開局から12年で年間売上1000億円に迫る急成長。
しかし、この実績に安住することなく「次の10年」を構築する
「異次元の急成長」としか言いようのない成功をおさめているQVCジャパンですが、ここへ来てさらに人材獲得と組織拡充の動きを加速していると聞きました。背景には何があるのでしょうか?
【原】私はこれまで、日本市場ですでに一定の地位を築いていた複数のグローバル企業に所属してきました。そんな私としても、QVCジャパンの急成長ぶりを示す数値を初めて見た時には目を疑いました。これほど短期間で1000億円近い売上にまで成長できた企業は数えるほどしかありませんから。
ただし、企業としての認知度については、業績に相応しいレベルにまだ達していない。長年マーケティングに携わった私の目には、まだまだやれることがQVCにはたくさんある。認知度とブランド価値を実績に見合うレベルにまで引き上げるだけでも、この会社はさらに大きくジャンプできる。そう考えたからこそ、私自身も転職を決めました。
さらなる成長ポテンシャルを秘めているのはマーケティング分野ばかりではありません。それがわかっているからこそ、組織・人材面の拡充を当社は進めていますし、「次の10年」で今以上の成長と成功を獲得しようとしているんです。
【山崎】私の場合は、前職も前々職も日本企業でしたが、一貫してグローバル市場、特にヨーロッパを長く見てきました。うち、5年間ほどフランスに在住していました。これまでQVCのヨーロッパ展開は英国、ドイツ、イタリアが中心ですから、正直申し上げてこれほど成功しているダイレクトマーケティング企業があることを知りませんでした。
とはいえ、2009年以降は経産省のプロジェクトに参加するため日本に帰っていましたし、QVCジャパンの成功に気づいていてもよかったはずなのですが、やはり知りませんでした。ですから、当社の存在と実績を知った時には驚きました。「これほど成功しているのに、なぜもっと認知度が上がっていないのか」と。しかし、やはり「ブランディング等をこれまで以上に強化したら、この会社は間違いなくさらに成功できる」と確信したんです。
私と原が動き始めているのは、主にマーケティング領域でのアプローチですけれども、経営目線でこの会社の可能性を見ていけば、他にもやれることはたくさんあります。優秀な人材を今求め始めているのも、こうした可能性を形にしていくためなんです。
では、「これまでの10年」の成功は、どこに起因しているとお考えですか?
【原】独自性の高いビジネスモデル。これに尽きます。Eコマース、通信販売と呼ばれる市場は、個人消費の冷え込みや少子高齢化による消費市場全体のシュリンクのリスクなど、逆風の状況を抱えていながら拡大を続けています。ともすると、アマゾンや楽天などのEコマースばかりが成功者の代表として語られがちですが、QVCほど独自性を持った企業は他にはありません。
オールド・メディアであるかのように揶揄されることも多くなったテレビは、今でもその表現力や伝達力、ライブ性などなどで他メディアを圧倒しています。このテレビという強力なメディアを通して、自社で制作し、24時間365日にわたって生放送している。しかも実際には手にとって試していただくことの出来ない通販という業態において、品揃えにおいてもQualityやValueに徹底してこだわり、社名が示す通りのマーチャンダイジングで成功してもいるんです。
【山崎】24時間365日続く生放送というスタイルは画期的です。日本でもヨーロッパでも、テレビショッピングは以前からインフォーマーシャル・スタイルが主流。しかもノー・ブランド商品を扱って、価格で勝負をかけていくようなケースが非常に多い。ところが、QVCは、QualityとValueを最優先します。
つまり、商品の品質と価値を厳正に分析し、オリジナル商品、ブランド商品共に、お客様に良い品をご提供できるよう、日々心がけています。価格の訴求にしても、単なる「安い!」の連呼ではなく、コストパフォーマンスの高さを様々な角度から検証して番組で伝えていくんです。
【原】生放送だということも独自の価値ですよね。単に便利なお買い物メディアで終わるのではなく、一つのエンターテインメントとして成立しています。他社でも断片的に行っているところはありますが、QVCのように24時間というわけではない。ショッピングをエンターテインメントにして、なおかつライブで提供することにより、今紹介している商品がどれほど反響を呼んでいるかを視聴者と共有することもできます。Twitterなどのソーシャルメディアとの連携もどんどん進めていて、番組の画面で紹介してもいますから、よりインタラクティブなライブ・エンターテインメントの魅力をお届けすることができているんです。
【山崎】そうですね。言ってみればQVCの事業モデルはハイブリッド型なんです。エンターテインメント事業と通信販売事業のハイブリッド。しかも、もともとアメリカで生まれた企業でありながらコンセンサス重視という、日本のカルチャーに馴染む経営姿勢が経営面でも、番組上でも現れています。効率的な成果ばかりに目を向けるのではなく、視聴者・消費者が知りたがっているはずの情報を高密度で提供し、納得をしていただこうとしている。米国スタイルと日本スタイルのハイブリッドも実現しているからこそ、日本でも短期間で成功できたのだと思います。
たしかにテレビはエンターテインメント・メディアの王様ですし、Webサイトを軸にするアマゾンや楽天との大きな違いとも言えそうですね。となると、こうした企業を「競合」とは捉えていないのでしょうか?
【原】いえいえ、強大なライバルです(笑)。その2社に限らず、すでにダイレクトマーケティングの領域では、あらゆるメディアやプラットフォームを駆使して有機的につなげていく動きが始まっています。アマゾンや楽天など、Web主体だった企業でもテレビや動画の活用は今後進むでしょう。
そうなれば、QVCが「24時間視聴可能なチャネルから発信している」だけでは優位性を保てなくなるかもしれない。所有するだけでなく、今あるクリエイティブ上の強みをさらに向上させて中身で違いを示していく必要もあるでしょうし、すでに開始していますがWebやSNSとの連携もさらに強化していく必要もあるでしょうね。
【山崎】「QVCのライバルはどこなのか」については、社内でもいろいろ意見が分かれるところではありますが、私も「アマゾンや楽天はライバルだ」と捉えています。QVCのヘビーユーザー層はミドルエイジの女性。私自身がまさにそのモデルケースなので、正直な気持ちを言わせてもらえば「お財布は一つしかないのよ」ということ(笑)。だからこそ、他社の追随を許していないエンターテインメント性やライブ性、インタラクティブ性を伴ったハイブリッド型ビジネスとしての強みを一層強化していく必要があると考えています。
プロフィール
原 孝之 氏
セールス&マーケティング本部 マーケティング&PR部門 マーケティング部
マーケティングディレクター
大学卒業後、日本コカ・コーラ、フィリップモリス ジャパン、LVJグループ、オークリージャパン、マスターカード・ジャパンの各社でマーケティングを担当。さまざまなグローバル企業でブランド構築、広告・プロモーション、マーケティングリサーチ、CRM、商品企画などなどを手がけ、2012年5月よりQVCジャパン。認知度、ブランド価値向上を目指す動きを担っている。
山崎 香織 氏
セールス&マーケティング本部 マーケティング&PR部門 マーケティング部
マーケティングディレクター
大学卒業後、トヨタ自動車入社。一貫してヨーロッパ市場の開拓と、同市場における商品マーケティングを担った後、日産自動車へ。ここでもグローバル戦略に則ったマーケティング&セールスを担当。日産欧州本社勤務などを経た後、2009年には経済産業省へ出向。クール・ジャパンプロジェクト(日本のファッション、食、コンテンツ等の海外輸出促進)の立ち上げに携わり、衣食住を取り巻く生活産業の分析と課題抽出などに関わった。2012年、HEC ParisにてエグゼクティブMBA(EMBA)取得。2013年2月よりQVCジャパン。
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