母校でもある早稲田大学のアジア太平洋研究科国際経営学専攻に入学して1ヶ月が経った。これまで7年間マスコミで働き、朝は10時起床、夜は大抵タクシーで帰宅といった不規則な生活を送ってきた。それから一転、毎日6時起床、自転車で30分かけて通 学する生活にもようやく慣れてきた。
私費で進学した私にとって、会社を辞めて大学院に進学するには、かなりの逡巡が必要だった。大学院に通 う2年間のキャリアブランクは正直痛い。学費もかなりの負担だ。それでも大学院で経営学修士を取ろうと決めたのは、2010年の私のためだった。
2010年。これまで企業の中核となってきた団塊の世代が一斉に定年退職することから、「2010年問題」として、オフィスビルの空室増加や、退職金負担で「退職金倒産」する企業が続出するのでは、という懸念が囁かれている。しかし裏を返せば、この年以降、少子化の流れとも併せて労働人口は減少の一途をたどる。
つまり2010年、企業にとって魅力ある能力や経験を持つ人材は、労働市場において高価でやりとりされる可能性を示す。それは在日外国人、しかも女性という転職市場における私のハンディを掻き消す力があると感じた。そこでこの2010年に目標を定め、今のキャリアブランクよりも、将来の可能性に賭けることにしたのだ。
日本版ビジネススクールに、「本当に役に立つのか」や「アメリカとはレベルが違う」など批判も多いことは承知している。しかし私の能力、経済力では、アメリカのビジネススクールには正直、手が届かなかった。それに私に経営学の裏づけはない。ネイティブである日本語で学ぶ方が、効率がいいとも思った。
修士号を取ったから何かが変わるとか、MBAはキャリアアップを叶える魔法の杖だとか、そんな風には思っていない。卒業後の就職は心配だし、肩書きが重荷になってツブシがきかなくなるような気もする。ただ社会に出て7年、様々な経験を経た私が、もう一度自分のおカネで学ぶことは決して遠回りにはならないはずだ。学部時代は親抱えでの悠々自適の仕送り生活を送り勉強を殆どしなかった私が、こんな殊勝な気持ちになるとは自分でも驚いているのが正直なところだ。
さてWBSでの研究生活は、今のところ順調な滑り出しと言っていいだろう。毎回苦労しながらもレポートを提出し、慣れない統計にため息ながらも、新しい知識を得て考えることは存外に楽しい。研究テーマはWBSの名物でもあるアントレプレヌールシップと決めていたので、6月末の指導教授登録に備えてその分野の教授と順次面 談している最中だが、第一志望のゼミナールはほぼ固まったので、これから研究計画書を再度練り直し、選考に備えるつもりだ。
また、いくつかある国内MBAの中で私が早稲田を選んだ理由の一つに、国際的な大学院であることが挙げられるのだが、この点でも満足している。喫煙者である私にとって貴重な社交場は、校舎外にある喫煙スペース。ここで韓国、中国、ラオス、タイといったアジア諸国からきた学生達と友情を築きつつある。
ある教授に「2年間、どんな分野でもいいから『〇〇ならアイツに聞け』といわれるような研究をしてほしい」と言われた。果 たしてそれが叶うかどうかは未知数だが、少なくともこれからの2年間は単なるモラトリアムではなく、得がたい経験を重ねる2年間であるような予感がしている。