Campus Report 2004

岩瀬 大輔 to Harvard Business School(全16回)

MBAホルダーへの道

Vol.5 4ヶ月間を終えて

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マイクロファイナンスとACCION

これだけ豊かになった現代社会において、いまだ約30億を超える人が収入1日2ドル以下の貧困に苦しんでいるという事実は、開発経済を専門とする一部の人を除いては、日常生活のなかでおそらく意識することはないだろう。突然このようなグローバルな視座で議論されると、日頃、あのレストランが美味しくないとか、この洋服が気に入らないとか、面 白い日記がなかなか書けないだとか、つまらないことで不平を述べている自分が恥ずかしくなる。

それでは、このような貧困を改善するために、我々は何ができるのだろうか? 食料やその他の援助物資を送ることはもちろん有用だが、根本的な解決とはならないことに気がつく。一人一人が何らかの職につき、経済の持続的な発展が推進されない限りは、社会から貧困はなくならないのだ。働くことは日々のパン代を稼ぐという経済的な意味だけでなく、個人の自己実現、尊厳や自信の回復という重要な意味合いを持つ。

例えば、政情が不安定な中南米の国の貧しい村をイメージしてみよう。安定した雇用主がないこのような村において、村民にとって日銭を稼ぐもっとも身近な手段は自分で何らかの商いを始めることだ。床屋、大工、パン屋、何でもいい。彼らはまずハサミや工具、あるいはパンを作るための材料を仕入れなければならないが、そのお金がない。

銀行は貧困層の審査などできないし、そもそも事務コストを回収できないから、このような小さなローンは取り扱っていない。彼らはやむを得ず、法外な高利で金貸しを行なっている、マフィアめいた貸し手に頼らざるを得ない。結果 、働けど働けど、高い金利の支払いに追われる結果になる。

そのような状況に対して、商業的な利率で小額のローンを行ない、貧困層へ自立の手助けをしようとする試みが、NGOを中心に約30年前から細々と行なわれてきた。このような業態のことを、マイクロファイナンスと呼ぶ。ACCIONという団体がパイオニアの一つとして貧困層の審査ノウハウを磨き、中南米諸国の金融機関を巻き込んでこの活動を広げてきた。平均500ドルといったmicroな資金を、「起業」の機会を求める人たちに貸してきた。

もっとも、慈善活動として行なっている限りは、資金調達や事業拡大に自ずと限界が生じる。そこでこの団体は、経費を回収できる適正な金利を取ることや、一部政府保証を活用することで民間投資家からの投資を仰ぐなど、事業拡大の基盤を築きあげてきた。資金面 だけでなく、先の村民の例のように、借主に対して、商売のいろはを分かりやすく、楽しくトレーニングするプログラムも開発している。

このような地道な活動と、プロフェッショナル経営陣の招聘、政府や金融機関との提携の結果 、ACCIONは2003年には約100万人の人に対して、10億ドル強の資金を貸し付けるに至った。30億人に対してはまだまだ小さな規模だが、何もないところからinnovativeに、このような取り組みを進めてきたことには敬服せざるにはいられない。

このたび、Social Enterprise Clubの活動の一環として、HBSの学生を代表してこのACCIONの役員会にインターンとして参加できることとなった。スタンフォードに習って新設された、Board Fellowsというプログラムを通じてNGOの役員会に参加できるポストが15用意されたのだが、学生のこの分野への関心の高さを反映して、全部で100名近い応募があった。なかでも、ACCIONはもっとも知名度とインパクトが大きいため、大人気で希望者が殺到したそうだ。

そんななか、持ち前の面接力(選定委員会をして"one of the most polished candidates"と言わしめた)と、コンサル/PEの豊かな実務経験をアピールすることで、なんとか選ばれることができた。僕はこのような分野はまったくの素人だし、これまで世界の貧困と戦うなど、考えたこともなかった。これに対して、相方として選ばれたAndrewは、5年ガーナの農村で過ごした(奥さんもガーナ人)、筋金入りの国際開発派。筋金入りのfor-profitセクター出身の僕と彼とは、いいコンビになりそうだ。役員会は本拠地があるボストンだけでなく、ワシントンとニューヨークでも開催されるため、出張もすることになりそうだ。

僕らの世話役として、ACCIONのCEOを勤めていたこともあり、今でも役員を勤めているHBSのMichael Chu教授がアサインされている。Chu教授はHBSを卒業後、KKRという伝説的な買収ファンド(元祖「ハゲタカファンド」)を経てACCIONに行き、今はHBSの講師を務めている、興味をそそる経歴の持ち主だ。このような人のそばで、確かに世界を変えていっている団体の仕事ができるのは、これ以上は望めないほど恵まれたチャンスだ。今後、また一つ新しい世界に触れていく楽しみができた。
(ACCIONのホームページ:http://www.accion.org)

Social Enterprise

ビジネスの世界の経営手法が、事業の営利性を問わず、継続的な価値創造に寄与することに鑑み、いかにしてより広く非営利セクターに適用していくかとの取り組みが、HBSでSocial Enterprise Initiativeと呼ばれ、活発に研究・教育されている。 背景として、米国における非営利セクターの大きさがある。毎年、約25兆円もの資金が慈善として寄付されている。医療・教育を除く非営利団体の経済活動はGDPの7%を占めるに至り、フルタイム・パートタイムを含めて15百万人もが従事している。その影響力の大きさからは、非営利団体の事業運営の効率性を問わずにはいられなくなっているのだ。

HBSの学生の間での関心も高い。もともと学生の1割強はNGOの出身であり、学生クラブであるSocial Enterprise Clubも300名以上の会員を有する。80名強がNGOでサマーインターンを行ない、300名強が2年次の選択科目で関連分野を学ぶ。そして、卒業生の8割が何らかの形で非営利団体の運営に携わっている。このような状況から、学校側も教授陣と研究予算を大幅に増加し(かかわっている教授は40名)、熱心にこの分野での活動を推進している。上記のACCIONのインターン話はSocial Enterprise Clubという学生団体が主催となっているが、このような学校側の後押しも貢献していることは間違いない。

今年の4月、初めてこの取り組みを知ったときは、大いに感銘を受けた。アメリカではここ10年くらいで相当なノウハウが蓄積されてきたようだが、非営利セクターの大きさからすれば、ビジネスで培われた経営ノウハウを非営利セクターに移転することは、大きな意義を持ちうるはずだ。他方で、日本ではまだこれらの二つの世界の融合は、遠いように思える。多額の金が公共セクターに湯水のように流れている日本においても、ビジネスのノウハウの移転という考えは、将来的に大きなインパクトを与えうるに違いないと思って期待している。

Final Exam

12月13日から5日間、必修の5科目について学期末試験が行なわれた。何でも持ち込み可のオープン・ブック形式で、与えられたケースについて4時間半で事案の分析を行い、経営者として取るべきアクションプランをまとめなければならない。この試験が成績評価に占める割合は40~50%で、残りはこれまでの授業への参加状況で決まってしまっている。直前の詰め込みが通 用する試験ではないし、連日ケースに追われていた頃に比べると時間的な余裕もあるため、今週は普段よりリラックスした雰囲気が漂っていた。

前回紹介した「フォースド・カーブ」なる相対評価によって、全体の20~25%が「3」をつけられるため、プレッシャーは依然として残るが、ここまで来るとなるようになるよね、という雰囲気が漂っており、今週はあちらこちらで連日飲み会が開催されていた。

各科目の大まかな試験内容は、以下の通り:

・LEAD(リーダーシップ・組織):急成長を続ける大手戦略コンサルティングファーム。コンサルタント人員の急拡大と、独特の家族的な企業風土の維持という矛盾する目的をどう両立させていくかがテーマ。

・TOM(オペレーション):大手コングロマリットの皿洗い機事業部。全面 的な工場刷新をどのように行なうべきかがテーマ。

・MKT(マーケティング):成熟市場でシェアを急激に落としている産業財メーカー。どのようにしてシェア奪回を図るかがテーマ。

・FRC(会計):4社の合併により成立したコンサルティングファーム。新たに設置したトレーニングセンターへに関する会計処理と、マネジメントシステムの改善がテーマ。

・FIN1:映画チェーンが新規デジタル技術へ投資を行なうべきか否か、各シナリオに応じて純現在価値を算出し、経営者としてどう対応していくべきかがテーマ。

形式はプリントアウトして提出するもの、ウェブ上にアップロードするものの二通 りあった。LEADは時間になると試験問題がウェブ上に掲載されて、自らダウンロードするという形式だったので、会場は指定されず、僕はパジャマのまま自宅で受けることができた。ワード、エクセル、パワーポイントを駆使して、整理された説得的な答案を作っていく。僕は問題を解くのが好きなので、楽しみながら、字数制限たっぷり書き上げることができた。

12月17日金曜日、マーケティングの期末試験の終了を持って、秋学期が幕を閉じた。8月末から4ヶ月間、来る日来る日、ケースの予習漬けになって過ごした日々から、しばし解放されることになる。しかし、これまでやってきたことを持続的な学びにするには、これからの時間を使って、いかに学んできたことを振り返り、自分のものにしていくかが重要だと思う。少し休んだら、4ヶ月お世話になった5冊のバインダーを再び取り出したいと考えている。

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