London Business Schoolは3学期制なので3月下旬から4月上旬にかけて、春休みがあります。この期間中に1週間詰め込みのBlock Weekという形式の授業が行われます。選択科目の単位全てを通常の学期中に取る人もいれば、1,2科目をBlock Weekで取る学生もいます。私はStrategic InnovationとManaging Corporate Turnaroundという2つの授業を今回取りましたので、その科目紹介をお届けしたいと思います。
Strategic Innovation
Strategyの看板教授の1人であるC.マルキデスの授業です。既存プレイヤーが新しいビジネスモデルにスイッチすることの難しさ、およびそれを可能にするための対処法が主なテーマです。HBSのClayton Christensen著 "The Innovator's Dilemma"と相通ずる所があります。Christensenの破壊的技術(disruptive technology)という概念をすこし広げた、破壊的ビジネスモデル(disruptive business model)という考え方が中心にあります。
コピー機業界で、XEROXが手を出していない中型・小型プリンターをキャノンが開発した事例や、SEIKO等の日本メーカーの低価格・高機能商品に対して、デザインと言う新しい競争軸で反撃したスイス腕時計業界(Swatch)の事例等を取り上げました。
個人単位の課題としてStrategic Innovationを果たした企業に関するレポートを求められ、私はセイコーエプソンのプリンター事業について書きました。このトピックは以前一橋ビジネスレビューでも取り上げられていますが、セイコーエプソン社のピエゾ・インクジェット技術が、90年代初頭キャノン・HPに圧倒されていたエプソンのその後のシェア大逆転を演出したという話です。
私の思う所では、LBSのStrategyは大きく2つの流派があります。1つはS.ゴシャール, G.ハメル, C.マルキデス等、Innovation/Transformationを専門とする教授と、G.イップ, H.コリーン等、Global Strategyの教授です。非常に残念なことにS.ゴシャールは今年3月に帰らぬ 人となりました。いまLBSにいるStrategyの教授陣は多かれ少なかれ彼の影響を受けており、多くの優秀なStrategyの教授がLBSで教える動機付けの1つとなっていました。ゴシャール亡き後、LBSのStrategy Departmentを如何に支えてゆくのか、今いる教授陣に期待したいと思います。
Managing Corporate Turnaround
企業再生の授業です。「ターンアラウンド・マネジメント」という本の著者Stuart Slatterの授業です(日本語版がLBSの卒業生の翻訳で出版されています)。企業再生を分析フェーズ・応急処置フェーズ・戦略的変換フェーズ・成長フェーズに分けて考えます。ゲストスピーカーの多い授業で、HEAD(スキー・テニスラケット等)の再生を手掛けた経営者など、タイプの異なる企業再建請負人達の話を聞くことの出来る面 白い授業でした。
日本でも産業再生機構の立ち上げ前後から企業再生への関心が急速に高まっていると聞きます。今回、数多くの企業再建を手掛けた経営者達の話を聞いていると、会計情報の取り扱いに非常に長けていることが企業再建請負人の必要条件であると強く感じました。
HEADの経営者の話の中で面白い件があったのでご紹介します。企業再建の初期段階で、旧日本興業銀行からの融資延長を取り付けるために日本で交渉に当たっていた時、彼は一向に方針を決められない興銀担当者に業を煮やしていたそうです。ところが、たまたま出席したパーティーで同席した当時の黒澤会長(興銀)とテニスの話で盛り上がり、HEADの最新のラケットを贈呈することになったそうです。黒澤氏は新しいラケットをたいそうお気に召し、後になってHEAD社の融資延長の件が交渉中であることを聞きつけると、即座に、黒澤会長から担当部署に連絡が行き、鶴の一声で融資延長が決まったそうです(この手の話はどこまで本当か分かりませんが・・・・)。
次回は2nd Year Project(後編)をお届けします。