次世代リーダー人材育成のための独自プログラム「JLP」。
第3期生には外部人材も登用
「これまで10年の月日をかけなければ手に入らなかった経験を、3年という短期間に凝縮して経験させ、卒業後は次世代を担うリーダーとして活躍してもらう」
これがJLPの概要だ。MSDのビジネスの最前線で、特に難易度の高い業務のリーダーを経験することで、実務を通じてリーダーシップを鍛え上げる。それがMSDのJLPである。
「他の多くの企業にも同様のリーダーシッププログラムは存在します。しかし、すべてが成功をおさめているわけではありません。」
この実践重視のリーダー育成プログラムを成功させるためにはいくつもの課題がある。最も重要な点は、経営陣のコミットメントである。
「JLPに限らず、こうした育成プログラムが成功するための鍵は経営陣のコミットメントにあると私は考えています。このプログラムを成功させ、継続していくには、経営陣が自ら育成の責任者としての役割を果たし、少数精鋭の選抜されたメンバーのために特別な投資をする覚悟が必要です。
例えば、自部門の優秀な社員がJLPに参加することになれば、その社員が現在の部署を離れることでその部門にとって短期的にはマイナスの影響があるかもしれません。それでも全社レベルでの中長期的な人材育成の観点を考えて、これを快く送り出す風土がなければいけない。JLPメンバーを受け入れる部門やマネジャーも同様です。まだ経験の浅いJLPメンバーの能力を信じ、その成長に向けた投資として大きな責任を任せてこれを育成していかなくてはなりません。JLPメンバーには全社レベルでの戦略に関わる難度の高い業務を与えることが求められます。
またチャレンジングな3年間のアサイメントを成功裏に成し遂げた卒業生には、その実績と成長に見合う、より大きな仕事を用意することも重要です。これらの様々な環境整備を責任持って行うのは経営陣です。私はMSDの経営陣にこの覚悟があることを強く感じ、このプラグラムが成功するだろうと確信しました。」
経営陣のコミットメントと同様に重要な点は、対象者の選定である。
「JLPメンバーには、困難な課題に取り組み、かつ短期間に目に見える成果を上げることが要求されます。1年毎に異なる部署でこうした課題に取り組み、それを3年間継続します。こうした高いレベルのチャレンジに耐えうるメンバーを慎重に厳しく選ばなくてはいけません。2011年にスタートしたときには、前例のない取り組みでしたから、社員に受け入れられるか、自ら応募してくれるのか、不安もありましたが、120名を超える応募がありました。この中から、科学的なアセスメントや経営陣へのプレゼンテーション、社長との面接などによる厳しい選考を経て、5名が1期生として選ばれました。企画当初は実はもう少し多い人数でのスタートを想定していたのですが、1期生の質が今後のこのプログラムの評判、さらには経営の質にも繋がることになるので、妥協することなく少数でのスタートをすることを選びました。」
太田氏によればJLPは「加圧トレーニング」のようなもの。通常よりもはるかに短い期間で、プレッシャーの強い状況の中で、高いレベルの成果を上げていく。まさしく過酷なトレーニングだが、要求水準を緩めてしまえば、クリアできる確率は上がっても、成長の度合いは弱まってしまう、とのことだ。
2011年にプログラムを始めたJLP1期生が、間もなく卒業を迎えようとしている今、どのような成長を遂げているのだろうか?
「1期生の成長について、最初に変化を感じたのは、プログラムスタートから半年経ったタイミングでのメンバーから経営陣に向けた報告会でした。経営会議の場で、各自が担当プロジェクトについてのプレゼンを行ったのですが、半年前の選考時には英語でプレゼンをすることも覚束なかったメンバーが、堂々と英語で自信たっぷりに内容も見事なプレゼンテーションを行いました。
経営陣一同、わずか半年でここまで目に見えて成長するものなのか、と思わず顔を見合わせました。このプログラムは成功する、とあらためて強く確信した瞬間でした。その後も、もちろん1期生だけでなく2期生、3期生も、厳しい要求によく応えて期待通りの目覚ましい成長を遂げています。」
ただし手綱は緩めていない。「まだまだこれから」だと太田氏は語る。
「『健全な野心』と私は呼んでいるのですが、『もっと成長したい』という意思を持ち、それを躊躇せずに表現し行動に移せる社員の参加によってJLPをもっと大きく広げたいと思っています。」
JLP導入後、3年目を迎えた2013年から、社内だけでなく社外からも参加希望者を募った。
「JLPに限らず、MSDとしては優秀な人材の獲得に積極的ですが、その入口の1つとして、次世代リーダーを志す人にJLPの門戸を開きたいと思っています。MSDは多様な人材の参加を強く望んでいます。」
未来へ向け、多様な可能性によって注目されるヘルスケア領域。
その中でMSDがリーダー人材に期待する事とは?
冒頭にも触れたように製薬業界は厳しい競争の中にいる。人材獲得という側面においてもその状況は同じだ。しのぎを削る大手グローバルカンパニーは、いかに優秀な社員を獲得していくか、という部分でも競争を展開している。MSDがスタートしたJLPも「早期にリーダーシップ強化を実現できる、貴重な経験ができる企業」としての魅力を実感できる要素となっている。
そんな中、太田氏は製薬業界あるいは広くヘルスケア領域が、他の産業から見ても魅力的な分野であることを示す。
「今、多くのテクノロジーがヘルスケアと関連した新たな関係を築き始めています。例えば、ウエアラブル・コンピュータやビッグテータ活用といった情報テクノロジーが医学・薬学の様々な場面で成果を上げ始めています。
電子工学や情報工学など様々なバックグラウンドを持つ人たちがヘルスケア業界で各々の専門性を活かして人々の健康に貢献できる時代です。だからこそ、MSDも今まで以上に多様な人材を惹きつける企業となろうとしています。
『人々の生命を救い、生活を改善する革新的な製品とサービスを発見し、開発し、提供する』という我々のミッションに共感してくれる人たちが幅広い分野から参画してくれることを望んでいます。」
太田氏により具体的な求める人材像について尋ねると、MSDが持つ3つのカルチャーについて語ってくれた。
「MSDが大切にするコーポレートカルチャーの1つ目はカスタマー・フォーカス、顧客志向の発想です。患者さんを含む顧客の視点に立った考え方、経営を常に実践していきます。
2つ目はイノベーション、革新的であることです。MSDは革新的な製品とサービスの発見・開発・提供をそのミッションとしていますが、イノベーションが必要なのは必ずしも創薬の分野だけでなく、広い分野において求められるものです。例えば人財育成においてJLPを導入したのも、当社のイノベーションのひとつと言えると思います。
そして3つ目がレピュテーション、評判です。企業の価値を決定づけるのは売上や利益の水準ではなく人々の健康にどれだけ貢献できるかに価値がある、という創業当時からの理念については先に説明した通りです。そのためには、高い倫理観をもって事業を行い、社会から信認され信頼される企業にならなくてはなりません。そして人材もまたレピュテーションの源。『あの会社の社員は素晴らしい。優秀だ』という評判を得ることにも大きな意義があります。」
顧客重視の視点で、それぞれの業務に革新をもたらし、自らの存在で会社の評判に貢献できる人物こそが求める人材ということになる。MSDは、「健全な野心」を持つ者のためのキャリアアップの機会を整え、そのミッションに共感する人材の参画を待っている。「新薬で、未来をひらく」ために。
プロフィール
太田 直樹 氏
取締役執行役員 人事部門統括 兼 人事部門長
慶應義塾大学経済学部を卒業後、三和銀行(現三菱東京UFJ 銀行)入行。2001年に日本ゼネラル・エレクトリック(GE)へ。コーポレートHRにおいて組織開発マネジャー等を歴任した。2006年には、アイエヌジー生命保険へ転じ、常務取締役 人事・コーポレート企画担当役員に就任。そして2009年、万有製薬株式会社(当時。現MSD株式会社)に入社。現在に至る。
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