【自分なりの価値観を反映させたゼミ選び】
3月の中旬にワークショップの仮配属の発表がありました。HMBAでは、2年生からワークショップに属して、俗に言う修士論文に相当するワークショップ・レポートを書いていくことになります。ワークショップの説明が開かれたのは2月の初旬のことでしたが、昨年末から皆の中ではずっと話題に上るような関心事でしたのでそれが決まって、"ほっ"としています。
テーマは全部で9つあり、戦略、産業、組織・人事、会計、財務、金融、マーケティング、イノベーション、eコマースに分かれます(但し、今年度についてはeコマースは希望者がいないため開講されていません)。そして、それを担当する教員数は総数13人。今の一年生で次年度にいずれかのワークショップに属することになる人数は43名(途中で、履修を中止した2名を除く)ですから、単純に計算すると学生3.3人に担当教員1人が付くという状態になります。このワークショップの状態を見て、更に今払っている年間授業料のことを考えると、とても得した気分になるのは自分だけでしょうか?
さて、このワークショップ選びですが、学生の人数が相対的に少ないため、定員を殆ど気にせずに、純粋に自分のやりたい分野のワークショップを選ぶことが出来ます。本人の意思確認なしに第一志望から、第二志望のワークショップに移されることはありませんし、実際にそのように移っていく人も少数です。
また、受験時に提出する『将来計画書』(いわゆる、入学願書)の内容と整合性も特に問われたりしません。ですから、この1年間の授業を通 して興味の分野が変わり、入学当初に想定していた分野とは異なる分野のワークショップを履修する人も少なくはありません。授業で先生に魅せられてしまってゼミを戦略やイノベーションのゼミを選択したり、ロレアル・プロジェクトを通 してマーケティングの重要性や面白さに気付いてそのワークショップを選択した人もいるようです。
ただ、自分の場合は入学前から想定していた範囲の中でワークショップを選ぶことになりました。その理由は、この初回のレポートにも書いたように、"手持ちの会計のバックグラウンドに、ファイナンスを+αして財務マンを目指すか、管理会計や企業戦略というビジネス全般 の知識を+αして経営企画/事業企画等を目指す"というという将来へ向けた方向性が変わらなかったことと、どうせワークショップという集中的に力を注いで勉強をする機会があるなら将来に結びつく可能性を選んだほうが勉強するモチベーションが上がると思ったからでした。
当初から関心を寄せていたワークショップは、3つありました。会計、戦略、そして財務です。
会計は、今まで仕事で携わってきていて、"その延長で学べるものがあったら"と単純に思って、選択肢に挙がっていたのでした。ただ、担当になる先生は今まで主に自分が仕事をしてきた財務会計ではなく、管理会計に強い先生でした。将来管理会計関連の業務に就く可能性はあると思いますが、管理会計をワークショップのテーマに据える気にはなりませんでした。なぜなら、HMBAでの授業を通 して、管理会計を実際に適用する担当者に必要な要素はABC/ABM、またBSCなどの仕組みを詳しく知っていることよりも、その仕組みをどうやったらうまく浸透させていけるかというむしろ組織に対する理解の深さではないかと感じるようになっていたからです。
別の言い方をすれば、専門家でないと理解できないような複雑な管理会計の仕組みはなかなか組織には浸透しにくい。よって、管理会計を実務に活かすことを念頭において研究をするとなれば、もともと自分の強みである会計とは違った分野である組織に対する理解が大きな課題になっていくような気がしました。そうやって考えていくと会計ワークショップを選択することは、自分の考えていた方向性と合わないような気がしてきて、選択肢から外しました。
次に、選択肢に上ったのが戦略でした。もともと、経理マンとして財務諸表にある数字だけを見ていても、ある方策(戦略)が会社にとって良いものかどうか判断できないところに自分自身の限界を感じてHMBAに来ているため、このワークショップが選択肢に上ってきたのは自然な流れでした。それに、財務分析を行う際にも 5 Foreces やPPMのアプローチは非常に役立つなと実感できたことも戦略ワークショップに対する関心を深めた大きな要因になりました。
例えば、入学前に見た新聞で、ある企業が黒字の事業を売却して、現在は赤字の事業の設備投資資金に充当するという記事がありました。今であれば、売却した事業は金のなる木に寄りの負け犬で、新たに設備投資する事業が問題児なんだろうなぁとなんとなく察しがつきます。ただ入学前の自分は、この新聞発表の意味を全くと言っていいほど理解できませんでした。なぜなら、以前の自分は当該事業の良し悪しを判断するのに損益以外の尺度を持っていなかったからです(今思うと恥ずかしい限りですが。。) 。
また、以前は様々な財務諸表を見比べていて、業界によって売上高利益率が大きく異なるのは不思議でなりませんでした。ただ、こうした疑問に対する答えも5 Forces のフレームワークを学ぶことにより、業界毎に利益ポテンシャルがことなる理由を今では自分で見つけられるようになってきました。
上記のような考え方は、戦略論を知っている人であれば本当に初歩的なことだと感じると思います。ただHMBA入学前は、財務諸表の作成や財務比率の計算にひたすら明け暮れていた人間です。その自分にとって、なぜそのような数字(ex.利益率)になるのか、また目の前の損益以外にもどのような要素が企業にとって大切なのかを学べる戦略の授業は最初から驚きと感動の連続でした。指導法も非常によかったからだと思うのですが、結果 として個人的には戦略系の2つの授業、『経営戦略(伊丹先生)』『戦略分析(沼上先生)』からは非常に大きな影響を受けました。
また、このワークショップの修了生が毎年出版している『企業戦略白書』(東洋経済新報社)の出版も自分にとっては大きな魅力に思えました。本の執筆に関われるのはなかなか巡ってこないチャンスですし、なによりワークショップの皆と一冊の本を作り上げていくプロセスが勉強にもなるし、何より楽しいだろうなぁと思ったからでした。
その一方で、頭をもたげてきたのが、『学んだことは、できるだけ早くシゴトで活かしたい!』という自分のこのコースに対するスタンスでした。(※注) 自分の場合、USCPAの受験勉強でアメリカの税金やビジネス・ローまでかなり幅広い勉強をしましたが、結局実務で使った会計と監査の一部を除いて殆どキレイさっぱりと忘れてしまっています。ですから、このコースで学んだことも修了後に仕事で活かせるようなものでなければ、結局は自分の身にならないというのが実感としてありました。それゆえにワークショップは、将来やりたいことと、実際にできそうな可能性のあることの円の重なった分野の中から選びたかったのです。
そのようなものさしを持って、今までの就業経験4年を測りなおすと、戦略ワークショップという選択はかなり微妙な選択に思えました。ポイントは2つありました。
その一つ目の理由は、テーマが大きいことが多いことでした。例えば、それらの上記の2つの戦略系の授業で取り上げたケース、例えばシャープの液晶事業への集中投資等は会社/事業のかなりトップ・マネジメントに近いところにいて、それなりの影響力を行使できるポジションにいないとと意思決定に関われません。ただ、今までのバックグラウンドを考慮すると修了後すぐに、そのようなポジションを得られる可能性は決して高いとは言えないと考えました。
もう一つ気になったのは、最終的に選択した財務分野に比べて戦略分野では、数字だけでなく、言葉で仕組みを伝えることの重要性が大きいことでした。数字というのは人を説得し、組織を動かすのに非常に強い武器なるのと自分は経験上感じていました。特に組織内での地位 が低く、発言が注目されにくい時ほど、数字による客観的な裏づけは自分の意見を通 す上での強いサポート役になると感じていました。
ですから、これは財務との比較になるのですが、例えば会社のカルチャー等の定性的な情報もかなり重要な要素となる戦略分野ではその武器の強さ(=学んだことの修了後の有用性)が相対的に落ちてしまうと感じていたのです (もっともこの考えは、前職の社内文化や、職務環境の影響を強く受けているため、皆さんに当てはまるとは限りませんが) 。
そして迷った挙句、最後に残ったのが財務でした。友人や外部のコンサルタントに相談すると将来この方向性でそれなりのオポチュニティーが見込めそうでしたし、また自分の財務に対する興味の強さも一年生の時に履修した『企業評価分析』や『企業財務』の授業を通 して改めて確認ができていました。唯一の不安材料は、担当となる先生に一年生のうちに指導をして頂いたことがなかったことでした。
ただ、この点においても自分が耳にした限りでは先生は指導熱心で、且つ企業価値経営についても感心が高いという学部での評判を聞いて決心しました(担当となる加賀谷先生は、伊藤邦雄ゼミ出身ですので守備範囲(?) は似ているのではないかという判断も勝手に加えていました)。 ですから、このワークショップであれば、企業の財務分析の手法や戦略上の企業特性を理解した上での企業価値最大化の考え方を学べると思ったのです。
実際のところは始まってみなければ分からない部分も多いとは思いますが、この一年が終わる時には入学の時からずっと抱えてきた課題を解決できているように頑張ってみたいと思います。
※注・・・MBAでは自分と同じようなスタンスが主流だと思っている人もいるようですが、HMBAにおいてはそのような短期的な目標を重視する人ばかりではありません。HMBAでは経営のトレンドをなぞるだけでなく、経営の根底に流れる哲学や歴史に触れることや、ビジネスのトレンドが変わっても乗り切っていけるようなモノの考え方を身に着けることを重要視しています。ですからHMBAの学生の中には、学んだことをそのまますぐに仕事で活かせるかどうかはさほど重要ではなく、社会に対する深い洞察や熟成された経営に対する哲学を持ったビジネス・パーソンになるという長期的な目標こそが重要である考える人もいます。