Campus Report 2002

高橋 邦比呂 to Tepper School of Business, Carnegie Mellon University(全46回)

MBAホルダーへの道

Vol.34 「ケースメソッド」の方法と質について

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ビジネススクールでよく聞く「ケースメソッド」という言葉ですが、実際にどういった内容とやり方をするのか、意外に日本では知りにくいと思います。今回GSIAの人気教授であるRobert Dammon教授による"Studies in Corporate Finance"という授業のケースメソッドを具体的にご紹介し、またケースメソッドの方法や質について簡単に所感を述べたいと思います。内容的には11月後半になります。

■ Dammon教授の場合 - 「プレゼン」と「批判プレゼン」の対決

Dammon教授の場合、全12回の授業のうち、3回が講義、残りの9回がケースの議論にあてられる。クラスは9チームに分割され、それぞれが1ケースを担当、20~30分のプレゼンテーションを行う。プレゼンの準備は定性・定量 の両方を相当詰めなければいけない。教授と生徒からの質問攻めにあう。

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コーポレートファイナンスの多国籍グループ

プレゼンの準備も大変だが、怖いのはプレゼンではなく、「批判プレゼン」だ。「批判プレゼングループ」(Critiquing Group)は、当日のくじ引きでその場で決定される。それに当たった場合には、プレゼングループの後に、「この視点が抜けてる、分析が甘い、我々はこうやった」という対抗プレゼンを即興でしなければいけないのだ。批判プレゼンをやるかどうかは当日まで分からないため、結局毎回のケースに100%力を注いでガッチリ用意しておかなければならない。

非常に負荷の高い授業だが、毎回、定員を大幅に超える生徒がこの授業を履修しようとする。それだけ得るもが多いと知っているからである。写 真は私が組んだチームメンバーで、左から順にエジプト人(P&G)、中国人(会計事務所)、スペイン人(プロセスエンジニア)、日本人2人(会計事務所・証券会社)、アメリカ人(ITエンジニア)のチーム構成となっている。議論好きで熱心な、非常にいいチームだった。

■ ケースの全貌

以下、この授業のケースの概要と目的を簡潔に述べる。どういったケースが取り扱われているのか、そのイメージを掴むのにご参考になればと思う。(年代はケースが用意された年を意味します。)

(1) American Chemical Corporation (1995年):

化学製品会社であるACCが塩化ナトリウム製造工場を他社に売却する際の売却額を算定。買収側は多額の負債を調達するため、その際の負債コストといわゆるタックス・シールド(支払利息の税務上のメリット)のインパクトを勘案して、買収額を決める。テーマは「資本コストの算定」と「基礎的バリュエーションの手法」。

(2) Genzyme/Geltex Joint Venture (1999年):

 医薬品会社である両社がジョイントベンチャーを設立する際、それぞれの投資額と持分割合が、その後のキャッシュフローに見合うかどうかを算定する。テーマは「プロジェクトリスクの見方」、「モンテカルロ・シミュレーション」。

(3) Airbus A3XX (2003年):

 ドイツ、フランス等の大手企業等のコンソーシアムであるAirbusが、米ボーイング社に対抗して製造しようと計画している「超大型ジャンボジェット機A3XX」。これには航空規制や需要の不確実性など様々な要因が絡む。今、製造に踏み出すべきか否か。テーマは「Strategic Capital Investment」で、あらゆる感応度分析やシナリオベースのバリュエーションを実施する。

(4) MW Petroleum (1994年):

 石油会社であるAmocoが子会社のMWPを、競合他社のApacheに売却する。Apache側から見て、支払える最大買収額を算定する。石油プロジェクトでは、時間と共にプロジェクト遂行の是非を決定できる「オプション」が存在するため、DCF法での単純なバリュエーションではない価値が、MWPにはある。テーマは「リアル・オプション・アナリシス」(ブラックショールズモデル)。

(5) UST (2001年):

USタバコはStock Repurchase Programを実施するため、多額の借入金を急速に増やしていた。新たに1,000億円の借入金を調達しようとしているが、今後のキャッシュフローの見込み、株主価値の最大化を鑑みた場合、借り入れに踏み切るべきか否か。テーマは「最適資本構成」。

(6) Stone Container (1998年):

ダンボール等の製造を手がけるSC社は、これまで多額の負債調達による買収劇で急速に成長してきた。が、ここにきて、業界不況のなか急速にキャッシュフローが行き詰まり、利息の支払いも危ぶまれる状況となっている。すぐにでも約1,200億円の資金が必要だ。どう対応すべきか。テーマは「ファイナンシャル・リストラクチャリング」。

(7) Pinkerton (2001年):

米国東海岸の警備会社であるPinkertonは、西海岸(カルフォルニア)の警備会社CCPの買収を勘案していた。買収が成功した場合のシナジーと不確実性について、どう判断すべきか。テーマは「買収におけるバリュエーション」。

(8) Aspen Technology (1996年):

マサチューセッツのスタートアップ企業であるATは、化学製品企業向けのソフトウェアを開発する企業だ。ビジネスが軌道に乗ってきたが、英国や日本の顧客への外貨建ての売上高の為替リスクが看過できないものとなっている。どんなヘッジ対策が考えられるか。テーマは「為替リスクに関するリスクマネジメントの基礎」。

(9) Tokyo Disney Land (1991年):

急激な成長を見せる東京ディズニーランド。米国本社は東京からの円建てロイヤルティ収入の額が急増するにつれて、その為替リスクをどうヘッジするかを検討せねばならなくなった。ゴールドマンサックスや日本興業銀行が複雑なヘッジ方法を提案してきているが、どう対応すべきか。テーマは「スワップ、フォーワード、外貨建借入等による為替リスクヘッジ」。

■ ケースメソッドの方法と質について

以上はDammon教授の独自の方法だが、「ケースメソッド」といっても、具体的な進め方は教授によって違う。私がこれまで経験してきた講義では、大体3通 りくらいのやり方が、教授(の好み)によってあるようだ。

(1) まず、「フレームワーク当てはめ方タイプ」。マーケティング論や戦略論等のフレームワークをビシっとあてはめて、いい意味で「型にはめた」議論をするタイプ。講義で「理論・フレームワーク」を学び、その直後にそれを(応用)適用できるケースに取り組む、といった順序。

議論では、とにかく明確な「ロジック」で「一番よさそうな結論」を出そうとするやり方だ。理論の長所と実務的な短所の両方を考えることができる。日本では理論の本(多くは訳書)はすぐに手に入っても、実際の適用を「体感」する機会が少ないため、これは勉強になる。

(2) 二つ目が「喧々諤々タイプ」。戦略、マーケティング、テクノロジー、組織論、人事論などに多いやり方。とにかく思ったこと、感じたこと、言いたいことを生徒に言わせまくり、それを黒板に書きまくる。膨大な量 の情報を整理しながら、どれだけ問題を多面的に見ることができるか、関連するイシューがどれだけあるかを見るタイプ。終わりに実際のケースの登場人物(経営者など)のビデオインタビューなどを見て、「やっぱり大変だったんだねぇ」などと納得しあったりする。

この方法だと、問題がどれだけ複雑かはよく分かるのだが、個人的にはブレインストーミングだけのような感じがして、あまり好きではない。教授によっては、複数の問題をキチンと重み付けして、最重要課題のいくつかだけに思い切って焦点をあてて問題を解こうとする場合があるが、これは勉強になる。

(3) 三つ目が「数値分析タイプ」。マーケティングやEコマース、ファイナンスのケースでとられる方法。定性的な情報を分析したうえで、「結局儲かるのか」、「何%の確率で儲かりそうか」などを明確な数字で出す。定性面 での不確実性を残しながら、数字的には何がベストかを明示する。ファイナンスではほぼ必ずこの方法がとられる。

ケースの議論のあとは、「なるほどなぁ」と感心して終えられるときと、「あんなんでいいのかよ」と不満なときと、五分五分といったところ。個人的には、どれだけ不明確な情報が多かろうと、とにかく何か結論を出したい気持ちが強い(実務ではとにかく意思決定をしなければいけないと思うため)。だから教授個人が自分の意見と結論を明確に述べるスタイルが好きだ。玉 虫色的に終わるのが一番面白くないのだが、これもケース分析の「方法」を学ぶものとして、それなりに頻度が多いやり方のように感じる。

それから、教授の「実務経験の多寡」によっても議論の質はだいぶ違うと思う。学問一筋的にやってきた教授であると、生徒側の実務的な質問に十分に答えきれていないときがよくある。若くても実務経験が豊富な教授であれば、意外に納得のいくいいアドバイスをくれる。

この点、GSIAでは生徒による「全教授の評点」が公開されているが、その評点が高い教授はほぼ間違いなく、面 白いケースメソッドをやってくれる(ちなみに評点が低い学期が続くと、教授が学校を去らなければならない。米国ビジネススクールのこの厳しい評価システムは、授業の質向上に大きく資していると思う)。

以上、GSIAにおけるケースメソッドの全貌を紹介した。米国ビジネススクールのケースのすごいところは、ケースの詳細さと現実味であろう。執筆する教授陣の努力もさることならが、企業側の教育への協力体制も並々ならぬ ものであることがわかる。日本にいたときには、何か特別なものに感じていたケースメソッドであるが、こちらにきてそれが「物事を考える力」を育成するのに非常に強力なツールであることを実感した。

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