猛暑の7月、学内は慌しい雰囲気に包まれていた。7月末の学期末に向けて、期末レポートと期末試験のラッシュだったからだ。中旬から2週間ほどは毎日寝不足で、図書館にこもり続けた。そんな最中、大きな問題が持ち上がった。卒業後、就職先の一つとして考えていた企業からの電話がかかってきて、企業に出向いて面 接を受けることになってしまったのだ。
今は学生の私だが、それは卒業後の社会復帰を前提とした話。社会に戻ったら、アレしたい、コレしたい...といろいろ考えていたものの、それは1年数ヵ月後の話とある意味タカを括っていただけに、非常に戸惑った。
その仕事は依然と同じマスメディアでの仕事で、突然欠員が出て、急遽人を探しているという。新卒後、常にカレンダーとは無関係な生活を送り、友人と会うことも休暇を取ることも儘ならなかった。WBSに入学後、勉強はそこそこ大変ながら夜中に友達と電話したり、週末に出かけたりする生活をとても新鮮に感じ楽しんでいるだけに「またあの生活に戻れるのだろうか」という不安が先走る。
そもそも、その仕事を受ければWBSは辞めなければならないだろう。曲がりなりにも数ヶ月、なんとかやってきた勉強を放り投げていいものかどうか。ただし、卒業後に行きたいと思っていた企業からのオファーなだけに、今WBSを中退して入社することはショートカットなのではないか、とも思う。
そういうわけで、キャリアを選ぶのか、研究を選ぶのかという命題を抱えたまま、なんとか山積みの課題を終えて、その企業の面 接に出向いた。
インタビューの日、数ヶ月ぶりにスーツに身を包むと背筋が伸びた。面 接の相手は外国人で、約1時間にわたり、これまでのキャリア、今後のキャリアパス、ジャーナリズムの使命など、良い話しをしたと思う。
特に日本は、経済ジャーナリズムが堕落している、という意見には私も大賛成。あとは私が在日韓国人の女性ということで
(1) この保守的な日本社会で働く上で、自分の出自とそれにまつわる差別 の問題をどうクリアしてきたか
(2) 同じく女性ということで取材相手が男尊女卑だったときに、それをどう克服したかということについて詳しく聞かれた。
私の答えを待って、その方は「わが社はグローバルな企業だし、国籍・性別 など何にもとらわれない。キミが今まで感じてきたアンフェアな扱いは決してないことを約束しよう」とのこと。正直言って、会う直前には「研究を優先したい」と断る決心をしていたが、この方のパーソナリティに触れて、話すうちに「やはりWBSは中退して、この企業で働いてみようか」という気になっていた。
こうした葛藤を忌憚なく話したところ、まずは卒業までpending、その代わりに長期の休みに働いてはどうかとの有難いオファーをもらった。そしてMBAホルダーとして入社する方が、入社後のキャリアにも有利だから、と率直なアドバイスに従うことにした。この夏休みにできるかどうかはスケジュールの都合もあり不明だが、少なくともこの担当者が転勤にならない限り、卒業後、私が希望すればこの企業に就職できそうだ。
この選択が良かったかどうかが分かるのは数年先だろう。ただ、少なくとも今の時点では後悔はない。今回の出来事を通 じて、1年数ヵ月後、社会に戻るときに、どれだけの付加価値を身につけられるか、常に意識して研究に励まなければ――との気持ちを新たにした。