3月も中旬を超えると、長かったエバンストンの冬も終わりに近づき、だんだん春めいてきます。今年の冬は歴史的にも暖かい年だったらしく、道端に残っていた雪も姿を消しました。とはいっても丁度これぐらいの季節が日本の真冬ぐらいの寒さなので、まだコートは手放せない状態ですが。
約10日間の春休みを終え、3学期目にあたる春学期が始まりました。もう3学期目なので早いですね。
今期の授業ですが、あいわらず+1科目の5科目を受講することにしました。夏休みにはインターンで実践の機会もありますから、気合いが入るところです。ケロッグの場合、春学期まで引っ張る必修科目はオペレーションの1科目しかありません(2年目が始まる前のCSRの集中講義は必須ですが)。残りの4科目は選択科目になりますので、だいぶ自由度が高まってきました。
今期選択したのは、次の5科目です。
戦略系2つ、ファイナンス系2つに、オペレーションが1つと、バランス良くなりました。
・Competitive Strategy and Industrial Structure 「競争戦略と産業構造」 |
・Empirical Method in Strategy 「戦略における、実証的メソッド」 |
・Finance II 「ファイナンスII」 |
・Venture Capital and Private Equity 「ベンチャーキャピタルとプライベートエクイティ投資」 |
・Operations Management 「オペレーション管理」 |
では、一科目ずつご紹介していきます。
<Competitive Strategy and Industrial Structure>
邦訳すれば「競争戦略と産業構造」という名前の付くこの授業ですが、企業の戦略の中でも重要な位 置づけを占めると思われる「競争」に直接フォーカスした内容となっています。もちろん、全ての企業はイノベーション、コスト低減、人材育成など、色々な面 で競争をしており、それぞれ戦略論の一部を形成してるわけですが、「競争戦略」という領域は、競合と市場で「戦っている」状況下で、どのように自社の「利益を最大化」するかという観点での戦略的意思決定を指しています。
そもそもビジネスにおける戦略論自体が、大国間のパワーバランスゲームにおける戦略的意志決定の方法論の研究から発展した領域ですので、競争戦略はまさに戦略論の真骨頂と言える分野でしょう。
そしてこの授業はケロッグの得意分野の集大成でもあります。
・産業構造と企業の競争優位性を分析する基礎となる 「ミクロ経済学」 |
・競合間の駆け引きパターンを分析する 「Decision Science(主にゲーム理論)」 |
・企業の心理的な行動パターンを分析する 「Organizational Behavior」 |
を縦横に組み合わせ、競合を見据えた経営判断の方法を分析していきます。
(上記3領域は、教授陣の数ではマーケやファイナンスと同じ位なのです。)
取り扱う具体的なテーマや事例としては、
・シリアル食品や小売店業界など差別化の度合いの大きい産業で、寡占化が可能な条件は何か?その際の戦い方は? |
・鉄鋼業界や航空業界など、差別 化が効かないコモディティ産業で、どのように競合と協調して互いの利益を最大化していくか?具体的なテクニックと、それが可能な諸条件は? |
・新興企業が大手に挑むときの戦い方は?その際の大手企業視点での最適な対策(潰しに掛かるのか?、無視するのか?買収するのか?)は? |
・衛星放送やネットビジネスなど、将来の独占的利益が予見される新規産業への参入はどのように判断すべきか?参入する上で、どのように競合を牽制し戦っていくか? |
・クーポンや、ポイントプログラムなどのプロモーション手段は、消費者だけでなく競合の反応まで見据えた上でどのように活用していくか? |
などなど、イノベーションの可能性など夢のある話はあまりなく、与えられた条件下における経済的利益最大化の方法を追求していくので、ドライな印象はあるものの、映画「13デイズ」で描かれたキューバ危機など、ギリギリの状況下における意志決定というのは大変難しく、故にまたリーダーとしての力量 が試されるエキサイティングな部分だと思います。
特に私はあまり競合がいない業界の出身で、かつ新規事業中心に仕事をしてきたので、厳しい競争環境での戦い方を勉強できてとても面 白かったです。ケロッグでの現時点でのマイベストクラスとなりました。
<Empirical Method in Strategy>
邦訳すると「戦略における、実証的メソッド」という事になりますが、この授業では、実際に競争戦略やマーケティング戦略を練る上で必要になる、定量 データの抽出にフォーカスした授業です。
ケロッグの戦略やマーケティングの授業では、実践性を重んじて定量 的分析が重視される傾向にありますが、それでもミクロ経済学や上記の競争戦略の授業においては、需要曲線、競合との差別 化の度合い、購入者の価格弾力性などのファンダメンタルズが分析の前提として与えられています。この授業はそれらのファンダメンタルズを実データから統計的分析によって抽出するテクニックを学ぶという位 置づけとなっています。この授業を取ることで、データの抽出から意志決定までという戦略プランニングのプロセスを一貫して勉強したことになるわけです。
必須の統計の授業では基礎的な回帰分析を勉強したわけですが、この授業ではさらに高度かつ多様な回帰分析手法を学んでいきます。統計ソフトも、必須の統計の授業ではエクセル用の統計マクロだけでしたが、この授業ではSTATAという社会統計学の分野で使われている統計パッケージを用います。コマンドラインによるプログラムを書く必要があるので慣れるまでは大変ですが、多種多様な分析がサクサクできるようになるので、大変効率的なソフトウェアです。
チームで実データを分析しプレゼンテーションを行うプロジェクトが合計3回あり、ソフトウェアの習得と併せてワークロードの重は極めて高い授業ですが、あえてこの授業を取る学生は分析マニアで大半がコンサル志向と授業に対するモチベーションも高く、教授も学術論文レベルの分析の厳密さを求めてくるので、大変勉強になりました。
この授業を受けた後は、ビジネス論文誌や教科書などに出ている統計分析をクリティカルな視点で評価することが出来ます。経営者向けにキャッチーなアイデアを提示している論文ほど我田引水的にデータ分析を行っており、鵜呑みにすると危険という事もよく分かりますので、他者の分析を利用する側の立場に立った際も有用な授業だと思います。
では、来月は残りの授業3つについてご紹介します。