日本でも話題になっているようですが、ここロサンゼルスでもSARSは問題になっています。春休みの間に中国旅行に出かけていたクラスメートもいるのですが、彼らがちょっと咳をするとクラス中が静まり返り、微妙な空気が流れます。USC名物のPRIME(1年生の最後に環太平洋地域を旅行し、現地企業に対するプレゼンテーションを行うプログラム)でも中国旅行は中止(他の地域への振替)となってしまいました。香港のフィデリティから内定をもらっていた友人は、家族の反対にあって困っていました。早く沈静化してくれると良いのですが。
ところで、MBA学生には講演会のお誘いが良くあります。今回は、最近参加した講演会の模様をご紹介します。
1. 中村修二さん
講演会後、サイン会をする中村さん。僕も中村さんの著書を買ってサインしてもらいました。夏学期になったら読むつもりです
最初は、青色発光ダイオードを発明した中村修二さん(UCサンタバーバラ教授)の講演会です。このイベントはJapanese Student Networkというロサンゼルスの学校に通う日本人学生の団体により主催されたもので、Little TokyoにあるHotel New Otaniで行われました。中村さんの他にもシアトル・マリナーズの長谷川滋利投手、作曲家の中西長谷雄さん、尺八奏者の松居和さんなどアメリカで活躍している日本人のビデオ・メッセージが流されました。特にアメリカの教育制度を批判する松居さんの意見はとても新鮮でした。
中村さんの講演の内容は、どのようにして中村さんが青色発光ダイオードを発明したのかというお話でした。中村さんは徳島大学大学院を卒業後、日亜化学工業という徳島県のベンチャー企業に入社し、溶接の仕事を3年間続けたそうです。その後、新製品の開発を4年間したのですが、小さなベンチャー企業のため製品開発・製造・営業を全て一人でこなしたそうです。しかも予算が限られていたため、大企業に太刀打ちできるような製品を開発することはできませんでした。そして、ある日突然キレたそうです。中村さんは創業者に直談判し、新製品開発の予算5億円とフロリダ留学を認めさせました。
フロリダ留学時代にドクターの必要性を実感した中村さんは、フロリダから戻ってから論文を書くためにチッ化カリウムの研磨装置を購入しました。チッ化カリウムの研究者は少なく論文を書くのに好都合なのでチッ化カリウムを選んだそうです。なお、論文の発表は日亜化学工業の社内規則に違反していたのですが、中村さんはすでにキレていたので規則など気にしませんでした。そしてその研究が青色発光ダイオードの発明に結びついたそうです。
Q&Aでは、中村さんが起こした日亜化学工業に対する裁判の話がメインになりました。アメリカでは発明者が発明による利益の25%を得るという契約を会社と交わすことが多いそうです。その計算で行くと、中村さんの場合、日亜化学が得た5,000億円の利益の25%である1,250億円を手にしてもおかしくないという話でした。せっかくの機会なので、僕も中村さんがもし大企業に入社していたら同じような発明ができたと思うかどうか聞いてみました。中村さんの答えは、大企業の研究所ではチッ化カリウムの研究は見込みがないので上司に認められなかっただろうということでした。研究者が独断で決めることができるのが日亜化学のようなベンチャーの良いところだそうです。新発明には、アメリカのように個人個人が独立している環境の方が日本のように協調(妥協)する環境よりも適しているということでしょうか。
ちなみに、中村さんはUCサンタバーバラに行く前に、数校のアメリカの大学からオファーをもらったそうです。特にUCLAからは学長を超える給料を提示されたそうですが、給料が高くなりすぎるとプレシャーも大きくなるので、住みやすさも考えてビーチ沿いのUCサンタバーバラに決めたそうです。
2. Thomas Hicksさん
USCの隣のRadisson Hotelで講演するHicksさん
こちらはUSC(Marshall)主催の講演会です。Thomas Hickさんはエンターテイメント専門のベンチャー・キャピタル(Hicks, Muse, Tate & Furst Incorporated)の議長(Chairman of the Board)でMarshallの卒業生です。彼はテキサス・レンジャーズのオーナーでもあります。
Hickさんの講演の内容は、Hicks Museの業務内容です。2000年以降ベンチャー・キャピタルは厳しい状況にあるようですが、人員を削減し体制を立て直したそうです。Q&Aではベンチャー・キャピタルへの就職についての質問がありましたが、就職環境はとても厳しいとのことでした。
3. Paul Volckerさん
こちらはTown Hall Los Angelesという団体が主催するイベントで、USCの生徒も招待されました。Paul Volckerさんは前FRB議長です。Volckerさんの講演の内容は、連邦政府の運営(連邦政府と州政府の関係、人事政策など)についてでした。
ロサンゼルスの高校生と一緒に写 真をとるVolckerさん。ご覧のとおりとても大柄です。質問の際に高校生がとても緊張しているのが印象的でした。テレビカメラも回っていて、質問の模様は後日テレビ放送されるようです
Q&Aではイラク戦争の経済への影響について質問が出されました。Volckerさんは、経済に与える影響はプラス面 もあるしマイナス面もあると無難な回答をしていましたが、本心はマイナス面 の影響(財政赤字の増大)を懸念しているようでした。
講演会後、学生専用のQ&Aがあったので僕もインフレ・ターゲットについてどう思うか質問してみました。一般 的に緩やかなインフレは経済に良いと言われていますが、1980年代のインフレ退治に活躍したVolckerさんはいかなるインフレにも反対のようです。したがって、現在日本で議論されているデフレをインフレに変えるというインフレ・ターゲットには反対だそうです。
ところで前回紹介したチームメートのうちStevenとHarryはそれぞれ中国と韓国の金融機関からオファーをもらったそうです。Benは卒業後も11月まではアメリカで就職活動を続けると言っています。