三谷宏治の学びの源泉

[第84回] ナウシカが真に戦った相手とは

転職のご相談・お問い合わせ

経験豊富な
エージェントに転職相談(無料)してみませんか?

1分で完了無料登録・転職相談
 #基幹産業としてのマンガ

 マンガは間違いなく日本の基幹産業の1つであり、その国際競争力は他産業の比ではありません。
 縮小傾向ながらも年間5000億円(他にアニメが2000億円)の国内市場は世界でダントツの規模。そこでは約4000人のプロ作家たちが、一攫千金を夢見て日々研鑽を続けています。
 世界でテレビ放映されるアニメ番組のタイトルのうち6割が日本製、ヨーロッパでは8割以上が日本製と言われていますし、マンガ(キャラクター)市場でも、日本製が過半を占めています。

 実はこの『学びの源泉』では、過去3回、マンガを題材にしています。紹介したマンガは、
 ・第5回:『MASTERキートン』『PLUTO』『バカボンド』『深く美しきアジア』
 ・第6回:『ピンポン』『湾岸ミッドナイト』
 ・第7回:『寄生獣』『動物のお医者さん』『よつばと』『ぼのぼの』
 の10作品でした。みなさんは、いくつ読まれたことがあるでしょう。
 もちろんわが家には各々全巻揃っています。リビングの壁の一面はすべてマンガ専用本棚で、来客者の多く(娘の男友だち、某CINQ社 社長含む)がそこに吸い込まれていきます。
 #『湾岸ミッドナイト』公道 時速300kmの人生観

 この10作品の中でも特に私が押したのは『湾岸ミッドナイト』でした。よく主人公たちの顔のデッサンが変わるのは、困りますが、そこで描かれる人生観・価値観は圧倒的です。
 『湾岸ミッドナイト』はその名の通り、東京の湾岸高速道路や首都高速道路を、時速300km超で走る者たちの物語です。
 「悪魔のZ」と呼ばれる初代フェアレディZを駆る主人公アキオを中心に、様々な人生と車達が交錯していきます。敵役の湾岸の帝王ブラックバード(ポルシェ911、黒色)は現役の大学病院医師、主人公を見守るレイナ(スカイラインGT-R 32型、600馬力)は19才の超人気モデル、等々。
 皆、わかっています。公道300km/h、それが如何に愚かな行為かということを。

 これら走り手を支える、作り手(チューナー)たちの物語の厚みが、この『湾岸ミッドナイト』の特徴と言えるでしょう。
 ボディーワークの天才 高木、燃調セットアップの鬼 富永、そして、11年前、自ら悪魔のZを作り上げた地獄のチューナー 北見。
 彼は1000基以上の高性能エンジンを組み上げ、その圧倒的なパワーを操りきれなかった数十人もの人生を狂わせてきました。
 「公道300km/hオーバー」「どう考えたって反社会的で狂った行為だ」
 「りっぱな犯罪者だ」「自分自身がそれを一番よくわかっている」
 でも・・・、彼は続けます。
 「21年前、19の時にオレはあのZにあったのョ」「オレはいっぱつで魅せられた」
 「19の時も そして 40になった今でも、オレはずっととびきりの時を過ごしている」
 「工場はつぶしたし・・家族も去っていった」
 「でもオレが一番幸せだッ」「19の時からずうっと」「オレはスピードにとりつかれている」
 「これ以上の 幸せが どこにあるッ」
 これほどの言葉を、言い切れるか。その強さこそが自らの人生の価値を決めるのでしょう。

 ああ、でも私にここまでの強さはありません。憧れはしますが、同じにはなれません。より共感したのは、セットアップチューニングのプロ 富永の言葉でした。
 #「士は己を知る者のために死す」

 富永は言います。
 「人ってホラ ただ 生きているだけじゃ ツライだろ」「意味と ゆーか・・ そーゆうの」
 「それぞれ 求めるモノ あるだろ 人って」
 「で オレは 何かなって 考えたとき―――」
 「わかって ほしいって コトかな・・と」
 「チューニングという 行為を介して」「オレという人間を わかってほしい――――――と」
 「それも」「ただ 誰でもって ワケじゃない」
 「誰に わかって ほしいのか」「それが 大事だと この年でやっと 気づいたんだ」

 マズローの欲求5段階説で言えば、これは4段階目である「尊敬欲求(esteem needs(*1))」でしょうか。
 いや、少し違います。富永の望みは決して第5段階目の「自己実現欲求(self-actualization needs)」の手前のものではありません。むしろその先にあるもの、に感じます。
 チューナーにとって自己実現、つまり「自己独自の能力の利用および自己の潜在能力の実現を希求」することは当然の行為です。もっとパワーを、もっと速く、と。しかし、それはただの独善でもあります。
 「士は己を知る者のために死す」は春秋時代の末期、予譲(よじょう)という人物が言った言葉(*2)とされています。
 彼は晋の重臣の知伯に仕えて重用され、それを滅ぼした政敵の趙襄子への復讐を誓います。
 刺客・予譲は最後に捉えられ「なぜ(予譲は)他の主君にも仕えたのに、知伯のためにだけ(命を賭けて)仇を討とうとするのか」と問われて曰く
 「知伯のみが自分を国士(*3)として遇した。故に自分も国士として報いるのだ」

 富永に写せばそれは、「自らの認める(超一流の)乗り手に、自らも超一流と認められてこその、自分」ということでしょう。
 私の人生の価値観を揺さぶる一言でした。

(*1)他人からの尊敬や責任ある地位を希求したり、自律的な思考や行動の機会を希求したりする
(*2)司馬遷の『史記』刺客列伝より
(*3)国家のために身命をなげうって尽くす人物。その国で特に優れた人物

 #『風の谷のナウシカ』はヒトの愚かさを描いた壮大な戦記である

 『風の谷のナウシカ』は言わずと知れた宮崎駿さんの作品です。1984年3月に封切られた同名の映画(*4)は、各界で非常に高い評価を受け、彼の映画出世作となりました。日本テレビの「金曜ロードショー」では13回も放送されているそうなので、視られた方も多いでしょう。
 しかし、映画で描かれた世界は「アニメージュ」に連載された原作の、数分の一に過ぎません。マンガの単行本で言えば、全7巻のうちの2巻目の80頁目くらいでしょうか。ナウシカの旅は、そして戦いは、そこからが本番です。

 文明を崩壊させ世界を汚染し尽くした最終戦争から1000年が経ち、世界は猛毒の瘴気(しょうき)を放つ腐海に覆われています。人々は残されたわずかな地で生活していますが、そこでも醜い大国間の争いが繰り広げられます。それに巻きこまれる小国「風の谷」とその姫ナウシカ。
 過去の究極兵器「巨神兵」が再生され、兵器としての人造粘菌が大地を埋め尽くし、国土自体が失われていきます。王たちはそれでも、人類の叡智を収める「シュワの墓所」を目指します。自分こそがその継承者となり、覇者となるために。
 そのために数限りない民や戦士が、粘菌の吐く毒や戦闘の中で命を落とします。ナウシカと関わった多くの人たちも・・・。『風の谷のナウシカ』とはそんなヒトの愚かさを徹底的に描いた作品でもあるのです。

(*4)当時、マンガ連載以外に仕事のなかった彼のために、周りの人たちが奔走した結果、唯一通った企画が『風の谷のナウシカ』の映画化だった、とか

 #ナウシカが真に戦った相手とは

 ナウシカはその血にまみれた旅の中で、ついにこの世界の成り立ちのヒミツを探り当てます。そして、ナウシカは決断するのです。地球と人類再生の任を負った叡智の結晶「シュワの墓所」を滅ぼすと。
 墓所の番人はナウシカに問いかけます。
 「娘よ、お前は再生への努力を放棄して人類を滅びるにまかせるというのか」「人類は わたしなしには滅びる」
 ナウシカは答えます。
 「それはこの星が決めること」「私たちの生命は、私たちのものだ。生命は生命の力で生きている」「私たちは、血を吐きつつ、くり返しくり返し、その朝をこえてとぶ鳥だ」と。
 文明の次の朝を、過去のプログラムに与えてもらうことに、決してヒトの幸せはないと彼女は叫ぶのです。たとえそれが滅びへの道であっても、自ら自分の意思で生きることにのみ、生命の幸せはあるのだと。

 『風の谷のナウシカ』全7巻。ワイド版の7巻セットで3000円弱。とってもお得です。映画だけしか見ていない、という方には、是非ご一読をオススメします。ナウシカ観が、そしてもしかしたら、あなたの人生観が変わります。

 初出:『湾岸ミッドナイト』解説は、CAREERINQ. 2005/06/30、『風の谷のナウシカ』解説は、ダイヤモンドオンライン 2012/01/10

 お知らせ:11月9日発刊の『一瞬で大切なことを伝える技術』(かんき出版)は好調が続いています。有隣堂ヨドバシAKIBA店では2011年12月のビジネス書2位、2012年最初の週ではなんと1位になりました!
 社会やビジネスで必要十分な論理思考が『重要思考』です。それを使って考え、伝え、聴き、話し合うことで、チームでの議論効率が何倍も上がり、すれ違いの会話がなくなります。是非、周りの方々にもお奨めください。

プロフィール

三谷 宏治 氏

KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に子ども・親・教員向け)に注力し全国で講演・研修・授業を行う。 著書多数。『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『一瞬で大切なものを決める技術』はビジネス書賞を獲得。近著に『戦略子育て』『新しい経営学』『戦略読書〔増補版〕』など。早稲田大学ビジネススクールおよび女子栄養大学 客員教授。永平寺ふるさと大使。

初めての方へ 私たちキャリアインキュベーションについて

転職のご相談・お問い合わせ 業界の専門分野で10年以上の
経験を持つエージェントに
転職相談(無料)
してみませんか?

あなたのキャリアに関する相談相手として、現在の状況に耳を傾け、これまでのご経験や今後のポテンシャル、
将来の展望を整理し、よりふさわしいキャリアをご提案します。

1分で完了 無料登録・転職相談

現在約6000人以上が登録中!
転職活動にすぐに役立つ
メールマガジン(無料)もございます。

メールマガジン登録(無料)