Campus Report 2004

藤本 崇 to Stanford University Graduate School of Business(全21回)

MBAホルダーへの道

Vol.21 二年間の学生生活 (最終回)

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6月17日、二年間の学生生活が終わった。あっという間だった。私にとって卒業式はそれなりに感慨の深いものであった。感慨といっても別にキャップ&ガウン形式のアメリカン・スタイルの卒業式に感動したというわけでは無い。大学、大学院と既に2つのディプロマを貰い、中学、高校も入れると合計4回もの卒業式をアメリカで体験している私にとって、米国の"commencement ceremony"と呼ばれるイベント自体はかなりマンネリ化したものになっている(実際夏の暑い日差しの中、何百人といる生徒の一人一人が名前を呼ばれてディプロマを受け取るまで待っているというのはあまり楽しいイベントではない)。加えて、今回で修士号も二つ目になるのでさすがに自分でも学位の取り過ぎではないだろうかという気がし、そういった意味では卒業式自体にはあまり興味は無かった。

しかし当日いざ卒業式の行進の列に並び、横にいるクラスメートの顔を眺めつつ自分が過去2年間スタンフォードで経験した様々な物事を思い起こしていると、なんだか人生6度目の卒業式(小学校から数えて)にして、今回が初めて「人生のマイルストーン」と呼ぶに相応しい卒業式であるような気がしてきた。大学を卒業したときも工学修士を修了したときもそれなりにやり終えた感はあったが、このような特別な感慨はなかった。多分それは今回が私にとって初めての、自分のお金で、自分の人生の為に、家族への負担や様々なトレードオフまで考慮して自分で決断して踏み切った就学だったからだと思う。

3年前「自分のやりたいことが見つからないから」というそれだけの理由で、私は軽い気持ちでMBA受験を決意した。物流業界から抜け出したい、ただ何をしたいのか分からない、そんなときにスタンフォードGSBのホームページにある"Change Lives, Change Organizations, Change the World"というスローガンを見て、純粋に感動した。自分も何か世の中に影響を与えたいと思い、それ以上は深く考えずに受験した。

ところが合格してしまってから、実際仕事を辞めて留学をするということに対して自分が犠牲にするものをリストアップすると少し慌てた記憶がある。合格したら結婚もしていた(しかも妻は石橋を叩いて渡るような性格)。昇進を控えていた社内でのポジション、2年間の給料、ストックオプション、家族の健康保険、貯金、安定した生活など、失うものを考えるときりが無い。それで卒業後も今と変わらないような仕事に就くのであれば、留学に使った人生の時間とお金が無駄になるリスクは大きい。それでも私はどうしても違う世界を見てみたかった。アメリカの生活にも戻りたかった。

トレードオフが存在する決断には必ず決断した後もその決断の価値が問われる。2年間確かに楽しい毎日だったが、心の片隅でいつもどこかに、本当に1700万円払って来た価値はあるのだろうかという自問が絶えず頭の隅から離れずにいた。雑誌やブログで時折、「MBAはスキルでも資格でも無いし転職するときにも逆に重荷になるので取得する価値は無い」、などと書かれた記事を読み、そのたびに自分は卒業後に後悔するようなことだけは絶対避けようと誓った。そのためにこの2年間、勉強に、就職活動に、ネットワーキングに、自己分析にと、何に対してもがむしゃらに頑張ったような気がする。

そして卒業式を迎えたのだが、やはり自分で一番嬉しかったのは、全てを終えてみて、自分に対して後悔をしていなかったということだ。少なからず自分がこの2年間で注ぎ込んだお金、時間、emotional investmentが、知識、スキル、自信、モチベーション、感性という形で自分の中に蓄積された気がし、またそうやってスキルアップした自分だからこそ、キャリアへの転換も図れたのではないかと思えた。

勿論本当にどれだけスキルアップしているかは、転職した先のキャリアで試されることになるのであろうが、現段階で一番重要なのは、畑の違うキャリアへ進路を変更することに対しての自信とInspiration、そして財産と呼べる友人関係を得ることが出来たということだった。スタンフォードでお金では買えないものを得たとすれば、はっきり言って留学に使った費用が合計いくらかかったのかなんて関係ない筈。これが私の卒業式での感慨だった。

随分とくさいセリフを吐いたが、この留学日記を読んでMBA受験を考えている方の為に、もう少し客観的な視点から、私なりのMBA留学に対する総論を出してみようと思う。

まず、MBAは価値があるものかという質問に対して。
自分を含めいろいろなクラスメートを見てきていうと、これは実はかなりケースバイケースであると思う。私は自分で非常にスキルアップしたと思うし、MBAプログラムに行かずして今の自分は無いと思うが、では入学した学生が全員そうかというとそうでもない。

例えばプライベートエクイティや経営コンサルティングなどの業界からMBAに来ている人は、実際授業で新たに学べるビジネスの知識は少ないし、過去の職場より効率的なスキルアップをMBAに求めることは難しい。なぜならMBAで学んだことを彼らはキャリアの中ですでにもっと深い領域で実践してきているのである。知識面で行くと彼らはどちらかとgiverであり私みたいなビジネスの事を一から学んでいる側の人間がtakerということになる。

そうするとgiveばかりで彼らにはMBAに来る意味があるのかという質問になる。ところがこれはこれで十分ある(と思う)。彼らは自分達がコンサルタントや投資アナリストとして外側から見ていた事業をマネージするということ、つまり人事制度、リーダーシップ、社会問題への取り組みなど、マクロ的な分析ではあまり深く立ち入ることのなかったビジネスの泥臭い実務を垣間見ることが出来るし、将来の起業家、あるいは事業会社のマネージャーとの友人関係も構築できる。

勿論本当に遊びに来ている人もいるが、留学前にウォールストリートで死ぬほど働いた人ならば2年間の休息というものも人生の中ではそれなりに意義のあるものだ。そしてその人は休暇を取りながら、ウォールストリートに転職したいクラスメートの就職活動を支援し、逆に他のクラスメートから貰ったアイデアで次自分の人生でやりたい事業の案を練る。違った目的とバックグラウンドを持つ個人が大勢集まりgive &takeを行うので、享受できるメリットの選択肢も多い。英語で言う"There's something for everybody"ということではないだろうか。

ただしカリキュラムとしてのMBA自体は単なる学びの場、ビジネス用語でいうとプラットフォームを提供しているに過ぎないので、これらの価値を享受する為には受講する側からのそれなりの自己分析と習得努力が必要とされるということ、それからあまりに膨大な情報量にexposeされるので自分の時間とフォーカスする分野に対して優先順位を確立していることが必須。それさえしっかりやっていればここでの2年間の留学の価値は自分で如何様にも上げることができると思う。

次にMBAはキャリアアップに必要かという問いに対して。
これは永遠の疑問である。コンサルティングや投資銀行など、ビジネス・アドバイザリー系の仕事にMBAホルダーが多いのは事実である。ただどれ位多いかというと、大概どこのファームでも6割を超えることは無いのでこれを必要資格と解釈できるかは非常に疑問である。

次にマネジメントにおけるMBAの価値だが、これは悲しいことにほぼ価値が無いと言わざるを得ない。MBAを持つ経営者の数なんて0.1%も行かないはずだ。これは実は悲しい事実であり、私自身これだけ良いプログラムでありながら何故もっと多くの卒業生が経営のトップに携わっていないのか疑問だ。これは人材市場におけるMBAの位置付けが大きいと思う。特に日本では欧米に比べて経験重視の人材登用や人材の流動性の低さなどが要因となり、MBAホルダーが事業組織のトップまで上り詰めるというインセンティブが生まれにくいのではなかろうか。

アメリカでは大企業のCEOでハーバードビジネススクール出身という話はよく聞くが、日本でMBAホルダーがトヨタや松下、或いは大手都市銀行のトップに就いたというような話はあまり聞かない。総体的な割合で見るとMBAはマイノリティだが、私は個人的にMBAを取ることはキャリアアップにつながると信じている派だ。

マスターカードのCMを真似て、下にこの二年間の留学で使ったもの、得たものをリストアップしてみた。

消費した金額: 1700万円 
作った借金:600万円
受けたクラスの数:28
取得単位の数:108
新しく触れることのできたカルチャー:numerous
内定を貰った会社数:6社
それにたどり着くまでに面接した会社の数:20社以上
Inspirationを受けた人の数:100人以上
得た一生の友の数:370人
MBAプログラム在学中に受けたinspirationの価値:Priceless

最後に、私はスタンフォードMBAを受験しようと思っている方がいたら是非応援したい。30歳にもなってお恥ずかしい話だが、私も受験の準備段階から卒業するまで実にいろいろな人にお世話になった。家族や友人だけでなく、受験や留学を通して出会った人々のサポートによって、私は無事卒業まで漕ぎ着けることができたと思う。この場を借りてお礼を言いたい。

そしてその恩返しとして私は自分がして頂いたように、これからMBA留学を志す方々には、できる範囲でサポートしたいと思う。また、2年間私のつたない日本語の文章を読んで頂いた読者の方にも感謝したいと思う。私にとっては元々怪しかった日本語を維持する為の良きトレーニングであったのだが、読むほうにとってはかなり読み辛い文章ではなかったのだろうか。ここまで読んで頂いた方、本当にどうもありがとうございました!

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