#見つめ続けること:山口 瑠璃光寺 五重塔
今回は記念すべき連載10回目。気合いを入れていきましょう。
前回は鉋(かんな)とか大鋸(おおのこぎり)とかの話に始まって、薬師寺、三十三間堂の話をした。道具の進化が建築形態を変え、文化そのものにも大きな影響を与えたこと。薬師寺という大伽藍を構築・再建するに至った人々の強烈なる意思の力のこと、特に高田管長の写経勧進に掛けた執念と、西岡棟梁の教えについて述べた。「親方に授けられるべからず。」
三十三間堂では仏像の話を色々と。特に仏教に取り込まれたバラモンの神々(迦楼羅王(かるらおう)とか)の話などをしたが、これらに見つめられての場の雰囲気こそが主題であった。
時間をゆっくりにして、自分を見つめ直すに最適のところだ。
さて、もう一つ、稀有なる仏塔を紹介しよう。山口県山口市山口駅から車で6分、1442年落慶のものだ。九輪の尖端まで31メートル、割と大柄の、しかし非常に優美な五重塔だ。最大の特長は、屋根が檜皮葺(ひわだぶき)であること(他には奈良 室生寺、広島 厳島神社、奈良 長谷寺など)。
文字通り、ヒノキの樹皮で葺かれた屋根なのだが、葺くにも維持するにも大変お金の掛かるものである。樹齢80年以上の立木から、樹皮を剥がすことで採取する。そもそも重要文化財の檜皮葺の建物だけでも700棟、その維持に年間3,500平方メートルの葺き替えが必要というのに、大きなヒノキそのものが日本には少なく、かつ、採取の職人さん(原皮師 もとかわし)も減少で、大変な状況なのだ。
実はこれは昔も大して変わりなく、大変高価で人手が掛かるため、ある地位以上の者しか家を檜皮葺にすることは許されなかったという時代もある。
それでもその圧倒的な美しさ故に、多くの古寺、古塔で用いられてきた。そう、ここで言いたいことは、この瑠璃光寺 五重塔の美しさなのだ。そして私はそれに魅入られた。
近くに寄ったり、ちょっと離れたり。だいぶ距離を取って回りの風景と一緒に見たり。もちろん途中で飽きたりもする。でも、見続ける。結局、延べ5時間ほど眺めていた。
そして、じーっと見続けていると、次々に色々なものが見えてくる。それまで見えなかったものが見えてくる。
綺麗に反った軒の先に揺れる風鐸(ふうたく)、屋根を支える複雑な木組み、下二重にだけある高欄、軒が深く塔自体はかなり細身であること等々。
今までもそこにあって風に揺れ、音を出していたのに気が付かなかった風鐸。一旦眼にはいると4隅 x 5段、20個の風鐸が急に大きな存在感をもって迫ってくる。
小林秀雄は、美の鑑賞は修行である、と言った。そして、ただ見続けよと。それは苦しく、時には退屈なものであるが、見続けることで「それ」は見えてくる。
私が二十歳の夏に経験したことは、そんなことであった。
#遠くを見つめること:東大寺 戒壇院 四天王像
今回の本論である、四天王像の話に移ろう。
東大寺と言えば大仏さま(盧舎那仏 るしゃなぶつ)。でもそれだけじゃない。この東大寺という大伽藍(がらん)は凄い。入り口である南大門には左右に、運慶・快慶・湛慶(運慶の長男)らによる巨大な仁王さま。大仏殿の右手にはお水取りで有名な二月堂。近くの法華堂には三目八臂(さんもくはっぴ)の不空羂索観音像に月光(がっこう)菩薩像。奥には宮内庁直轄の正倉院。まさに国宝のオンパレードだ。
そして大仏殿裏から左側へ数分歩いて下ると、戒壇院 戒壇堂だ。ここはメインコースから離れているのでいつも静か。この戒壇堂の中にそれは存在する。
戒壇院 四天王 広目天(こうもくてん)立像。
四天王とは仏の住む須彌山(しゅみせん)の四方を守る神様である。東を持国天、南を増長天、北を多聞天(=毘沙門天)、そして西を広目天が守護する。
広目天の梵名ヴィルーパークシャとは、「通常でない眼を有する者」という意味であり、額に第三の眼を持つヒンズー教の主神シヴァも同じ名で呼ばれる。
戒壇院の広目天は邪鬼の上にしっかり静かに立ち、左手に巻物を、右手に筆を持っている。そして眼を細め、眉を寄せ、遙かなる彼方をひたと見つめている。その視線の厳しさと視点の遠さは例えようもない。一体、何億光年の彼方を見ているのだろう。一体、何を見、書き留めようとしているのだろうか。
......以下の続きは本でお読み下さい。
- 旅リスト(四国編)
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- 高松/栗林(りつりん)公園:広大な園には数々の名所。借景の紫雲山が美しい。夏は5時半開園、早朝散歩に最高
- 四万十川(しまんとがわ):日本最大の清流。水底には鮎がキラキラ。欄干のない沈下橋はスリル満点
- 松山/道後温泉本館:坊ちゃん湯、あります。朝6時の一番湯争いに加わってみます?コワいですよ
- 高知/桂浜:坂本竜馬の銅像が太平洋を望む。言わずと知れた竜馬ファンの聖地
- 香川/琴平町 金刀比羅宮:奥社までは1368段。金毘羅は梵語でワニのことであり海上の守護神。故に絵馬殿には「海上安全、大漁満足」の絵馬が一杯