Campus Report 2004

岩瀬 大輔 to Harvard Business School(全16回)

MBAホルダーへの道

Vol.13 アントレプレナーシップのサクセスストーリー

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Entrepreneurial Financeの授業では、ケースの題材となる実際の人物が授業に訪れることが多かった。非常にゲンキンなHBS生、講義の最後に、彼らが成功によりどれだけの富を築くことができたか、そのサクセスストーリーの指標たる「$」の金額が大きければ大きいほど、彼らに対する尊敬と憧れの眼差しもよりいっそう強くなる。ここでは、今学期特に印象に残った二組のprotagonistを紹介したい。

(1) サーチ・ファンドで$80million

バイアウトの投資利回りは、ベンチャー投資に比べると安定している。つまり、ベンチャーのように10倍、100倍となることはないが、他方で(よほど割高で買っていない限り)大きなロスを被ることも少ない。その意味で、相対的にはミディアムリスク・ミディアムリターンのアセットクラスということができる。

そのようなリスク・リターン性向を持つバイアウト投資と、アントレプレナーを組み合わせようということで、スタンフォードの教授によって考案されたのが、Search Fund サーチ・ファンド。MBA卒業直後の若者に買収先の企業を探すまでの給与を負担し、彼らが見つけてきた案件をそのままファンド・マネージャーとして再建を担当してもらい、無事に売却できた場合には成功報酬を払う、というものだ。

そんな若者にそもそも資金がつくのか?競争が厳しいなかいい投資案件を見つけることができるのか?さしてオペレーションの経験がないMBAが、買収先をターンアラウンドして、きちんとした収益をあげることができるのか?つい色々とケチをつけてしまいたくなるが、実際にはこれまでスタンフォード、ハーバードMBAを中心に約100のサーチファンドが組成され、平均リターンは30~35%をあげてきたという。実績を見る限り、そのビジネスモデルが機能していることは疑いようがない。また、「失敗」したファンドは、2年経っても案件を見つけてくることができない場合がほとんどだから、年間10~20万ドルの経費をなくすだけ。投資家にとってもダウンサイドは限られている(実際に投資したが失敗したという案件がどの程度あるのかは不明)。

そもそも資金が集まるのか?ということについては、出資者は大抵は過去にサーチファンドで一儲けし、味を占めたエンジェル投資家であったり、本人たちの友人や元上司であるケースが多いそうで、さほど問題がないそうだ。そしてボクが心配した案件数だが、ここのところ米国ではバイアウトに大量の資金が流入しており、幸い小規模の案件を対象としていたファンドが皆対象の規模を大きくしており、サーチ・ファンドが狙うような売上数10億円規模の案件には、今スイートスポットとなっているそうだ。

このようなサーチ・ファンド、第一回はファンド組成したばかりのClass of 2004の卒業生の話だったが、第二回のクラスには、無事にエグジットまでして、その後案件を数件やっている、Class of 2000の卒業生がやってきた。

時は2000年、HBSの卒業生の大半がネット系ベンチャーを創業しているなか、二人の卒業生は地元・クリーブランドのエンジェル投資家に出資を仰いで、サーチ・ファンドを組成、買収案件を探してかけずり周っていた。

ようやく見つかった案件、売上20億の産業用ヒーターのメーカー。商売の7割は軍向け。オークションに競り勝ち、13億円で買収が決まりそう。自己資本は1億のみ、あとは借入で賄う予定。念入りなデュー・ディリジェンスも行なったところで、厄介な問題が続々と顕在化。土地が土壌汚染されている可能性が大きく、浄化費用もバカにならなそう。交渉相手の創業者はもう70歳、余計な負債なしで売り抜けたいので、費用の折半には応じてくれそうにない。

また、クロージング次第、売却して借入返済に充てようと目論んでいたトラック部品を作る子会社だが、国内のトラック需要の大幅低下を受けて、売却話がぽしゃってしまった。これでは、想定していた以上の借金を背負って経営していかなければならない。それでも、このディールをやるか?

授業の冒頭で参加者にアンケートを取ると、約8割が「辞めた方がいい」との意見。実際に当事者が来ていても、全力で反対意見を述べることこそが、HBSでは礼儀だとされている。

そこから、授業は様々な問題点を指摘していく。
・ この買収案件は、いい案件といえるか?バリュエーションは適切か?
・ ファイナンシングのストラクチャー、銀行からのタームシートで気になることは?
・ 二人のMBAは、この会社を再建する能力を持っているか?
・ 各種のリスクに対して、どう対応していくか?

Sahlman教授の誘導のもと、50分ほど議論をしても、なかなかネガティブな見方は取れない。ここで、いよいよ当事者が登場。

起業してすぐに、僕らは経験豊かなPEのプロからアドバイスを受けた。このビジネスは、非常に簡単だ。三つのことだけを守ればいい。Buy Right, Operate Right, and Sell Right。いい会社を安く買って、きちんと経営して、いい値段で売ることさえできればいい、難しいことはない。それだけ、念頭をおいて頑張ってくれ。

それから、僕らはこれらのポイントをしつこくしつこく押さえて頑張った。買収価格の13ミリオンは、EBITDAの3.2倍。軍向けの仕事が8割といっても、12個の異なる長期契約があったので、顧客集中のリスクもそれほどなかった。うち、2割はセラーファイナンスということで、売り手からの貸付という形を取ることができた。レバレッジは10対1でばっちり銀行借入もついたし、懸念していた環境問題も、売り手との間に満足のいく合意ができた。

買収後は、我々が現場に常時張り付いた。まずは、新しい経営陣を雇った。CEO、COO、技術担当役員、営業担当役員。同じくらいの規模の再建をになったことがある人たちに、ストックオプションをあげることを来てもらった。従業員は、何年も前から創業者に飽き飽きしていて、誰かにきちんとリードしてもらいたかったことが分かった。they were hungry to be lead。

これに加えて大きかったのは、数名のシニア・アドバイザー。元ペンタゴン(国防庁)で購買の責任者をやっていた2 star generalが、加わってくれたんだ。彼のお陰で、売上を大幅に伸ばすことができた。

新しい経営陣のもとで、カリフォルニアの工場を閉めて、技術開発センターを設立した。そこで、911がおき、戦争の追い風が吹いた。軍向けの需要は一気に駆け上がり、借金もすぐに返済することができた。追加で、2社を買収して統合した。買収は借入でまかなったが、これらもすべて返済することができた。売上は3倍にもなり、昨年無事にエグジットできた。

その金額は?なんと、83ミリオン(約91億円)!一族郎党からかき集めた1億円が、なんと90億円を越える価値になった!

このストーリーは、イラク戦争特需という追い風となる特殊事情があったことは否めない。それにしても、MBAを卒業したばかりの二人の若者が小さな会社を買収し、プロデューサーとしてシナリオを書き上げ、新しい経営陣を連れてきて、見事なばかりのターンアラウンドを実践したこと、そして彼らがたった5年前の卒業であること、彼らの履歴書を見てもなんら自分らと代わりがないことに、クラスの参加者は多いに勇気付けられ、授業の最後はスタンディングオベーションで終わった。やはり目標を大きく持つこと、それが実現可能であることを示してくれたケースだった。

(2) スピン歯ブラシで$400million

あなたは一本5ドルの安価な電動歯ブラシを開発しました。この事業の価値はいくらくらでしょう?

これが、単価5ドルの簡易電動ハブラシを開発したベンチャー企業が、創業わずか18ヶ月でP&Gに400億円で買収されたという話。protagonistのDr.JohnことJohn Osher氏を交えて、ディスカッションした。手元資金1ミリオンを、2年足らずで400ミリオン強にしたその腕はすごいが、これまで見てきたいくつもの成功したアントレプレナーと同様、いかにこのビジネスがあらゆる観点から考え抜かれたビジネスモデルであったかに、感心した。

彼はそれまでもいくつものベンチャーを立ち上げており、直近では玩具ベンチャーで「スピニング・ロリポップ」なる、電池でうぃーんうぃーん動くロリポップを開発し、最初の3年間で1億個以上も売る爆発的なヒット商品を生み出していた(しかし、これはアメリカでしか売れ無そう...)。そこで培ったメカニクスの技術、安価で良質な中国サプライヤーとのリレーションシップ、小売チェーンへのパイプとクレディビリティ、事業売却を通じて得た自己資金、すべてを最大限に活用した事業が今回の電動歯ブラシだったわけだ。

ポイントとしては、既存の電動ハブラシ市場が比較的高価な商品しか取り扱っておらず、性能は落ちるがずっと安価な製品を求めている消費者を向いていなかったところに目をつけ、普通の歯ブラシユーザーからの乗換えにフォーカスして商品開発したところ。あくまで手触りは非電動の歯ブラシと変わらず、電池も耐久性も、少なくとも3ヶ月は持つように開発を続けた。そして、価格が絶対に6ドル以下にすることを決意。「6ドルくらいであれば、既存の歯ブラシに数ドルを上乗せするだけで買えるため、比較的スイッチングを起こしやすい。これが8ドルになると、今までと倍の価格を払わなければならなくなる。この価格では、ぐっとユーザーが減るに違いない、調査をしたわけではないが、自分らの消費者としての立場からそう確信していた。だから仮に6ドルの価格を出せないとしたら、このビジネスは辞めてもいい、それくらいのこだわりで臨んだ。」

また、徹底して間接費を節約して、わずか9人で数百万ユニットの開発・生産手配・販売まで手がけたのがすごい。広告も基本的にはなしで、店頭でパッケージングに入ったまま、外からボタンを押して電動の動きが見れるようなように工夫した。当初のテスト販売では、通常の歯ブラシが一店舗あたり1週間で数本しか売れないのにた対し、本製品は一日で7本売れた。これはいけると確信し、ウォルマート相手に10億ドル規模で商品を売り込んでいた凄腕営業マンをスカウトし、彼に営業を一任した。

気になるのは競合。ジレット、P&G、コルゲートなど、大手がひしめくこの市場。すぐに参入を招き、つぶされてしまうのではないか?

しかし、実際には数年間は競争の脅威はなかった。なぜなら、これらの会社は一本60ドルをする電動歯ブラシの開発にやっきになっており、5ドルといった安価な製品には目を向けなかったからだ。既存の歯ブラシの開発チームには、電化製品に手を出す力はない。また、歯ブラシという商品には強いブランドロイヤリティはない。だからこそ、安価でいい製品さえ出せば、必ずシェアは獲得できると確信したのだ。

結果、1年目で売上44ミリオン、利益20ミリオンを出し、すぐにP&Gに売却。P/Eで言えば20倍強なので、収益ベースでは順当な価格だったのだろう。彼にしても、このまま競争しても、3年すれば大手に追いつかれる、そういう脅威はあったそうだ。

大企業の動きの遅さを物語る一つのanecdote。売却直後、この創業者はP&G社内で本事業の責任者を務めることとなった。初めてのカンファレンスコール、彼は一人、相手のP&Gは総勢28名。皆さんのなかで、何名の方がこの歯ブラシを使ったことがありますか?答えは、ゼロ。彼らは市場からあがってくる消費者レポートを読むことばかりに専念し、「自分で試す」という基本を怠っていたのだ。また、それまでのP&Gでは世界中に新商品をローンチする速度は極めて遅く、せいぜい同時に数カ国だったらしい。彼は新製品が出ると、60カ国で一斉販売をしたそうだ。

本ケースから何を学ぶか?これはHBSでのアントレの授業で繰り返されるテーマなのだが、アントレプレナーとはむやみに高いリスクを取って、高いリターンを狙うのではない。本事業の場合、コスト構造を徹底して抑えていたため、さしてボリュームが出ない状態でも、すでにキャッシュフローは黒字化していた(書き忘れたが、運転資金もウォルマートが35日で支払ってくれ、中国の工場には30日で支払っていたため、ほとんど不要だった)。そのため、リスクはそれほど大きくなかった。

そして、商品、価格、顧客、サプライヤー、チャネル、経営陣、一つ一つのポイントにこだわりぬいたビジネスモデルを考え抜き、実行したおかげで、このようなホームランを打つことができたのだろう。もちろん、運の要素もあるのだろうが。いずれにせよ、成功する起業家は実行能力が大切なのはもとより、事前の戦略的な部分で、相当に成功確率をあげることができるのだと、本コースを通じて叩き込まれることとなった。

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