ゆったりとした1ヶ月の休みが明けると、いよいよ最後の学期が始まる。なまりきった体はどこかで現場復帰を望んでいるものの、この優雅な留学生活があとわずかで終わってしまうと思うと、寂しさは拭いきれない。一日一日を大切にしていかなければ、そう自分に言い聞かせることにする。
新学期が始まるにあたり最初に行なうのが、すべてが必修科目で構成されている1年次には要求されなかった、受講科目の選択という行為。これが、真面目にやるとなかなか難しい。
まず、各学期とも約50あるコースのなかから、5つまでしか取れない。「うん、面白そうだ、取ってみたい」と唸らせられる人気の授業がたくさんあるのが、本校ならではの贅沢な悩みか。スケジュールを見ると、取りたい授業がバッティングしていることが多いので、優先順位をつけざるを得ない。
その優先順位は、キャリア志向が変わるに連れて、微妙に変わってくる。僕自身についていうと、例えばヘッジファンドに進もうかなと考えているうちは、アセットマネジメント、バリュエーション、ファイナンシャル・エンジニアリング関連の科目を取っておきたいと思っていたし、留学前に働いていた業界に戻るとなるとこのような技術的な科目より、より一般教養というか、自身のビジネスパーソンとしてのキャパシティ・ビルディングに寄与するような科目を取りたいと思うようになる。あるいは、卒業後、どこかのタイミングで起業したいという気持ちが強くなると、自然とアントレプレナーシップ関連の科目(これだけでも多数用意されている)のウェイトが増してくるというわけだ。
教授の評価にもばらつきがある。昨年の授業評価のデータベースはHarbusという学生主催の新聞が開示されており、どの教授がダイナミックな授業を展開したか、どの教授が評判倒れだったかが一目瞭然となっている。ここHBSでは、教授といえども学生らの厳しい評価にさらされている。前年度にずば抜けた評価を受けた教授は定員の4倍という希望者を受けたのに対し、その逆は大幅に定員割れ、といった具合に。自分が関心がある授業の評価が低いのを見ると、評価が低くてもあくまで興味がある授業を取るか、関心からはちょっと外れるが人気が高い教授の授業を取るか、悩ましい選択に迫られる。
科目のミックスとして、例えばファイナンスのように、フォーカスした分野の科目で固めていくのか、あくまでジェネラル・マネジメントの教育を受けるんだという視点で、幅広い科目群を取るようにするか。また、自分がすでにある程度経験がある分野を取るのか、せっかくなので丸っきり新しい分野に挑戦しようと思うのか。それはそれで、また色々な組み合わせが考えられる。
いざ理想の科目ミックスが決まったとしても、各科目とも定員があるので、欲しい授業が思うように取れるわけではない。せっかく決めた自分の計画も、抽選漏れとなると再考を迫られる。各校とも、科目選択の仕組みは工夫があるようだが(例えば、各自が事前に持ちポイントを与えられ、それを取りたい各科目に割り振っていくとか、二次流通市場での交換が可能など)、HBSの場合は単純に自分の優先順位をつけていって、その順位に従ってプログラムが割り当てられていくということになっている。これを秋・冬学期通しでやるため、1番から10数番まで、どれを高順位にしてどれを下位にするか、ここでも思考が必要とされている。
そんな過程を経て秋学期に取った科目を振り返ると、以下の通り:
・ Creating Value Through Corporate Restructuring (CVCR)
・ International Financial Management (IFM)
・ Entrepreneurial Finance (ENT-FIN)
・ Entrepreneurship and Global Capitalism (EGC)
・ Tax Factors in Business Decisions (TAX)
CVCRはチャプター11を中心とした米国の企業再生に関する事例を多くみることができたし、期末ペーパーではダイエーの歴史と再生について調べる過程で、戦後の日本経済の大きな流れについて理解を深めることができた。IFMは超人気のDesai教授が滑らかに語る、為替や資本コストなど、多国籍企業が直面する財務上のイシューに関する講義を、うっとりとしながら聞き続けた。
しかし、今これらの講義を復習しようとケースをめくってみると、どちらかというとテクニカルな学びが中心であったことに気がついた。もしかしたら、これらよりもリーダーシップ・組織関連の科目を取った方が、その効果はより長持ちしたかもしれない、今更どうしようもないのだが、そんな風に思ったりもした。
ENT-FINでは、授業数日前に出稿したばかりのできたてホヤホヤのケースを取り扱うこともしばしばあり、アントレプレナーシップの世界では重鎮となるSalhman教授のもとでいくつものケースを取り扱った。これらのケースには起業家という個人のストーリーから、ビジネスモデル、ファイナンス、マーケティング、組織など、幅広いイシューが含まれているため、より学びが多いように感じた。
また、EGCでは19世紀後半から現代におけるグローバリゼーションについて、アントレプレナーシップという切り口で見ていき、あわせて各国の経済システムの違いや、貧富の差の拡大といったグローバリゼーションの功罪といった、より大きな問題について正面から向かい合う機会に恵まれた。
TAXは米国の税法についてだったが、これから(納税という行為を通じて)一生を通じて自身の稼ぎを分かち合っていくパートナーである税について、本質的な事項の理解を得、日本に戻ってからより深く学んでいこうという契機となった。
結局のところ、この科目選択という行為は、MBAプログラムにどのような学びを求めているのか、自身の哲学が試されているような気がする。秋学期はなんとなく面白そうな、教授の人気も高い授業を中心に集めたが、最後の一学期となった今は、技術的や実践的なものよりも、より学びが深く、自分のキャリアに長期にわたって影響を与えてくれるような科目を取りたいと考えるようになった。
というわけで、今学期受講することになった科目は以下の通り:
・ International Entrepreneurship
・ Entrepreneurial Management in a Turnaround Environment
・ Entrepreneurship and VC in Healthcare
・ Functional and Strategic Finance
・ Leading Teams
各科目の詳細については、追って紹介していきたい。
たかが学校の科目選択ごときで、と思われるかもしれないが、僕自身は結構シリアスな問題だと捉えており、この限られた幸福な時間を最大限有効に使いたい、そうした気持ちがものすごいプレッシャーとなってあらわれているからかもしれない。