#心にヒマのある生物、人間
まずは、マンガの前編で書いた「寄生獣」に戻る。主人公 新一とそれと一体化した寄生獣ミギー(右手を代替しているからミギー)。物語は、人類とそれに寄生し捕食する生物 寄生獣の間の戦いと共生をつづったものだ。彼らは元来、極めて合理的であり、所謂社会性や人間的感情もない。物語はその対比を示しつつ、人間の非合理性や感情の意味を探ってもいる。
様々な戦いが終わり、最後のシーン(第10巻)でミギーが静かに問いかける。
「ある日 道で・・・」
「道で出会って 知り合いになった生き物が」
「ふと見ると 死んでいた」
「そんな時 なんで悲しく なるんだろう」
「そりゃ人間がそれだけ ヒマな動物だからさ」
「だがな それこそが 人間の 最大の取り柄 なんだ」
「心に余裕(ヒマ)のある生物」
「なんと すばらしい!!」
何年か前にNHK教育テレビで「野猫学(のねこがく)」をやっていた。琉球大学 助教授の伊澤雅子さんによるものだったが、これはかなりの衝撃だった。ノラネコを学術的には野猫と呼ぶことも新鮮だったが、様々なフィールド調査を通じて、その深い本質を解き明かそうとする情熱。彼女の本業は動物行動学でイリオモテヤマネコなど希少種保全なども研究テーマだが、この野猫研究も中核テーマの一つだ。
ここで明かされるネコ社会の基本原則(例えば「道の通行は先着順」「高いところにいるものが勝ち」等)は大変興味深いがこれはNHK人間大学テキスト「群れる・離れるの動物学」に譲るものとして、私の最大関心は「心の余裕(ヒマ)」だった。「ノラネコ研究で食っている人がいるんだ・・・。」
私の大学時代の友人には基礎科学の研究者が多く、星や素粒子や時間の性質を研究することで食っている。研究対象は100億光年(946兆km・・・)の彼方であり、1兆分の1メートルの極微であり、1兆分の1秒の刹那(せつな)だ。(因みに刹那は仏教語。1回指を弾く時間の65分の1の時間という。仏陀はその間に人の一生の価値があると説く)基本的に一般人の日常生活には、全く何の関わりも持たないテーマばかりだ。
では彼・彼女らを食わせているのは?主には国民の税金だったりする。つまり我々みんなだ。我々の心の余裕が、それを許し、また促進しているのだ。未来を知りたい、過去を知りたい、存在の理由を知りたいと。
野猫もそうなのだ。 それが直接的に人間社会の役に立たなくても良いのだ、きっと。身近な生き物、ノラネコの、面白い生態が分かったら楽しい。それでいいのだ。
新石器時代以降、人間の生活時間配分は劇的に変わった。特に近代においては大衆一般にまで「ヒマな時間」が行き渡った。食べることに追われなくて済む生活、命の危険を感じ続けなくて良い生活を、あらゆる地球上生物の中で初めて、大量に手に入れたのだ。
それこそが人間の特異性を支えている。この限りない(身を滅ぼすほどの)探求心、好奇心、そして慈悲心。
人であるために、人であることの意味を最大限 活かすために、心に余裕(ヒマ)を持とう。
追いまくられていてはダメだ。時間的にも精神的にも。どう時間的余裕を作るかは本稿の守備範囲ではないが、マンガによる精神的余裕の作り方を、多少述べてみよう。
......以下の続きは本でお読み下さい。
- マンガリスト
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- MASTERキートン/勝鹿北星・浦沢直樹/小学館
- PLUTO/浦沢直樹・手塚真/小学館(原作 手塚治虫「鉄腕アトム 地上最大のロボット」)
- Magical Super Asia 深く美しきアジア/鄭問/講談社
- 東周英雄伝/鄭問/講談社
- バガボンド/井上雄彦/講談社(原作 吉川英治「宮本武蔵」より)
- 寄生獣/岩明均/講談社
- ヒストリエ/岩明均/講談社
- ヘウレーカ/岩明均/白泉社
- 蒼天航路/李學仁・王欣太/講談社
- 陰陽師/岡野玲子・夢枕獏/白泉社
- 風の大地/坂田信弘・かざま鋭二/小学館
- 湾岸MIDNIGHT/楠みちはる/講談社
- 熱風の虎/村上もとか/集英社
- 11人いる/萩尾望都/小学館
- 東の地平 西の永遠/萩尾望都/小学館
- 百億の昼と千億の夜/萩尾望都/小学館(原作 光瀬龍「百億の昼と千億の夜」より)
- 風の谷のナウシカ/宮崎駿/徳間書店
- ブルーシティ/星野之宣/MF文庫
- 巨人たちの伝説/星野之宣/MF文庫
- プラネテス/幸村 誠/モーニングKC
- 攻殻機動隊/士郎 正宗/講談社
- ピンポン/松本大洋/小学館
- ぼのぼの/いがらしみきお/竹書房
- よつばと/あずまきよひこ/メディアワークス
- 動物のお医者さん/佐々木倫子/白泉社
- おたんこナース/佐々木倫子/小学館
- Heaven?/佐々木倫子/小学館
- NHK人間大学テキスト「群れる・離れるの動物学」/伊澤雅子/日本放送出版協会
- ノラネコの研究/伊澤雅子 文・平出衛 絵/福音館書店