金光隆志のコンサル転職Q&A

[第26回] 日本の投資ファンド業界の今後について如何お考えですか

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【質問】 
先日新聞にファンド2.0という記事がでていました。ハゲタカファンドが終わり企業の戦略パートナーとしての投資ファンドという位置づけだそうですが、金光さんは日本の投資ファンド業界の今後について如何お考えですか。(32歳/戦略コンサルタント)

みなさん、こんにちは。


さてさて、ファンド2.0。なんでも2.0つけりゃいいってもんじゃない。言葉のセンスが相当悪い人が勝手に言っているだけじゃないかと(笑)。

まあ、それはさておき。日本におけるファンドの歴史は、浅い。新聞記事の論調だとハゲタカファンドの時代が終わったということのようですが、私の感覚では始まってもいない。いや、始まったばかりというべきでしょうか。

以下は、金融や経済についてまったくの素人である私の完全なる個人的見解です。あくまで独り言的な感覚で書かせて頂きますので、その前提で読んで頂きたいと思います。

日本経済システムはマクロレベルで見ると破綻しています。あるいは未だ調整プロセスが続いているとも言えるかも知れません。なぜ破綻したのか。どう破綻しているのか。

戦後の奇跡の高成長に全ての答えがある、そう思います。奇跡の成長は何ゆえ成し遂げられたか。産業資本の低生産性を許容する金融システムによってです。

私はかつて、1950年頃から1985年頃までの日米主要企業の生産性比較を行ったことがあります。

鉄鋼、エネルギー、自動車、エレクトロニクス、運輸、医薬、等の、当時の主要産業において、投下資本生産性がどのようなものであるか、財務戦略がどのようなものであるかを、日米上場企業をピックアップし比較検討したのですが。驚きました。

総資本生産性を計るべく累積キャッシュフローベースで見て、殆どの日本企業は、一度たりともプラスに転じるどころか、どんどんと累積してマイナスを増やしていっていたのです。25年もの年月をかけてです。一方の米国企業の殆どは、当たり前ですが、累積ベースでプラスを増やしていっていた。ご興味あれば、手間はかかるが簡単な分析ですので是非試してみてください。

当時の日本企業、ひいては日本産業復興の仕掛けは、煎じ詰めて言ってしまうと簡単です。

国が最終的な保証人となって(国債の発行)、完全なコントロール下においた銀行を通じて、惜しむことなく企業・産業へと貸付の形で資金を投下していったのです。

米国企業では、自己資本比率が50%以上というのが常識でした。一方の日本企業は、ものすごいレバレッジ。自己資本比率20%程度なんてザラだったと記憶しています。

日本は戦争で一度ぶっ壊れた国ですから、当然ながら民間セクターに資金があるわけない。国の復興のためには、国が保証人になって金を(国債という形で将来の国民から)借りて、銀行を通じて民間に投下する必要があったわけです。戦後の見事な護送船団方式、なんてこと言う人がいますが、見事というより、他にやりようがなかったというほうが正しい。

余談になりますが、当時の異常な株高も、ある程度はこの金融システムによるところがあります。日本企業は異常にレバレッジが効いておりましたから、自己資本収益率(PER)などは当然高い。銀行が成長の持続を信じていれば、借りた金は返さなくて良い(信用システムのすごいとこですよね)。よって、超低配当にもかかわらず、成長の持続と株価上昇を信じて、つまりは配当よりキャピタルゲインを信じて日本株は買われ続けたわけです。

ところがです。いつまでもインフラ的な産業セクターが高成長を続けるわけがない。常識で考えればわかることです。実際マクロ分析をすれば、1950年頃からほぼ一環して経済成長率はコンスタントに漸減してきていて、1980年代成長が、バブル(土地・株高騰)のほんの目くらましであることは誰の目にも明らかになっていたはずでした。これも興味があればご自分で分析してみてください。縦軸を対数目盛でGDPをとり、横軸を年度にしてプロットするだけです。1950年から現在まで。そのインプリケーションに驚かれると思います。

で。戦後の実力からして本来2倍か3倍は成長に時間がかかるはずだったところを、無理やり資本投下して成長させてきたわけです。成長率低下後に回収するにはものすごい時間かかります。税金を差し引いた手残りから返していくわけですし、短期で返済するのは無理です。

かくして日本経済とそれを支えてきた金融システムは破綻しました。多くの論者が、1990年代以降を失われた10年とか15年、と論じておられます。私の見解は少し違う。1980年代こそが、失われた10年ではないか。官・民ともに70年代の高成長の余韻とモードをひきづったまま、次の時代を睨んだ政策もリスクマネジメントも行わなかった。米国との差がここにあります。

話をもとに戻しましょう。日本には未だもって、ファンドの土壌はありません。日本の産業が生んだ自己資本蓄積というのは小さい。資金の出所の大半は今も銀行です。かつては銀行が企業に直接融資をしていた。ところが、新産業に対する目利きも審査能力も育ててこなかったために、直接融資できなくなった。だから第三者のファンドにまとめてお任せする、という構造になっています。銀行の運用先が直接企業からファンドへと移りました。

しかし、日本ではファンド側もファンドから調達する側もまだ全く慣れていない。ファンドとは投資資金であり、当然高い資本生産性が要求されます。よって、高い資本生産性を実現できる企業を目利きするのが、第一に必要なスキルです。その目利きって一朝一夕に培われるものでしょうか?否、時間がかかります。また、ファンドからの出資を受ける側の企業も、ファンドマネーを受け入れることの意味がわかっているのでしょうか。未だに、銀行からお金を借りるのと同じ感覚の企業が多いと思います。出資比率によりますが、企業の所有権、経営権が移転するのです。そして、高い資本生産性効率が求められるのです。

村上ファンドに事件性や非社会性があったことだけに目を奪われてはいけないと思います。敵対的買収はやはり日本の土壌にそぐわない? そんなことを言っている場合でしょうか。

資本生産性の低い企業を高い企業に変えること。その事自体に意義を唱える人はいないでしょう。低生産性に甘んじている経営陣からみたら、ファンドからの資本投下は概ね敵対的なものとなるはずです。経営権が移転する、ということ自体に理解と慣習が生まれないと、ファンドという金融システムは根付かないはずです。

低生産性に甘んじている経営陣をほぼそのまま残し、前向きな議論をして経営の方向性を変えていき、ファンド側の力で新しい事業パートナーを引っ張ってきたり、他の投資先とシナジーを生んだり、あるいはマネジメントの弱い部分だけサポートしたり。

そんな高度なことがバンバン出来るほど、日本のファンドは成熟していません。そういったファンドをファンド2.0と呼ぶなら、日本はまだファンド1.0すら確立できていない、というのが現実なのでしょう。1.0的なことがきちんと出来ないなら、まあ買収側の企業の経営陣に舐められて、現状を中々打開できないで終わるのがおちでしょう。

村上ファンドのようなファンド1.0から学ぶべきことがまだまだ沢山あるのです。無為に資本生産性の低い経営を行っている経営陣と事業の構造リストラクチャリング。その目利きと実行を行えるファンドが育つこと、それを受け入れる土壌が企業側に、社会に生まれること。そこからしか始まらない。資本の低生産性に慣れ親しんだ日本経済にとって、これは大変な課題かもしれません。なんせ何十年もかけて、その土壌を育んでしまったのですから。

つらつら勝手なことを書いてきてしまいました。私は決してファンド1.0が好きなわけでも(笑)日本のファンドの未来に悲観的なわけでもありません。ですが、今しばらくは生みの苦しみが続くのではと思います。戦後経済システムの亡霊から、我々はまだ逃れられていません。

Web2.0の気分を借りて言えば、本当の意味でのファンド2.0とは、もっと民主的で分散的で共産的で、産業資本的論理を昇華したものになるのかもしれません。私は日本のSNSの隆盛やおたく的・サブカルチャー的風土の中に、そんな未来や可能性を夢みています。真の意味で産業資本主義にかわる新しい経済システムの芽が日本から生まれたら、そんな素敵なことはないのではないでしょうか。
ちょっと話が大きくなりすぎました。

では今回はこの辺で。

プロフィール

金光 隆志 氏

京都大学法学部、ボストンコンサルティング グループ マネージャー、ドリームインキュベータ取締役を歴任後、現在音楽を中心に活動。 映画・ビデオなどへ楽曲をプロデュース・提供し、05年春にはアルバムリリース予定。NYにてライブハウス・クラブのプロデュースも手掛けている。
また、従来のキャリアの延長で経営人材育成・派遣や経営支援等も行っている。ASPIREAL代表。Directors代表。RAISEプロデューサー兼ボーカリスト、camino(ロックバンド)エグゼクティブプロデューサー

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