1700人のグローバル・ワンファーム構成員が
共通の価値観に基づいて自らを高めていくことの意義
「アリックスパートナーズと従来型のコンサルティングファームとの違いの1つとして野田も挙げていたように、少数精鋭で問題解決に当たっていくのが我々のやり方です。それを可能にしている背景には、例えばデジタル・テクノロジーの積極活用などといった側面もあるのですが、とにかく人海戦術に頼らない以上、1人ひとりが背負う使命と責任は大きくなります。おかげさまでアリックスパートナーズとしての成果はどんどん大きくなり、メンバーも充実してきていますが、そういう時期だからこそ、確実に個の力を更に向上させていく必要がある。そこで、あらためて育成についての取り組みを私たちは見直していきました」(深沢氏)
「私たちはグローバル・ワンファームを旨としてやってきました。世界各国に25の拠点を持っていますが、どのオフィスがサインした案件であろうとも、すべての案件に対し、世界中のメンバーがオーナーシップを持って関わっていきますし、教育機会についても共有をしています。コンサルティングファームやPEとは異なる現場での体験がOJTの水準を格段に引き上げていることは、先ほど申し上げた通りですが、社内的な育成プログラムについてもグローバル規模で積極的に整え、活用をしてきました。しかし、深沢が今話した通り、順調に成長局面を進んでいる今だからこそ、あらためて育成面を見直し、アリックスパートナーズならではの水準の高さを維持向上しようと努めてきたのです」(野田氏)
アリックスパートナーズでは、最低でも月に1度はアジア領域全体で研修を開催するという。また昨年は全世界のメンバーがマイアミに集合し、交流の機会を設けたというが、この先も年に1回のペースで複数の領域からメンバーが集まり、コミュニケーションや情報交換の場にしていくという。もちろん、スキル向上のためのトレーニング・プログラムも整備され、グローバルで共有しているという。その一方で、アサインしたプロジェクトとは無関係にキャリアコーチが寄り添い、そのメンバーの成長に関する相談やキャリア形成についての相談を受けていく制度も機能しているとのこと。
「あらゆる教育の場で私たちが再度重視することを誓い合ったのが、対話を大切にするということ。プログラムを充実させながら世界で共有し、多くのメンバーが集合する機会を設けているのも、そこで対話が生まれる前提があるからです。また、例えば私と野田との間でやりとりするメールであっても、原則は英語を使います。プロジェクト自体がグローバル化している中で、ビジネス上の理由から英語の活用を心がけているところもありますが、大前提はグローバル・ワンファームが常に共通言語で対話し、最大限に連携の効果を上げていくためにそうしているんです。キャリアコーチのような制度を持っている企業は他にもあるでしょうけれども、アリックスパートナーズの場合は、交わされる対話の量や密度が圧倒的に違うはずです」(深沢氏)
「キャリアコーチの側からは、フィードバックが定期的になされるのですが、そのレポートには6ページにわたって、様々な項目についての助言や提言が埋め尽くされます。日本の事業会社などでは、社員同士の関係性や仕事への向き合い方などについて、あまり多くを語らず、『あうんの呼吸』で互いを尊重することを良しとする傾向が今もあります。しかし、私たちはグローバルな集団です。どこの国の誰に対しても、誤解なく伝わるように直球のフィードバックを遠慮なく投げかけていく。そうすることで初めてプロフェッショナルの育成に役立つ制度として機能するわけです」(野田氏)
対話をあらためて重視することで、少数精鋭のチームが言語や文化の違いを超えて結束する。そのためには共通のバリューが必要になるが、ここで登場してくるのが前回のインタビューでも紹介した6つのコアバリュー。プロフェッショナリズム、コミットメント、チームワーク、パーソナル・リスペクト、コミュニケーション、コモンセンスである。
「私たちが人材育成の再強化で意識したポイントは2つです。1つは、緊急の課題を背負ったお客様が経営を任せるに足るだけのスキルや能力や資質を高めていくこと。そのために必要な育成プログラムをどんどん磨いていくことが重要になります。もう1つは誰がどのプロジェクトを担当しようとも、アリックスパートナーズのバリューに照らし合わせながら重要な判断や意思決定をしていける集団になること。個の力を伸ばすことは不可欠な課題ですし、チームとして機能するからこそ、1人ひとりが強みとする専門領域を持ち、得意技を備えていくことも後押ししていますが、お客様の会社の経営を左右するような判断を委ねられるのが我々の立場です。そこでは唯我独尊など許されません。『アリックスパートナーズでなければ解決できない』と思ってくださったお客様の信頼に確実に報いていくために、6つのコアバリューをこれまで以上に全員に浸透させているんです」(深沢氏)
いくつかのコアバリューを明文化し、これを実際の現場での仕事におけるモノサシとして機能させよう、という発想は珍しくないかもしれない。だが、これを全世界で共有し、なおかつ対話の機会を増やしながら生きた言葉、生きた情報の交換の中で浸透させているのがアリックスパートナーズ。2人の共同代表がインタビューに毎回同席し、驚くほど息の合った受け答えをすることもまた、バリューを全員が共有していることの証左なのかもしれない。2人は採用活動においても、「候補者が最初に出会うアリックスパートナーズの人間」を買って出ているという。
「それくらい必死で、素晴らしいかたを求めているんですよ(笑)。コミットメントというバリューの表れだと思ってください」(深沢氏)
「採用においてもアリックスパートナーズはスピードと結果を求めているということです。そして今、我々のトップ・プライオリティが採用と育成にあるということの表れでもあります」(野田氏)
経営にコミットし、グローバルでチームワークし、
本当の意味で一段上の成長を志すならここしかない
こうなれば、求める人材像は明快だ。ブティックファームやファンドでは得られないような成長を、心から望んでいるような人材がアリックスパートナーズでは活躍する。外側からの提案や、IRRばかりを重視した短期的な成果追求ではなく、真に苛酷な最前線に身を置き、経営主体となって1つの企業を再生し、イノベーションを確立するところまでコミットし続ける。そうして経営人材として一皮むけるような成長を目指す人材を2人は強く求めているのだという。
最後に、昨今の日本のビジネスシーンで必ず話題となる「働き方」について聞いてみた。少数精鋭で緊急課題の解決にコミットする、となればタフな「働き方」を覚悟しなければならなそうだが......。
「私は面接でそうした質問をもらうと、必ず正直にお答えしています。『楽じゃあないですよ』と(笑)。ただし、これも必ず言い添えます。『アリックスパートナーズは大人の会社です。十分すぎるほどのコントロール感もありますよ』と。実際、どんなに厳しいプロジェクトでも、厳しさの中に余裕を持つことを皆が心がけています。これはそれなりの場数を踏んできたプロフェッショナルだからできることだと思います」(深沢氏)
前回のインタビューでも最後に登場したのが「大人」というキーワード。ただし「大人の度量があれば、どんなにタフでも調整できるでしょ」という突き放した意味合いで、深沢氏は語ったのではなかった。
「冒頭で5つの基本的サービスラインについて触れましたが、前回のインタビューにはなかったデジタル支援というもの。もちろんお客様へ提供する以上、我々自身が率先して先進テクノロジーを実践しています。だからこそ人海戦術型のファームではないのに、膨大な作業量をクリアできているわけです」(野田氏)
コンサルティングのベースとなる情報収集やデータ分析など、旧来型のファームが人力に依存していた部分に独自のアルゴリズムを導入し、アリックスパートナーズでは作業量の軽減をドラスティックに実現している。深沢氏が面接で「楽ではない」と表現しているのも「作業が多い」という意味ではないのだ。
「経営上の課題、特に緊急を要する課題を解決する時に、時間や手間をかけるべきなのは提案レポートの作成ではありませんよね。お客様の経営陣との間の合意形成や、現場のかたがたと結束して変革を実行していく局面にこそ時間と手間をかけるべき。だからこそ、対話の重要性を再認識してもいるんです。責任を背負い、結果を出すことの重みを実感する、という意味で『楽ではない』と表現しているにすぎません」(深沢氏)
「大人」を必要としているアリックスパートナーズだからこそこうなる。そして、顧客企業の経営の主体となって皆を引っ張って行く立場に就くからこそ、自らの働き方についても、コントロールできるわけだ。「やらされ感」が一切ない環境で、結果を出し、なおかつ自らの働き方もコントロールしながら、他では得られない経験で成長を目指す......そこに醍醐味を感じる大人をアリックスパートナーズは今、本気で求めているのである。
プロフィール
深沢 政彦 氏
マネージング ディレクター アジア共同代表 兼 日本共同代表
2012年にアリックスパートナーズに参画し日本共同代表就任。その後、アジア共同代表に就任。アジア、ヨーロッパ、北米のさまざまな企業に対して経営/組織戦略、事業再生、事業ポートフォリオのリストラクチャリング、買収・合併後の統合、など広範囲に亘る分野でプロジェクトに従事。一橋大学経済学部卒業。マサチューセッツ工科大学スローンスクール卒(MBA)。訳書に『明日の世界を読む力』(東洋経済新報社 2005年刊)があります。
野田 努 氏
マネージング ディレクター 日本共同代表
2007年にアリックスパートナーズに参画後、TMT(テクノロジー、メディア、通信)を中心に、業績不振の国内大手企業のV字回復や、中国の生産拠点の再建、大手通信企業の海外買収、など数多くのプロジェクトを指揮。慶応義塾大学経済学部卒業。ハーバード・ビジネス・スクールにてMBA取得。著書に『プロフェッショナル・リーダー~難局を突破する9つのスキル』(ダイヤモンド社)、『企業再生プロフェッショナル』(共著 日本経済新聞出版社)。
アドバイザープロフィール
帰山 二郎 氏
シニア アドバイザー
1946年生まれ。慶應義塾大学商学部を卒業後、三井倉庫に入社。シンガポール現地法人代表などを歴任後、2002年に代表取締役常務取締役に就任。2008年からはCFO、副社長兼COOなどを務めた。2012年、大手家電物流企業のM&Aを担って三井倉庫ロジスティクスの設立を自ら牽引し、同社の会長兼CEOに就任した。2016年に三井倉庫ロジスティクスの相談役となったのを機に、アリックスパートナーズのシニア アドバイザーとしての活動を本格化。50年の長きに渡りロジスティクス領域に携わり続けたエキスパートとして、コンサルタントからの多様な相談に呼応するだけでなく、プロジェクトの現場にも積極的に参画し、培った知見を活かしている。
高家 正行 氏
シニア アドバイザー
1963年生まれ。慶應義塾大学経済部を卒業後、三井銀行(現 三井住友銀行)に入行。本部勤務、組合専従の書記長などを経た後、1998年にA.T.カーニーへ転じ、主に金融機関、総合商社、電機業界等の全社戦略策定、M&A、事業ポートフォリオ戦略等を担った。2004年ミスミ(現ミスミグループ本社)に経営企画室長として入社し、2008年10月リーマンショックのタイミングで代表取締役社長に就任。その後、2015年の退任まで世界不況からの脱却とその後の成長を経営トップとしてリードした。現在は、ホームセンターのリーディング企業であるカインズの取締役副社長に就き、プロ経営者の視点で同社の業態変革に携わりながら、アリックスパートナーズのシニア アドバイザーとしても活動。社内で催される勉強会などを通じ、経営者としての経験と知見を役立てている。
この企業へのインタビュー一覧
- [コンサルティングファーム パートナーインタビュー]
- アリックスパートナーズ・アジア・エルエルシーマネージング ディレクター 日本共同代表 深沢 政彦 氏/野田 努 氏
(2013.7)
コンサルティングファーム パートナーインタビューの最新記事
- マクサス・コーポレートアドバイザリー株式会社 | 代表取締役社長 森山 保 氏(2023.3)
- マーサージャパン株式会社 | 代表取締役社長 CEO 草鹿 泰士 氏(2022.6)
- シグマクシス・グループ | 株式会社シグマクシス・インベストメント 代表取締役社長 柴沼 俊一 氏(2022.1)
- キンセントリック ジャパン合同会社 | 日本代表、パートナー 松崎 肇 氏 / アソシエイトパートナー 蓜島 資幸 氏(2021.5)
- デロイト トーマツ コンサルティング 合同会社(モニター デロイト) | デロイト トーマツ コンサルティング パートナー/執行役員 モニター デロイト ジャパン リーダー 藤井 剛 氏 / デロイト トーマツ コンサルティング パートナー/執行役員 モニター デロイト M&A/Reorganization責任者 神山 友佑 氏(2020.12)