Campus Report 2004

岩瀬 大輔 to Harvard Business School(全16回)

MBAホルダーへの道

Vol.15 最終学期もあとわずか

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年初のボストンは例年にない暖冬が続いた。雪は数回しか降らなかったし、帽子を被らず、靴も汚さずに徒歩で通 学する日々が続いている。暖かいといっても、摂氏5度~マイナス5度をいったりきたりだが、暗く、長い冬を覚悟させられるボストンでは、空が明るいだけで、晴れやかな気分になる。

合格通知を受け取った2004年1月には遠い先のように思えた2006年6月の卒業式も、あとわずかとなった。4月末をもってすべての授業・試験が終わるため、実質的には残りあと2ヶ月。周囲を見渡すと、1年の秋学期に戻ったかのように必死に勉強している人も少なくない。腰をすえて「勉強」することが、おそらくもうないことを思うと、無性に寂しい気持ちになるのが、よく分かる。

今回の留学で実感したことの一つは、現場から離れて、時間を取って自分自身を見つめなおすことの大切さ。日々の業務に埋没していると、自分の仕事を鳥瞰したり、もっと大上段から、そもそも自分がどういうキャリアを歩み、どんな人生をすごして生きたいのか、立ち止まって内省することがとても難しい。ビジネススクールの大きな魅力の一つは、そこで学ぶコンテンツだけではなく、この「立ち止まって、大きな視点から見つめなおす」という時間を作ることにあるように思えるし、その価値はかけがえがない。何度かお話しする機会があった、短期のAMPプログラム(経営幹部向けコース)に来ている大企業の部長クラスの方々も、この点を強調されていた。

将来、自分がキャリアを歩んでいく上では、何年に一度か、たとえ数週間、いや数日間でもよいので、必ずこのキャンパスへ戻ってきて、学生の席に座って教授やクラスメートに教えを請いながら、そのときに自分が取り組んでいる仕事、送っている人生を、ゆっくりと振り返る時間を作ろう、そう自分の胸に誓うことにした。現場復帰したらそんな志を保つのは、なかなか難しいのだろうが。

今回は、中間地点を折り返そうとしている冬学期の授業をご紹介したい。選択した5つの科目は、以下の通 り:
・International Entrepreneurship・
・Functional and Strategic Finance
・Entrepreneurial Management in a Turnaround Environment
・Entrepreneurship and Venture Capital in Health Care
・Leading Teams

■ International Entrepreneurship(国際アントレプレナーシップ)

週前半のX-スケジュール、朝8時半からは、米国以外の国におけるアントレプレナーシップの事例を集めたコース。ざっと振り返っただけでも、メキシコ、アルゼンチン、ナイジェリア、中国、日本、ロシア、パキスタン、イギリスといった国々のベンチャー企業について議論した。

ビジネスを評価し、次の打ち手を考えるにあたって、まずは国籍に関係なく検討しなければならない共通 の要素、すなわち市場の成長性、競争環境、顧客への付加価値、営業・マーケティング・オペレーション戦略、資金調達と投下、経営陣の確保といった事項がある。

その議論を済ました上で、「インターナショナル」であることゆえに生じる課題を見ていく。例えば、資金調達や良質な経営陣の確保が困難であったり、そもそもの私有財産や法の支配といった制度・インフラが整備されていない環境でどうするか。また、顧客や社員が多国籍にちらばっている状況でどのようにコミュニケーションを行い、ベンチャー企業を育てていくか、そんなことを議論してきた。それぞれのケースで背景知識としてそれぞれの国の経済や社会状況について触れるので、それも教養を広げるという観点からも興味深いコースだ。

100名×2セクション、計200名の学生が受講しているが、教室内はほとんどアメリカ人以外の学生。日本人も2年生10名のうち8名がこのコースを取っている。これまでの米国人学生主導のクラスとは、また違った雰囲気で議論が進む。また、担当のアイゼンバーグ教授は70年代に一度HBSで教鞭を取ったのち、20数年間自分で事業をやり、久々に学校へ戻ってきたという経歴を持つ。ケース当事者であるアントレプレナーを教室に呼んで、我々にベンチャーキャピタリストの役割を演じさせてビジネスプランを批評させたり、インターネットで数カ国の学生とのあいだを繋いでバーチャルなチームプロジェクトをやったりと、彼自身もアントレプレナーらしく、新しい試みを次から次へと行なっているのは楽しい。

■ Functional and Strategic Finance(機能的・戦略的ファイナンス)

10時5分からは、ノーベル経済賞受賞者であり、現代ファイナンス理論の重鎮の一人であるロバート・C・マートン教授によるファイナンス講義。HBSでは戦略論の大家、マイケル・ポーター教授とともに二人だけ、Harvard University Professorという栄誉ある肩書きを持っている。彼らほどの立場になると、通 常のケースメソッドによる講義を行なわないことも許されており、本講義はレクチャーと毎週の小宿題によって行なわれており、他のクラスとは雰囲気が異なる。

内容は、最先端のテクニカルな理論を扱うというよりは、既存の骨太なファイナンス理論を用いて、企業(や個人)にとって戦略的な課題をファイナンスの正しい考え方を使ってみていこう、というもの。教授は自身が育んできた現代ファイナンス理論を幅広い場面 で適用できることを世に知らしめることに非常に熱心であるようで、超一流の学者でありながら学究の世界に止まることなく、実務との橋渡しを常に行なおうとしているのが魅力だ。時折難解で理解できないこともあるが、歴史に大きく名を残す名教授と時間を過ごせるだけで恵まれていると思い、毎週の宿題を一所懸命こなすようにしている。

■ Entrepreneurial Management in a Turnaround Environment(事業再生マネジメント)

11時40分からは、もっとも人気が高い授業の一つで、定員200名の倍の数の学生が事前申請していたという授業。個人的には「アントレプレナーシップ」というのに惹かれて取ったのだが、実際はこれは枕言葉に過ぎず、完全にターンアラウンド(事業再生)の講義だった。破綻寸前の企業を題材に、もう清算してしまうか、チャプター11を申請するか、裁判所外の交渉で頑張るか、それぞれのシナリオ下のレンダーへの価値を計算した上で、再生に持ち込むとするとどうするか、週間のキャッシュフロー予測を立てて、再生プランを考える。

マーシャル教授はユーモアたっぷりで、非常に丁寧な教え方をするので人気が高いのは分かるが、ケースの予習は単純なものの時間がかかるややこしいキャッシュフロー分析を毎回余儀なくされていることと、先学期に同様にチャプター11の事業再生を中心とした授業と多くのオーバーラップを感じることから、今学期の他の科目と比較すると事前の予習に要する努力とそこから得られる限界的な学びのバランスが、やや悪いように思える。といえども、どの企業もなんらかの段階で業績は悪化し、ターンアラウンドが要求されることになるのだろうから、これは極めて重要なコースだと考えて踏ん張っている。

■ Entrepreneurship and Venture Capital in Health Care(ヘルスケアベンチャー)

週の後半、いわゆるY-スケジュールは朝ゆっくり眠れるようにし、11時40分から始まるこの授業と、午後1時から2時50分までの授業二つを取ることにした。

本講義は昨年アントレプレナーシップを教わったハマーメッシュ教授と、現役ベンチャーキャピタリストであるヒギンズ教授が二人で教えている。GDPの15%を占めるというヘルスケア業界に絞って、成功したベンチャーの事例を見ていっている。対象は主に製薬(バイオファーマ)と医療機器メーカー。書き下ろしたばかりの新品ほやほやのケースが次から次へと登場するので、ケースの新鮮さにはいつも感動。

学生も、あえてこの授業を取るくらいなので、ほとんどが医者かヘルスケア業界出身者であり、専門的な内容もかなり突っ込んで議論されるので、ついていけないことも少なくない。対象企業もヒギンズ教授が実際に投資したベンチャーが多く含まれていることもあり、ほぼ毎回ケースの当事者がゲストとして登場する。たいていが、数百億円規模で大手プレイヤーに売却を果 たしており、その結果を聞くたびに教室からはため息が漏れ、賞賛の眼差しが送られる。

ヘルスケア業界への就職を考えていたわけではないのだが、日本でも今後、ヘルスケアベンチャーが多く台頭するに違いない、そんな期待から、この分野において先進国である米国の事例を学ぼうと受講することにした。

このコースを通じて痛感しているのが、ベンチャーキャピタルに代表される米国型資本主義のダイナミズム。何千億円に相当する大量 の資本が医療系ベンチャーに投下される。その資金を用いて、優秀な研究者、エンジニアがこぞって大学を離れて新しい研究内容を商用化しようとする。その際、資本のアップサイドは強烈なインセンティブとして機能するとともに、市場競争を通 じた徹底した効率性をドライブする。それは顧客への提供価値を明確化することや、より効率的なデリバリーを果 たすこと、少しでもよい商品を開発し続ける試みである。劇的な競争環境のもとでは、一山当ててやるといった金銭的なモチベーションだけで始めるような起業家はすぐに退却を迫られ、自社の技術が本当に既存の医療のあり方を変えるんだ、そう信じてやまずに寝る間も惜しんで企業を成長させようとするアントレプレナーだけが残っていく。

また、ヘルスケアベンチャーへの投資経験が豊かであり、幾多もの成功・失敗事例をみてきたベンチャーキャピタリストが加わることによって、事業化する確率が高まる。また、既存の大企業ではとりたがらないようなリスクを、このリスクキャピタルはとることができる。そして、より商品・企業が成熟してくれば、株式市場を通 じた資金調達が待っている。成功したアントレプレナーはその経験と資金を持って、次の新たな挑戦へ向かっていく。

もちろん、途中では医療ならではの要素、すなわち公共性なり、連邦政府からの補助金、FDAによる許認可プロセスなどが存在し、これが健康や安全を担保するためのチェック機能として重要な役割を果 たしているが、イノベーションを牽引するメインプレイヤーはあくまでもベンチャーなのだ。ハーバード大内の研究開発のあり方や、国の助成金のあり方など、制度論にまで踏み込んで議論してきたのも有意義だった。毎回毎回、ワクワクしながら受講している。

■ Leading Teams(チームのマネジメント論)

シンプルな名前がつけられたこのコースは、昨年のリーダーシップ・組織行動論のコースからチーム・組織運営に関する内容を取り出して、より深めようとするもの。60名弱の比較的小さなクラスで行なわれるこの授業は、水~金の午後ということもあって、どこかゆったりとした雰囲気が漂っている。Polzer教授はまだ30代後半といったところか。長身で一見厳しそうだが、辛口のユーモアたっぷりで授業も笑いが絶えない。

この授業を取ることにしたのは、先学期の反省がある。ファイナンス関連の授業を多く受講し、すぐに使えそうな事項を色々と学ぶことができたのだが、短期的な効果 を追うばかり、よりビッグピクチャーで学びの「寿命」が長いものを取らずにいた。ある教授によると、卒業して10年以上経った卒業生に、「HBSでもっと学んでおいた方がよかった科目は?」と聞くと、全員が「LEAD」と答えるそうだ。そんなことも、理解できる気がする。

ちなみに、1年次のLEADのコースのシラバスに書いてあったのは、以下のような内容。
「これまで皆さんは、職場で個々人として優秀な成果を出してきたことでしょう。しかし、卒業後、皆さんは一人の優秀な個人としてではなく、何人もの人を動かして仕事をしていく立場になります。そして、優秀な個人プレイヤーであるほど苦労するのが、そのチームリーダーとしての立場への変遷です。本コースは、この個人からリーダーへの移転を無事に果 たすことを目的とします」。

ここに書かれている通り、入学前の多くの人は本格的な組織の長たるポジションについたことがないため、つい個人としてのケイパビリティ向上を目標としてしまう。ファイナンスの授業を受講することは、まさにその代表例。しかし、次期に誰もが気がつくのは、一人でできることはたかがしれており、いかにして自分以外の人を機動してより多くの仕事をこなしていくかが重要になってくる、ということだ。

この点、留学前に疑問に思っていたのは、リーダーシップとか組織の話なんて、学校でどこまで教えられる、学べるのか?ということ。もちろん、本屋にいけば「どうやって部下の心をつかむか?」といった類の本は並んでいるのだが、多くは精神論の域を超えることがないので。

しかし、一年のLEADの授業のときも感じたことは、この手のリーダーシップ系の科目も十分に学ぶことができる。もっとも、教える側からすると、やりにくいかもしれない。というのは、もっとタンジブルな知識や方法論を学ぶ科目と比べて、この手の話が「響く」ためには、受けて側がある程度成熟していることを必要とするから。自分が実際にチームを率いようとして、うまくいかなかった経験があればあるほど、「あぁそうか、そういう風にすればよかったんだ」としっくりくるのだろう。

そんなわけで、うまくいっていないチームの事例をベースに、いくつものサイドリーディングを交えて、ときにはグループでの作業をしながら、上手く機能するチームのあり方、及びチームリーダーとしてどのように介入をしていくか、ということを学んでいる。ここで学んだ内容は、今後のキャリアで長いことお世話になりそうだ。

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