#それは母の一言から始まった
2002年正月、私はいつも通り(20年間、毎年)田舎に帰省し、のんびりとお節をつついていた。夕方、食事を終えた頃、母がちょっと改まって曰く「家を建てたいのだけれど・・・」。
実家はミニスーパーで、造りは店舗兼住宅。1階店舗の改装と子供たちの成長に合わせて、住居部分は歪になり、2階へと拡大していた。高齢の祖母が急な階段の先の2階で寝起きし、1階玄関を開けるとキッチンが丸見え、両親の寝室は一家団欒の居間でもありトイレへの通路でもある、という状態が20数年続いていた。
それにしても、母さん、なんで70才を目前にした今頃になって? 聞いてみれば、理由は余りに単純。「今までずっと我慢してきた。残りの人生・生活を『普通の家』で過ごしたい。家自体に特に細かい要望はない。任せる」。
分かりました。あなたのその積年の恨みを晴らすために、私が何とかいたしましょう。
祖母、両親が住み、私たち子供や孫が帰省し、親類縁者が集うための家造りがこうして始まった。完成までの15ヶ月間、個人として膨大な時間(とお金)を投じて、学んだことは限りない。流石、人生最大のお買い物だけのことはある。
その学びの内、前編として今回は家造りユーザー(施主)としてのものを、次回後編に住宅業界自体へのものを取り上げたい。
#鬼ごっこの出来る家
職業柄、情報の収集・分析、報告書や資料の作成はお手の物である。
当初から、全ての検討内容を一元的に記録・表現するためのファイル(PowerPoint)を作った。
『安心して1階に住める家
奥行きと光のある家
そして、鬼ごっこの出来る家』
これがそのファイル「Project 福井の家」の表紙を飾る言葉だ。今回の家造りの基本コンセプトと言えるものだ。家造りには、まず、目指すべき姿のコンセプトが必要だ。
家造りは「経営改革プロジェクト」にとてもよく似ている。企画から設計・構築・運用という流れとやるべき作業や考え方は、どの段階においても類似性が極めて高い。そして個々の難易度は高く、よい家造りのためには、よいプロジェクト運営スキルが必須となる。
その第一が「コンセプト作り」だ。
そもそも経営改革プロジェクトは何故「難しい」のだろうか。一言で言えばそれは「自由度が高すぎるから」だ。もし「経営」改革でなく、「営業」改革であれば、その他の機能や要素(商品や生産や人材や資金・・・)は与件となる。つまり多くの強い制限や制約の中で、改革を考えることになる。これは不自由ではあるが、故に実は簡単だ。目指しうる将来の姿が、今のそれと大差ないからだ。
「経営改革」となるとそうは言えない。全てが与件ではなく変数であり、目指しうる将来の姿は多種多様、大きくジャンプしたものとなる。しかしこれを1つに決めなくては改革は決して実現され得ない。
......以下の続きは本でお読み下さい。