Campus Report 2004

岩瀬 大輔 to Harvard Business School(全16回)

MBAホルダーへの道

Vol.4 小学生のように

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「なんか、小学生みたいだね」。
学校のカフェテリアでランチを済ませ、キャンパスを背にしてノース・ハーヴァード・ストリートを自宅に向かってゆっくりと南下していると、並んで歩く友人がつぶやく。空が青く晴れ渡った、11月下旬のとある火曜日の昼過ぎ。空気は冷たく、気温は5℃から10℃の間を推移しているが、今日は風がさほど強くないため、12月を目の前にしたボストンにしては過ごしやすい天候だ。

彼とは渡米する前の2年半、職場の同僚として机を並べ、苦楽を共にした。午前中にマーケティングとオペレーション管理の授業を見学、在学中の彼の他の友人も交じえてランチをし、HBSが誇る自慢のジム、Shad Hallにも足を運び、ここでの学生生活の一コマを体験してもらった。

シカゴに本拠地を持つ有力ヘッジファンドで激務に追われている彼が、ひとときの休暇で垣間見た僕の生活が、小学校の頃の記憶をよみがえらせたのは、体に合わないランドセルを担ぐ小学生のように、テキストとパソコンが詰まった大きなリュックを背に、まだ明るいうちから「集団下校」するその視覚的なイメージに加えて、実社会からは隔絶された空間のなかで、職場のストレスからはおよそ解放され、一日一日を目いっぱい楽んでいるように見える僕たちの姿が、頭が真っ白なままに校庭を力いっぱい走り回ることができた、無垢なあの頃の気持ちと心理的な繋がりを持たせたからなのかも知れない。

振り返ってみると、ここでの生活は不思議にも、日本の小学生の生活に似ていることに気がつく。毎朝7時半、暖かい弁当を手にし、行ってきまーすと元気よく家を出る。学校ではセクションと呼ばれるクラス単位 で1年間授業を受け、「担任」なる教授もアサインされているので、クラスの雰囲気は大学よりも小中学校に似ている。

授業が始まり教授が質問を投げかけると、限られた発言時間の権利を求め、我も我もと即座に10、20の手があがる。その活力あふれる授業風景も、母親の前でいい格好をしようと張り切った授業参観が思い出される。選挙で学級委員が選ばれ、委員会活動も活発に行われている。決まったリズムに乗っ取ったスケジュールが、規則的に繰り返されていく。

一つだけ、大きく違うとすれば、あの頃から少しだけ大人になった今の僕は、嵐のように過ぎ去っていく毎日のなかでも、こうやって立ち止まり、このような時間を過ごすことができることのありがたみを十分にかみ締めながら、振り返ることができるようになったことだろうか。

体で覚える ~ ケース・メソッド

気がつけばもう12月に入り、今学期も残すところ2週間となってしまった。これで3ヶ月以上、連日ケース・メソッドでの講義を受けてきたことになる。

「講義を受ける」というよりは、「ケースを用いたセッションに参加した」、という方が正確だ。各人がケースをじっくり読み込んで、自分なりの解決策を用意してきていることを前提に、まるで教授を指揮者としたオーケストラが全員で一つの音楽を奏でるように、授業は進められていく。教授から投げかけられる問いに注意を払い、クラスメートの発言によって徐々に作られていく流れに乗ろうと、タイミングよく発言の機会を手を上げる。ケースの当事者が直面 していたジレンマはなんだったのか、本事例から導かれる学びはなになのか、80分の授業のあいだ、集中して考え続けさせられる。

ところで、ケースという参加型の講義が有効な学習法であることは、研究によっても証明されている。一方的なレクチャー型の講義は、学びの「保持力」がもっとも低く、与えられた情報量 のおよそ5%しか残らないそうだ。確かに、学生時代に聞いた講義で覚えている内容はほとんどない(5%もないような気がする)。その次が「読む」ことで、この保持力がおよそ10%。次に、映像や音声などのオーディオ・ビジュアルを活用した講義だとこれが20%に上がり、実際に目の前で「デモンストレーション」を行う場合は30%に上がる。

これが、グループでディスカッションすることで、なんと50%まで上がる。ここから、参加型の学習法の効果 が明らかになっていく。保持力が2番目に高いのは「体験して、練習する」ことであり、この保持力が75%とされている。最後にもっとも効果 が高いのが「人に教える・学んだことを直ちに使う」で、90%が自分のなかに残るそうだ。

ケース・メソッドはこのような考え方をベースにして、実在する企業の説例を題材に学生にディスカッションさせ、ときにはケースの当事者を招いて実際に起こったことを話してもらう。予習からスタディー・グループ、復習の時間まで含めると、一つのケースに少なくとも3~4時間は使うことになる。時間をかけて、当事者になりきってそのシチュエーションを疑似体験しながら分析したケースからの学びは、まさに「体で覚える」というのがふさわしく、簡単には忘れることはない。

自分について言うと、授業で冴えた発言をした内容は、今でもすべて鮮明に覚えている。卒業しても、はっきりと記憶していない事例でも、「なんかこの光景、見たことがある」という感覚を受けるそうだ。したがって、仮に一つの授業で学ぶことがたった一つのことだとしても、それを2年間で約800個、身につけることができるのであれば、それは密度の濃い学びではないだろうか。

すべてはジェネラル・マネージャーを育成するため

これまでの3ヶ月を振り返ると、各コースとも一つの分野に関する専門的な教育に終わることなく、あくまでも全社的な経営者の視点を学ばせようとしていることに気がつく。

サイクルタイムや稼働率の計算、統計的な管理手法の計算など、文系の人間には頭が痛くなる数字尽くしで始まったTOM(テクノロジー・オペレーション管理)のコースも、中間試験を終えたころから数字やエクセルを用いることなく、プロセス改善をどのように実行していくか、サプライチェーンマネジメントにおける関係当事者の利害をいかに一致させるか、ITシステムのインプリにおいて経営者としてどのようなことを理解し、何に注意を払わなければならないか、そして商品開発のプロセスをどうやってマネージしていくかなど、テクニカルな議論を超えて、より幅広い視点での経営者としての意思決定技法を学んでいくものが多くなってきた。

これまで便宜的に「会計」と呼んできたFRCのコースもしかり。このコースは、本来Financial Reporting and Controlと呼ばれているもので、GAAPベースの会計ルールをおさらいすることを超えて、内部管理のためのコストアカウンティングや、企業のリスク管理手法、労働法事件違反すれすれのケースなど、数字を離れて、「コントロール」という視点から経営者の立場に立って考えるケースが増えている。

ファイナンスのコースは投資案件の評価、ポートフォリオの評価、買収価格の査定など、基本的なファイナンス理論を練習する事例が少なくないが、ここでも単純に数字の問題というよりは、事実が複雑に入り組んでおり、最終的にはきれいな答えが出ず、曖昧なままでの意思決定を迫られるケースが多い。ここでも、財務の理論や技法はあくまで、経営者としてよりよい意思決定をしていく上でのツールに過ぎないこと、エクセルで数値的な答えを出した後にそれをどう解釈し、実際の意思決定に繋げていくかを、身につけていくことになる。

今週に入ってから、マーケティングですらその傾向が出てきた。「ついに、すべてのケースがLEADのケースに見えてくる時期になりました」とはあるセクションのマーケティング教授の弁だそうだが、例えば営業管理モジュールということで、労務管理的な側面 も含めた、解雇された営業マンのケースについてディスカッションした。明日は営業マンの報酬体系に関するケースだ。ケースの主眼はマーケティングと企業の収益増加に向けて二人三脚で行う営業活動の本質的な事項をおさらいすることだが、ここでも当然として経営者としての視点が重要になってくる。

このように、HBSでは徹底してジェネラル・マネージャーの教育、ということに主眼が置かれたカリキュラムが組まれており、個別 の理論やコンセプトそのものを伝授するわけでなく、千本ノック形式で連日ケースを議論することで、色々な切り口や視点をツールとした意思決定の哲学と手法、自分の考えを簡潔に説得的に伝えるコミュニケーションなど、これをビジネス・マインドと呼ぶこともできようが、それを徹底して叩き込まれることになる。

Managing the Workload

HBSの最初の秋学期は、特に学習量が多く、厳しいことで知られている。一昔には、自殺者も出ていたそうなので、洒落にならない。さすがに最近はそこまではいかないものの、1年目の生活がチャレンジングになる理由はいくつかある。

まず、forced curveと呼ばれている評価手法で、強制的に下位10~25%の学生に「3」(平均以下)の成績をつけること。複数の課目においてこの「3」を取ってしまうと、成績審査委員会にかけられ、卒業が遅れたり、放校処分になりかねない。下位 25%といっても、HBSに入学するようなつわものの中でので相対評価なので、誰しも油断ができない。何よりも、ずっと成績優秀で来た学生が、生まれて初めて「平均以下」の評価を受けることはつらいのだろう。

そして、講義はケース形式で行われるので、すべての授業、ある程度きっちり予習をせざるをえない。コールド・コールという、冒頭のオープニングに指名された場合には、ケース全体の内容や問題点、アクションプランについて流暢に説明することが要求される。いい加減な発言をしようとしても、ケースを読んできていない人はすぐにばれてしまう。このときにペケがついてしまうと、後から挽回しようとしても難しいといわれている。

また、ケースでの学習効果の半分以上は、事前に自分でどこまで考え抜いたか、という点におかれている。授業を「乗り切ろう」と思うのであれば、それなりに要領よくできないことはないのだが、それではわざわざHBSに来た意味がない。

さらに、週に13のケースというのも重荷となる。火曜と木曜は午前中で終わるのだが、その翌日は3ケースが待っている。1ケース当たりの予習時間が2~3時間といわれているので、(理論的には)約6~9時間を当てなければいけないことになる。月・水・金は3ケースだから精神的に負担だし、午前中で終わる火・木も、帰ってから勉強が待っていることになる。

僕はメリハリをつけてやっているほうだと思うが、それでも常に時間が足りないと感じる(だから本日記も締め切りが‥)。少しでもほかのことをやろうとすると、予習の時間が足りなくなるし、授業が終わってからもう少しじっくり復習をしたいのだが、そんな時間もなく一つ終わると次へ移ることとなる。ここでは、能力が高い人は、適度な負荷をかけ続けたたほうが成長するという考えのもと、あえてそうしているそうだ。

とはいえ、実際には、毎回すべてのケースをきっちり準備することはできない。直近の授業での発言回数や、自分の得意・不得意を加味し、毎朝行われるスタディグループの仲間の力も上手に使いながら、自分なりに要領よく勉強をしていくことになる。それでもやはり、王道はない。本当に多くのことを学ぼうとするならば、必然的に勉強に時間を振らざるを得なくなる。学期が進むにつれ、それぞれが居心地のよい勉強・課外活動・遊びのバランスを作っていくことになる。

Section Presidentとして

そんな忙しい授業の合間を縫って、頻繁に行われているのが、セクション単位 のアクティビティ。HBSの1年目はセクションと呼ばれる90名のクラス単位 で、10クラスに編成されており、同じメンバーで同じ授業を、同じ教室、同じ座席で受けていくこととなる。毎日顔を合わせ、お互いが話をしているのを聞くため、苦楽をともにする仲間、戦友に似た愛着を互いに感じている。

とはいえ、90名の個性が強い人間を一つの教室に集めて、1年間の学生生活をスムーズに送るためには、適切な役割分担をすることが必要だ。そこで、各セクションでは様々なポストの役員を選出することになっている。なかでもセクションでの体験を大きく左右する重要なポストが、3つほどある。

一つは、Social Representative、ソーシャルレップと呼ばれる飲み会委員長。我がセクションJのRepは口数が多くなく、渋めのMikeだが、多種多様なクラスの課外活動を企画運営する彼はもっとも忙しいポストの一つだ。クラスメートの家を飲み歩くProgressive Dinnerという企画や、各国の料理を持ち寄りパーティであるPotluck Dinnerをはじめ、近所のバーで野球を見たり、カラオケしたり、映画を見に行ったり、ボーリングしたり、あるいは食べ歩きをやったりと、毎日のようにメイルが送られて来る。

我が家で20名+を呼んだ手巻きパーティももう3回ほど行なったし、先月にはセクションメートとその家族、あわせて95名が参加した小旅行があった。みんなのバイタリティには頭が下がる(そういえば、10月末には全学年を巻き込んだ女装パーティもあり、個人的には大活躍することもできた)。

一つは、Education Representative、通称エドレップと呼ばれる学習委員長。講義内容について教授と学生の間のリエゾンの役割を果 たすほか、頻繁にセクション内での勉強会をアレンジしたり、宿題があるときは皆にリマインドしたり、とかくハードルが高い1年目を上手に乗り越えていくため、不可欠な存在となっている。アラバマ出身のチャキチャキ娘のCariceは、南部訛りの愛嬌ある英語で皆を励まし、宥め、叱り、お母さんのように皆の面 倒を見ようとし、愛される存在となっている。このエドレップの力量 次第で、学生生活ががらりと変わる。彼女の貢献は大きい。

そして最後に、Section President、プレジデントの名の通り学級委員長。セクション全体で何か大きな動きをとるときの取りまとめ、精神的な支柱となるポストだ。学期が始まった当初、"Type A"のアメリカ人があふれるHBSで自分がこのポストをやることになるとは夢にも思っていなかったのだが、10月半ばの選挙に直前になって出馬を決意し、見事に当選を果 たした。アジア系の学生だけでなく、南米やアフリカの学生からも、非アメリカ人が当選したことを喜ぶ声が寄せられた。

最初の仕事は、セクションの予算を決めて、承認を取るプロセス。2年間で1人325ドルの予算を高いとみるか安いとみるかはさておき、議論好きなHBSでは何かと理屈をつけて文句を言う人が少なくない。それを政治力とコミュニケーション力を活かして、なんなく通 過させた。それからは、クラスの「規範」作りのために定期的にミーティングをやった。

日本人同士ならお互い気を使うようなことも、アメリカ人や各国から学生が集まっていると、明示的に議論して決めていかなければならない。貴重な発言をめぐる授業中に利己的な態度を取らないとか、ポイントは短くまとめるとか、人種差別 や政治的な難しい問題も逃げずに議論しようだとか、皆が日ごろ不満に思っているいくつかのポイントを議論するのを取りまとめる。

その他のクラス役員を支えるのも重要な役割だ。国際交流を推進するインターナショナル・レップ、ボランティア活動を進めるボランティア・レップ、進路活動をサポートするキャリア・レップなど、セクションでのスポーツ活動を進めるアスレチック・レップ、何かセクションを巻き込んで行う場合は必ず事前に相談されることになる。

古い教室にいる5セクションが、新しい教室にいる5セクションに来学期から教室を交換するよう求めて、大騒ぎになったりもした。各セクションのプレジデント10名で散々議論したが、5対5なので当然答えは出ない。愛着がわいている教室から追い出されるかも知れないとの噂が各セクションでも広まり、色々な人の意見を不平なくまとめるのに苦労した。

そして今日は、明日のボールパーティに向けた企画でクラス宛に行われたアンケートが問題となった。「我がセクションでもっともsexyな女性は?」「整形手術をしてそうな人は?」「将来white-collar crimeでつかまりそうな人は?」などの「不適切」な設問を含んでおり、不愉快な思いをしたとするグループと作成者のあいだで言い合いが始まってしまった。

少数者の価値観を気遣うべきだと主張するグループと、リーダーとしては冗談を言い合い、自身を笑えるようになることが重要だと主張するグループ。それぞれ弁も立つし、頑固だから大変だ。最初は放っておいたのだが、しまいにはセクション全体宛のメールで激しいやり取りが始まり、収集がつかない。「ダイスケ、どうにかしろ」との声に押され、今日の昼休みに全員をなだめるプレジデント声明を発令することとなった。

このように書くと「幼稚な」との感想をもたれるかもしれない。だが、アメリカのように世界中の人々が集まる場所では、それぞれの人が自分の意見や価値観を表明しなければいけないし、その考えの違いについても明示的に議論することで、それを明確にしていくことが正しいとされている。そういう意味では、各セクションでこのようなポストを設けているのも、理にかなっていると思うようになった。いずれにせよ、1ヶ月以上経ったが、このセクション・プレジデントをやることになって、本当によかったと思っている。

Finalに向けて

今回は結局課外活動について書くことができなかった。早いもので、再来週にはもう期末試験。これまで学んできたことを振り替える、いい機会となりそうだ。12月分では、試験の状況と、僕がかかわることになったACCIONというマイクロファイナンスの機関について書こうと思う。

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