「歴史ある企業」にもかかわらず、創造と革新により力強くグローバル化を推進中
参天製薬は創業1890年。100年を超える歴史の中、国内の眼科におけるリーディングカンパニーとして成長を続けている企業。そうしたプレゼンスゆえに、「安定した企業」であり「伝統を重んじるカルチャー」に違いない、という印象を抱かれがちだ。
「私が何もわからないまま、当初なんとなく抱いていたイメージもそうだったと思います。ところが参天製薬のかたがたにお会いしてみたら、全然様子が違っていた。とりわけ近年になってから、国内だけでなく世界の患者さんの治療に貢献しようと本気で変革を推進しようとしている。その誠実さや情熱に打たれ、一緒にチャレンジする決意をしたんです」
2013年の転職時を振り返った津田氏の言葉にもあるように、2010年代に入ってからの参天製薬は事業、組織、制度などなどをドラスティックに改革し、生まれ変わろうとしている。順調な業績を維持しているにもかかわらず、あらゆる視点から先を見据えた大胆な改革に着手しているのだ。
「大きなテーマの1つがグローバル化です。これまで参天製薬は国内市場においては圧倒的な強さを誇ってきました。特に医療用眼科薬市場ではナンバー1の座を維持しています。しかし、海外市場での実績は2000年代に入ってからようやく少しずつ伸びてきたとはいえ、小さなものでしかありませんでした。
国内市場が少子化によって変化するから外に出る、という理由だけでなく、当社が持つ徹底した顧客志向や眼科領域に特化した専門性、経験知は十分に海外でも支持を得られるという自信があります。また、グローバル・トップを競う総合製薬メーカー群が選択と集中を行いながらM&Aも積極展開する中で、眼科領域に対する注力も変化してきている。
研究開発のノウハウや営業活動を外向きに展開するばかりでなく、以上のような投資面のチャンスも活かし、眼科領域に特化することで参天製薬が手がけてこなかったカテゴリーなども強化して世界に存在感を示していくことが可能なんです」
単に「海外での業績を少しずつ伸ばそう」という程度のグローバル化ではない。世界のトップ3を目指そうという変革である。そのことを参天製薬は長期経営目標として公開している。事実、国際化の先鞭として注力してきたアジア市場では、短期間で事業展開を加速し、「アジア№1企業」を目指している。アジアとともに注力しているEMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ領域)市場でも着実にシェアを伸ばしている。
これら地域で目標通りの結果を得れば、次なるターゲットとしていよいよ北米市場も見えてくる。なぜここまで変革の成果が好業績につながっているのかといえば、津田氏が先に示した通り。
技術面や製品面でいえば、現代社会において治療ニーズが今後どんどん高まると言われているドライアイによる角結膜疾患領域や、緑内障領域の治療薬開発にいち早く力を注いできた。製品創製においても未充足ニーズを満たす差別化されたアプローチに挑んでいるほか、緑内障治療に実績のある米国のデバイス開発メーカー等を買収。医薬だけにとどまらず、眼科領域のスペシャリティ・カンパニーとなるべく活動している。
どんなに困難でも、取り組んでいるのは前向きな変革であり患者さんのための挑戦。だからこそ、やりがいがある
「大きな変革を実施しているとはいえ、参天製薬が長年貫いてきたカルチャーや価値観がそれを支えている事実も知っておいてほしいですね。それは『患者さんと患者さんを愛する人たちのために』という基本理念に基づいた行動です。
新薬の開発をしたり、他企業を買収したりと、様々なことに挑戦していますが、それらはすべて眼科領域の疾患に悩むかたがたの治療に役立ちたいから。このような純粋な精神を100年以上伝承してきた組織だからこそ、持続的な成長にむけて、新たな価値創造への取り組みができるのだと、私は考えているんです」
すべては患者さんのために。その愚直ともいえる誠実さによってドライブしているがゆえに、肝心なところでぶれないというのである。「どこかパナソニックに似ている」と微笑む津田氏。「肝心なことは何かを深く考え、どうするかを明確に決め、迅速に実行する」この精神は、海外の営業戦略にも現れている。
海外代理店と提携して製品を送り込むスタイルから、買収した製品もテコに、社員が現地に入り、そこで現地採用して組織を築き、現地の眼科学会や基幹病院と連携して展開していく手法。手間のかかり方は甚大だが、その代わり、ローカルごとに異なるニーズの発見や解決策の実行がスピーディーに実現していく。
アジアでの早期の成功も、急速な経済発展によるライフスタイルの変化や高齢化の進展によるドライアイ領域や緑内障領域への治療ニーズの高まり、新興国での眼感染症領域での治療の必要性を感じ取ったがゆえのものだったという。
しかし、口で言うのは容易だが、以上のようなダイナミックな変革を実行しようと思えば、各分野・各部門に相当な荷重がかかっていく。とりわけ、津田氏が統括する人材や組織の局面では、常に問題が山積しているはず。ところが、当の津田氏はこう返した。
「チャレンジが多いことは、転職前からわかっていました。でも、どうせ苦労をするのなら、真っ直ぐ前に進んでいくための苦労がしたいじゃないですか? 今、この会社にある大変さは、すべて前進するための産みの苦しみですし、ある意味で成長痛だと思っています。各分野に思いの強い人材が集まっていますから、やりがいがあるんです」
伝統ある企業の場合、かつての成功体験にとらわれてしまう生え抜き社員がいて、変革を目指してもかえってスピードを鈍化させる存在になってしまうケースが少なくない。仮に外部から専門性の高い人材が登用されても、今度はそうした外部人材と生え抜き人材との間で摩擦が生じたりもするものだ。
しかし、参天製薬では現場社員はもちろん、経営幹部クラスにも外部からの人材を積極登用。それでいてチームとしての連携と協働を大切にしているという。はたして、どのような営みがそれをもたらしているのだろうか?
プロフィール
津田 直幸 氏
人材組織開発本部人事統括部長
大阪大学卒業後、1991年にパナソニックへ新卒入社。一貫して人事関連の領域を担い、事業部門・研究部門・カンパニーHQ・本社の人事部門を歴任。その後、北米へ渡ると、海外統括会社にて事業および組織の再編などを任された。2013年、大規模な変革を推進中であった参天製薬に人材および組織の担当として入社、現在に至る。
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