M&Aの成否の鍵を握っているのはヒト
日本であろうと米国であろうと違いはない
M&Aの局面で「人材や組織のマネジメントが重要になる」との発想は、世界のビジネスシーンでいつごろから高まってきたのでしょうか?
【西口】M&A先進国の米国では、過去のM&Aのシナジー効果を冷静に見直す、という動きがここ10年間で広がりました。CFOが中心となり過去のM&A案件を精査したところ、組織・人事マネジメント統合の失敗によって、巨額の損失(機会損失を含む)が発生しているという結論に達したケースも、実際にあります。
それまで財務面に偏っていた視点を、経営資源全体に広げ、特に企業文化や人材マネジメントの仕組を含む広義の組織・人事マネジメントにフォーカスすることにより、M&Aの成功を確たるものにしよう、競争力の源泉を強化しよう、というのが、M&A先進企業に共通する特徴です。
米国では、M&Aはすでに日常的になってはいたものの、失敗するケースが多かった。「なぜM&Aがうまくいかないのか」を突き詰めた結果、「人材や組織に関するマネジメントをもっと重視すべき」という解にたどり着いた、といえます。
いわゆる「組織・人事統合マネジメント」の重要性を西口さん自身が意識し始めたのはいつごろですか?
【西口】大きなきっかけは、90年代に日系金融機関の米国拠点にて、米国企業向けのM&Aアドバイザーを務めた経験です。私は米国企業のアジア投資や、日本企業への投資・買収につきアドバイスをする仕事をしていました。その交渉の過程で、組織や人事の統合マネジメントの稚拙さが敗因となり、案件自体が成立しない例にも出会いました。
その後、世界銀行グループにてグローバル人材マネジメントの最前線で仕事をし、「M&Aと人事」の双方の観点から、日本企業や世界の企業がシナジー効果をだすための仕事をする視点ができあがっていったと思います。
経営統合の鍵を握るのはヒトだ、という考え方は、なんとなくは理解できます。しかし、実際にその現場に行けば、非常にタフな状況があるはずですね?
【西口】もちろん、その通りです。そもそも会社とは何なのか? 人間の集まりですね。どんな業種であろうと、どんな事業を行っていようと、ヒトが動くことで情報が生まれ、モノが作られ、お金が動いていくのです。つまり、企業組織の根幹をなす存在がヒト。M&Aに限らず、企業の経営課題を解決しようとすれば、ヒトやその集合体である組織のあり方を避けては通れません。
マーサーは「組織・人事コンサルティングの会社」という捉えられ方をしているわけですが、あの松下幸之助氏もおっしゃっているように、「経営とは人なり」の考えからすれば、マーサーは「経営コンサルティングの会社」なのですね。経営戦略を組織・人事の観点から実現するためのコンサルティグファームなのですから。
M&Aコンサルティングは常にクロスボーダーな経営課題。
そこでこそマーサーの強みは発揮される
ではマーサーの強みは、ずばりどこにあるのでしょうか?
【西口】ビジネスとヒトを結びつけることにこだわっていること。グローバル規模でM&A統合マネジメントコンサルティングチームを持っていること。そして、世界中に確固たる実績を持っていること。以上が、マーサーの特質であり、強みなのです。
実績について言えば、例えば日本においては、日本企業同士の大型の統合案件や、日本企業の海外買収案件に組織・人事統合アドバイザーとして数多くかかわっています。また国外では、例えば2007年にSABICとGE プラスティックの組織・人事統合アドバイザーを世界数十カ国で行ったような、大型の案件も数多く手がけています。
ここへきて、戦略系グローバルファームの経験者がマーサーに転職されるケースが多いようですが、なぜそのような動きになっているのでしょう?
【西口】マーサーに転職する方は「現場へのこだわりが強い方」が多いですね。私たちは「現場で何が起きているのか」を知っています。しかも、日本を代表する企業のM&Aの現場に参画し、この8年経験を積み重ねてきました。現代のビジネスシーンでは国境を超えて、あるいは多国籍企業が合併・買収する場合には、必ずといっていいほど、グローバルな対応が迫られます。M&Aは常にグローバルな経営課題なのです。
マーサーは今までに欧米や日本はもちろん、韓国、インド、中国、ASEAN、オーストラリアでも経験を積んできました。クロスボーダーにおけるM&Aが「どれだけ困難か」ということを、経験を通じて痛切に感じ取っているのが私たちです。リアリティを持ってコンサルティングができる。これは、非常に大きな強みですし、この強みがあればこそ、実績を積み上げることができたのです。そこが、転職の場面でも見られているのだと思います。
プロフィール
西口 尚宏 氏
代表取締役 ワールドワイドパートナーM&A部門 アジア太平洋地域統括
上智大学経済学部卒業 ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院(MBA)修了
日系金融機関、世界銀行グループ人事局勤務(ワシントンDC)等を経て現職。2007年MERCERのワールドワイド・パートナーとして、日本企業同士の合併、外資の日本企業投資、日本企業のクロスボーダーM&Aに伴う組織・人事コンサルティングなど、各国の実情に即した幅広い経験を持つ。特に、経営戦略と人事戦略の連動、チェンジマネージメント、人事制度統融合、人事部改革を中心に、数々の経営統合案件をリード。
社外では、慶應義塾大学ビジネス・スクールの国際プログラムならびに経営幹部セミナーや企業再生セミナー等で講義、基調講演等国内外において実績多数。
著書に「M&Aを成功に導く人事デューデリジェンスの実務」(中央経済社、共著)、「M&Aを成功させる組織・人事マネジメント」(日本経済新聞社、共著)がある。
堀之内 順至 氏
グローバルM&Aコンサルティング プリンシパル
慶應義塾大学経済学部卒 マサチューセッツ工科大学経営学修士(MBA)
大手メーカー、外資系戦略コンサルティングファーム、大手製造小売企業を経て現職。企業統合に伴うプロジェクトマネジメント支援、経営戦略と人事戦略の連動、組織・人事戦略策定支援、チェンジマネジメント、人事制度統合、組織能力診断~組織力向上支援、営業組織のパフォーマンスアップ施策策定・実行支援等について国内外企業でのプロジェクトリード経験を有する。
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(2018.12)
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