コンサル用語「BEACH」を切る！について

アビームコンサルティング 経営戦略セクター
プリンシパル
斎藤 岳 氏

コンサルタントの休息

以前、レオナルド・ディカプリオが主演した"THE BEACH"という映画があった。そのBEACHの撮影、タイのとある海岸で行われたとのこと。
ちょうどタイに知り合いが駐在していることもあり、半年前の予定では、
「この春は、タイに行ってBEACHだ！！」
と思っていたのだが、諸事情合って、今日も仕事である。
諸事情のひとつに、ここのところプロジェクトが合間無く続いているということがある。

コンサルタントは、「お盆休み」といった形で休みを取ることより、プロジェクトとプロジェクトの間にまとめて休みを取ることが多い。
「コンサルタントは忙しい」という印象を持つ人が多いかもしれない。
確かに、プロジェクト実施中はかなり忙しいことが多いが、プロジェクトの合間を利用して海外旅行に行ったりすることも実は多いのである。この休息をちゃんと取ることがコンサルタントを長く続ける秘訣ではないかとも思っている。

この休息、旅行から帰ってきた後も続く場合、コンサル用語で「BEACHしている」と呼ばれる。

例えば、
「お前、今、何のプロジェクトやってるの？」
「いや、今、BEACHなんだ」

こんな使い方である。

実は最近、このBEACHに関して、
10年以上コンサルをやってきて初めて気付いたことがある。

まだ駆け出しの頃の出来事

その話をする前に、10年前に戻る必要がある。

10年前の駆け出しのコンサル時代に、学生さんの採用面接をしていたときのことである。

筆者：では、自己アピールをしてください。
学生さん：私は、物事を多様な視点で見ることが出来ます。
筆者：具体例などあれば話してもらえますか？
学生さん：例えば、このコップ。７割くらいお茶が入っています。しかし、私は、「3割くらいお茶が入っていない」と見ることも出来ます。
筆者：（多様な視点？？？軸はあくまでも1つでは・・・って、突っ込むのも大人げないし・・・）　・・・では、次の人お願いします。

こんな人がいた。

ＢＥＡＣＨの意味

コンサルの話に戻る。

コンサル経験が長い人間同士が話す場合、
「今、BEACHだよ」と聞くと、「いいなぁ。俺もゆっくりしたい」という会話が展開される。

一方で、経験が浅い人の場合、
「今、BEACHだよ」と聞くと、「大丈夫？」という会話が展開される。
少しでも早く多くの経験を積みたいからである。
また、会社によってはBEACHの期間が長い人は、クビになってしまうため、
「BEACH」という言葉は、ものすごいネガティブな響きをもっているらしい。

同じ「BEACH」というコンサル用語だが、人によって受けるニュアンスが違うのである。

このニュアンスの違いはどこから生まれてくるのか？

コンサル業界に入ってからずっと、「BEACHする」という言葉を聴いて、「人がBEACHでぶらぶらしている」というイメージをしていた。正直、楽しそうだし、ネガティブな響きをもっていることがしっくりきていなかった。

しかし、最近、ふと思った。
誰が、「人が」ということを言ったのだろう？

主語が「魚」だったらどうだろう？
「BEACHする」という言葉は、「（プロジェクトという）海で泳ぐ魚が、浜に打ち上げられている」イメージになる。「ゆっくり」しているのではなく、「ピチピチ飛び跳ねて、もがいている」イメージである。浜（BEACH）に打ち上げられ海（プロジェクト）に戻れなければ、そこにあるのは「死（クビ）」のみなのである。

視点を「人から」「魚から」と変えることで、捉え方が大きく変わる。

あの時、学生くんも、こんな具体例を出していれば合格にしたと思う。

ちなみに、近藤の2008年1月のコラム『自分の価値』の中に、このような一節がある。

コンサルタントの世界は、大海を泳ぐ水泳に等しいと思っている。絶えず、水を掻いていないと沈む。沈まないように、ひたすら掻く。その結果、いつしか、気がついたら、無理なく泳げるようになっている。但し、気持ち的には休めない。

この例で言うと、主語は「人」ですね。