三谷宏治の学びの源泉

[第54回] 私的発想力:序論

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 #ある発想のお話:「空気はなぜ透明か」

 ある夜、自分の部屋で一人テレビを見ていた。お気に入りのNHK教育の「高校講座」だ。何が楽しいって言って、実験の楽しさ。学校では見られない、いろいろな実験を見せてくれる。
 ちょっと危険な香りのする大人の世界、に見えた。
 その日は「化学」、ハロゲンの回。(フッ素F、塩素Cl、臭素Br、ヨウ素Iなど)
 テレビの中で淡々と実験が続く。生まれて初めて見た「色の付いた気体」たち。猛毒でもある臭素は強い赤褐色を放ち、ヨウ素はビーカーの中で濃い紫色に揺れていた。凄い。
 そのときフト思った。「色の付いた気体が色々あるのに、なんで空気は透明なんだろう」「地球上で一番多い気体(空気≒窒素+酸素)や液体(水)が透明だというのはとてつもなく便利なこと」「これが偶然のハズがない。きっと何か理由があるはずだ」
 それから一週間、頭の片隅で考え続けた。そして気がつく。空気が透明になったのではない、ヒトの目が、地球上の生物の目が、そう見えるよう変わってきた(=進化した)のだと。
 これは1976年頃のお話。田舎に住む小学6年生の頭の中に浮かんだ「問い」、それが「空気はなぜ透明か」だった。

 この問いは、空気を知っているだけでは決して生まれなかった。それだけでは、空気が透明であると言うことにすら気がつかなかっただろう。不透明な気体(臭素やヨウ素)の存在を知って初めて気がついた「問い」だった。

 #生命大絶滅の「発見」:生命種のはかなさ

 地球生物種の「大絶滅」を発見したデイヴィッド・M・ラウプ氏は、異色の古生物学者だ。1982年、彼はシカゴ大学の同僚のジャック・セコプスキー氏とともに、地球生命の歴史上、5回もの大絶滅が起きていたことを定量的かつ統計的に示した。
 ラウプ氏が組んだプログラムをコンピュータが静かに実行する。はじき出されたアウトプットを見て、彼はうなった。
 「ありえない!(It can't be right!)」
 それほど見事な分析結果だった。

 生物は種の単位で数えると、現在約200万種が知られ命名されている。実際にはその数倍以上存在するだろう。ヒトもその一つなわけだが、種レベルだとかなり頻繁(万年単位だが)に絶滅が起こる。旅行鳩(数億羽いたが食用やレジャーハンティングで1914年、絶滅)を初め、われわれ人間が絶滅に追い込んだ種も多い。
 ヒトは、生物分類でいくと、哺乳類のサル目(いわゆる霊長類)のヒト科、ヒト亜科(ヒト科には他にチンパンジー亜科がある)、ヒト属の一種、ホモ・サピエンス、である。(目→科→亜科→属→種)
 ここにも生命絶滅の歴史がある。ヒト亜科だけを見ても、現存する種はヒト属のホモ・サピエンスだけであり、アウストラロピテクス属も、パラントロプス属も今はない。
 ヒト属の中でも、ホモ・フローレシエンシス、ホモ・ルドルフエンシス、ホモ・ハビリス、 ホモ・エルガステル、ホモ・エレクトス(ジャワ原人など)、ホモ・アンテセッサー、ホモ・ハイデルベルゲンシス、ホモ・ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人)、と様々に進化してきたが、ここ数百万年のうちに全て滅びた。
 過去19以上の生命種が発生したにも拘わらず、現存は1種(ホモ・サピエンス・サピエンス)だけ、というのが、ヒト亜科の成績だ。

 #「発見」の素は専門の壁を超えた横断データ

 逆に言えば、種は滅びたが、ヒト科は残った。「科」や「目」はなかなかにしぶとく、簡単には科や目ごと消えて無くなることはない。
 ところが白亜紀末(6,500万年前)の大絶滅では、当時700あった生物科の14%がたった100万年の間に消え去った。その中には権勢を誇った恐竜たちも含まれている。このとき、属レベルでは38%、種レベルでは65~70%が絶滅したであろうと推定されている。
 さらに、古生代のペルム紀末(2億5,100万年前)の大絶滅では、なんと40%もの科が消え去った。最大96%の種が絶滅したであろうとラウプ氏は推定する。

 こういった大絶滅はラウプ氏の「発見」以前では、なんとなく認識はされていたが立証はされておらず、異論も多かった。
 この「いつどんな大絶滅があったのか」という研究には、それまで専門分化して個別にしか行なわれていなかった、生物種別の情報(特に発生と絶滅に関しての)の幅広いデータ整備・分析が不可欠だった。
 かつ、特定の時代だけを見ていては、普通の状態なのか、大絶滅かの区別はつかない。だから化石情報の残る全時代に渡っての情報が必要だった。
 一人一人の専門家たちが相手にしてきたのは、ある時代のある生物種群だ。それらの生物が、いつなぜ生まれ、どう生活(何を食べ誰と戦いどう繁殖)し、いつ頃なぜ絶滅していったのかを深く深く研究している。その努力によって初めて、生物種ごとの発生・絶滅年代が特定される。
 ラウプ氏の同僚であったセコプスキー氏は、この発生・絶滅情報の収集と整備に努め、1980年頃には全時代・全生物種にわたる3,500件もの絶滅データを持っていた。
 それをラウプ氏が数学的に統計処理して、過去6億年の間に大絶滅が頻繁に(約2,600万年ごとに)起こっていることを証明した。(注:周期的と言えるかについての議論は続いている)
 この全生物種横断、全年代横断のデータこそが、大発見の素だったのだ。

 専門の壁を越えて、大きく横と過去とに比べた視点が、そこでの「不変」と「変化」を初めて浮かび上がらせたのだ。

 #『発想の視点力』で述べること

  2009年始めに『正しく決める力』を上梓した。そこでは、戦略的な意思決定および実行力向上のための超基本技を3つ、述べた。
 「重要思考」「Q&A力」「喜捨法」。いずれも、これまで自分自身が経営コンサルタントとして肝に銘じ、実行してきた考え方であり技だ。
 この8月に上梓する『発想の視点力』は、発想力向上のための本だ。
 そこで述べる発想の視点も3つ。「比べる」「ハカる」「空間で観る」だ。
 本稿で示したのは、その「比べる」の一部。ヒトは絶対値や重さを直観できないが(だから「重要思考」が必須)、差には敏感だ。それを逆手にとって、発想に繋げるのが「比べる」視点だ。大きく横や縦に比べることで、不変や変化が見つかる。
 全生命種・全時代の絶滅データを比べることで、「大絶滅」は発見された。有色の気体と比べることで、「空気の透明さ」の価値が見つかった。

 あなたは何を「比べる」だろうか。そこで何を見つけ出すだろうか。
 発想力も鍛えられるモノ、と信じている。

お知らせ:8月上旬、日本実業出版社から『発想の視点力』(予価1580円)が刊行されます。お楽しみに!

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プロフィール

三谷 宏治 氏

KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に子ども・親・教員向け)に注力し全国で講演・研修・授業を行う。 著書多数。『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『一瞬で大切なものを決める技術』はビジネス書賞を獲得。近著に『戦略子育て』『新しい経営学』『戦略読書〔増補版〕』など。早稲田大学ビジネススクールおよび女子栄養大学 客員教授。永平寺ふるさと大使。

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