【質問】
景気の停滞や下降局面においてコンサルティング会社のプロジェクトの中身や、人や組織に対する考え方は変化するのでしょうか?(26歳・外資系金融機関勤務)
今年も夏が終わり、十分な充電が出来た方、走り続けてそれどころでなかった方、十人十色だとは思いますが、秋冬に向けてのこの厳しい景気局面、明るく気合いで乗り切って参りましょう!
さて、こういう時代にコンサルティングファームはどう対処するのかプロジェクトの中身や考え方は変るのか。
結論から申しますと、今の景気停滞においては、全く変らないということは無いが、極端には変らないのではないかと思います。
もちろん、ファーム自体の競争力や規模、得意分野や中核コンサルティング領域などにもよるでしょう。ここでは戦略系の大ファームを想定してお話ししています。また、景気停滞の背景や原因、停滞に至るまでのプロセスや先の見通し、時代固有の経済環境によっても、もちろん異なるはずです。例えば早い話が1970年代の景気停滞と今の景気停滞とを同じに考える事は出来ません。ここでは、現在を想定してお話ししています。
先ず、全く変る事はないというのはどういうことか。
クライアント側の事情を考えてみましょう。今の経済環境において、高成長高収益のシナリオやそれに基づく予算組みを行う企業は稀です。かといって、真正直に?減収減益の予算も組みづらい。今の株式市場に対してどういう予測・予算を提示するのかは多くの大企業にとって頭の痛いところでしょう。平均的な企業行動としては、現状維持かやや増益の予算を組むことでしょう。予算は株主に対する約束でもあります。10年前と比較して、日本の企業も株式市場を非常に意識するようになりました。
さらに言えば、景気停滞時の方が好況時よりも既存株主からのプレッシャーを意識せざるを得ません。もっと申せば、昨今の企業不祥事によって、監査法人も非常に保守的になっております。新興系のみならず、伝統的大企業に対しても予算及び会計において少なからぬ影響を及ぼしています。
さて、上述のような背景において、クライアント側の企業はコンサルティング費用をどのように考えるでしょうか。余力のある企業においても予算を絞るのは必定。余力の無い企業にとっては尚更です。コストパフォーマンスの見えにくいプロジェクトテーマ、例えばビジョン策定系のプロジェクトなどは殆どの企業が外部コンサルタントを登用して考える事はしないでしょう。
逆に生産性向上や収益に直結し得るプロジェクトテーマ、例えばリエンジニアリングやKPI策定、リストラクチャリング系のプロジェクト、評価・報酬体系の見直しテーマ等は、即効性が期待出来るなら登用を考えるはずです。
全く違う流れとして、今後また注目を浴びるかもしれないのが、再生系のプロジェクトです。
2000年前後に、再生系ではなくIT系のファンドから多くのコンサルティング依頼を受けることがありました。個々のITベンチャーにコンサルティング費用を払う余裕などありませんが、ファンドがその後のキャピタルゲイン期待で、投資している案件の戦略立案を依頼してきておりました。
ITバブルの崩壊と共にこの手の発注は激減しましたが、只今現在でいえば、金の行き場の1つとして再生ファンドがありますし、コンサルティングファーム側としてもITベンチャーの戦略立案よりもはるかに手際よく、また実効性高く、再生の戦略立案は行えるはずですから、この手のファンンドからの発注が、ファームによっては増えていってもおかしくありません。
以上、常識的な考察ですが、かような理由により、コンサルティングテーマが全く変らないということはありません。とはいえ、大きくは変らないのです。なぜならこれらの兆候や動向はここ1~2年の間に既に起こりつつあったことです。依頼テーマやクライアントポートフォリオが生産性向上や現場改革系、あるいは再生系からの依頼にシフトするという変化はあっても全く今までと違ってくる、というほどではないでしょう。
人や組織についての考え方が変るのか。私の予測では、こちらも今回の景気停滞を背景としては、大きく変わる事はありません。もちろん、大ファームは日夜、人や組織をテーマに研究開発を行っています。例えば現代の情報通信技術をベースとした、生産性を刷新するマネジメントシステムやコンセプトが登場する可能性はあるでしょう。でもそれは景気停滞とはあまり関係ない。あるとすれば、このご時世だから、人と組織の生産性に関する研究開発の比重を少し高めていく、という程度かと。
これだけ景気が悪いわけですから、企業側の人や組織に関するスタンスは変化していきます。身も蓋もない言い方をすれば、なりふり構っていられない。程度の差はあれど、グループ会社に対する方針なども含めれば、大企業においても非情のリストラクチャリングは行われることでしょう。
リストラを理論武装する為にコンサルタントを登用する、ということは、前述の通りあり得ます。ですが、それは、コンサルティングファーム側の人や組織に関する考え方を変える、という類いのものではありません。リストラのお手伝いは昔からあったことですし、昔からやってきたこと。むしろ、リエンジニアリングが台頭した時代以降は、リストラ系のプロジェクトをお得意テーマの1つとしているファームも少なくありません。
ちなみに余談ですが、人や組織についての今後主流テーマの1つとなっていくであろうこと、それは、いかに今日の情報・通信・コンピュータ技術を駆使出来る人材及び組織を構築していくか、ではないかと私は考えています。決して目新しいテーマではないですが、恐らくは多くの企業が、大小様々なフィールドで、先端の情報・通信・コンピュータ技術を十分に活用出来ていないであろうと推察します。私も不勉強の身ではありますが、それでも、知れば知る程、今の技術を活用すれば恐ろしいほど色々な新しいチャレンジや従来よりはるかに高い生産性を実現出来ることがあることに驚かされます。
くだらない例を挙げれば、例えば、ほんの数年前までは外注すれば100万はかかっていたであろう動画が、今なら、ある意味誰でも出来てしまうのです。私が従事している音楽業界で言えば、かつては何百万もかかっていた作業工程が今では数十万で、さしてかつてと遜色無く出来てしまうのです。プロにしか出来なかった作業が、現代のソフトウエアを駆使すれば、センスは別としても作業的にはアマチュアが少し勉強すれば出来る程度のことになってきているのです。
トレンドとしては10年前から十分に予見されていたことですが、数年前ごろまではプロが少し楽になったり、クオリテイを挙げる事が出来たり、といった範囲であったものが、ここにきて一気にアマチュアにもかつてのプロに近いレベルのことが容易に出来る時代になりつつあるのです。
本当に、すごい時代になってきたなと思います。そして、そのことに、多くの経営陣は気づいていません。少し気づいていても、そのビジネスインプリケーションを見極めるところまでは、殆どの企業が進めていないでしょう。
一見くだらない例すぎてピンとこないかも知れませんが(苦笑)、非常に多くの領域で、従来よりもはるかに高い生産性を実現出来る事や新しいビジネスアイデアの創出チャンスが眠っていることは間違いありません。深く考察していくと面白いテーマだと思います。
ご質問に対する回答は以上です。
私個人としては、今回の景気停滞に至る大きな背景、資本主義経済の行く末、そこまで大きく構えなくとも、日本における人口構成変化や生産年齢人口の減少に対する社会・経済システムの対応、そういった事柄に思いを馳せざるを得ません。余談ですが、戦後からで構いませんので一度日本の人口構成及び生産年齢人口の推移をご覧になることをお薦め致します。初めて定量的にご覧になる方は、恐らく愕然とすることでしょう。果たして日本は本当の意味で再生をすることが出来るのか。残された時間は10年も無いかもしれない。
ほんの小さな一歩すら踏み出せていない現状。アクティブシニアやシニアを中心とした社会・経済システム・循環への移行は。生産年齢人口減少に対する労働市場の更なる解放策と社会インフラの整備は。早い話が、アクティブシニア向けの商品・サービスを若者が提供し、老人がストックから消費して若者(生産者)の生計に廻す経済循環。新たなストック(成長による余剰)を創出していくために不足する生産(労働)力を日本人以外でまかなう方策。あるいはアクティブシニアの労働力化など。ごくごく当たり前なことからでも着手していかねばなりません。アクティブシニアとは、10年前のシニアとは全く異なる人たちです。今後アクティブシニア人口の比率は高まる一方です。なのに、私達はアクティブシニアのことを殆ど何も解っていない。。
一方、マクロな視座において、世界経済の動向と日本の位置づけを考察したとき、ゆくゆくは再び、亜細亜経済圏の連合・統合なども視野に入れねばならないかも知れない。私達にそれが出来るのでしょうか。亜細亜にその可能性はあるのでしょうか。
まあそんなこと考える暇があったら今は各自足元をなんとかせねば、ですよね。。