【質問】
金光さんのビジネスキャリアに大きく影響を与えた人や尊敬する方についてお聞きできますか。出来れば3人くらいの方のエピソードを教えてください (3)
(26歳 戦略コンサルタント会社 アソシエイト)
さて、今回で最後の3人目の紹介となります。数多くのクライアント企業トップの方々との素晴らしい出会いや仕事を通じてビジネスキャリアを積んできた私としては、そういった方々、中でも特に影響受けた方とのエピソードをご紹介したいのですが。例え古い話、いい話であってもコンサルティングの守秘義務上、具体名を挙げてご紹介するわけにはいきません。ということで、大変歯がゆいのですが、匿名でご紹介したいと思います。
私がケースリーダーなりたての頃に初めてお会いし、その後コンサルタントを辞めるまで、長年ずっとプロジェクト内外でお世話になった、某大手企業の会長(当時社長)がおられます。私のコンサルタントとしての成長の大部分が、この企業のコンサルティングを通じて成しえたものであり、また、会長のご人徳と優れたリーダーシップ、企業組織の進化を目の当たりにできたのは大変な幸運でありました。
出会いの日を私は忘れません。恐らくはその後の長いお付き合いの確かなきっかけとなった、私にとってこれ以上ないスタートであったと思います。
この出会いとなったプロジェクト、1ヶ月半の診断フェーズでしたが、1ヶ月を経過しようかという段階で、課題仮説自体が一般論的次元に留まっており、社長からご覧になっても、元々社内で整理していたレベルを超えていないという認識で、このままだと解決フェーズは発注されない、という状況に置かれていました。緊急事態ということで、その段階で私が助っ人として投入されました。
2週間でなんとかBCG水準まではもっていきましたが、私はまだ社長と一度も直接お会いしておらず、いきなりプレゼンテーションを行うというのに若干の懸念は持っていました。
そしてプレゼン当日。若々しく、長身で、颯爽とした姿で現れた社長。私は何故かその姿を拝見してかえって落ち着きました。殆ど直感的に、社長がオープンマインドな方だと思ったからではないかと思います。
そして社長が開口一番。「大変楽しみにしておりました。」と。
そのまま続けて「ですが、今日、急用が入ってしまい、30分くらいしか時間がない。15分でポイントを説明してもらえますか。」と。
元々1時間のプレゼン予定。それを15分で伝えなければならない。しかも急に。一見無茶な要求ですが、私にとってはむしろラッキーでした。2週間ではさすがに細かいレベルまでは把握しきれない。元々大きなポイントだけはしっかり押さえようという割り切りで整理してあったので、首尾よく15分で必要十分なプレゼンを行うことが出来ました。
社長は本当に用事が入っておられましたが、もしかすると、少し試されたのかもしれない。いずれにせよ、社長がこの15分で私に対する信用を持ってくれたのは確かだったと思います。いくつかの質問をされ、それについてやり取りをしたあと、「ありがとう、課題はわかりました。全部重要だが○○のところはすぐにでも解決フェーズに着手してください。」と。
これほど完璧な出会いは、私も長年コンサルをやっていましたが、そうそう経験できるものではありません。もともと上手く進んでいなかったプロジェクトの最終報告。そしてプレゼンターは、当時は見た目も実年齢も若造だった私。しかも15分。客観的な耳を持ってもらうには、客観的に言って最悪な状況(笑)。説明する側にももちろんスキルは必要ですが、それ以上に、聴く側に相当なインテリジェンスと人間性が備わっていないと、話は噛み合いませんから。
その後何年にもわたって、全プロジェクトに関わらせて頂いたのですが、大変な勉強熱心で、会社の変革に強い情熱を持ち続け、どのプロジェクトも自らリーダーシップを発揮してくださいました。
その社長が、あるとき突然直接私に電話をしてこられ、相談がある、とおっしゃったときはさすがに少し驚きました。社長とお会いするときは殆どいつも上司と一緒でしたし、こちらからご報告等に伺うことしかありませんでしたから、このときも上司と一緒に伺う、と申し上げると、「いや、一人でいいです。上京するのでその折に会いましょう」と。
お会いして更に驚いたことに、相談というのはプロジェクトの発注のお話でした。
当時まだマネージャーだった私に、社長自ら直接相談してくださったのです。しかもテーマは経営ビジョン策定。普通に考えればシニアに相談するものです。しかも、この会社の担当は私が一目も二目も置いていた古谷さん。もちろんこの社長からも絶大な信頼を得ていました。にも拘らず私に先に話してくださったのは、私のことを一人前に扱って下さっている証であり、とても嬉しく誇りに感じたのを覚えています。
自慢話に聞こえたら申し訳ないのですが、ポイントはそこじゃありません。(苦笑)
大企業のトップともなれば、年齢や肩書きで人を判断なさることなど滅多にありませんが、それでもやはり大事な相談は、先ずシニアにするのが通例です。シニアと話しておけば安全ですし下には絶対伝わるわけですから、例え下の者を認めていたとしても、上に話しておくほうが、楽です。
わざわざ面倒かもしれない下に話してくれるというのは、「期待している、頑張ってくれ」というメッセージを下さっていることに他なりません。