Campus Report 2004

岩瀬 大輔 to Harvard Business School(全16回)

MBAホルダーへの道

Vol.7 Hell Week

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2月はただでさえ28日しかなく短い月なのに、なんだか休みが多いなと思い、いざ数えてみたら、授業が行なわれたのはたったの13日だけだった。振り返ってみると、雪が降り積もる2月を特徴付けるのはケースメソッドの授業ではなく、サマーインターンのための就職活動と、ここ数ヶ月のあいだ開催されてきた、学生団体主催の各種カンファレンスであるようだ。

Hell Week

HBSでは、就職活動の面接を理由とする欠席は認められていない。ケース・メソッドという参加型の授業では、全員が出席していることが大前提となるからだ。その代わり、2月の第二週の1週間だけ、企業面 接のために1週間授業が休講となっている。有名企業の採用担当者がキャンパスを訪れ、次々と面 接が行なわれる。この1週間は、連日の面接続きでストレスがピークに達することから、通 称"Hell Week"(地獄の1週間)と呼ばれている。

学生に人気が高いのは、コンサルティング・投資銀行といったプロフェッショナルファームと、コカコーラ・マイクロソフトなどの大企業。プライベート・エクイティとヘッジファンドも、多くの人が一度はチャレンジしてみたいと思うようだが、いわゆる大企業のように定型的なインタビュースケジュールを取らないことから、今回のHell Weekとはまた違ったテンポで面接が進んでいくことになる。いずれにせよ、年明けから皆、各社に提出する履歴書とカバーレター作成に追われていた。コンサルティング志望者は、毎日のように模擬面 接をお互いで行なう。僕も4~5名の友人に頼まれて、ケースインタビューをやってあげたりもした。

つらいのは、ハーバード・ビジネス・スクールといえども、サマーインターンの面接になるとなかなかそのブランドが発揮しにくいこと。限られたポジションを狙って900名の学生が競っており、そのなかではもはや"HBS"の肩書きはなんら意味をも持たない。似たような職歴の人が多いので、どうにも差別 化しようがないのだ。

多くの学生はキャリア転換を狙ってビジネススクールに来ている。しかし、現実は甘くない。コンサルティングと投資銀行だけは、前職の経験を問わないため、他の業界から移ってくることは難しくないが、例えば消費財マーケティングやプライベート・エクイティといった業種には、すでに経験者が同じ学年に多数いる。残念なことに採用する側は、ポテンシャルよりもこれまでの仕事でどういった経験をしてきたか、重視しがちだ。

「ブランドマーケティングに移りたいと思っているんだけどさぁ、大手消費財メーカーでブランドマネージャーをやっていたCindyやBecky(二人ともGeneral Millsでマーケティングをやっていた)みたいな人と競争していると、面 接にすら呼んでもらえないんだよね。いやー、現実は厳しいよ」とは、某セクションメイトの声。隣に座っている別 のセクションメイトは、年明けからは「僕はコンサルティングをやりたいんだ」と張り切っていたが、ふたを開けてみたら面 接した7社すべて不合格。憧れていた職業を諦め、また一から仕事探しをやることになり、結構かわいそう。

これに対して、日本で就職する日本人学生にとっては、悩みは比較的少ない。オポチュニティは色々あるのに対して、競争も限られているからだ。例年日本人学生の多くが東京でコンサルティングファームないし投資銀行でインターンをやっているようで、今年もそうなりそう。

Hell Weekから数週間経過し、現時点でインターン先が決まっているのは3割以下といったところだろうか。多くの学生が、これから本腰を入れて個人のツテをたどって、職探しをしていくことになる。これでも、不景気で就職口がほとんどなかった数年前から比べたら、随分とよいそうだ。

僕のスタディグループからは、アルゼンチン出身のTatoは第一志望ではなかったものの、某戦略コンサルティングファームのボストンオフィスから内定が出て、喜んでいた。ブラジル出身のDanielは各社の南米オフィスからは引っ張りだこで、マッキンゼーとベインから熱烈なラブコールを受けていたのだが、結局かつてから希望していた、スイスに本社がある大手穀物商社で働くことが決まった。アメリカ人のTravisはいくつかのテクノロジー企業で最終面 接中で、金曜日に西海岸で某企業の幹部と6人と会ってきたとのこと。彼なら、きっと間違いないだろう。そして、スロバキア出身のRastoはBCGとマッキンゼーの最終面 接待ちで、春休みにモスクワに飛ぶことになっている。

こうやって書いてみると、やはりコンサルティング人気は高いなぁ。そして、僕はというとまだ未定。リップルウッドのニューヨークオフィスで働くか、夏休みはちょっと違うことをやってみるか、まだ決まっていない。ゆっくり色々な人と話をして、道筋をつけられたらと考えている。

Conference

1月から3月にかけては、週末を利用して学生団体主催の様々なカンファレンスが開かれる。これまで、Venture Capital/Private Equity Conference、Asia Business Conference、そしてSocial Enterprise Conferenceに参加した。学生主催といえども、ビジネスの現場で同種のイベントを企画運営していた学生も多数いるため、世の中で行なわれているものに決して引けを取らない。

VC/PEカンファレンスでは、大手バイアウトファンドのパートナークラスが大勢参加しており、欧米の業界動向について理解を深めることができた。日本でもようやく買収ファンドの活動は活発化してきたが、欧米ではその数10倍の規模で案件が行なわれている。例えば、リップルウッドが日本で運営しているファンドは12億ドル、他の大手ファンドでも500~600億強だが、こちらでは60億ドル規模のファンド運営しているファームが7~8社ある。その下の数10億ドル規模のファンドが20数社もあるから、その桁違いの大きさが理解してもらえると思う。成熟した市場における競争状況について、最前線で活躍するプロフェッショナルから聞くことができて、非常に面 白かった。

Asia Business Conferenceは、HBSのみならず、川の向こう側からケネディ・スクール、ロー・スクールの学生も一緒になって企画する、大型カンファレンス。アジアといっても、ほとんどが中国ビジネス関連なのだが。GM、モトローラ、コカコーラ、マクドナルドなど米国を代表する企業の中国法人トップや、学者、政府関係者、起業家など。1割くらいはインド人がいたかな。

今年のテーマは "Adding Value in Asia: From Outsourcing to Innovation"。去年、米国では「アウトソーシング」に代わり、「オフショアリング」という言葉が使われるようになり、大いに話題になった。つまり、中国・インドなどへの業務を移管するオフショアリングは、国内雇用を阻害する点で経済にとって望ましくない、という議論。皆、経済学的には根拠がない議論だということは分かっているのだが、如何せん選挙の年であるため、中西部など製造業が経済の中心である地域への政治的に配慮がない発言はうかつにできない。日本でも有名なマンキュー教授がうっかり、オフショアリングは経済学的にはむしろ国内経済にとっもいいことであるとの発言をしたところ、大騒ぎになった。

内容自体は、急拡大しつつある消費者市場への参入と、低付加価値業務の賃金アービトラージを目的としたアウトソーシング、これもより付加価値の高い業務にシフトしつつあることを繰り返し述べる、ありきたりのものだった。製造業は中国へ、ソフトウェア産業はインドへ。中国の消費者市場は加熱気味との報道をよく目にするため、実際はどうなのかと興味深く聞いていたのだが、ゼネラル・モーターズの社長は強気一辺倒の発言。自動車ローンの審査不足でデフォルト頻発だとか、外資系メーカーの攻勢によって設備が供給過剰だとか、そんな話はまったく出ず、「今後もこの勢いで伸びていく」との発言だった。PRなのか、現場にいる人の感覚としてその通 りなのか、今ひとつよく分からなかった。

また、もう一つ残念だったのは、日本人のスピーカーが約50名のうちたった2人しかいなかったこと。NTTドコモ米国法人の方と、HBSの卒業生でもあるSAPジャパンの藤井社長。Japanが話に取り上げられたことも、ほとんどなかった。オーガナイザーの9割以上が中国系、我らが日本人はわずか数名しかかかわっていなかったのだから、文句は言えない。しかし、ケネディスクールもロースクールも、日本人学生一人もいなかったよ。おいおい。皆、もっと頑張ろうよ。

考えてみれば、中国市場へいち早く工場移管を進めたのは、エレクトロニクスなどの分野の日本企業だったのではないか。日本も米国と同じく、国内製造業の空洞化という問題は直面 し、散々議論がなされた。高付加価値化という視点では、日本企業は議論が単純なオフショアリングから次のフェーズへ進んでいるように思える。すなわち、液晶ディスプレイで台湾・韓国メーカーへの技術流出、競争力低下を経験した日本のメーカーは、PDP(プラズマ・ディスプレー・パネル)などでは肝の生産は国内に残している。

また、トヨタ・キャノンなどは引き続き国内へ設備投資を積極的にしていくとのこと。そういう意味では、日本企業の方が来て話をしてくれたら、議論に深みが増したように思う。今回の議論は、余りに一方向で単純だったようにも感じてしまった。

そして、もう3月に入ってしまったが、5日に行なわれたSocial Enterprise Conference。各種NGOの代表者が集まり、ビジネスと非営利事業のintersectのあり方を議論する。昨年4月に学校を訪れ、この取り組みを知って以来、興味を持っていたイベントの一つだったので、昨夜、所要のため2日ほど訪れていたNYから急いで戻ってきた。HBSとケネディスクールのみならず、学外から多くの業界関係者が集まるなか、基調講演と、マイクロファイナンス関連のパネルを2つ、あとは実務家を交えた少人数のランチに参加した。

全体を通じて共通していたテーマの一つは、非営利だからといって、効率性や収益性といったビジネスの原則を放棄してはいけない、という認識。本当に世の中にインパクトを与えることに成功している団体は、マーケティング、オペレーション、人事など、事業運営のあらゆる側面 において抜きん出ている。

自ら収益をあげていく力についてself-sufficiencyという言葉が使われていた。寄付金を当てにしていては組織の存続が危うくなる。むしろ、社会的に価値を創造するような事業を営み、そこからの収益で自らの事業がまわるような仕組みを作る必要がある。この点においては、マイクロファイナンスのパネルディスカッションと、途上国への投資に関するパネルディスカッションが示唆に富んでいた。貧困層相手の貸付事業でも、十分に魅力的な収益を上げられるようなビジネスモデルを作る。すると、通 常の商業銀行が「下流」へ展開していき、サービスの裾野が広がっていく。

スポンサーを探す際にも、単なる寄付としてやってもらうのではなく、ある程度のリターンを返せるようにしていくことで、資金調達の幅が広がり、さらには活動範囲も広がっていくというわけだ。このように、もはや営利・非営利という区分は適切ではなく、両者との間にはせいぜいtax exemptか否かの違いしかない、ともいうことができるかもしれない。

それにしても、non-profitが社会のなかで大きな役割を果たしているという米国のあり方には、学ぶことが多い。もちろん背景には、社会における貧富の差の問題など、non-profitの活躍が必要となるという米国社会の事情もあるのだが。HBSの卒業生の8割強が何らかの形でかかわっており、1割強がフルタイムでnon-profitでのキャリアを選ぶということは、素晴らしいと思う。ビジネスのディサプリンも十分に身につけた人材が流入することで、組織としてのレベルアップが図れる。

印象深かったのは、基調講演を行なったBill Shore氏の言葉。同氏は数々の大統領候補の選挙スタッフを勤めたのち、80年代にエチオピアの飢餓問題に取り組むためのNGOを設立。これまで約180百万ドルを超える寄付金を集めてきた。ユーモアたっぷりに、non-profitに取り組んできた経験からの教訓を話してくれた。私の近所の人は、私が何をやっているかははっきりは理解してくれていないでしょう。何か立派なことをやっている人、それでもいつか自分のところに寄付金集めにやってくるかも知れない人、そんな風に思われているかもしれない。

1時間に及ぶ講演の閉めの言葉として、中世イタリアの大聖堂の建築を引き合いに出した。建てはじめてから完成まで、500年強かかっている。携わった職人たちは、自分の生涯のうちには完成しないことは分かっていながら、その壮大なプロジェクトのために、毎日毎日、一つずつ丁寧に、レンガを積み上げていった。貧困撲滅や食糧問題など、我々が携わっている営みの多くは、そういうものだ。自分が生きているうちにどれだけの結果 が出せるかは分からない。それでも、私たちはその崇高な目標に向けて努力し続けなければならない。中世イタリアの職人のように。

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