色々な年齢でビジネススクールに進む人がいるが、私にはパーフェクトなタイミングだったと思う。もう少し若かったら、この2年間の間、上手く出来なかったこと、2年間の間に失ってしまったことをこれほど真剣にとらえることは出来なかっただろうし、もう少し歳を取っていたら、現実を今ほど前向きにとらえて、もう一回やってやろうか、という気になることが難しかったかも知れない。このこと以外でも、もう少し頭が固くなっていたら得たものすべてを噛み砕き、吸収することが出来たかどうか疑わしい。
卒業パーティーで。一番仲の良かった友達と
勉強以外で得たものは、これは自分には出来ない、という経験だろう。今までは自分に限界を感じたことがなかったし、限界から見えてくるもの、限界から開ける道もあるということを知らなかった。ここにきて、30歳を目前にして、これは私には出来ないかも、と思うことがいろいろと出てきた。当たり前といえば当たり前だけれど、こんな文章を英語では私には書けない、と思ったり、英語を読む速度が皆に追いつかなかったり。これも当たり前のことだけれど、出来ないと思うと、じゃあどうしよう、と考えることが出来る。これは新しい思考回路の発見であった。こうして、皆自分のエッジを見つけていくのだろう。逆に言うと、出来ないことにたくさんぶつからないと、エッジはとがってこない。私みたいにこの歳になるまで可能性は無限大であるような錯覚を起こしていてはいけなかったのである。
あとは、知ったかぶりをしなくなったこと。質問する、ということが出来るようになった。これは、歳を取るにつれ自分のことを大きく見せる必要がなくなってきた、ということでもあるけれど、アメリカという、皆が自分の出来ること、過去を少し誇張する国において、本当に頭の良い人、人生を上手に生きている人は出来ないことは出来ないと言い、出来ることを頑張って生きているのだな、ということを知ったからだろう。
もちろん日本でもそうだと今ではわかるのだが、この国ではその差が歴然とする。もう少し上手になりたかったのは、どのタイミングで上手に質問するか、ということだ。これはとても大切なことで、上手に質問をするためには相手の話を真剣に聞き、腑に落ちない点を見つけ出す能力が必要になるし、自分の思考をクリアにしていくことが出来る。
それから、不確実で不安定な状態に自分を長くおいておく、という能力。これは民族的に個人差が大きいと言われている。イスラエル人、ベトナム人などはとても強く、自由の国、勇気の家であるアメリカもまあまあ、日本人はとても弱いそうだ。これは日本に投資家や企業家が育たず、そのかわり大企業が上手くまわっていくことの理由の一つだそうだ。隣国である韓国はこの点とても優れていて、RISKを取ることをいとわないし、不安定な状態に自分を長期間おいておくことの出来る人が多い。だからこの国では小規模ではあるが、PE、IPOがとても盛んに行われている。
MBAは世界の略図であるので、この様子をつぶさに観察することが出来る。端的に言うと、テスト前一夜漬け、就職活動後発、プロジェクト提出一日前のグループミーティング中に喧嘩を始める(結果 がどうなろうとあまり恐れない)というようなタイプに多く見られる。今まではこれらの人たちを羨ましいな、と思ったり、楽天的でいい加減なやつらだな、と思って見てきた。ところが2年間が終わり、私にもその能力が備わってきていることに気づいたのだ!
これは進路が中々決まらない中で、ぎりぎりまで毎日悩みながら過ごしたり、どうしてもウマが合わない人(これも今まではいたためしがない)との関係を割り切って考える中で、だんだんと耐久性が備わってきたようなのだ。今までは暇が嫌いで、何かすることがなかったら落ち着かなかったが、今はどんなときでも悠長に構えていられるようになった。こう書いてしまうとただの怠け者のようだけれど、この能力が身についたおかげでいいこともたくさんあるのだ。
まず、どんなに忙しくてもパニックにならない。優先順位をつけて、後でもいいことはどんなに気持ち悪くても、先に手をつけたくてもぎりぎりまで放っておくことが出来るようになる。これもちょっと怠け者に聞こえそうだけれど。あとは物事に動じなくなります。昔は、これぐらいでやめておこうかな、と思うようなところも、もうちょっとぎりぎり、これくらいまでやっても平気かな、と実際にやってしまえるようになります。ついでに、人を慰めるのも、元気付けるのも上手になる。
MBA Start with a beer and end with a beer 友人の家のパーティー
最後に、一番大事なことだが、どこにどのような情報があるのか、何か自分の知らないこと、新しいことに出くわしたとき、どこを探せばその情報が見つかるのか、誰に聞くのが適当なのかわかるようになった。これはきっとこれからの人生で一番活用出来るスキルであると思う。
途中で帰りたくなったことはさすがに無かったが、迷ったり、大きな決断を中々出来なかったり、そんな自分に嫌気がさしたり、ここにいる意味をなかなか見つけられずにあせったり、長かったようであっという間に過ぎてしまった2年間。私の人生の中の大きな、大きな意味のある2年間。直接でも間接でもこの2年間を梃子にしてこれからの人生をまた楽しく充実したものにしていきたいと願う。
人生は出会いと気づきの連続だといいます。これからMBAにいらっしゃる皆様にたくさんの素敵な出会いと素晴らしい経験が待ち受けていますように。