入
・テーマを定めたシリーズものの開発(「お城」、「宇宙」、「南海の勇者」、「街」など)
が当たったからです。リアリティを高めるために、テーマや商品ごとに特殊パーツ(他では使えない・意味のないもの)がいっぱいです。フィギュアや小物だけでなく、ブロックそのものや、可動部品も特殊なものがどんどんつくられました。
同時期、ダイヤブロックも同じ変化を遂げました。1980年代、「ダイヤコスモ」や「みんなのまち」シリーズが生まれ、「リニアカー」などは、バーコードユニットを線路上に置くことで、車両をコントロールできる画期的な商品でした。グッドデザイン賞も獲得し、好評を博しました。
無からつくり出す創造性は失われましたが、ごっこ遊びができる没頭性の高い遊びへと、レゴやダイヤブロックは変身していきました。1993年には、LEGO社の売上高は70億KRRに達しました。
商業的には大成功でしたが、私にはそんなシリーズ物がただの高価で出来の悪いプラモデルに見えました。一度つくって終わりの商品なら、ブロックでやる意味はありません。多少拡張性があっても、それだけです。
そんなLEGO社を襲ったのが、任天堂を始めとした電子ゲームの波でした。子どもたちの興味や時間、お金はファミコン(1983~)やスーパーファミコン(1990~)、ゲームボーイ(1989~)に流れていきました。LEGO社の売上は低迷し、経営陣は1990年代後半から大規模な「イノベーション創出」に乗り出しました。ブロック好きでない多数派の子どもたちの気を惹こうと、新社長の下、あらゆる可能性に挑んだのです。
・レゴメディアの開発(ソフトウェア上でレゴをつくる)
・テレビシリーズの提供
・子供服や腕時計の開発
・直営店の急拡大
・テーマパークの急拡大
・ドールの導入(女の子向け)
それらほとんどは赤字事業のまま終わり、2003年、LEGO社は突然、破綻の危機に瀕します。キャッシュが回らなくなったのです。安定した拡大が数十年続いた結果、誰もプロジェクト毎の収支やキャッシュフローを把握・理解していませんでした。
すべてを変えるために、創業者の孫がCEOに復帰し、同時に中途入社2年目の若者クヌッドストープ(元マッキンゼーの変わり者コンサルタント、35歳)が後継者に指名されました。
彼は、再び「ブロック好きの子どもたち」を事業の中核に据えることにしました。
瀕死のLEGO社を救うため、まずクヌッドストープがやったことは、組織に「明確な強い制限」を与えることでした。それまで、イノベーション促進に走るあまり、すべての制限が外されていました。ターゲット顧客も、特殊パーツ開発費も、収益性も、自由でした。クヌッドストープは、熟考と大規模調査の結果、こう再定義しました。
・ターゲット顧客は「すべての子どもたち」ではなく「コア地域(ドイツ・北欧)の5~9歳のブロック好き男子」
・提供商品は「すべての遊び」ではなく「組み立て玩具」。「組み立てる」という価値をもっとも重視する
・DMUはユーザーではなく小売店と考える。小売店の収益を重視し意見を聴く
・製品利益率は13.5%を目標にする。利益につながらないイノベーションは切る
・パーツ数(*7)や色数を強く制限する。その中で新商品を企画する
・高級品であり続ける。品質は落としてコストを下げることはしない。
これだけ絞っても、LEGO社を支えるだけの(ニッチ)市場は存在する、とクヌッドストープは判断したのです。
そして彼の思惑通り、これらの「制限」が、より良質の新商品アイデアや、創意工夫につながりました。制限はつけましたが、その中では自由にやらせたからです。
ヒトは「なんでも好きにしていい(が個別に報連相させる)」より「強い制限付き(だかその中では自由)」の方が、その創造力を発揮できたのです。
中核商品であったレゴブロックの収益性は急回復し、存続への道筋がつきました。しかし、将来に向けては、次のイノベーションが必要でした。クヌッドストープはそれを、オープンイノベーション(社外の智慧を活用する)とビジネスモデルの変革(ターゲットや収益源、ケイパビリティなどを変える)に求めました。
この本を読んで驚いたのは、「特殊パーツだらけのパッケージ商品」を嫌っていたのは、私だけではなかった、ということでした。
・コアユーザーは「組み立てることが大好き」で「レゴで何でもつくれる」ヒトたち。簡単すぎるものや、組み立てがないもの、創意工夫の余地がないものを嫌う
そして、その子どもたちは減ってもおらず、少数派の孤独な少年でもありませんでした。
・レゴ好きの子どもは、テレビゲームもスポーツもふつうにする
・レゴ好きの子どもは賢く、たいがい仲間からもよく思われている
これらを明らかにしたのは、トップ自らによるコアユーザーや小売店とコミュニケーションであり、「コアグラビティ」という名の大規模調査でした。数字による裏付けもあって、クヌッドストープは「高級ニッチ戦略」への大転換が断行できたのです。
長くなってきたので今月はここまでにします。
この10年でLEGO社はその売上を、60億DKKから、なんと4倍超の254億DKK(2013年度、約4700億円)にまで引き上げました。純利益は61億DKK(約1100億円)、売上高比で24%にも達します。
クヌッドストープの改革以降、LEGOが実現してきたイノベーションとはなんでしょうか。それらは、どうやって実現されたのでしょうか。それを読み解いていきましょう。
ではまた来月。
参考資料
・「第35回 ダイヤブロックはカワイイ。」ほぼ日刊イトイ新聞
・「'80~'90年代のレゴを懐かしく振り返るサイト」7205
・「ダイヤブロックの歴史 1980年代」ダイヤブロック
読者のみなさんへ
まだカバーデザインも決まっていない『ビジネスモデル全史』ですが、その刊行直前セミナーが決定しました!
アカデミーヒルズとディスカヴァー21の共催で9/11(木)の19:30~21:00に、平河町のディスカヴァー21本社で行われます。
『経営戦略全史』でも同様のイベントがあり、あっという間に80人埋まってビックリしましたが、さて、今回はどうでしょうか。
申し込みは、こちらへどうぞ。もちろん一般の方でも申し込みできますので。
]]>ある夜、HDDレコーダーに録りためた番組を見ていたら、こんな光景が目に飛び込んできました。
一体これがどこの何の風景だか、わかりますか?
わからなければ、なにかしてみましょう。
クリックして拡大してみる、なんて素敵です。
もう少し拡大すると、こんな感じ。
わかりましたか?
そう。これは、芝生の駐車場にズラリとならんだオートバイの姿です。
場所はオランダのアッセン・サーキット(*1)。今年のMotoGP 第8戦での様子です。
最終土曜日の観客は9万人でした。私がビデオで見たのは、ヨーロッパ中から押し寄せた数万台のバイクがつくり上げた風景でした。
さてところで......。
ここでの本当の「問題」は、なんだと思いますか?
問題として出したら面白そうなことが、この[1]や[2]の写真から何か引き出せますか?
最初にこの写真を見てどう感じたでしょうか? 多分それでいいんです。そう、問題は、
「なぜ何万台ものバイクが、こんなに綺麗に整列しているのか?」
です。
不思議だと思いませんか?
[2]を見ても、白線など引いてある風ではありません。見えるのは、通路と芝生。それだけです。なのに、究めて整然と並ぶ数万台のバイクたち。
なぜこうなっているのか? が「問題」なのです。
ここに答えを載せてしまうと、読者のみなさん、考えずに速攻で見てしまいそうなので、答えは私のHPに載せることにします。
ただしこの問題、この[1][2]の写真だけでわかったら天才級です。ぜひチャレンジしてみてください。
でも、丸1日考えてわからなかったら、諦めましょう。「天才ではなかったか」と。
ではここで、私と同じく[1][2]だけではわからなかったみなさんのために、もう1枚、ヒント画像を見せましょう。
このアッセン・サーキットのバイク駐車場の中で撮影されたものです。この写真に、答えが隠れています。じっくり探してみてください。
...ちょっと、わかりやす過ぎましたかね。
正解は「三谷3研ブログ」で、7/15 9:00から公開しています。
参考資料
・「2014年MotoGP Rd.8 オランダGP ここが見どころ」ブリヂストン 山田宏
読者のみなさんへ
珍しく、有料の一般向け研修を行います。
若手・中堅のための「決める・伝える・ほめる力の鍛え方」(半日)
◆ 東京(虎ノ門):8月6日(水)13:00~17:00(詳細はこちら)
◆ 名古屋(新栄町):7月28日(月)13:00~17:00 (詳細はこちら)
です。ご興味ある方は是非~
また、『伝わる書き方』の読後コメント、ぜひHPのお問い合わせまで、お寄せください。
6月11日に無事、虎ノ門ヒルズが開業しました。高さは都内最高の東京ミッドタウン(六本木)より1m低いだけの247m。地上52階、地下5階の威容を誇ります。
その特徴はなんといっても「地下2階が道路」なこと。環状2号線の地下トンネルがビルの地下2階部分を貫く構造です。
1989年の法改正によりこのようなことが可能になり、森ビルが道路の地上権を数百億円で買い取り、周辺の自社ビルとも合わせて開発を進めたものです。
総投資額は1400億円。その文字通り「基礎」をつくり始めたのが3年前の2011年4月でした。今回は「虎ノ門ヒルズのつくり方:基礎編」と称して、私が隣のビル(KIT虎ノ門大学院の入る愛宕東洋ビル 11~13F)からこの3年間見続けた、基礎及び基幹構造のつくり方を、ご紹介しましょう。
地下構造物を撤去したり埋めたりしたあと、地上部分を整地したら、もちろんまずは杭打ちです。ビルの場合、その支持基盤は関東平野の地下数十メートルに横たわる「上総(かずさ)層」です。砂礫の硬く締まった層で、そこまで基礎杭を打ち込むことが、傾かないビルの必須条件です。
逆にそこにいくまでは、関東平野は富士山が過去ばらまいた灰が変化した赤土か砂で、ショベルカーでサクサク削れる代物です。私の自宅なぞはその上に、コンクリート基礎をポンと置いてあるだけなわけですが......。
それはともかく、ここからが虎ノ門ヒルズの工法の面白いところです。
工事現場を見ていたら、なんだか円い筒(ケーソン)があちこちに設置され、その中に大きなドリルが差し入れられています。
いったい何をしているのでしょう? 直径1.5mもの縦穴を掘ってどうするというのでしょう。
これだけの大きさのビルになると、単純なコンクリート杭を打ち込むことはせず、たいてい「場所打ち杭」になります。縦穴を掘って、その中で鉄筋コンクリートの杭をつくり上げてしまうのです。
大きなものがつくれるのと、形状に工夫の余地があるのが特長です。
虎ノ門ヒルズでの施工者である大林組は、ここでスカイツリー工事でも多用した「ナックルウォール杭」を採用します。
杭の基底部が膨らんでいるために、引き抜かれることがないので、地震時に建物を安定させる力が強くなるのです。
工期を短縮するための採られたのが「逆打ち工法」でした。
ふつうは、建物は下から上につくります。でも虎ノ門ヒルズでは、まず1階の床をつくってから、上下に進みました。地下を掘って地下1階、2階と進んで地階の構造物をつくり込むと同時に、地上はガンガン積み上げていきます。
なぜそんなことが可能なのでしょうか?
この写真では、1階床の鉄骨が組まれていますが、それを支えているのが、多くの「逆打ち支柱」たちです。逆打ち支柱は、基礎杭に差し込まれた鉄柱なので、もちろんしっかり1階床を支えることができます。
その多くは最初、土に埋まっているわけですが、地下部隊はまるで「砂場の山崩し」のようにその周りを削り取っていくわけです。
ショベルカーで赤土や砂をサクサクサクサク。でも絶対に支柱は削らないように(笑)
虎ノ門ヒルズは地階の構造が複雑であり、工期を短縮するためにもこのような工法を採ったのでしょう。
工事の本着工まで、結構時間がかかりました。考古学調査を延々としていたのです。
東京は掘れば必ず江戸時代の遺跡・遺構が出てきます。そして、事業者にはそれを届け出る義務(文化財保護法 第96条)があり、行政による発掘調査を待つ必要あります。
ああそう言えば、私も大学後半の2年間、延々と続く遺跡・遺構調査のために、体育館・グラウンド建設はまったく進まず、一度も使えず終わりました。
虎ノ門ヒルズは、見つかった遺構が吉野ヶ里遺跡でなくてよかったとするべきでしょう。
工事期間中、毎日何百人もの人たちが働いていました。様々な職種に分かれた、現場作業員のみなさんです。
夕方、仕事が終わって作業場から出てくる彼らの手には必ずゴミ袋。コンビニ弁当のカラなど、自分が持ち込んだものは自分で持ち帰る、が徹底されているのです。
これほど大きな建設作業が行われたというのに、廃材がそのまま外に持ち出されたことは、ほとんどなかったように思います。既存施設のコンクリート片も、砕いて砂に混ぜれば、埋め立て材に使えます。そういったリサイクル、リユースの工夫が随所に見られた現場でもありました。
ああ、最後の外構工事に至るまで、ずっと楽しみにしていた虎ノ門ヒルズの工事現場ウォッチング。それがなくなってしまったのは、非常に寂しいですが、これからは、虎ノ門ヒルズでの店舗・人間ウォッチングを楽しむことにしましょう。
虎ノ門ヒルズにご来駕の際は、ぜひ、お隣のKIT虎ノ門大学院にお立ち寄りください。
参考資料
・「超高層ビルの中を地下道路が貫く」大林組 HP
・「虎ノ門ヒルズ」東京都(23区)・建設中超高層ビルデータベース一覧
読者のみなさんへ
この度、ビジネス書大賞2014で『経営戦略全史』が大賞をいただきました。7/1には記念のトークイベントが六本木ヒルズで行われます。一般枠の定員は60名ですが例年すぐ埋まるそうなので、ご興味ある方は是非お早めに、こちらからお申し込みください。
また、『伝わる書き方』の読後コメント、ぜひHPのお問い合わせまで、お寄せください。
2010年、大阪のゲームセンターで窃盗の容疑者が逮捕されました。その2年前、兵庫県警から指名手配されていた手配写真が決め手となりました。
逮捕されたのは30歳の女性で、その手配写真は7年前に撮られたという可愛らしい女性の姿です。しかし、逮捕されたとき、その彼女の姿は「ガッチリした体格で頭はスポーツ刈り、ジャンパーを羽織って、肩をいからせながら歩く、外見上はどう見ても男性」のものでした。
にもかかわらず、大阪府警の捜査官は繁華街の見回り中に、その「男性」を、兵庫県警からの指名手配犯だと見抜いたのです。
この捜査官の名は「見当たり捜査官」。大阪府警が1978年にはじめて組織化したもので、これまで数千人の被疑者を発見・逮捕しています。大阪で逮捕される指名手配犯の2割は、この見当たり捜査官たちのお手柄なのです。
500人以上の手配写真(*1)を捜査官たちは頭に納め、繁華街や駅を歩き、立ち続けます。たまたま、相手が自分の目の前を通り過ぎるのを待ち、それを見つけて逮捕する。それが「見当たり捜査」であり、それにあたるのが「見当たり捜査官」なのです。
これまで誤認逮捕は1件もありません。大阪府警にはじまったそれは、現在、日本中の主要警察署に拡がっています。
なぜこんな捜査が可能なのでしょうか。手配写真が古かったり、その後太ったり痩せたり、髪形が変わったり、なかには変装、整形しているケースもあるでしょう。それでどうやって容疑者を識別するのでしょう?
見極めの決め手は「目」だといいます。
ベテラン捜査官たちは言います。「ポイントは目ぇです。自宅のトイレでもくり返し、その写真の人物の目ぇを憶える。目は指紋と一緒で個人差が絶対にある。一重や二重、白目と黒目の比率、上がり目・下がり目、目尻の角度、みな違う。どんなに髪形や服装を変えたり、年齢を重ねたりしても目ぇだけは変わらへん」「目を中心にした顔の真ん中の部分を見る。『目の玉』の雰囲気だけは簡単には変わらない。黒目や白目の大きさなどは人それぞれ。手配犯を見つけると、目の部分が『バシッ』と頭に入ってくる」
ヒトの脳の中には、顔を見たときにだけ強く反応する「顔反応性細胞」という神経細胞が各所に存在しますが、それが顔の視覚的特徴をどのように伝え、どう顔の認識に関わっているのかは、まだよくわかっていません。
顔の主要なパーツである目鼻口とその相互位置関係が大切なこと、特に目の形が重視されることはわかっていますが、さまざまな表情や年齢を超えて、どう識別されるかはまだナゾなのです。
2009年、ハーバード大学のリチャード・ラッセル(Richard Russell)らが、「スーパー・リコグナイザー:傑出した相貌認識能力を持った人たち」という論文を出しました。そこでは4人の男女(26~40歳)の相貌認識能力が、一般人に比べてどれほど優れているのかをテストしています。
・Before They Were Famous (BTWF) Test:有名人の幼少期の写真を見て、名前をあてるテスト
・Cambridge Face Memory Test (CFMT):顔の識別用に特別につくられたもの。角度や表情、ノイズなどさまざまな条件下で、元と同じ顔を当てるテスト
結果として、いずれのテストでもこの4名はほぼ満点をとり、一般の25名の誰よりも高い相貌認識能力を示しました。それを受けてラッセルらは、この4人を「スーパー・リコグナイザー Super-recognizers」(SR)と名付けました。
SRの能力は驚異的です。2か月前にたまたま同じ店で買い物をしていただけの人をすれ違いざまに特定できたり、5年前に別の町の喫茶店で応対したウエイトレスの姿を町で見つけて特定できたり......。
SR4人の中でも最高点を叩き出した、ジェニファー・ジャレット(Jennifer Jarett)さんは言います。「友だちは冗談で私を、ストーカーって呼ぶんです」「どんな人混みの中でも、有名人やその恋人がいたら、一発で見つけちゃうんですから」「20年間会っていなかった小学校のときのクラスメートだってわかります」
顔の認識する能力について、これまで人々が関心を持ってきたのは、識別できない「相貌失認(*2)」と、幼児の能力獲得過程などでした。相貌失認は、顔の認識能力がほぼゼロの状態ですが、それ以外はみな「能力あり」と一括りに捉えられていました。
ラッセルの発見は、SRの存在だけでなく、その「認識能力の拡がり」にもありました。
顔の識別能力には大きな個人差があり、ひとりひとりバラバラなのです。だから、
・セキュリティ要員を採用するとき
・犯罪目撃者から証言を得るとき
には、まずはその相貌認識能力をチェックすべきだろうとラッセルは言っています。
そう、そしておそらくは「見当たり捜査官」の選抜においても。
首都東京を管轄する警視庁も、大阪府警に遅れること23年、2001年に専従の「見当たり捜査」班を設置しました。約10人の選ばれし者たちが、毎朝 手配写真をじっくり見つめ直してから、3~4名のチームに分かれて街頭に出ます。
そして、ひたすらに追うのです。容疑者たちの姿を、そして、目を。
参考資料
・"Super-recognizers: People with extraordinary face recognition ability" Richard Russellなど(2009)
・「'Super-recognizers' never forget a face」3/31/2009 New York Times
・「指名手配犯、逃さない! 街頭に光る"眼光"「ミアタリ」」5/8/2010 産経新聞
読者のみなさんへ
この度、ビジネス書大賞2014で『経営戦略全史』が大賞をいただきました。GWから全国の書店でフェアが行われています。吉岡秀典さんによる「2冠!」の新オビが文字通り、光っています。
週末の朝、電車に乗りました。春休み中なせいか結構混んでいて、赤ちゃん連れのお母さんや家族も。隣に立ったお母さんも、赤ちゃんをだっこバンドで前に抱えていました。「誰も席を譲らないとは!」と憤慨しましたが、座っているのが子ども連れや年配者ばかりで、まあそこはヨシとしました。
私はお母さんの斜め後ろに立っていて、ちょうど赤ちゃんの顔が見える位置です。混んでいるので本も読めず、仕方ないのでスマートフォンでもいじろうかと思いましたが、キョロキョロしていた赤ちゃんと、ふと目が合いました。なんとも、まん丸な顔で、唇はちっちゃく富士山型で、かわいいことかわいいこと。
じ~っと見つめられたので、思わずそこから遊んでしまいました。
赤ん坊の集中が継続する時間は極めて短く、ほんの数秒変化がないと、飽きて次に向かいます。だから、子どもはテレビやビデオが大好きです。どんどん画面が変わって、刺激が続くので。
でも電車の中には「変化」がありません。だから赤ちゃんは必死で顔を巡らせて、キョロキョロしているのです。
私は、この赤ちゃんの気を惹き続けるために、数秒ごとに「変化」をつけるべく、頑張りました。
・目を開けたり閉めたり
・笑ったり困ったり
・ほっぺたを膨らましたり口を尖らせたり
要は百面相です。都会の電車内でやるには多少危険な行為ですが、赤ちゃんの気を惹くためです。多少のリスクはとりましょう。
でも、そんな努力も、お母さんの前には無力でした。スマートフォンをいじっていたお母さんが、手を止めて赤ちゃんの方を向いたとたん、赤ちゃんはビシッとそっちに向き直ったのです。
そうでした、赤ちゃんはお母さんの顔(ただし、自分を見つめている場合)が大好きだったのでした。
生まれたての乳児の視力は0.01程度しかありません。でもそれは、目という器官の問題ではなく、脳内の識別機能の問題なのです。目は十分に成熟していても、その情報を処理する機能が未発達なので「見えない」のです。
ところが生後5~6ヶ月になると、お母さんの顔を、もの凄く正確に区別できるようになります。お母さんの顔写真を、結構似た感じの女性の顔写真と混ぜて見せても、お母さんの写真のときだけ、特別に反応したりします。
お母さんの顔の下半分だけを他の女性の顔に変化させた合成写真でも、だませません。ちゃんと、部分とともに全体を把握して識別しているのです。
でも、その識別能力はお母さん向けだけで、他人の写真を2つ見比べさせても、反応の差はありません。多分、どうでもいいのでしょう。
さてまた車内のお話です。
お母さんの関心がスマートフォンに戻ったので、また私は赤ちゃんと遊び始めました。今度は「いないいないばー」です。
さすがに周りの目もあるので、お母さんの肩の後ろに自分の顔を隠して、そこからまた現れる、というのをやりました。でも、あんまり受けませんでした。
そうそう、この頃の赤ちゃん(5~6ヶ月児)は、記憶力がまだ十分には発達していないので、できごとや対象を憶えることが苦手です。そして、未来を予測することもしません。
だから、「いないいないばー」を本当に楽しめるようになってくるのは生後8~9ヶ月目以降です。「あの知っている顔」が「もうすぐ現れる!」と思い、それが当たることで喜ぶ(外れるとビックリする)のです。
5~6ヶ月児はようやくそれができはじめる頃。だから、私(よく知らないヒト)が、その顔をお母さんの陰に隠した瞬間、どこかにそっぽを向いてしまったりするのです。
それでも私は必死に、百面相やいないいないばーで赤ちゃんの気を惹いていましたが、私の隣の若い女性がやはりスマートフォンから目を離して、ふと赤ちゃんの方を向いたとき、また、負けました。赤ちゃんはそちらの方を即座に向き、しかもなにやらニコッとしたりするではありませんか。
そうでした。赤ちゃんは女性の顔が好きなのです。男性の顔よりも。
赤ちゃんは、第一養育者の性を好む傾向にあります。そしてそれは日本の場合、お母さん(もしくは祖母や保母さん)なので、女性を識別する能力を発達させるわけです。
男性(お父さんを含む)は、養育者じゃないのでどうでもいいのでしょう。
赤ちゃんが好む顔はつまり、
(1)お母さん
(2)一般の女性
(3)一般の男性やお父さん
の順番となるのです。これは分が悪い。
こうなるともう、私の戦う武器は「飽きさせない」しかありません。片目だけつむってみたり、眉を動かしてみたり、目をぐるぐる回してみたり。
でもね、やっぱり赤ちゃんは、自分を見つめるお母さんの顔が一番好きなのです。
お母さん! スマートフォンばかり見ていないで、赤ちゃんを、もっと見つめて上げてくださいな。
そして周りのみなさん! もっと赤ちゃんと遊んであげてください。赤ちゃんは、自分を見つめる顔が好きなのです。みんなで子育て、頑張りましょう~。
参考資料
・「赤ちゃんはお母さんの顔を見分けている ‐神経行動学的研究」東京大学 赤ちゃんラボ
・「10 記憶の発達」JOMF
・「Vol.089山口真美(やまぐち・まさみ)@中央大学」NetScience Interview Mail
読者のみなさんへ
あの『正しく決める力』(ダイヤモンド社)が、『一瞬で大切なことを決める技術』(中経の文庫)となって帰ってきました。サイズも値段も1/3ちょっとですが、中身は全面的に書き直して、よりわかりやすくなっています。
ぜひ書店で手に取ってみてください!
また、「ビジネスモデル全史」の、ダイヤモンドHBRの4月号、売れています。意外と若者の購読率が高いとか。 ただ、某大手企業は部長以上全員の課題図書にしたらしいとも。