企業の「すべて」をトランスフォームすることが求められる時代、
コンサルタントは経営者のTrusted Advisorにならなければいけない
経済がグローバル連動するこの時代、ビジネスの潮流もまた世界同時現象的に変化する。しかし、それでもなお日本におけるコンサルティング業界には1つの傾向が示され続けてきた、と岸田氏は指摘する。
「欧米で起きた現象が10年遅れで日本にやってくる。そんな傾向が以前から続いています」
例えば1990年代、クライアントの経営陣に向けて戦略を提示すればよかったコンサルタントに対し「提案だけでなく、実際にやってみてくれませんか」という要請が企業から寄せられ、「変革の実行を伴うコンサルティング」が主流となっていった。その潮流は10年後の2000年代になって日本にも訪れたのだと岸田氏。
今日では強大な製造業界等の世界的企業ばかりでなく、小売業界や成長途上の企業でもコンサルタントとの共創をスタートさせているが、そうした傾向も欧米から約10年遅れでようやく日本にやって来たのだという。そしてついに、これまで特定の機能や事業ごとに部分最適ともいえる対応で企業経営の変革実行を担ってきたコンサルタントが、経営の包括的変革、全体最適化をも担う、という潮流が日本にも到着したのだと岸田氏。
「1つひとつの課題解決をプロジェクトベースでこなしていくスタイルがなくなったわけではありませんが、クライアントからの要求や期待は確実に変わり始めています。『この会社の上から下まで、端から端まで、変革する支援をして欲しい』と明言する経営者が日本にも増えているのです。また、欧米先進企業のCEOたちがそうであるように、業種・規模を問わず、神輿に担がれているのではなく自らの手腕で経営に取り組もうとする経営者が日本に増えています。
つまり、今後私たちコンサルタントに問われるのは、『会社のすべてを変革する支援ができますか?』であり、『真剣に経営の変革を望み、自ら判断を下していくような素晴らしい経営者たちから信頼を得ることができますか?』なのだと私は考えているのです。A.T. カーニーの東京オフィスならばそれができる。そう思ったからこそ、私は今ここにいるわけです」
「トラステッド・アドバイザー」、信頼できる助言者。岸田氏が著書『コンサルティングの極意』でも明示しているこの言葉こそ、コンサルタントが目指すべき姿。変革を自らの責任で起こそうとしているリーダーたちが、トラステッド・アドバイザーとして認め、共にトランスフォームを実行しようと考えてくれる存在にならなければいけない。そう語る岸田氏は「このA.T. カーニーを、トラステッド・アドバイザーがどこよりも多いファームにしていきます」と言い切る。
「当社のサイトでも明言しましたが、A.T. カーニーは『The Most Admired Firm(最も評価され、信頼されるコンサルティング会社)』になることを目指します。それはイコール、一人でも多くのトラステッド・アドバイザーたちを擁し、クライアントの変革リーダーに力強く応えていけるファームにする、ということなんです」
孤独を極め、悩みを抱える経営者が「そうだ、あいつに相談しよう」
と思ってくれる。そんな存在になるには、どうすればいいのか
例えば成長する姿を定めてそれに必要な筋肉質化をする。組織の有りようや人員の採用・育成・配置、国内外での活動やM&Aによる可能性追求などなど、あらゆる事象に目を配り「削るべきは削り、加えるべきは加えるアクション」を包括的にデザインし、プランに落として、実行に移していくのが「全体を変革する」ということ。
それを経営者が実行する上で、誰よりも信頼されるのがトラステッド・アドバイザーであり、その存在を「どこよりも多く」していくことが、The Most Admired Firmとなるための道。そこで、岸田氏は「集中する」ことを決断したという。
「優れた経営者のトラステッド・アドバイザーになるのは、容易なことではありませんし、なったからには深くじっくりとお付き合いさせていただくことになります。ですから、A.T. カーニーはあえて規模でのナンバー1は目指しません。クライアントの数やプロジェクトの数を誇るファームになるのではなく、むしろ限られた数のお客様に集中して、トランスフォームを果敢に実行するような経営者から『最良のパートナーだ』と認めてもらう事例を増やしていきます」
なぜ容易ではないのか? 答えはいくらでもあるようだ。仮に経営者から信頼を得て、トランスフォーム実現のため具体的なプロジェクトをいくつも立ち上げ、そのすべてに関わっていけることが決まったとしても、隙間なく時間が埋め尽くされるわけではない。プロジェクトとプロジェクトの間に隙間と呼べる時間が発生する。そんな時期においてさえ、クライアントのことを考え、情報と知見を集め続け、経営者と連絡を取り合い、時には「それはコンサルタントの仕事ではないし、フィーにもつながらない」ような要請にさえ応えていく。
単に有能さで認めてもらうだけでなく、人としても一目を置いてもらえるようビジネス書ばかりでなく、歴史書なども読んで教養を磨く。腹心の副社長にさえ相談できないような重い意思決定事項をいくつも抱え、孤独を極めるのが変革実行の覚悟を固めた経営者たちの常。それゆえに、声がかかれば飛んでいく。
岸田氏自身、これまで出会った数々の恩人から学び取った手法や発想をもとに、上記のような行動を繰り返してきたという。「休みの日にお風呂に入っている最中でも、クライアントのことやその社長さんのことを考えていました」と言って笑う。そうして、ようやくトラステッド・アドバイザーとして認めてもらえたのだという。
「経営者の皆さんが、心底困り果てたような時に『あいつに相談するしかないな』と思ってもらえるかどうか。問われるのはそこです。問題解決を思索したり、経営のビジョンを固めていく段階どころか、その前段階の迷いや悩みにも寄り添うのがトラステッド・アドバイザーというわけです。決して簡単なことではないんですが、ここまでやり切るからこそ面白いわけですし、経営者のかたがたから得難い学びを頂戴できるんです」
ここで岸田氏は、実際にA.T. カーニーで見受けられるやりとりを紹介してくれた。
「ある若手コンサルタントが1つのプロジェクトを通じてクライアントの変革リーダーから信頼を勝ち得ました。とはいえ、彼にも次の任務がある。インダストリーの異なるプロジェクトにアサインし、動き始めたタイミングで先のリーダーから『ちょっとキミに手伝ってもらいたいことがある』と声がかかる。彼は私に相談してきました。『どうすればいいんでしょう。本音を言えばやりたいんです。やってもいいですか』と。
私からの返事は言うまでもないでしょうが『もちろんだよ』でした。これこそトラステッド・アドバイザーになるための貴重なきっかけ。クライアントにご指名されてこそ一人前のコンサルタント。こんなにありがたいチャンスを無にしていいはずがないんです」
「すべてをトランスフォームする」チャレンジにおいては、1人のコンサルタントの力だけでは解決できない事柄が無数に発生する。それゆえに岸田氏はベストなチームをつくりあげることを積極的に推し進めているというが、そんな中でもクライアントからの指名発注は発生するようだ。
「例えば私に、クライアントの経営者から声がかかれば、私自身が飛んでいくだけでなく、そのケースに応じて適任と思える若いマネージャーを連れて行ったりもします。その結果、後日私を経由することなくその若いマネージャーに直接経営者が連絡をしてきたとしたら、これもまた素晴らしいことですよね。
彼は経営者の目にとまったんです。『あ、まずい。岸田さん宛てにではなく、自分に連絡が来てしまった。どうしよう』(笑)などと慌てる必要なんてない。このチャンスを喜び、堂々と報告してくれればいい。そして、自分がお声かけいただいた信頼に応えていけばいい」
壮大な経営トランスフォームのテーマに立ち向かうには、A.T. カーニーの総力を結集して、チームによって成功を導かなければいけない。しかし、そもそも「クライアント」とは個人を指す言葉であり、「あの会社の経営変革リーダーであるCxOの●●さん」から信頼を得ることができるか否かが重要なのだと岸田氏は言う。
そしてさらに、その経営者から聞きたい言葉は「私にとってのトラステッド・アドバイザーはA.T. カーニーだ」ではなく、「そこにいる▲▲くんだ」でいいのだという。そういう個人をどれだけ増やすことができるかが、岸田氏自身の使命なのだという。
「梅澤が日本代表を務めていた時代からずっと、A.T. カーニーは現場の隅々にまで変革を行き渡らせ、クライアントが自ら変化を起こしていけるところまで、お付き合いするような姿勢を貫いてきました。そのアプローチをチームプレイや関係各所との連携で成功に導いていく姿勢も貫かれてきました。
私としてもこのファームの外側にいた当時から『素晴らしい』と感心してきたわけですが、今ここに来て私にできることの1つとして考えているのは、これまでに培った素晴らしい姿勢は維持しつつ、各コンサルタントが個としても輝き、クライアントから名指しでトラステッド・アドバイザーに選んでいただけるようにしていくこと。その機会を精一杯増やしていくことにあると考えているんです」
プロフィール
岸田 雅裕 氏
A.T. カーニー株式会社
グローバル取締役/パートナー
東京大学経済学部経営学科卒業。ニューヨーク大学スターンスクールMBA。パルコ、日本総合研究所、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン、ローランド・ベルガー、ブーズ・アンド・カンパニーを経て、2014年より現職。80年代中盤はパルコのイベント・プロデューサー、80年代後半から90年代前半は新規事業企画部門で当時インターコンチネンタルホテルを擁していたセゾングループの海外都市再開発プロジェクトを担当。コンサルタントに転じてからは、マーケティング、特にブランドマネジメントについて、消費財メーカーや小売業にとどまらず、自動車メーカーや金融機関などに対する豊富なプロジェクト経験を有する。新商品開発の効果を高めるプロセス、組織についてのプロジェクト経験も多い。著書に『マーケティングマインドのみがき方』(東洋経済新報社、10年)『コンサルティングの極意』(東洋経済新報社、15年)がある。
この企業へのインタビュー一覧
- [注目ファームの現職コンサルタントインタビュー]
- A.T. カーニー株式会社 プリンシパル 森口 健太郎 氏(2015.4)
コンサルティングファーム パートナーインタビューの最新記事
- デロイト トーマツ コンサルティング 合同会社(モニター デロイト) | デロイト トーマツ コンサルティング パートナー/執行役員 モニター デロイト ジャパン リーダー 藤井 剛 氏 / デロイト トーマツ コンサルティング パートナー/執行役員 モニター デロイト M&A/Reorganization責任者 神山 友佑 氏(2020.12)
- Ridgelinez株式会社 | 代表取締役社長 CEO 今井 俊哉 氏 / プリンシパル 隈本 正寛 氏(2020.10)
- ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン・インコーポレイテッド | マネージング パートナー 東京オフィス代表 奥野 慎太郎 氏(2020.5)
- デロイト トーマツ コンサルティング 合同会社 | デロイト トーマツ コンサルティング 関西 パートナー 田中 昭二 氏 / パートナー 伊藤 尚志 氏(2020.4)
- EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(旧:EYトランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社) | グローバルTASトレードルート統括 TAS日本マーケッツ統括 シニア パートナー 田村 晃一 氏(2019.8)