ビジネススクールの教授というと、頭がキレてアグレッシブ、知識も豊富、というイメージが一般 的な気がしますが、実は非常に色々なタイプの教授・講師がいるのです。ここMIT Sloanも例に漏れず、質の面で、「イケてる」教授・講師がいる反面、「イケてない」教授・講師もいたりするのです。
イケてる教授・講師
先月のレポートでも少し紹介した、経済学の看板教授、Pyndickはやはり素晴らしい教授でした。とにかく語り口が明快で、コメントも論理的で的を得ているため、英語力の劣る私でも非常に分かり易いのです(英語が聞き取れても、コメントが論理的でなく、質問に正面 から答えない(回りくどい)教授は非常に分かりにくい)。
特に素晴らしいのは、授業中の生徒の発言のボリュームが小さい時は、必ず「もっと大きな声で」と促し、常にクラス全員が議論に参加できるように気を遣っていることです。実は、英語力の劣る生徒にとって授業中での一番大きな問題は、他の生徒のコメントが聞き取れず、議論においていかれてしまうことがままある、ということなのです(逆に、教授のコメントが聞き取れないということはあまりない)。
個人的に、残念なのは、Pyndickが経済学の教授である、ということでしょうか。彼の授業は確かに素晴らしいのですが、経済学は私の好みではないので、できれば、戦略の授業などで彼の素晴らしさを見たいという気もします。
同じく先月に紹介したPeter Sengeもなかなか素晴らしい講師です(実は彼はSenior Lecturerという肩書きであり、教授ではない)。企業へのコンサルティング経験が豊富なためか、話が非常に上手く、かといって軽い訳ではなく、コンサルタントというよりは、カウンセラー的な不思議な説得力を持つ話し方をします。
授業も非常にユニークで、合気道の考え方を取り入れたエクササイズにより、ビジョンを明確に描くことの重要性を身体で分からせたり(詳細下記)、何を質問されても「No」という答えが返ってくるエクササイズにより、人がいかに相手に「No」と言われることが嫌いで、そしてその気持ちが分かるために、こちらの意見・提案にも「No」と思っていても「Yes」と答えがちであるかを、これまた身体で分からせる、ということ等をします。
- ■ 合気道の考え方を取り入れたエクササイズ
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2人1組になり、片方が右腕をひじを下にして前に伸ばし、地面 と平行に保ちます。もう1人は、その腕を直角に曲げるように力を入れます。腕を伸ばしている方は、曲げられないように抵抗します。
今度は、同じように腕を伸ばすのですが、その後、腕を伸ばしている方が目を閉じて、自分の腕が鉄の棒になり、近くの壁まで伸びてそこに繋がっているというイメージを描きます。イメージが明確になったら、合図をし、もう片方が先ほどと同じように腕を直角に曲げにかかります。
すると、実は、後者の方が全く曲げられなかったりする、というエクササイズです(少なくとも、腕をまっすぐに保つために必要な力が少ない)。これにより、与えられた刺激に対応する(リアクティブに対策を立てる)ことよりも、達成したい状態のイメージを描く(ビジョンを描く)方が、物事(ひいては組織変革)を実現しやすい、ということを例示するのです。
ところでこの授業は、企業変革に必要なリーダーシップ像を学ぶ、というものなのですが、リーダーに最も必要なのは、全社員を巻き込んでビジョンを作り上げる能力である、という考えに基づき、まずは自分のビジョンを描く訓練をします。
この授業、Sengeが平日働いているためか、先月のレポートでも触れましたが、金曜13:00-18:00、土曜8:30-18:00(ただし隔週)という正気の沙汰とは思えないスケジュールのため、このクラスがある週は本当にヘトヘトになります(きっとなんとかなるだろうと甘くみていたのですが、ダメでした(笑))。しかも、土曜日が丸一日つぶれてしまうために翌週の予習も満足にできず、次の週にまで疲れを持ち越されてしまうのです。内容的にはまあ面 白いのですが、このスケジュールだけは本当に何とかして欲しいと心から思っています。
イケてない教授・講師
ビジネススクールの教授・講師は皆、教え方が上手いと思ったら大間違いです。中にはとんでもない人もいるということ先輩から聞いていたのですが、今回初めて遭遇してしまいました。そして、このとんでもない場合は、教授というよりは、新任の講師であることが多いようです(中には研究や本を書くのは得意だけど、授業はつまらない、という教授もいるようですが...)。
そのとんでもない講師が担当しているのは、Advanced Corporate Financeという授業です。Finance系のクラスは、主に数字を扱う科目であるためか、アジア系(特に中国系)が講師をしている場合がここSloanでは多いです。
そして、この例に漏れず、このとんでもない講師も中国系の女性の方なのですが、初回の授業から「最終的に何人生き残れるか分からないけど、まあ頑張って下さい」というようなことを言って、非常に高圧的な態度をとっていました。また、生徒の質問を途中でさえぎったり、質問をしろと言っている割には、「それは説明資料の後半に入れてあるので、そこで説明する」とその場で答えなかったり、と授業の進め方にもいろいろと問題をみせていました。
そして、さらに問題なのは、高圧的なことに加えて、英語があまり上手でないということです。同じく言葉にハンデを抱える者としては他人のことはあまり言えないのですが、講師として授業を切り盛りするには、彼女の英語では若干厳しいように感じます。このためか、生徒の質問の意図を正確に把握できなかったり、説明が上手くしきれなかったり、ということが初回の授業から、多発していたため、その高圧的な態度と相まって、生徒の反感をかなりかってしまっていました。
このAdvanced Corporate Financeは、次のセメスターのM&AやEntrepreneurial Financeという、タイトルからすると非常に魅力的な授業のPre-requisiteになっているため、初回は非常に沢山の生徒が詰め掛けていました(2つの時間帯のクラスのどちらもほぼ満員)。
しかし、上記のように初回から反感を買ってしまったため、クラスの人数は回を負うごとに、どんどん減っていきました(多くの生徒は次のセメスターでM&A等と平行して履修するようです)。6回目の授業の今日にもなると、さすがに下げ止まった感があったのですが、今では約1/4ぐらいに人数が減ってしまいました。また、前回の4回目の授業では、沢山の生徒がFinance部門のヘッドに抗議のメールをしたためか、そのヘッドが授業の視察に訪れるという異例の事態にもなっていました。
MBA(特にアメリカの大学)では、生徒が大変なのはもちろんなのですが、実は教授も非常に大変で、生徒からの評価が悪いと、あっという間にクビになってしまうようです。最後のクラスで生徒はクラスと教授の評価(評価シートに全員が記入して提出)をすることになっており、この評価が特にビジネススクールでは非常に大きな意味を持つようなのです。さらに、受け持つクラスにどれくらいの人数が最終的に登録したのか、というのも非常に重要な評価基準になるようで、先ほどの高圧的な講師は、生徒の間では「次のセメスターにはもういない可能性が高い」と噂されています。
このように、ビジネススクール(またはアメリカの大学)では、生徒が非常に大きな力を持っているわけですが、これを可能にしているのが、最後のクラスの評価と、フレキシブルなクラス登録システムです。以前、ビジネススクールでの希望のクラスを取るためのビッドの仕組みについて説明しましたが、実際にはこのビッドの通 りに授業を取らないことも多いのです。履修を迷っているクラスに関しては、最初の数クラスに出席した上で判断し、上のAdvanced Corporate Financeの例のように、気に入らない場合には、他のクラスに乗り換える、ということが実はセメスター開始の2ヵ月後ぐらいまで許容されているのです。
とまあ、ビジネススクールは教授・講師にとってもなかなか大変なところなので、上で書いたイケてない講師にも同情を禁じえないのですが、このような例は非常に稀で、基本的にはビジネススクールには、日本の大学などと比べると数段授業の上手い教授・講師が揃っていますので、ご安心下さい。