■5つの企業
今学期はたくさんのクラスを(6クラス)をとっているということもあるのだが、それぞれのクラスでのTerm Long Project(クラスによって少しずつ異なるが一学期を通じてリサーチを行い、最後に発表する、というようなプロジェクト)の対象産業が各クラスでばらばらのため、リサーチに大変な時間を費やしている。
最初は、出来るだけ同じ産業を選んで楽をしたいな、と考えていたのだが、それぞれで別 々のスタディグループを作っているということもあり、そうそう上手くはことが運ばず、各授業で別 の産業をテーマにすることになった。
Advanced Strategyは、輸送と製薬、Multi National Business Management は世界のビール、Corporate Financeはホテルチェーン、Business Strategyは服飾産業(一番楽しく好奇心満々に進めている)等々である。
多くは、こんな機会がなければ、一生垣間見ることもなかったであろう世界である。それが今では(今だけは)世界中の製薬会社の戦略についてプレゼンテーションを行っている自分がいる。楽しい。
企業ってすごいな、と思ったのは、たいして時間はたっていないのに、個々の企業とそれを取り巻く状況は刻々と変わっていると気づいたとき。特にそのことを痛感したのは、ダイムラー・クライスラーの世界計画についてケースで議論した直後に、ダイムラーは三菱自動車から手を引く、というシュレンプのアナウンスメントがあったときだ。
昨日身につけた知識が、今日はもう時代遅れになっている。いいことばかりのように書かれている成功した企業のCompetitiveAdvantageもSustainableAdvantageか、はたまたどこまで競争力が持続するのかはわからない。
そんな中で長期的視野を持って安定した(少なくともそのように見える)長期的戦略を立てていかなくてはいけないのだから。その一方で、企業の内部では柔軟性も育てていかなければいけない。考えることは山ほどある。楽しいだろうな。
最後に、ビジネススクールで得た知識や知恵を今後自分の人生とキャリアに活かすことは出来ても、そのことについて知識をひけらかすことは決してあってはならないな、と思う。もうそのときには時代遅れの知識になっているに違いないのだから。今だって、その産業の渦中にいらっしゃる人たちとは比べ物にならない程度の知識しかないのだけれど。
それにしても世の中にはこんなに色々おもしろそうなことがあって、そのうちの多く(絶対に相性が悪そうなものも結構あるから全部とは言えない)にチャレンジできる機会を今与えられているのだとしたら、いったい私は何を選ぶのだろう。
一生に一つだけとは言わないが、限られた数しか経験できない。もしかして今が人生の中で一番、色々なものが見え、可能性が開けているときなのだろうか。チャンスは逃さず掴まえたいな、楽しみだな、と思う一方で、少し怖いような気分でもある。
□ イラクの行方
先日、ニューヨーク大学全体の企画として、United Nationsでイラクに携わっている3人のオフィサーを招いてのパネルが開催された。その3人と、モデレーターとしてスターンのファーガソン教授、質問者として二人の学部生(アメリカ人)、計6人のパネルである。
題目は、「イラクの現状理解について」というようなものだったのだけれど、私にはイラクの行方が心配になってしまうようなものだった(私は、中東に友達が多くいるせいもあり、今回のイラク侵略についてはとてもニュートラルな意見である) 。
NYPDの警官と、NYUの警備員、たくさんの報道関係者、ものものしい警戒の中で行われたこのイベントだが、聴衆は、NYUの学生(何万人もいる)や教官だったら、早い者勝ちで誰でもOKだったこともあり、人種も年齢も宗教も多岐に渡っていた。
それだけに聴衆からの質問には、「(宗教の自由で認められている)イスラム教では、自分の信条に従わない人を攻撃することが許されているが、今回の国連の対応は宗教の自由をどのように解釈してのことか?」(イスラム教徒の国連オフィサーに)などと敵意に満ちた質問が投げかけられたりもした。
そんな質問にもオフィサーたちは公正に中庸な立場をとりつつもほぼ的確な答えを返し、さすがだな、と感じたのだが、私が将来的に問題あるだろうな、と感じたのは、アメリカ人の学生からの質問だ。
何倍もいたであろう希望者の中から選ばれた二人だけあって、質問は率直で的を得ているものが多かったのだが、アメリカ人のエゴを垣間見るような、傲慢で気持ちが冷えてしまうようなものも何点かあった。
例えば、「情勢が安定し、貿易が再開された場合、復興に必要な物資を含め、貿易の権利は今回の侵略に一番貢献したアメリカに特権的に与えられるのか?」、もしくは「イラクに埋蔵されている石油、およびその採掘の権利はイラクから剥奪され、その何割かは(全部とは言わなかったと思う)、アメリカが所有できるのか」など。イラクに住んでいる人がいて、自分たちと同じように豊かになる権利があるとは考えないのだろうか。
経済大国、自由の国として多くの人が憧れる国、アメリカ。強い経済のおかげもあり、この国で発展したMBAという学問。ここで学んでいる私にこんなことを言う資格はないかもしれないのだけれど、その一方で行き過ぎの個人主義と、強い者だけが持てる、自分さえよければの考え方が横行している国でもある。
貧富の差や失業者の数、自分の頭のハエは追えなくても、もしかするとだからこそ、他の国の物は欲しくなるのだ。これ以上言うとニュートラルな立場からかけ離れてしまうので、この辺でおしまいにするが、少しでも世界の一員としての自覚があれば、そういう言動にはならないと思うのだ。