他のPEと異なる2つの大きな特徴。
すべては壮大なる目標達成のためのアプローチ
ミダスキャピタルとは何の会社なのか? この問いに対して、吉村氏は「PEファンドです」と静かに答える。ただし、多くの人がイメージするPEとは、かなり似て非なる組織であることは間違いない。
【吉村】「私たちには2つの大きな特徴があります。1つはミダスキャピタルメンバーのみがLP出資する権利を持つこと、そしてもう1つはいわゆるビジネスプロフェッショナルに加えて、起業家や実業家が多数参画していることです」
では最初の特徴について、意図するところを聞いてみよう。
【吉村】「私たちの資金だけを投じることによって、実質的なファンド期限が到来せず、中長期でリターンの最大化を追求できます。一般的なファンドが5年ないし7年くらいで投資先企業を売却していますが、現在の日本の状況を踏まえれば、マネジメントの強化を進めることで中長期的にさらに成長していける可能性は非常に高いわけです。ですから、そもそも期限を切る前提で投資するのではなく、継続性をもってともに成長をしていける企業に私たちは投資をしています。さらに原則論を言うならば、ミダスキャピタルの一員となって、ともに同じ企業群として大きな目標を目指そうとしてくれるところが、私たちの投資対象になります。言ってみれば、ビジョン共感型ファンド。それがミダスキャピタルなんです」
すでに前文で紹介したように、驚くほど壮大な目標をミダスキャピタルは掲げている。あらためて代表の口からその目標についても聞かせてもらおう。
【吉村】「ミダス企業群の時価総額で、5年後の2024年までに1兆円、さらに5年後の2030年までに10兆円、そして2040年には100兆円の企業になる。それがミダスキャピタルが形成する企業群全体の目標です」
そして「だからこそ5年後までに営業利益50億レベルの企業を何社出せるかが重要」なのだと吉村氏。
【吉村】「現状の市場を見れば、業態にもよりますが、営業利益50億相当の会社の時価総額は2000億円程度で評価され得る可能性があります。つまりミダスキャピタルが資本投下した企業の内、5社がこのラインを超えれば、単純計算ではありますが総計1兆円を超える可能性も見えてくるのです」
つまりは、以上のような壮大な目標を達成するべく生み出されたのがミダスキャピタルであり、だからこそ外部投資家の声に煩わされず、期限に振り回されない投資姿勢をとったということ。加えて、2つめの特徴だと語っていた起業家・実業家の参画もまた、こうした目標達成のための必然的戦略なのだと吉村氏は説く。
【吉村】「日本には今、企業が爆発的に成長するためのチャンスが多数ある。私はそう考えています。なぜならその競争環境はグローバルに比べれば緩やかだからです。可能性のある企業に、起業家や実業家及び経営のプロフェッショナルが参画して、しっかりとマネジメントを強化していけば、その成長スピードを格段に上げていくことができます。事実、プロ経営者と呼ばれながら外部から招かれた方々が、近年この日本でも実績を出しています。ただし、その大部分は短期的な関係性で終わっています」
プロ経営者が日本にも定着した背景には、PEファンド各社の存在が間違いなくある。投資先企業のバリューアップ施策の一環として、いわゆるプロ経営者を送り込むところが多いわけだが、大多数のPEではやはりイグジットとともに派遣した経営陣もまた退くことになる。結果として短期的な付き合いで終わってしまう。
【吉村】「実は共同創業したエアトリで、私自身がリアルな体験をしたんです。創業以来ずっと着実に成長し、トップラインについては伸び続けていたエアトリも、一時、営業利益が伸び悩んだことがあったんです。そんなとき、外から傑出したプロフェッショナルを招いたところ、一気に壁を突破することができました。そうした経験もあるからこそ、ミダスキャピタルは30〜40代の脂の乗りきった起業家・実業家、ビジネスプロフェッショナルが集まってくる場にしようと考えたんです。会社を安く買って、短期間で高く売るための短期的オーナーシップではない。場合によっては半永久的と言ってもいい長期間に及ぶオーナーシップのもとで、傑出したマネジメント能力を発揮し、担った会社を爆発的に成長させ続けて欲しい。そして、単体企業での成功のみならず、ミダスキャピタル全体で挑む目標達成についても共感し、モチベーションとして働いてくれる人材が集う場にしたいと考えているんです」
吉村氏にしてみれば「せっかく諸外国に比べれば緩やかな競争環境でしかない日本なのに、短期間で売却益を得ようとしていては、そのチャンスを活かせない」という思いがあるようだ。傑出したマネジメントのプロフェッショナルが適材適所でその手腕をふるい、なおかつ期限を設けない長期的なオーナーシップで動けば、個々の企業は飛躍的に伸びていく、という確固たる信念がそこにはある。見方を変えれば、このようなスタンスだからこそ、共感し、参画を望む起業家・実業家、ビジネスプロフェッショナルは少なくない。投資を望む企業の側も「短期ではなく長期で」というビジョンに多くの経営陣が賛同することになる。冒頭で吉村氏は自社を「ビジョン共感型ファンド」と呼んでいたが、それは参画人材と投資先企業の双方に当てはまる特徴だったのである。
「企業群」構想に賛同・共感した会社と個人が
共通の志を胸に「相互扶助」でつながる独自体制。
話を聞く中で、吉村氏の口から頻繁に登場した言葉がある。それが「企業群」。例えば、1つの事業会社の経営者が壮大な収益目標を掲げ、そのための戦略として事業会社を傘下に持つホールディングスを形成し、「グループ」としての成長を目指す形であれば珍しくもない。だが、ミダスキャピタルは創業時から「ビジョン共感型ファンド」という特徴を明確に示し、投資先企業との間で「企業群」を形成しながら大きな目標にチャレンジしている。なかなか見聞しない形だと伝えると、吉村氏はこう答えた。
【吉村】「なぜそういう着想に至ったのかといえば、純粋な1つの企業体が、形はどうあれ例えば100年の長きに渡ってエクセレントカンパニーでいられるかというとそうではないからです。私の知る限り、それを実現したのは世界に1社、GEだけ。私自身も起業を経験し、その会社の成長を志している最中ですが、単体でのグロースには業績的にも期間的にも限界が生じます。しかし、異なるビジネスモデルを持つ企業同士であっても、有効なつながり方をしながら企業群として共通の目標を追っていくことができれば、その限界を突破できる可能性は高まる。そう考えて、ミダスキャピタルの構想に至ったというわけです」
たしかに、ミダスキャピタルをコアとする「企業群」のビジネスモデルは様々だ。ミダスキャピタルによる投資の第1号案件となったBuySell Technologiesは、「バイセル」のブランド名でリユース市場における総合サービスを展開する企業。2020年9月にミダスエンターテイメントから社名変更したGENDA(ジェンダ)は、アミューズメントマシンのレンタルやオンラインクレーンゲーム等を手がける企業。さらに「オーナーズファンド」と呼ばれる投資スキームで「企業群」に加わったイングリウッドは、OMO(Online Merges with Offline)市場の拡大を先取りし、AIによるデータ活用などのソリューション提供をコア事業としている。同じく「オーナーズファンド」で加わったARETECO HOLDINGSは、マーケティング領域の専門性に特化したマーケティングファームである。それぞれの事業が密接に寄り添い、シナジー効果を狙うわけではないものの、各社はミダスキャピタル企業群としてのビジョンでつながっており、なおかつ横串を貫く格好で「相互扶助」の関係で結ばれているというのである(ちなみに「旗艦ファンド」「オーナーズファンド」の違いについては、寺田修輔氏が説明してくれている)。
【吉村】「つまりミダスキャピタルは、1社、1人では辿り着けない地点に向かって、当社のビジョンに共感した多くの会社及び個人の集合体、即ち『群』として辿り着こうという試みなんです。だからこそ、できる限り優秀な人材が集まり、できる限り中長期目線で経営と向き合っていく。そうすることによって永続的かつ最速の成長を続けていこうとしているんです」
「ミダスキャピタル企業群」にとって
必要な人材の要件とは?
こうなれば「求める人材像」もまた、従来型のPEファンドとは大きく違ってきそうである。はたして吉村氏がこの壮大な構想の中で必要としている人材とは、いかなるものなのだろうか?
【吉村】「ポイントは3つです。1つは能力として傑出している人。例えばトップティアの金融機関やコンサルティングファームに在籍し、なおかつそこでトップクラスの成果を上げていたような存在がすでに参画してくれていますし、今後もそうした人材に加わって欲しいと願っています。2つめは言うまでもないかもしれませんが、私たちのビジョンやコンセプトに共感し、信じてくれる人です。そして3つめは、仲間を裏切らない人。当たり前のことのように思われるかもしれませんが、ミダスキャピタル企業群のメンバーは、ファイナンスやマネジメントで群を抜く能力を発揮してきた人物や、リアルな会社経営において突出したマネジメント能力を発揮している起業家や実業家です。そういう人たちを裏切らない存在であり続けるには、絶え間なく成長していく人間でなければいけません。また、自分自身が社会的インパクトを持ちながら、ミダス財団を通じた直接的な社会貢献にも寄与していく人物であってほしいと思っています」
ミダスキャピタルはその収益の実に10%を一般社団法人であるミダス財団へ寄附し続け、この財団を通じて発展途上国などが抱える貧困や教育、環境破壊等々の問題解決に当たっている。吉村氏は言う「社会起業を目指すかたは少なくありませんが、現実問題として成功するのはなかなか難しい」と。しかし、ミダスキャピタルのビジョンに共感しながら成果を上げて行けたなら、社会貢献事業に直接携わる道も拓けてくる。ここまで明確な取り組みをしている点もまた、他のPEファンドと異なる特徴的な部分だ。
ともあれ、吉村氏が掲げたようにミダスキャピタルが求めているのは「傑出した人材」であり、決してハードルは低くないが、より重要なのは2つめと3つめのポイント。つまり、どこまで共感し、信じ、裏切らずに突き進めるかが問われている。残る2つのページで、どういう人材が活躍しているのかを是非確認してほしい。
プロフィール
吉村 英毅 氏
代表パートナー
東京大学経済学部卒業。
大学在学中の2003年にValcomを創業し、国内格安航空券のネット販売事業を展開。卒業後の2007年に共同創業したエアトリで、同ビジネスモデルをさらに発展開花させることで、2016年にはマザーズ上場、翌2017年に東証一部上場を果たした。同年、エアトリ社長(現 取締役CGO)を続けながらもミダスキャピタルを創業。さらにミダスキャピタルとしての第1号案件としてBuySell Technologiesを買収し、後に取締役会長に就任。2019年、同社のマザーズ上場を達成した。現在も複数企業の経営を担う中、主にミダスキャピタル代表として、「企業群」による成長にドライブをかけている。
寺田 修輔 氏
ミダスキャピタル 取締役パートナー
東京大学経済学部卒業。Chartered Financial Analyst(CFA協会認定証券アナリスト)
大学卒業後の2009年、新卒でシティグループ証券に入社。株式調査業務や財務アドバイザリー業務に従事し、ディレクターや不動産チームヘッドを歴任。2016年、株式会社じげんに入社し、取締役執行役員CFOとしてM&Aを中心とする投資戦略、財務戦略、経営企画の統括等を担い、東証1部への市場変更、コーポレート体制の強化を牽引。2020年7月、ミダスキャピタルに取締役パートナーとして参画。
申 真衣 氏
ミダスキャピタル プリンシパル
株式会社GENDA代表取締役社長
東京大学経済学部卒業。
大学卒業後の2007年、新卒でゴールドマン・サックス証券に入社。金融法人営業部を経て、2016年には金融商品開発部部長、2018年には当時最年少でマネージングディレクターに就任した。同年、ミダスキャピタルに参画し、プリンシパルとして従事する一方、ミダスエンターテイメント(現 GENDA)を共同創業、2019年より同社代表取締役社長として成長をリードしている。
黒川 隆介 氏
ミダスキャピタル シニアパートナー
株式会社イングリウッド 代表取締役社長兼CEO
日本大学法学部卒業。
2003年にアメリカ製品のエクスポート事業で起業した後、2005年にイングリウッドを創業。スニーカーのECサイトをオープン。その後もECのフロンティアとして蓄積したノウハウの提供等で成長を果たし、近年では、AI戦略事業、データテクノロジー事業、セールス・ライセンス事業を推進。新規事業を次々に積み上げながら、日本・中国・アメリカをはじめとする世界各国で多様な商品サービス・販売チャネルの開拓を推進。その一方で2018年にミダスキャピタルのビジョンに共感し、シニアパートナーとして参画している。
高木 健作 氏
ミダスキャピタル パートナー
株式会社ARETECO HOLDINGS 代表取締役社長
大阪大学経済学部。
大学在学中の2010年に最初の起業を果たすと、その後、起業家として10社以上の立ち上げを経験。2019年3月にはARETECO HOLDINGSの代表取締役に就任した。「マーケティングファーム構想」をビジョンとして掲げ、マーケティングに強みをおいた事業展開を進める中、2019年3月にミダスキャピタルへパートナーとして参画している。
大野 紗和子 氏
ミダスキャピタル プリンシパル
Food Star株式会社 代表取締役社長
東京大学大学院理学系研究科修了。
ボストン コンサルティング グループやGoogleにおいて、経営・マーケティングのアドバイザリーやオンラインマーケティング関連のリサーチプロジェクトに従事。さらにFintech事業に取組むAnyPayにて、COO・代表取締役CEOとして、決済・ブロックチェーン・投資事業の立ち上げとマネジメントを担った。アートのブロックチェーンを開発するスタートバーンではCOOとして事業開発/推進・知財戦略等に従事。2020年、ミダスキャピタルにプリンシパルとして参画した。同年7月にはミダスキャピタル発のスタートアップとしてFood Star株式会社を設立。代表取締役社長に就任している。
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