先日もお話ししましたが、私は今学期基本的には投資系を中心に科目を取っていました。その中で特に気に入っているのは"Applied Value Investing"というコースです。元々"Hummingbird"というヘッジファンドのヘッドであるPaul Sonkinが教える予定だったのですが、急用で結局"Economics of Strategic Behavior"の名物教授である"Bruce Greenwald"及びその他の3名のプロが教えることになりました。因みにその3人は"Summit Street Capital"の"Arthur Williams III"、"Pequot Capital"の"Mark Cooper"及び"Caburn Capital"の"Edward Ramsden"です。
Arthurは元々North Carolinaで自営業をやっていたのですが、たまたまBruce教授のコースを履修し、"Value Investing"に感動したので、コロンビア大学のEMBAコースを正式に履修することにしたという異彩 なバックグランドを持っている人です。彼は学校を出た後に、Paulのファンドで一年間修行を積んだ後に、念願である自分のファンドを設立しました。また、Edward(愛称はEddie)については、ArthurとMark同様に、彼もコロンビア大学の出身で、在校中で他の人と組んでヘッジファンドを作りましたが、卒業後集めた資金でヘッジファンドをスタートしました。
さて、授業の話しに戻ります。まず、このコースは他のコースと違い、ビッドは受け付けません。その代わりに、履修したい学生は事前にアプリケーションを書き、その中でなぜそのコースを履修したいのか、今までどんなこと(勿論投資に関連したこと)をやってきたのか、またストックピッチ(株式を選ぶこと)をやらなければいけません。ちょっとしたMBA出願になります。実際どのぐらいの学生が出願したのかは分かりませんが、聞いた話によると、結構の人数が出願したそうです。結果 的には、私は運良くこのコースに入れました。
授業は週一回ペースで毎回3時間となっています。授業の前半は講師がレクチャーをして、後半で学生が選んだ株についてみんなの前でプレゼンします。週一のペースで株を選ばなければいけないので、結構のプレシャーになります。他の授業と違い、あまり手を抜きますと、先生達に怒られます。実際に、怒られた(最後通 達かな)ことがありますので、結構びびりました。
三人の中でEddieの授業が私にとっては一番面白かったのです。彼はかの有名なジョエル・グリーンブラットから資金を貰い、イベントドリブン系のヘッジファンドを立ち上げました。因みに、来学期からジョエル・グリーンブラットがコロンビアで講座を開きますので、そのコースを履修することになりました。以下は参考のために、授業風景をリアルに伝えてみます:
とある木曜日の午後。Uris Hallの316号室で。
Eddie:それでは、今日はスピンオフについて話したいと思います。ケースはこれです。XYZ社はABC社という大手製造業企業からスピンオフされ、新規上場しました。ABC社はLarge Cap.の会社でインデックスにも含まれています。まずこれしか情報がない中でXYZ社を分析したいと思いますが、どのような追加情報が必要かと思いますか?(学生がさっと手を挙げます、私も)David。
David:まずはABC社の株主構成を見る必要がありますね。
Eddie:他には。John。
John:その他には、スピンオフに関するドキュメントの中から、XYZ社及びABC社の経営陣がどのぐらいのXYZ社株を持っているのかをチェックします。
Eddie:他には。Karyo。
私:その他には、XYZ社のビジネスモデルをチェックします。それと、スピンオフ前であれば、スピンオフの条件をチェックして、ABC社及びXYZ社との間に裁定取引を行う可能性があるのかどうかもチェックします。
Eddie:Good。
だいだいそのようなところをチェックします。じゃ、仮に今ABC社の株主の中に機関投資家が多数いるとしましょう。それはみながどう思いますか?Karyo。
私:それは非常に興味深いことです。XYZ社とABC社とのサイズ及びビジネスモデルの違いがどのぐらいなのかにもよりますが、もし大きな差があるのであれば、XYZ社の株を買う良い機会かもしれません。また機関投資家の中にインデックスファンドがどのぐらいいるのかも合わせてチェックした方が良いのでしょう。
Eddie:Good。
また、仮に、ABC社及びXYZ社のマネジメントがXYZ社の株を大量保有しているとしましょう。それについて、どう思いますか?Navha。
Navha:それはとてもよいことです。なぜならば、経営陣が株主と同じ利益を持つからです。
Eddie:Good。
それでは、状況はこうなります。XYZ社はMobile Houseを製造しています。過去のデータを見ますと、この業界が景気循環型産業であることが分かりました。現在はどちらかと言いますと、サイクルの真ん中にあります。過去三年間の利益水準、現在の時価総額及び現金負債状況を見ると、Valuationはだいだいで税前5x~6xになります。このような状況の中であなたはどうしますか?
みなに配ったカードに各自の名前、決断(ロング、ショートないしホールド)、そしてもし買うのであれば、ポートフォリオの何パーセントまで買うのかをあわせて書いてください(学生が一斉に書き始めました)。
Eddie:今私の所には全部で21枚のカードがあります。16枚は買い、5枚がホールドと書いてあります。売りと書くカードはありません。買いと書いているカードの中で最もaggressiveな人はポートの20%まで買うと書いてあります。ホールドと書いたのはGreenwald教授、Artie、Scott、SorenそしてMarkです。今ここで買いと書いた人たちがもしそれを実践したら、一儲けが出来ました。この株は過去半年で何と倍以上に上がったのです(我々にBloombergのチャートを配りました)。
Eddie:大半の人が買いと決めたのに、なぜホールドにしたのですか?Scott。
Scott:現時点での全ての情報を総合しますと、非常に魅力的に見えます。しかし、Valuationのところですこし気になるところがあります。サイクルの真ん中にあるのが分かりますが、過去三年間は下落局面 だったのか、それとも上昇局面だったのかが分からない上に、投資利回りがどのぐらいなのかも分かりません。
また、業界全体の状況や同業他社との比較もやっていませんので、買いとの判断には至りませんでした。
Eddie:Good。他に何か意見はありませんか?
Bruce教授:Eddie。私はいくつかの質問があります。このXYZ社の業務はアメリカ国内だけですか?それともグローバルですか?もし、国内だけであれば、全国展開ですか?それとも特定の地域に集中するのですか?また、過去のマーケットシェアはどのような感じですか?
Eddie:XYZ社は特定の地域に集中しています。従って、地域ごとの経済規模が働き、それなりの高い参入障壁があります。また過去のデータをみます、それなりに安定としたシェアを取ってきています。
Bruce教授:貰った資料の中で、XYZ社が他の地域に進出しようとしていませんか?
Eddie:確かに、その通 りです。しかし、他の地域とは言え、隣接地域なので、そういった意味で効率的に進出することになるのでしょう。
Artie:聞きたいことがあります。なぜEddieだけがこの会社を見つけられたのですか?なぜ他のマーケット参加者がその機会を認識できないのでしょうか?それが私の疑問です。
Eddie:正直なところ、なぜ他の市場参加者がこれを認識できなかったのは私にも分かりません。ただ、一つ言えるのはもともとABC社を持っているのは機関投資家が大半でしかもインデックスファンドがメインです。やはり経済的な理由で説明できない構造上の理由でXYZ社が売られていてこのような投資機会が生まれたのでしょう。
その後授業が続きます......
以上は簡単にとある日の授業風景を書いてみました。毎週こういった感じで授業が行われますので、非常に勉強になります。コロンビアの中で根強くValue Investmentへの崇拝がありますので(主にWarren Buffetの影響だと思います)、学生も熱心にこういった授業を取ろうとしています。そのためか、毎年コロンビアからたくさんの学生がBuy Sideに流れ込んでいきます。