Campus Report 2004

岩瀬 大輔 to Harvard Business School(全16回)

MBAホルダーへの道

Vol.2 Foundations

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The Case Method

「この経営陣で、絶対に再建可能だと思う人はいるかい?」

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社長以下の現経営陣を手厳しく批判する声が、クラスの大きな流れとなり始めたそのとき。教授はその流れを変えようと、新たな問いを僕らに投げかける。少しずれ落ちた眼鏡の上から、鋭い目つきで教室中を見渡しながら。手を上げてるのは、僕を含めて4名しかいない。チャンスだ。

「ダイスーケー、どう思う?」

これまで発言する機会に恵まれなかった僕は、鬱憤をはらすかのように、自説を述べ始めた。

社長以下の経営陣に問題がないわけではないが、売上150億の田舎のファミリー企業、しかもアイスクリームメーカー、これ以上の経歴を持つ経営チームをそろえることは期待できない。彼らも過去、変化が少ない事業環境のなかでは、きちんと実績をあげてきている。問題は、彼ら自身に社内の資源配分の議論をさせていることだ。営業はプロモーション費用の増加を主張するし、マーケティングは商品ラインの拡充を、生産は新しい機械の導入を、経理はコスト削減を主張するに決まっている。

今この会社は大きな変化のときを迎えている。いったんは収益が悪化しても、環境の変化に備えて投資をしなければいけない。社長はまずその投資資金を親会社から、銀行から、あるいは他の投資家から調達することを考えるべき。そして、これを商品ラインの拡充に当てていくことを明確に宣言し、その方向性を示した上で各事業部門の責任者に議論をさせるべきだ。南部という地元での営業基盤、確立したブランド、そこそこに熟練した経営チーム。必要なリソースはすべて揃っている。足りないのは新しい事業環境を乗り越えていく上での明確な資源配分の方向性と、そのために投資ししていく資金の捻出だ。

気分はすっかり、アイスクリームメーカーの経営者。喋り足りないので、マーケティングの話まで始めようとするが、教授に遮られる。OK、他の人の意見も聞いてみよう。まぁ、いいか。とりあえず、自分の考えを皆に披露することができて満足。それまでの緊張感も少し解け、リラックスしながら残りの時間を過ごすことにした。

Foundations

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HBSのMBAプログラムは、8月待つに行われるFoundationsという2週間のコースから始まります。これは、リーダーシップ、経営シミュレーション、資本主義の歴史、そしてミクロ経済学の授業からなり、9月から始まる本課程のイントロダクションとして位 置づけられています。

リーダーシップの初回のクラスでは、上記のアイスクリームメーカーのケースを取り上げました。どこを見ても問題だらけ、手詰まり感あふれるケースから始めることによって、悩み多い実世界の経営者の気持ちを疑似体験しました(胃が痛くなりました)。

次に10数名のチームに分かれて、2日間かけて、小さなグリーティングカード会社の経営シミュレーション。広い体育館に設置されたテーブルで、各チームの営業担当は商品開発担当が作ったサンプルを手に顧客のあいだを走り回って注文を取り、生産部隊はこの注文を受けて必死に厚紙を切り、色ペンで装飾し、納期に間に合うようにカードを準備します。顧客のスペックにあわないものは「不良」として返品されるため、品質に気を使いながら歩留まりを上げていくことにグループは集中します。

20分を1ラウンドとして動き、終わるたびに全体でのミーティングや、チーム毎のセッションを行い、このオペレーションをどのようにして改善するか、議論していきます。初回では20分かけても5枚くらいしか作れなかったのが、2日目を終わる頃には100枚のカードを量 産できる体制になりました。このシミュレーションを通じて、この原始的な形の企業がどのように運営されていくのか、全社的な視点から捉え、部門間での情報共有の難しさ、マーケティングやオペレーション改善の重要性、そして個々人のリーダーシップのスタイルやチームのなかでの仕事のスタイルについて考えさせられます。

これが終わると、再び教室に戻って、自分のリーダーシップのスタイル、チームワークのあり方について何を学んだか、小グループに分かれて議論していきます。また、入学前に提出していた心理テストや、キャリア志向のテストについてフィードバックを受け、これから2年間、各人がMBAプログラムから何を得ようとするのか、見つめなおすことになります。普段の生活では時間をとって考えることが少ない、自分の心理的な側面 や、チームの中での自分のあり方について考えをめぐらすのは、有意義だったと思います。

平行して行なわれたのが、500ページもの厚さの教科書を用いた、Creating Modern Capitalism、現代資本主義の到来という課目。ここでは、18世紀にイギリスで起こった第一次産業革命にはじまり、300年にわたるイギリス・ドイツ・アメリカ・日本の資本主義の発展について章が設けられているほか、それぞれの国を代表する企業が2社ずつ選ばれ、それにまつわる起業家と企業の発展の歴史が書かれています。取り上げられている企業は以下の通 り:
英:Wedgwood, Rolls-Royce
独:Thyssen, Deutsche Bank
米:Ford/GM, IBM
日:Toyota, 7/11

これは歴史でも経済の授業でもなく、ビジネススクールの授業であるため、一方的にレクチャーが行われるわけではありません。テーマは徹底して、「なぜこの起業家が成功したのか?時代や国を超えて、共通 する要素はなにか?」「なぜこの時代に、この国が躍進したのか?経済が発展するために必要な前提条件、資本主義のあり方は?」であり、教授が次々とテンポよく質問を繰り返すなか、議論が進められていきます。

各チャプターは国の経済政策から企業のマーケティングから戦略、リーダーシップからオペレーション、企業家のアントレプレナーシップ、そして企業倫理までカバーされており、また国から国をまたいで議論していくため、実に広がりが豊かな科目でした。これだけでも、HBSに来てよかったと思わされました。

この講義もまた、マーケティング、戦略、リーダーシップ、オペレーションと、本課程の各課目に繋がっていくのですが、本質的なメッセージは、資本主義はそれ自体さまざまな問題を孕んでいるが、人類に大きな進歩をもたらしてきた、これまで試されたシステムのなかでは最適のものである。もっとも、この「資本主義」というシステムも国によって大きく異なっており、ひとつの「正しい」システムが存在するわけではない。今後の企業経営や、経済政策を考えていく上で、常により「よい」システムがどういうものであるかを考え続けなければならない、というものでした。

ミクロ経済の講義では、徹底して価格メカニズムの基本的な原理の理解に時間が使われました。「簡単すぎる」というクラスメートも少なくなかったのですが、私はそうは思いませんでした。HBSなら、難しい経済の理論を教えることならいくらでもできたはずです。それを、きわめて本質的な原理だけにとどめ、私たちにオークションのゲームをさせることで市場での価格の決まり方を体験させ、ハーバードの寮や近所の家賃統制を題材として議論させることで政府の政策によっていかにして価格メカニズムが歪められるかについて考えさせられ、また別 のゲームを通じていかに心理的な要素が経済的な意思決定を歪ませ、価格形成にアノマリーが持ち込まれるか、繰り返し学ばせるというスタイル。

理屈自体は、教科書を5分くらい読めば分かる内容なのですが、それを繰り返し体験させ、所得の分配の問題まで自由に議論させることで、私たちはなにかより深いところの、自然の摂理に触れることができたような気がしました。一流の教授陣に、あのような単純なゲームの舵取りをさせ、そこから原理を学ばせることに成功したのは、見事なものだと感じたものです。

Study Group

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HBSにおける学生生活のハイライトのひとつが、スタディーグループ。これは学生5~6人で自主的にグループを作って、毎朝7時半から、当日の授業内容について議論するものです。

毎日膨大な量の課題が課され、カバーする内容も到底一人の学生が自信を持って対応できるものではありません。授業での発言内容で成績の30~50%が決まってしまうため、毎日気の利いた発言ができるかどうか、とても神経質になります。そこで、自然と気が合う仲間と事前に集まって、予習した内容について意見交換をすることになるわけです。強烈なプレッシャーの下におかれる最初の何ヶ月もの間、毎朝顔をあわせて膝をつきつめて議論していくため、この仲間が一生の友達になります。

このグループ作りが行なわれるプロセスも興味深いものです。理想的には、皆が大の仲良しであり、かつ一人一人の出身地や経験が異なっていることが望ましい。コンサルタントと投資銀行、消費財メーカーのマーケティング、製造業のオペレーション関連、といった感じで。しかし、実際にはそう上手くはいきません。特に、コンサルティングファーム、投資銀行出身者が多いHBSでは、理想のグループメンバーを探すためにやっきになってしまう人たちもいるそうです。

競争大好きなやり手が集まるHBSのこと、優秀な人材を求めた競争もあるとのこと。なかには知らない人から突然連絡があり、「僕たちのグループに入らないか」というリクルーティングをされたり、ホテルの一室に呼び出されて「面 接」をされたという冗談もあるくらいです。

このスタディーグループについて、なんとなく考えていました。尊敬できて、この人からは色々学べそうだな、と思う人で、ウマもあって、異なる国から集められたらいいな。こいつやるなぁ、と思う友人に会うと、この人と一緒にグループができたらいいな、とも思うようにもなっていました。そんななか、Foundationsの終盤で、ひとまず5人のグループを作ることができました。

アメリカ人のTravisは過去1年半東京で働いていた、1月の合格発表以来の友人です。190センチはある長身だが、物腰は柔らかく、それでいて人を包み込むオーラがあります。勤務していた通 信会社が他社と合併したのちに、突然中西部のある事業所を任されることになり、25~6歳にして100人の部下をマネージしていた経験を持っていたそうで、彼ならそれができたのも、想像できます。日本にいる頃から、一緒にスタディーグループができたらいいな、と思っていた一人です。

ブラジル人のDanielは、住民登録のために訪れた役所の待合室で出会いました。学生時代に創業したインターネット系のベンチャーを売却したのち、投資銀行とプライベートエクイティファームを経て、買収したアルゼンチンの鉄道会社のCFOを1年半ほど務めていました。見た目は大人っぽいし、非常に落ち着いている彼は、まだ弱冠27歳で、我がグループでは最年少。世の中には、すごい人がいるもんだ。

マーケティングの専門がいないね、と議論していたときに名前があがったのが、スロバキア人のRasto。東欧のP&Gで5年間勤務した経験を持っており、洗剤のArielのブランドマネージャーを勤めていた、筋金入りのマーケッター。私は一回しかじっくり話していなかったのですが、何か通 じるものがあると思っていました。東欧のP&Gで異例のスピードで昇進しており、彼もまた100名の部下を抱えていたそうです。普段はひょうきんでにこやかですが、はっきりとした信念と哲学を持っている彼は語らせると熱く、迫力があります。

そして、Danielが連れてきたのが、アルゼンチン人のTato。製造業のエンジニアリングの仕事と、コンサルタントを経験しており、派手さはないが、手堅い感じで、みんなが落としていた視点を指摘してくれるキャラクターです。控えめだがにこやかでまじめなキャラクターが、個性的な4人をつなぐ大切な存在となっています。

そんな仲間と、毎朝7時半から集まって過ごす1時間は、とても貴重な時間となっています。僕は彼らほど経験はないけれど、まぁムードメーカー的存在として少し役に立っているかな?いやいや、ここはアメリカ。謙遜してはいけません。戦略とファイナンスの視点から、バリバリ皆と議論しています。今日も彼らに会うのを楽しみにしながら、僕は7時20分に家を出て、自転車に飛び乗るのでした。

And Next?

ちょっとした手違いで、更新が遅れていました。次回は、本課程での最初の一ヶ月について書こうと思います。なお、ボストンでの生活についてブログをつけていますので、興味のある方はご覧ください。
9月末までの分10月以降の分

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