三谷宏治の学びの源泉

[第58回] リフォームで育む「考える手足」2

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 #中古マンションリフォームの面白さ

 一戸建てだと、中古はコワい。築年数が浅いものでも断熱や通気など施工の質は住んでみないと分からず、いわんや耐震強度などに関わる基礎や構造材の出来などは、大地震がこないと分からない。だから私個人としては中古一戸建ての購入、という選択肢はほぼあり得ないな、と思う。

 しかしマンションの場合には、それらのリスクがある程度カバーされる。開発会社はどこか、施工会社はどこか、ご近所さんや住人による評価はどうか。それらをちゃんと情報収集すればだいたい分かる。特に中古であれば、現に住んでいる人々が居て、そのヒトたちからの情報が得られるのだから、住環境の評価は新築より確実だ。なにせ新築マンションは、通常、建つ前に購入を決めなくてはいけないのだから。かつ新築と言っても、間取りの自由度もたいしてない。
 割安の中古マンションを購入し(ただし築浅のもの)、リフォームして住む。これは今後の住宅選択における1つの大きな選択肢だろう。

 #リフォームとリノベーションの中間という選択

 言葉の定義次第だが、リフォームは割と小規模なもの、リノベーションはいったんスケルトンにして作り替えてしまうこと。
 大ざっぱに言えば、前者がクロスの張り替えや老朽設備の取り替え・家具の入れ替えで100~200万円のコース。後者が、壁も床も天井も壊して躯体丸出しにし、水回りも含めて大きく間取り変更し、設備(風呂・洗面台、キッチンなど)を全面交換して1000万円のコースだ。
 間取りやにドア類に不満がなければ前者で良いし、逆なら後者で行くしかない。

 いや、マンションリフォームの特長の1つは「間取り変更がしやすい」という点にある。
 一戸建てでは、間取り変更は難しい(=お金が掛かる)。構造上、とれない壁や柱が多いからだ。しかし、だいたいのマンションはいくつかの太い柱と住戸間の壁で構造を支えているための、専有面積内を区切っているのは、簡単な間仕切り壁に過ぎない。壊すも作るも自由(=お金があまり掛からない)だ。
 なので今回、知り合いが購入した中古マンションのリフォームを、中間コース、つまり予算500万円でやってみた。
 といっても新しい家具や電化製品のお金が必要なので、実際リフォームそのものに掛けられるのはマックス450万円くらい。これで、ちょっとした間取り変更が、出来る。作り付けの家具も一部分なら入れられる。そう、だけどそれらは一部分だけ。

 そのメリハリを、どうつけようか。そして、いったい、どんな間取りと、どんな作り付け家具にしようか。

 #リフォームに建築士をという選択

 まずは「誰に頼むか」だ。
 最近近所でマンションリフォームをやった友人の紹介も受けて2社(者)を選んだ。1社は大手企業、1者は個人の建築家だ。全く違う、2社(者)。
 前者は大手建設会社でリフォーム事業も大規模に営んでいる。HPには数百に上る実例が紹介されている。後者は個人の一級建築士で、HPにも独創的な作品がならぶ。イタリアの世界遺産修復で腕を磨いた俊英だ。
 実現したいコンセプトや具体的変更案をこちら側でまとめて、2時間ほどで各々に説明する。そこには実は間取り変更要求は入っていない。「予算は400万円程度」「もし可能なら間取り変更も」程度にして2者の提案を待つことにする。

 1週間後、全く違う提案が上がってくる。
 大手建設会社からはズバリ「見積もり概算」が。そしてその場で手書きの「間取り変更案」も。
 建築士からは「コンセプト提案」として数々のデザイン画が。そこには作り付け家具デザインに加えて、2カ所の「間取り変更案」も含まれていた。
 廊下と隣接する寝室2つのデッドスペースを統合しての「Pre-Room(前室)」提案、そして、キッチン部屋とリビング・ダイニングをつなげる「オープンキッチン」提案。いずれも素晴らしい。
 ただし見積もりについては「だいたい収まるでしょう」「詳しくは施工会社に相見積りをとって確認ですね」のみ。「施主支給を増やした方が良い」「グレード次第で大きく変わりますし」とも。
 結局、この建築士のセンスと割り切る力に期待して、契約。彼の普段の仕事からすれば、力を余す案件だとは思うが、引っ越し予定日まで2ヶ月弱、お付合い願うこととしよう。

 #建築士+工務店+家具職人という選択

 彼のアドバイスに従って、また2社、施工会社を選び(これまた中堅工務店と一人親方という、全く違うタイプ)、見積もりをお願いする。現場で各一時間、採寸等をしながら、2者ともがプロらしく見積もりのための情報を集めていく。
 一週間後、建築士から連絡が入る。「2社から見積もりが出ましたから、明日打ち合わせを」

 打ち合わせで出てきたのは1枚の見積もり比較表。
 そこでは双方の見積もりが、項目ごとにきちんと揃えられ(抜けているところは適当に埋められ)、その額を比較されていた。
 すでに2社には連絡を取り、その見積もりの凸凹もある程度、均(なら)されてもいた。もちろん低い方に合わせて。
 さらに、重要な作り付け家具については、べつに見積もりを取った家具屋(若い家具職人)に頼むことにし(つまりその部分は2社の見積もりから抜き)、見積もり比較が完成する。
 建築士による、たった1日の早業だ。
 「額もだいたい揃いました」「どちらにしますか?」
 一応聞いてみる。「あなたにとってどちらが働きやすいですか?」
 「どちらも大丈夫です。そういうところにしかお願いしてませんから」
 では、あとは勘で。

 一般論で言えば、工事関係者を増やし、複雑にすることは品質の上でもコストの上でも得策ではない。そういう面ではリフォーム会社に一括で頼むのがよく見えるだろう。
 でも、どこに頼もうが実際には工事種類ごとに傘下の会社や職人さんたちが作業を行うことに変わりはない。コスト的には差はないのだ。
 かといって一般の個人では「品質と管理のバランス」を取ることは出来ない。つまり良い品質のものだけいいとこ取りをして組み合わせようとしても、管理コスト倒れしてしまう(もしくは管理に失敗する)ということだ。
 それをやってくれるのが、建築士。

 #リフォームにおける建築士の3つの価値

 中古マンションリフォームにおいても、あえて建築士を起用する価値が、3つある。

 第一はゆえに「複雑さの管理能力」による「いいとこ取り」ということだ。結果として質の高い施工を、低コストで期待できる。

 第二はコスト意識の高さ、である。逆に思うかも知れないが、自分で直接管理するからこそ余計な手間を減らす、工事種類を減らすことを気に掛ける。
 「洗面所の床はテラコッタとかのタイルにしたいなあ」
 「そうすると左官屋さんが新たに入ることになるから最低10万円は掛かりますよ」
 「う・・・」

 第三はもちろん、提案力の高さだ。私自身、リフォームプランを相当考えてから臨んだが、提示されたコンセプトは大きく期待を上回るものであった。
 プランの議論相手として、全く以て申し分ない。そりゃ当然だ。そのプロなのだから。

 Pre-Roomは(私の要望で)「図書室」となって本好きの子どもの場所となり、オープンキッチン化は料理好きのお母さんの大きなモチベーションとなった。
 竣工まであと数日。
 この選択たちは、新居を待つ家族みんなの、永き笑顔につながるだろうか。

プロフィール

三谷 宏治 氏

KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に子ども・親・教員向け)に注力し全国で講演・研修・授業を行う。 著書多数。『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『一瞬で大切なものを決める技術』はビジネス書賞を獲得。近著に『戦略子育て』『新しい経営学』『戦略読書〔増補版〕』など。早稲田大学ビジネススクールおよび女子栄養大学 客員教授。永平寺ふるさと大使。

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