Campus Report 2004

岩瀬 大輔 to Harvard Business School(全16回)

MBAホルダーへの道

Vol.3 Learning to Lead

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Learning to Lead

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MBAを卒業してすぐに、僕は自分の力を試すよいチャンスにめぐり合った。5年前に創業された通 信系ベンチャー、売上は早くも2億ドル強。同社が地域的な拡大をするにあたって、ゼネラル・マネージャーを探していたところ、社長に気に入られ、この職を得たのだ。スタートは10人強の小さな所帯だが、すぐに30人以上になる。卒業してすぐに、こんなポジションが与えられるとは思わなかった。半年後に控えた新サービスの発表に備えて、全力で取り組む予定だった。

だが、入社してすぐに、どうやら話が違うことに気がついた。社長に直接レポートするはずだったのに、経験が浅く技術も分からない本社の人間が上司になった。うちのチーフエンジニアは、技術は詳しいものの、プロジェクトマネジメントがまったくできず、このペースでは新サービスのリリースは到底間に合いそうにない。

本社に彼を交代させたい旨訴えたが、却下された。あとは若くてイキのいい人間を何人か集めることができたが、アイデアが飛び散るばかりで、何一つ実行されない。なにより、彼らは肝心のチーフエンジニアとウマが合わないようで、苦情ばかりが僕のところにくる。

できる限りのことはしようと、全社員を集めて毎週ミーティングをしたり、組織の再編を数回行なった。チーフエンジニアのマネジメント力を向上させようと、コーチングも試みた。毎晩、遅くまで働いた。それでも、なんだか悪循環に陥っている気がする。新サービスの準備は、どんどん遅れていて、このままでは到底間に合いそうにない。なんとかしようと上司に再度かけあってみたが、提案はすべて却下された。

新サービスリリースの予定日を数週間後に控えたある日、本社から社長と、最近新たに赴任した担当役員が来ることになった。社長とは面 接以来話をしていない。今の悩みを聞いてもらおう。そう思っていたが、いざ来てみると彼らはオフィスの中を無差別 に歩き回り、僕の部下を質問攻めにし、部屋にこもって内緒話をしていた。彼らが話し終わると部屋に呼ばれた。どうやら助けが必要だから、本社で経験が豊かな人間を、週3日派遣して彼を総責任者とする。君は、今までどおり頑張ってくれ。

状況がよく分からないまま、本社から傲慢な上司が来た。彼は僕がせっかく作った社内の雰囲気を少しずつ壊していく。特に目新ことをしたわけでもない。発表予定日にあわせて、壮大なパーティを企画した。僕の秘書はその案内状の発送にかかりっきりになった。いい迷惑だ。

2ヶ月が経ったある日、その上司に話があるからちょっとドライブしようと言われた。何かがおかしい。彼とドライブなんてしたことない。その車の中で、僕はクビを宣告された。オフィスに戻ったら、急いで荷物を片付けて欲しい。ショックだった。僕は、自分に何が起こっているのか、理解できなかった。

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LEAD(リーダーシップ・組織行動論)の授業、最初の二日間で取り組んだケースが、Erik Peterson。実在したHBSの卒業生をモデルにして書かれたケース。初日は、彼が新しいポジションにわくわくしながら就くとこから始まる。MBAを卒業したばかりということで、みんな自分の姿と重ね合わせて、ケーススタディに入っていく。

社内はがたがた。上司も無能。本社も助けてくれない。そんななか、自分だったらどう行動するか?もっとうまくできるか?初日はとことん議論する。彼の行動力のなさを攻める人もいれば、本社のサポートのなさに同情する人もいる。具体的なアクションプランを議論する。

その日の講義が終わると、教材配布ボックスに、次の日のケースが入れられている。続編だ。本社から社長が来るところから始まる。話は進んでいく。そして、三部目の教材をあけると、解雇される話が明らかになる。自分はErikになりきっているので、そのニュースは大きなショックだ。そして、もう一部の教材で、社長の立場からみた一連の流れが書かれている。本人が認識していた状況と、まったく違う見方をしていることにはじめて気がつく。

LEADの出だしの授業として、このように鮮烈な模擬体験から始めるのは、非常に刺激的だった。このケースには、今後学んでいくことのエッセンスが詰まっている。自分がおかれているcontextを理解した上で、臨むこと。stakeholderの期待と、自分に求められている役割を正確に理解すること。目標を達成するために必要なリソースを確保することは、妥協しないこと。自分のチームのマネジメントだけでなく、横のマネジメントと、上のマネジメント。それぞれの人のambition、グループダイナミクスを理解すること。いずれも、効果 的にリードしていくために必要な資質だ。

ここにくるまでは、リーダーシップなるものが学校で教えられるのか、疑問を持っていた。しかし、最初の鮮烈な体験から、僕は多くのことを考えさせられた。卒業後、自分が同じErik Petersonと同じ状況におかれたとき、きっと思い出すだろう。あぁ、こういう状況におかれたことが、過去にあったな。あのときやるべきだったこと、やらないべきこと。もう一度バインダーをダンボールの奥から取り出して、読み返すが来るだろう。確かな手ごたえを持って始まったコースだった。

Required Curriculum

HBSでは、一年目は90名ずつのクラス(セクションAからJまで)に分けられ、同じ教室、同じ座席で同じ必修科目の授業を受けることになっています。そのため、一年目の授業だけでなく、一年生の学生を指してRC(Required Curriculum)、二年生をEC(Elective Curriculum)と呼ぶのが慣わしとなっています。

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1年目の授業は、経営者としての基礎をなす分野を幅広く学ぶことを目的としており、秋学期は、5つのコースによって成り立ちます。まずは、LEAD(Leadership and Organizational Behavior:リーダーシップ・組織行動論)。そもそもの前提として、リーダーシップや組織行動という抽象的な、一見「ソフト」な事柄も、マーケティングやファイナンスと同様の徹底した分析を行なうことで、より効果 的にマネージすることができる、という考えがあります。

誰しもマーケティングの提案書を書くのであれば、時間をかけてデータやファクツの分析を行い、アクションプランを紙にまとめるのに、それ以上に大切な人間関係や組織の問題については、改めて紙に書いて分析したりすることはしません。それは、間違っているのではないか?そんな問いが、このコースの大前提となっています。

これまで多様なリーダーシップのスタイルを持った経営者や若手幹部候補のケースを読み、各種のグループワークや映画の鑑賞を行うことで、企業風土や組織を分析するフレームワークや、より効果 的な上司・同僚との働き方について示唆を得て、自分自身のリーダーシップのスタイルを見直しする機会に恵まれてきました。今となっては、もっとも好きな科目です。

次に、マーケティング。扱う内容自体はオーソドックスなマーケティング論ですが、ここでは分厚い教科書を読むこともなく、徹底して実際の企業の事例に取り組みます。扱った題材は自動車やゲーム、清涼飲料といった典型的な消費財から、企業向けソフトや医薬、また直近では育毛剤(!)も取り使いました。

課題の多くには写真や動画の映像が含まれており、マルチメディアを駆使して臨場感あふれるケーススタディが行われます。多くの場合は、授業の最後に実際に当該企業がどのような戦略を選び、その結果 売上や利益がどうなったかを紹介し、架空の議論では終わらせないようにします。

また、実際のケースの当事者が教室に来て、後日談を語ってくれたこともあります。2003年の卒業生で、兵隊のおもちゃ、G.I. Joeのブランドマネージャーをやっている方です。我々の議論を辛抱強く聞いたあとに、現場の立場から解説をしてくれたのは、大変示唆に富みました。

マーケティング戦略の考え方自体は、コンサルティングを通じて多少なりとも理解していたつもりですが、同じ情報を元にしても多数の戦略案がでてくることや(複雑な事例が選ばれているので、「正解」がないケースが多い)、具体的なアクションプランに落とし込むことの難しさを痛感させられます。

そして、TOM(Technology and Operations Management:オペレーション管理)。この科目はもっとも馴染みがないものでしたが、それだけに新しい学びが多いものです。大前提として、あらゆる事業において、オペレーションの巧拙が企業の競争力の鍵を握る、という考えがあります。

取り扱ったケースは東芝のノートパソコンの組立工場や自動車部品の機械加工ショップ、プリント基板、靴下、クランベリーの加工工場と幅広く、サイクルタイムや稼働率といった基本概念について数値を使って何度も練習し、経営者としてどのような判断をするのかまで議論します。

講義が進むと、これらの基本概念からプロセス改善やオペレーションシステムといったより定性的な事項に焦点が移ります。トヨタ生産方式やプロセスの統計的な管理手法を学び、潜水艦やアポロ13号の事故も取り扱いました。また、トヨタ社内で研修に使われているという工場シミュレーションゲームを小グループに分かれて、体育館で行いました。

コースは定量的なツールの使いこなし方に始まり、より経営イシューにかかわるような事項へ移り、オペレーションのシステム全体のあり方を体験し、議論することに集中しています。製造業出身の一部の学生を除いては、皆が目から鱗という感じで授業を楽しんでいるようです。

FRC(Financial Reporting and Control:財務会計)のコースでは、米国会計基準のもとで特に議論があるようなケースを題材として議論しました。売上の認識基準、減価償却の方法、費用の資産化、Pro-Forma Reportingなど。

ケースを議論しながら感じたのは、米国企業では毎四半期、会計上の利益を一セントでもあげるために、アグレッシブかつ涙ぐましいまでの会計上の「努力」がなされているということ。経営陣の報酬を株主の利益と連動させることは資本効率を向上させる上では望ましいのですが、かかる報酬システムを実際に運用するにあたっては、テクニカルな指標にとらわれない形で経営陣のインセンティブを設計しないと、経営者は短期の会計上の利益を捻出することに朗を費やしてしまいます。

また、そもそも財務諸表が企業の実態をどこまで反映することができて、どこからは隠せるか、前職でも感じていたことですが(数10もの買収を経験していた名CFOの方は、「本当のデューディリジェンスは買収したあとに始まる」と語っていました)、財務諸表が果 たせる役割、果たせない役割を、ケースの議論を通じて何度も考えさせられました。会計のテクニカルな面 を学ぶだけでなく、そういった本質的な事柄まで考えることができたのが、一つの収穫です。

最後に、一月遅れて10月から始まったファイナンス。配られた教科書は読んでおきなさい、ということで、これも実際のケースを題材に運転資金や投資判断についての問題を解いていきます。一年目の教授陣は比較的若い教授が多いのだが、このコースだけは30年選手の大物教授がアサインされています。

担当のLight教授はハーバード大学の1兆円のポートフォリオの投資委員長をやっているほか、マイクロソフトの投資委員会の社外委員長も勤めているとのこと。業界ではかなりの大物です。このコースも私にとっては相当馴染みがある分野ですが、一見シンプルな問題から本質的な事項まで踏み込んで話をしてくれるので、はっとさせられることが多い講義です。

そんな5つのコースも、早くも一月半が過ぎ、次々と中間試験が行われています。10月も終わろうとして、朝は手袋をしないと自転車をこげないほど、肌寒くなってきました。次回は、課外活動について書きたいと思っています。

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