Tuckのコンサルティング・プロジェクトであるフィールドスタディの現地調査が、12月中旬に無事終了した。結局ポーランド国内を北へ南へ移動しまくって、計15社のポーランド企業の視察を行った。今回はこのフィールドスタディについて報告したい。
フィールドスタディの構成
Tuckのフィールドスタディは大きくわけて3つのパートから構成される。まず最初がプレ・フィールドスタディで、10月頃に編成されたチームでクライアントと電話会議などを行い、クライアントの置かれた状況とプロジェクトの目的について確認する。この結果 を基ににプロジェクトの方向性を決め、クライアントのスタッフとの電話会議や様々なリソースを使っての事前調査、さらに現地での活動のセッティングを行う。
次が実際に現地で過ごす3週間で、今回の我々の東欧訪問もここに含まれる。この期間はメンバー全員がフル・コミットメントで集中的に検討を行い、現地での最後の週にはクライアントへ仮説の報告を行う。そして最後は1月から2月にかけての仕上げの期間で、現地で作った仮説の検証とさらなる情報収集を行い最終報告にまとめる。
そういうわけで、「フィールドスタディ」という言葉の響きからなんとなくお気楽な短期間の海外グループ旅行のようなものを想起させるのだが、実際は計5ヶ月近くにわたる真面 目なコンサルティング・プロジェクトなのだ。ちなみに今年のフィールド・スタディで他チームのメンバーが飛んでいた先は、ロシア、中国、南アフリカ、ベネズエラ、イギリス、オーストラリア、ベトナム、韓国、タンザニア、ベルギーなどとなっているようだ。
プロジェクトの概要
我々のチーム・メンバーは総勢8名。クライアントはある米系企業で、東欧からの製品調達の可能性を探るのが目的だ。当初のクライアントの要求は東欧全体の調査であった。これはいくらなんでも広すぎると言うことで、プレ・フィールドスタディの段階で各国についての大まかな調査とクライアントの関係者のインタビューにより、ターゲットをチェコ・ポーランド・ルーマニア・ウクライナの4カ国に絞り込んだ。現地調査期間中の最初と最後にプラハでグループ全体の共同作業を行い、真ん中の2週間は2名1組となってターゲット各国に飛ぶスケジュールに決定した。
僕はポーランド担当となったので、今回の調査では同級生と二人でポーランド国内を転々としたのだが・・・これが大変な旅だった。やはり現地に来ると得られる情報の質と量 が段違いなので、事前調査でリストアップしていた企業への訪問と、現地で見つけた有望そうな企業へのコンタクトを同時に行うこととなった。
限られた現地での時間を有効活用するため、ある時など8時間のバスでの移動の最中に携帯電話の電池が切れるまで企業に電話をかけまくり、突撃電話インタビューなどを敢行したりもした(周りに座ってた方々には本当に申し訳ないことをしました)。結局、深夜移動を絡めてバス・電車・タクシーを駆使して2週間で2,000km以上の陸上移動をするはめに。200km程離れた南部の大都市間を特急列車で移動するのに4時間もかかる程交通 インフラの貧弱なポーランドでは、かなりの移動距離である。
ターゲットの4カ国でこのようにして企業・政府機関・商工会議所・業界の専門家などとのインタビューを重ねて、産業分析と有望企業のリストアップを行った。これらの情報を持ち寄ってプラハに再度集結し、本日無事に現地調査の結果 報告を行ったのである。クライアントには大変満足して頂いた様子で、来年もTuckにプロジェクトを依頼するにあたっての要改善項目なども熱心に質問された。無事終わってホッとしたけど、本当に疲れ果 てました。1月から最終プレゼンまでは僕がプロジェクト・リーダーなので、やや気が重い。
ポーランド概観
さて、折角なので今回分析したポーランドの産業についても簡単に紹介したい。1ヶ月の平均賃金が6万円~8万円ほどのポーランドでも中国製品の低価格は驚異とされており、今回インタビューを行ったほぼ全ての人がポーランド製品はコストでは中国製品に太刀打ち出来ないと明言していた。地方での賃金は前述の数字よりもさらに低いので、正直言ってやや意外な印象である。
我々が調査した産業では、ほぼ全ての企業が「品質で中国製品以上、価格で西欧製品以下」というポジショニングであったが、その中でも低価格の労働力をテコに成長したコスト競争型の企業はかなり中国企業の脅威にさらされているようである。このような企業はヨーロッパ市場へのアクセスの良さ以外の優位 性に乏しく、また最近発足した新政権が最低賃金を1.5倍に引き上げる事を決定したため、今後益々厳しい状況におかれるのではないかと思われる。ある企業などは、さらなる低賃金労働力を求めてウクライナで新工場の立ち上げを行っている最中であった。
資本市場の発達は遅れており、株式市場などが企業の資金調達の場として活用されているとは言い難い状況。銀行からの借り入れにも抵抗感があるのか、たとえ大企業であっても、多くの企業が内部留保を元手に新規投資を行っていた。いくつかの企業は高品質且つ低コストの製品を生産することで大成功をしていたが、特に資本集約型産業などにおいては資金調達力の弱さが今後の成長の足かせになる可能性があると思われる。
印象的だったのは、共産主義時代に取り残されたような人と、資本主義に適応して生きている人が奇妙に同居していたこと。電車の中で話をした60歳過ぎの経済学の教授は、どうも話の端々に共産党時代への郷愁が隠しきれない様子であった(最近は資本主義経済の研究をしていると言っていたのに)。また、ある日訪れた会社では、60過ぎのたたき上げのガラス職人の創業社長さんが必死で我々にセールス・トークを展開してくれた。とても興味深いコントラストであった。
次回は、冬休み訪れたイースター島とパタゴニアについて、珍しく写 真いっぱいで紹介させて頂きたいと思います。