今回のレポートでは新年からAnderson初の学長となったJudyOlianについてご紹介したいと思います。女性であるということと比較的ダークホースであったことから彼女の就任が昨年アナウンスされたときは学生おおむね「驚き」というのが正直な感想でした。他に女性の学長といえばロンドンビジネススクール学長で著名な経済学者、クリントン政権の経済顧問を務めたLaura Tysonの名前が挙げられます。彼女の記事が先日のファイナンシャルタイムスで紹介されているのでご興味のある方はご一覧を(こちら)
先日のHarvardサマーズ学長退任騒動でも証明されたように、アカデミックというのは様々なマネジメントの分野の中でも最も難しい分野として知られています。前学長のDean Willsonはバンクオブアメリカ出身でアカデミアの経験は薄いものの、長年のビジネスで養った実践的マネジメントでそこそこの成功を収めました。ビジネスの経験は薄く、長年アカデミアでキャリアを築いてきたDean Olianは彼とは対照的です。
Andersonではパブリックスクールであるということ、学生数がスタンフォード、バークレーと並び330人程度と比較的小規模であること、東海岸からの距離的ディスアドバンテージ、など課題はすでに山済みですが、最大の課題はカリフォルニア州政府の財政危機に伴う資金調達計画です。卒業生が少ないこと、卒業後起業家になる人が比較的多いことから、他校に比べて元々Andersonの寄付金の金額は少なく、資金繰りはタイトになる傾向があります。これがどのような意味合いを持ちうるかというと
● 優秀な教授陣の競り合いに勝てなくなる恐れがある。
WHARTONなどの大きな学校から教授陣も倍額のヘッドハントを受けるようです。但し、現在の教授陣の多くは好条件のロスでの生活環境やUCシステムのリサーチ能力を高く評価していることはプラス。
● 学費の引き上げ。
Andersonの学費は現在トップ10の中で最も安い$23,000程度(カリフォルニアレジデント)です。
● アプリカントが減る。
学費が引き上げとなれば、優秀な州居住者の一部が東海岸に流れることは必至。
● ランキングに悪影響を及ぼす。
当然集まるアプリカントの「質」も下がり、ランキングや就職活動にも悪影響が見込まれます。
● 就職が難しくなる
質の高い生徒が減れば当然リクルーターもわざわざ西海岸まで来なくなります。
● 卒業生からの寄付金が減る。
卒業生と在校生のリンクは就職関連のものが多く、在校生の質が低下すれば「目に見えるベネフィット」の低下に伴い、卒業生からの寄付金が漸減が見込まれます。
要約すれば、「何も良いことはない」のですが、公立校の趣旨として「自立財政」という考え方は薄く、優秀なファイナンスの教授陣がいるにも関わらず状況は芳しくありません。ビジネススクールでは将来のマネジメントとして学生も活発にガバナンスに参加することが期待されています。チャンネルとしては生徒会(Anderson Student Association)、最近毎月行われている学長のオープンフォーラム,随時行われる学生へのアンケートなど様々なものがあります。尚、学長の決定に際しても、学生の代表者は委員会でそれなりの権限を与えられていました。現在、対応策として議論されているのは以下の通り。
● 生徒数の増加
一番の課題である「質の維持」と若干相反することから議論が難しいのですが、結局アプリカントの10%近い増加を見込んで一学年360名へ増加することになる見込みです。フルタイムのほかにも夜間やエグゼクティブのプログラムもあるのですが、こうしたいわゆる「ノンコア」の学生数を増やすことにより収入の拡大を図る。
● プログラムの多角化
他校に比べて遅れをとっていた短期(1週間から1月程度)若しくは夏季限定のプログラムも拡充させる。最初の試みとしてアントレプレナーシップの下記プログラムが開催されます。Anderson看板教授(彼の授業はビッドしても取れないことで有名)も登場するためこのプログラムにはかなりの期待が集まっています。ご興味のある方はこちら(PDFファイル)をご参照下さい。
● 卒業生からの寄付金・コーポレートスポンサーシップの拡充
定期的にコンタクトを行い、Andersonコミュニティーとしての意識を高めていく。
● 国際戦略
既にシンガポールなどとはジョイント・プログラムを行っていますが、海外トップビジネススクールとの提携は優秀な生徒を獲得するためにも、常に課題となっています。現在、慶応、一橋、ロンドンビジネススクールなどとの交換留学(毎学期30名程度?)も行われていますが、拡充が議論されています。
● UCシステムから外れて私立校となる。
バークレーとAndersonはUCシステムの中でも稀な財政規律が保たれている組織であるため、剰余金が他の学校(アーバイン、デイビスなど)の赤字財政の穴埋めに充当されています。但し、この選択肢は拘束が多いことから実現は難しそうです。
あまり「パッとする対応策」はまだ見当たらないのが実情ですが、卒業生からの寄付もかなりの金額が積みあがりつつあるため、長期的には何とかなりそうな見込みです。公立校であるため対応がいささか遅い点は否めませんが、他の学校の友人の話を聞いてみても、一部校を除けば状況は「似たり寄ったり」の印象を受けます。ともかく近い将来に卒業生として何らかの形で学校の発展を支えていきたいと思います。
来月は期末試験と卒業式です。二年間あっという間に過ぎていきましたが、卒業後もしばらくカリフォルニアに滞在することになりました。某ファンドでゴルフと国際金融について鍛えられることになります。それでは皆さん、来月も宜しくお願い申し上げます。