Campus Report 2004

岩瀬 大輔 to Harvard Business School(全16回)

MBAホルダーへの道

Vol.10 ヤツらの儲け方

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ヘッジファンドでのインターンも中間地点を折り返して、残すところ4週間となった。2週間後に香港行きを控えて、先週からアジア株を見るように言われている。予想以上に時差がきついが(朝は皆と同じく7時に出社するものの、仕事は現地でマーケットが開く時間に始まるので、夜遅くまでオフィスに残って電話をかけまくなければならない)、アジアには以前から興味があったのでさして苦にならず、電話で英語とファイナンスという「共通言語」を使って、中国やタイの人たちと会話をしていると、まさに世界が一つになりつつあると感じずにはいられない。

始める前は、上がるか下がるかも分からない株への投資でどのように勝ち続けるのか、不思議でならかったのだが、5週間近くもやっていると(正確には「近くで見ている」に過ぎないが)、彼らがどうやってコンスタントにマーケットを上回るリターンを出し続け、数10億や数100億という富を築いてきたのか、そのカラクリが分かってきたような気がする。

以下は、為替や国債などマクロ経済の動向について賭けるいわゆるディレクショナル・トレード(ジョージ・ソロスや元JPモルガンの藤巻氏などはこちら)ではなく、主に株や社債など企業への投資を行なうヘッジファンドについての考察を紹介する。もちろん、これは特定のファンドの戦略について述べているものではなく、およそ株式へのバリュー投資を行なうファンドに共通するアプローチである。

まず、市場はperfectであるとする効率的市場仮説だとか、ランダムウォークであるとかの考えは、短期的には成り立たないことが多いという前提に立つ。

株と比べた場合、為替や債券などについては皆が同じ情報に基づいて動いているし、情報の質で差別化するのは難しい。そもそも、価格に影響を与える要素が多すぎて、ファンダメンタルズに基づく「正しい価格」なるものが成立しづらく、プロの市場参加者の売り買いが均衡する地点のみが価格を決めるように思える(購買力平価など為替の適正レートを説明しようとする理論の存在は認識しているが、それよりも市場の力が大きいということ)。もっとも、このような状況でも勝ち続けるトレーダーたちはいるが、これは株のやり方とは異なるということ。

企業の株価はあくまでも、「いくらキャッシュフローを稼げるか」という収益力と、「今後どれだけ成長していけるか」という成長性を表象したマルチプル(資本構成の違いを考慮後)の掛け算で決まるべき、との理解が市場で共有されている。そこで、本来の収益力と成長性たる「真の実力=ファンダメンタルズ」を当てようとする競走が、繰り広げられるわけだ。ここで、市場参加者は個人投資家=素人が少なくない。情報量や分析力では、大いに差別化を図る余地がある。

そのために、ヘッジファンドはその情報収集能力を活かして、「世の中で知られているすべての情報+α」を得ることを大前提とする。アナリストや企業のIR担当者はもちろん、競合や顧客、サプライヤー、元従業員や業界コンサルタントなどできるだけ多くの人の話を聞く。そして、自分なりに収支予測モデルを組み立て、一つ一つの前提条件を確かめながら、業績の上ブレの機会、下ブレのリスクがどの程度あるかを定量化していく。ここでは、自分で収支予測の財務モデルを組み立てることが重要。アナリストが作った数字は意外と間違いが少なくなかったり、立場上あまり強気の予想を立てられないなど、制約条件があるからだ。

もっとも、ここでいう「情報」とは、取り組み中のM&Aなどの秘匿情報を嗅ぎ出してトレードするわけではない(それはインサイダー取引でつかまります)。市場での製品の売れ行きや価格動向、新商品リリースの進み具合など、「ソフト」な情報から、パズルの全体像を組み立てるように、自分なりのシナリオを立てて数字を組み立てていく。

ここまでだったらいわゆるロング・オンリー、投信などの運用者とやることはさして代わりがない。ポイントはここから。

まずは、多くのファンドはevent-driven strategy、いわゆる「イベント系」と言われる戦略を取る。仮に気にいった株があったとしても、漫然と株価が上がることを願って買うようなことはしない。経営陣の交代や事業売却、株の買戻しやリストラ実施、あるいは訴訟や当局の認可といった、業績予想に直接的に影響を与える出来事=イベントが起こることを前提として、投資を行なうこととなる(四半期や半期、通期の業績発表もこれに含まれる)。これによって、自分が描いたストーリーが起こったか否か、投資の成否や売却のタイミングをある程度ディサプリンをもって判断することができる。

次に、それぞれのシナリオが起こる確率と、それぞれのペイオフを定量化し、期待値を出す。そのリスク・リターンが合うかを判断するわけだ。ダウンサイドが20%、アップサイドが20%、かつそれぞれの確率が5分5分である、そんな投資は期待値が0であるから行なわない。あくまでも下ぶれ10~20%に対して、アップサイドが30~40%、あるいは数倍になるような案件しか行なわないわけだ。市場には何1000もの銘柄があるわけだから、そのなかから本当に大きなリターンを期待でき、かつ自分が絶対的に自信がある投資しか行なわないわけだ。これによって、普通であれば5分5分の価値負けを、6・4、あるいは7・3にしていくことができる。

さらに、自分らが他の投資家と比べて情報量はインサイトで一歩抜きん出ている、いわゆる「エッジ」がある投資しか行なわない。簡単に手に入る情報ベースで「皆はこれを見落としているので、株価は割安」というのは通じない。そのような情報は既に株価に織り込まれているのが通常であり、その限りでは市場効率説を信じているわけだ。それ以上に、ファームが持つネットワークであったり、特定の業界に関するexpertiseであったり、あるいは国際的なアービトラージであったり(例えば、日本企業で売上の大半が海外であるような企業である場合、日本の投資家は自分で海外事業について直接的に検証する手段をもたないが、このような場合には差別化する余地がある)、なんらか差別化できる案件のみ行なうというわけだ。

加えて、ここがヘッジファンドの「ヘッジ」たるゆえんなのだが、買いポジション(=ロング)について必ず何らかの売り(=ショート)を行なって、市場全体のリスクを自分の投資から取り除くようにする。一番簡単なヘッジは、市場インデックスをショートすること。自分がいかにある銘柄について自信を持っていても、日経平均が下がってしまえば、必ず当該銘柄にも売り圧力が働く。買いと同時にマーケットを売っておくことで、市場全体の上下から自分の投資を分離することができるわけだ。

さらに、日本でどれだけアヴェイラブルなのか知らないが、こちらでは業界のインデックスをショートしたり(Retail IndexやIndustrials Indexなど、業界別の株をバスケットにしたインデックスが売買されている)、様々なオプションを売り買いすることで、自分の賭けとは無関係なリスクを中立化する。競合で明らかに割高であると思える株があるのであれば、それを売ってもいい(例えば、ホンダを買って日産を売るとか)。もっとも、個別銘柄のロング・ショートは大損する可能性もあるが。これは個別の株のリスクを減らすというよりも、ポートフォリオ全体のヘッジの意味合いの方が大きい。また、ポジションの見通しによっては、例えば3割市場インデックスショート、2割業界インデックスショート、1割競合株ショート、あとオプション売り買いなど、色々ヘッジをかます。

投資後も毎日注意深く動向をウォッチし、ポジションをいじっていく。自分の仮説が正しいにもかかわらず、何らかの事情で株価が下がった場合には、焦って売るのではなく、さらに買いを増やす。これは絶対イケルと思ったら大きなリスクをとって買っていくのに対して、自信がないものについては損切りを早くする。

最後に、レバレッジを使って元手よりも大きなエクスポージャーを持つことができる。信用取引のように借りた金で投資を行なうだけでなく、オプションを買うことで、少ない元でで実質的に大きなポジションを取ることができる。もっとも、これは気をつけてやらないと大きなリスクを伴うものであり(LTCMの破綻はこれが原因)、大手ファンドはあまりやっていないようだ。

こんなわけで、一見「賭け」にしか見えない株についても、ある程度の安定性を持って、市場を上回る高いリターンをあげていくことができるわけだ。彼らは何か秘密の情報を知っているからではなく、誰よりもたくさん調べ、分析し、ディサプリンをもって投資を行なっていくことで勝っている、そう断言する。また、いくつかの破綻したヘッジファンドのように複雑な数量モデルに頼るのではなく、あくまでもサイエンスとアートのバランスを保って、最後には職人芸的な「アート」、それはリスク感覚、あるいはcommercial instinctというべきものなのだが、それで勝負をしてくことになる。

これらは、あくまで株について述べたもの。しかし、これらの戦略では基本的に株ロング、すなわち株全体が上がることに賭けているため、マーケット全体が余り動かなかったり下がっている場合には、どうしてもリターンが低くならざるを得ない。

このような市場の下落でも儲けることができるように、ほとんどのファンドはマルチ・ストラテジー、すなわち株のロング・ショート以外にも、M&Aアービトラージ、転換社債やキャピタルストラクチャーのアービトラージ、あるいは債券や不動産投資などもポートフォリオに加えている。これによって、ポートフォリオを分散させ、低いボラティリティで、20%前後のリターンをコンスタントに出してきたわけだ。

外部から見ていたり、メディアでの報道のされ方を見ていると何かとshadyというか怪しいイメージを持つヘッジファンドだが、その実態は、コツコツと地道に調査分析を行い、独自のリスク感覚と才覚を持って運用実績をあげている、そんな至極まっとうな商売だったりするのだ。自分の目で確かめるまでは、噂を信じちゃいけないねー。

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