今「あなたにとってMarketingとは何ですか?」そんなことをある企業の就職面接で聞かれました。「私にとってMarketingとは...、消費者とのコミュニケーションです。」間接的に人々に何かを訴えかけ、気持ちに変化を与える。それがMarketingなのではないかと思っています。では、どうやって"訴えかける"のか?その手段を学ぶ必要があるのです。
個人的に絶対に同意できないのが巷でよく聞く「Marketingは博打のようなものでやってみないとわからない」「フワフワとしていて実体がない」というような考えです。消費者心理、Marketing戦略、市場調査、などというものは全て数字を基に分析し、成功の可否をある程度予測し、結論を出すことが可能なはずだと私は考えています。その、主観的なものを定量的に分析する手段を学ぶことのできる授業がありました。
MKT621 Marketing Research Design & Analysisは実践的な定量的Marketing手法を学べるクラスでした。この授業ではConjoint Analysis、Multidimensional Scaling、Factor Analysis、Latent Class Analysis、Cluster Analysisなどの典型的Marketing手法ひとつずつ、統計ソフトSPSSを用いながら実際のデータを分析し学んでいきます。
Conjoint AnalysisやFactor Analysisなど、過去に何となくかじったことはあっても、どのようなことが知りたければどの手法を使うのが最も適切なのか、それぞれの手法の限界は何なのか、などまとまった形で学ぶ機会はそうないため、大変ためになりました。
しかも、統計ソフトなども使用経験がなかったため、コンピューターLabを使いながらの学習に悪戦苦闘していました。最終的にコースの仕上げとして、学んだ手法の1つを用いるグループでのプロジェクトと学術論文を読み学んだ手法について現在の研究最先端ではどのようなことが行われているのか要約するという個人でのレポートがありました。この2つが、深掘りすればするほど面白く興味をかきたてられるAssignmentsでした。
まずグループワークは日本人3人インド人3人という珍しいチーム構成で、しかもそのインド人のうちの1人がなんと私の就職先社長の義弟であると言うことが後に発覚しすこし緊張しながらのスタートでした。内容はConjointを使い184人の消費者の体重計の購入に関する趣向を分析するというもの。一見して簡単そうに思えたこの課題、取り掛かってみると意外に複雑で、壁にぶち当たることもしばしばでした。
184人の消費者を異なる趣向を持つセグメントに分け、それぞれのセグメントに相応しい製品を値段と共に提案するという課題なのですが、そのセグメント分けの方法に関し、グループ内で意見がなかなかまとまらないのです。ポイントは、とりあえず予測を基にセグメント分けしてしまうのか、個々にRegressionをかけてからセグメント分けするのか、という順序です。つまり詳しく言うと選択肢は以下の2つ。
- 年齢、性別、身体的特徴を基に仮説を立て、セグメント分けを行う。セグメント数はランダム。そこからそれぞれのセグメントの商品に対する趣向をRegressionにかける。
- 一人一人の趣向を別々にRegressionにかけ、その結果を基にセグメント分けする。セグメント数はRegressionの係数次第。その結果を年齢・性別・身体的特徴に関連付ける。
ヒートアップしたディスカッションと教授への質問の末、私たちがとった方法は以下。
- 一人一人の趣向を別々にRegressionにかける。
- その係数をCluster AnalysisのK-mean Methodでセグメント分けする。セグメントの数は何パターンか試してみる。
- 異なるセグメント数の結果を比較し、それぞれの特徴が最もはっきりするセグメント数を選ぶ。
- セグメントごとに再度Regressionにかける。その結果を年齢・性別・身体的特徴に関連付け、それぞれのセグメントの特徴を分析する。
- それぞれのセグメントの最も好む体重計の規格を割り出し、最適な商品と価格をデザインする。
そもそも課題にConjointを選んだのは私の希望で、何よりも新規商品の開発をする際に価格戦略も含めConjointは必ず必要なスキルだと思ったため、この手法をしっかり身につけたいと思ったからでした。しかし、やってみるとConjointだけではなくCluster Analysisも関わってきますし、Biasのない分析方法やセグメント分けの仕方など学ぶことが多くありました。とにかく楽しいプロジェクト内容だったので大満足です。また、最終結論に行き着くまでにチームメートととことん深く掘り下げ考え抜きました。お互いに「それは絶対に違う!」「その方法だけは納得いかない!」などと熱くやりあっただけに今でも本当に仲の良いメンバーです。
もう一つの課題は、授業で学んだMarketing手法について書かれている学術論文2つを自分で選び、現在実際にどのようにその手法が現場で取り入れられているのか、最先端の状況を調べ要約せよというもの。私が選んだのはMultidimensional Scaling(MDS)
について書かれた2つの論文です。MDSと言えば、2点間の距離データを無数に集めることで地図を正確に再現することが可能というものですが、同じようにMarketingでは、消費者の趣向と各商品のポジショニングとの距離から購入意思を計ることができるという手法です。ただ、消費者心理に関わるため地図のようにシンプルであるはずもなく、それを現実の世界に応用するには様々な方法が試みられていました。
私が調べた2つの論文によると、元来のMDSは消費者は値段と質の比較から購入を決めるという前提であるのに対し、もっとたくさんの要素が複雑に購買時の決断にからみあってくるというのです。購入する場の雰囲気、比較対象となる競合商品、ブランドの規模、そして消費者集団の規模など。当たり前の話ではあるのですが、それらをどのようにして定量化しMDSモデルに組み込むのかということになると話は複雑になり、その算出方法などが論文のメインポイントとなります。
追究すればするほど奥が深いMarketing Researchの世界。上記2つの課題はその魅力を垣間見させてくれました。Rossでまずお奨めのマーケティングの授業です。