三谷宏治の学びの源泉

[第1回] SFが教えるヒトの本質(前編)

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これから数回にわたり、私という個人が「何からどういったことを学んできたのか」をお話しようと思う。経営コンサルティングで言うところの「付加価値」。私の場合、その多くは純粋な独創に寄るものではなく、積み重ねられた「学び」を基にしている。

ただこれは、必ずしも経験者、年配者が優位と言っているのではない。経験しても、そこから本質的インサイトを得られないのでは意味がないし、しかもそういったインサイトは、人生のあらゆる経験から得られるものだ。10代の時それは始まり、20代にこそ最大の飛躍がある。30代の人は・・・最後のチャンスだ。

さて、コンサルタントの基本的習性として、「対象、目的、スコープの明確化」がある。対象や目的、つまりこのお話が誰の何の役に立つか、という点はしかし、敢えて曖昧なままにしておこう。このHPを訪れられた多様な方々の「学び」のきっかけになればとだけ考えている。

スコープは、ネタの続く限りではあるけれど、私の学びの源泉として「本」(SF、歴史小説、マンガ、科学)や「人」(同僚、クライアント、子ども)等々がある。これらを順にお話ししていきたい。
普段言っていること(CRM)と違い、ちょっとプロダクトアウト的なエッセイであるが、とりあえず、会社(アクセンチュアや戦略グループ)の宣伝や紹介は最小限で済ませることとして、本論に入ろう。

今回は、SF、サイエンティフィック・フィクションだ。書籍のあらゆるジャンルの中で、SFこそが、最も人の本質に迫るものなのだ。

私は生来かなりの本好きで、というより活字好きで、書いてあるものはたいてい何でも好きである。テーブルの上にある調味料にしても、必ず手にとって裏の表記をまず読む。味もあるけど、成分表や注意書きも大事である。健康のためではない。活字がそこにあるからだ。実際、昔々、N総研での就職活動時に履歴書の趣味の欄に「活字を読むこと」と書き、役員面 接で「君のような自由な人は、うちには合わないかもしれないねえ」と言われたこともある。「私もそう思います」という言葉は飲み込んだ。

ただ、本好きと言っても高校卒業時までは対象は相当偏っており、読書の9割方はまさにSFや科学書だった。多いときには一週間で31冊のSFを読んだこともある。頭の中はいつも「宇宙」や「超能力」のいわゆる(どこにでもいる?)科学少年だったわけだ。

少年ながらに思っていた。「ああ、このSF漬けの膨大な時間は、楽しいけれど、きっと将来役に立たない時間なんだろうなあ・・・」と。でも、そうではなかった。
そのことを、私は10年後、某社での役員懇親会で知ることとなる。

SFには幾つかの「類型」がある。「E.T.」「未知との遭遇」といった『ファーストコンタクト』もの、「2001年宇宙の旅」「バーサーカー三部作」「戦闘妖精 雪風」といった『人工知性』もの、「百億の昼と千億の夜」「コンタクト」「BRAIN VALLEY」といった『神』もの、「地球幼年期の終わり」に代表される『進化』もの。

例えばファーストコンタクトものでは、我々は「コミュニケーション」の本質を見せられる。
そもそもコミュニケーションとは何だろうか。情報の伝達?交換?変化? その前に、情報の定義は? 伝達のためのプロトコル(手順)は? 情報評価のためのクライテリア(基準)は?

相手が全くの異世界から来た者である場合、挨拶とはなんだろう。音か光か、殴り合いか抱擁か。好意と悪意はどう表現されるのか、人間的感情などあるのか。そもそも生死は同じ定義か、死(活動停止?)は相手にとって忌むべきことなのか・・・ まともなコミュニケーションの成立は、かなり絶望的である。コミュニケーションとは、膨大な「前提条件」の上で成り立つ極めて精妙なガラス細工なのだ。

地球という同じ環境に育つ、似たような知性体同士のお話しでは、決して実現することのない、決定的な「断絶」の場がSFでは生み出せる。そう、SFとは、ある本質的なテーマを、純粋に議論・表現するための理想的な実験場なのだ。

星新一は問う。「あなたはある日、相手を食べることが挨拶の宇宙人と出会った。その挨拶を断れば宇宙戦争で地球は滅びる。さて、アナタならどうする?」

私が最も影響を受けたSFの一つはアーサー・C・クラークの「地球幼年期の終わり(原題:Childhood's End)」である。これはヒトの『進化』を扱ったものだ。
設定は簡単。ある日、圧倒的科学力を誇る宇宙人(上主:Over load と呼ばれる)が、地球を訪れ宣言する。これより地球を自分たちの管理下に置く、と。ヒトは驚き、反発し、抵抗し、諦める。そして、時を置かずして子供たちの『進化』が始まる。その進化は圧倒的で、親たちとはもう言葉や思考、感情を共有することすら出来ない。

それら次世代人類から見れば、今のヒトは遠い祖先の一つに過ぎない。我々(ヒト)自身、祖先である原人(ジャワ原人など)を、理解し、尊敬することがあるだろうか。進化したサル程度にしか思うまい。次世代人類から見た我々も、必ずそうなる。
生み出した親でありながら、子を理解も出来ず、されず、滅ぼされる。そういう日が来るのだと。真の『進化』とは、そういう壮絶なる断絶なのだと。

最後にクラークは、上主(宇宙人)にこう言わせている。「ヒトはこれを悲しむべきではない。次世代の知性体を生み出せたことを誇るべきだ。我々の種族は今のヒトよりは遙かに優れるが、決して我々から次世代の知性体は生まれてこない。その悲しみは、子に滅ぼされるそれより深いのだ」と。
これらメッセージの正しさや大きさの評価は、読者諸氏に任せよう(是非、読んでみて下さい)。ただ私には思える。これは確かに、ヒトの本質、進化というものの本質を描いている、と。

連載第一回はSFの前編として、ここまでとする。後編はSF話に加え、科学書(フィクションでない)の話も加え、得られる「本質」を紹介することとしよう。

SFリスト
  • 2001年宇宙の旅

    アーサー・C. クラーク著、ハヤカワ文庫SF
  • バーサーカー三部作(『皆殺し軍団』『赤方偏移の仮面 』『星のオルフェ』)

    フレッド・セイバーヘーゲン 著、ハヤカワSF文庫
  • 戦闘妖精 雪風(改)

    神林 長平 著、ハヤカワ文庫JA
  • 百億の昼と千億の夜

    光瀬 龍 著、ハヤカワ文庫 JA(萩尾 望都によるマンガ版もある、少年チャンピオン・コミックス)
  • コンタクト

    カール・セーガン 著、新潮文庫
  • BRAIN VALLEY

    瀬名 秀明 著(パラサイト・イヴの作者)、角川文庫
  • 地球幼年期の終わり

    アーサー・C・クラーク 著、創元推理文庫
  • 上弦の月を喰べる獅子

    夢枕獏 著、早川文庫JA
科学書
  • 消えたイワシからの暗号

    河井智康 著、三五館
  • 大絶滅 Extinction

    D. M. ラウプ、平河出版社
  • 法隆寺を支えた木

    西岡常一・小原二郎 著、NHKブックス
  • スノーボールアース

    ガブリエル・ウォーカー 著、早川書房
  • 地球大進化 第1巻~第6巻

    NHK「地球大進化」プロジェクト 編、 NHK出版
  • 美しくなければならない - 現代科学の偉大な方程式

    グレアム・ファーメロ 著、紀伊國屋書店

プロフィール

三谷 宏治 氏

KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に子ども・親・教員向け)に注力し全国で講演・研修・授業を行う。 著書多数。『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『一瞬で大切なものを決める技術』はビジネス書賞を獲得。近著に『戦略子育て』『新しい経営学』『戦略読書〔増補版〕』など。早稲田大学ビジネススクールおよび女子栄養大学 客員教授。永平寺ふるさと大使。

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