今年のアメリカは日本と同様例年にない暖冬の日々が続きました。12月からオープンするスキー場も今年は年が明けても雪が降らず1月末になってやっとオープン。寒いイサカがずいぶん過ごしやすい冬となってしまいました。でもその冬もほとんど終わり、友達との会話ではあと1ヶ月半に迫った卒業式、そして卒業後のキャリアプランの話が多くなりました。
この最後のセメスター、1年の最初のセメスターの頃のように多くの授業を選択し必死に勉強をしている学生がいる一方で、このセメスターは卒業のために最低限必要な12単位のみを選択し、日々リラックスした生活を送っている学生もいます。シンガポールから留学している友人に至ってはこのセメスター前半で12単位を取得してしまい先日帰国の準備を開始していました。もう卒業かと思うと何とも淋しい気がしますが、最後のセメスター、悔いの無い学生生活を送りたいと思っています。
本日はこのセメスターで選択している授業をご紹介したいと思います。
(1). Investment and Portfolio Management (Full Semester course)
インベストメントバンカーとして働くためにはバイサイドの動きや思想を捉えておく必要があるだろうということでこの授業を選択しました。
この授業では、リスクとリターン、ポートフォリオ理論、アセットプライシングモデル、マルチファクターモデル、ポリシーアセットアロケーションといった投資思想及び理論を基礎から学んで行きます。
講義、ケース、シミュレーションで構成されていて学んだ内容をケースや実際にモデルを構築して確認できるため非常にバランスの取れた講義だと思います。ケースではアセットアロケーション(投資配分)ポリシーに関するものを取り扱い、グループメンバーとともにマクロ環境分析や数値分析を行い、ポリシーに従った上でリスクとリターンを最小化する最適ポートフォリオを構築します。授業ではチーム毎に分析結果を持ち寄り、どのような思想に基づいてポートフォリオ構築を考えていくのか、結果としてどのような数値結果が得られたのかについてディスカッションをしていきます。
(2). Securitization and Structured Financial Products (Full Semester course)
Hotelスクールの大学院生向けに開講している授業ですが、Johnson Schoolにおける他学部授業聴講制度を利用して受講しています。取り扱う内容は以下の通りです。
-不動産担保証券(Securitized Mortgage Back Securities)
-証券化プロダクト(Securitized Mortgage Products)
-不動産ローン担保証券(Commercial MBS)
-アセットバック証券(Asset-Backed Securities)
-International Securitization
授業では各債権の歴史や特徴、市場環境、債権の詳細(Payment、Principle、YieldやDurationの計算)、Tranchingの切り方、モーゲージ・ストリップ債、ディープディスカウント/ハイクーポン債などの設計や細かな計算を中心に扱いますので、非常に実務向きな授業です。
(3). Innovation in Pharma/Biotech (Half Semester course)
前職では製薬企業を担当することが多かったため、海外のメガファーマの今後の動きやトレンドを捉えておきたいと思い選択しました。授業はChemical and Engineeringの教授と、メリルリンチやクレディスイスで製薬担当グループの元マネージングダイレクターだった教授の2名が講義を進めて行きます。主に取り扱う内容は以下の通りです。
-各薬効領域の現状・課題・新薬の可能性
-製薬企業の新薬に関する問題
-バイオベンチャーの課題
-メガファーマとバイオベンチャーとの共同開発、
-そしてM&Aの際の企業価値評価、ライセンス契約の価値評価・考え方
この授業ではグループプレゼンテーションもあります。4名でチームを組んでメガファーマ1社を選び、その企業に対して今後の取るべき戦略/アクションに関する提案の作成が課題として出題されました。
私は同じMBAの学生1名、エンジニアリングスクールの学生1名、MPA専攻の学生1名とチームを組み、Bristol-Myers Squibbに対する心臓疾患領域におけるライセンスイン提案を作成しています。各ライセンスイン候補の絞込みを行う際、薬効評価や数値分析の前提としてのマーケットポテンシャルの評価も必要になるわけですが、エンジニアリングの学生と組むことにより非常にスムーズな分析作業を行っていくことができたと感じています。このように他学部との共同授業が提供され、他学部学生とともに共同作業ができる機会があるというのはジョンソンスクールの魅力の一つであると思います。
(4). Oral Communication (Half Semester course)
10名限定のクラスで、1週間に1度事前に与えられたトピックについてプレゼンテーションを行います。アメリカのプレゼンテーションスタイル、プレゼンテーションマテリアルの構成、ビジネスリーダーや大統領のスピーチスタイルなどを講義で学んだ後、各自がプレゼンを行い、他学生およびProfessorから良かった点、悪かった点について指摘してもらうことで次回のプレゼンテーションにおける課題をクリアにしてきます。
アメリカ企業のCEO500名のうち74%がOral Communicationはビジネスリーダーとして最も重要なスキルの一つであると回答しています。特にアメリカではプレゼンテーションの質やロジックのみならずその立ち振る舞いなどが非常に重要であり、そのような環境で語学のハンデがありながらも如何に説得力のあるプレゼンテーションを行うかについて実践を通して学べる非常に面白い授業です。
(5). Taxes and Business Strategy (Weekend course)
ジョンソンスクールでは、他の学校の教授やマンハッタンやボストンの実務家が週末講義を開講しています。このTax and Business Strategyはそういった授業の一つで、企業再編税制に詳しいUNCの教授が週末ジョンソンスクールを訪れ、2日間で集中的に講義する構成でした。2日間という短い期間であったため、ABC Reorganizationの適格要件などの細かい点は取り扱いませんでしたが、税制に関する全体感を理解するには十分な内容になっており、非常に効果的な内容でした。
(6). International Merger and Acquisition (Weekend course)
主に米と欧州各国におけるM&Aの制度(Taxの取り扱い、TOBやポイズンピルの相違点、ガバナンスの違い 等)について学んでいきます。教授は主にクロスボーダーM&A案件に対するアドバイス業務を行っている実務家で、合計6日間の週末コースとなっています。
この授業はロースクールとの合同授業であり、ロースクールの学生とチームを組んでグローバルM&Aのプロポーザルを作成する課題があります。私はL.L.Mコースのフランス人2名、ジョンソンスクール4名の計6名で構成されるチームに属しており、イギリスを拠点とするグローバルビール会社SAB Millerが、アメリカのボストンを拠点とするローカルビール会社であるBoston Beerを現金買収するストラクチャーを想定した提案書を作成中です。ビジネス的な観点、法律的な観点、ファイナンスの観点で分析を行い、最終的に60ページほどの提案書を作成することとなっています。
(7). Due Diligence in Private Equity Investment (Weekend course)
ジョンソンスクールの看板教授の一人であるBenDaniel教授主催による講義です。これも週末2日間で開催される授業です。2日間という短い期間ですが、戦略に始まり、オペレーション、ファイナンス、リーガル、組織、税制といった多面的な視点で実に計8名もの実務家がこの2日間でDue Diligenceの際のポイントを、実例を交えつつ講義をしてくれる非常に密度の濃い内容となっています。