#2軒目、そして3軒目
前回、郷里に親たちの家(兼 帰省用)を建てたときの学びについて述べた。今回はその次の2つについてまず。
と言っても2軒目は新築分譲マンション(建設は鹿島)で、結局、抽選で外れたので検討だけ楽しんだ(苦しんだ?)もの。そして3軒目は今の家。新築の建売だったが大改装をしたもの。各々全く別の側面での学びは多かった。
マンションは間取り変更が結構効くものだったので、間取りを検討したわけだが、これは究極のパズルゲームだった。変更できるのは間取りだけで、外側の形や柱、玄関の位置は当然決まっていて動かせない。水回りも動かせるが、範囲にそこそこ制限がある。内装材や既存設備は指定の数種類だけで、追加設備にもすべて鹿島本社設計部の許可が必要。
こういう多くの強い制限の中で、理想の間取り(だけ)を追い続けた2ヶ月間だった。
3軒目の戸建ては木軸の在来工法だったので、改修もかなりの自由度はあった。社員20名の工務店さんが売り主で、相当融通も利く。とはいえ柱や構造壁(筋交い入り)を動かすことはほぼ不可能。第一種風致地区の指定もあり、様々な制約が掛かる。
理想のリフォームのために、1ヶ月を費やして検討を続けた。
#「家造りweb日記」の驚異と脅威
これら3軒での「家造り」経験を通じて、学んだことの第一は「顧客のネット化・プロ化」だ。
自分がそうだった、というだけではない。一般消費者たる顧客は、確実にネット化し、プロフェッショナル化・プロシューマー(Prosumer)化してきている。Consumer(消費者)のProducer(生産者)化。アルビン・トフラーがその著書「第三の波」で1982年に提示した概念が遂に現実になりつつあるのだ。
プロとアマの差は一般に、情報量、検討の深さ、道具、にある。家造りに関して言えば、もともと一生に1~2回しか経験を積めない顧客側と、年に何十という案件を扱う企業側従業員の間には大きな差があった。しかし今、そのあらゆる面でアマ(顧客)がプロ(企業)に追いつき、追い越しつつある。
インターネット上には既に1000を超える「家造り日記」が存在し、その数は年々加速度的に増えている。家造りの経緯をひたすら日記風に書き綴ったものが7割、項目別に分類されているものが3割と言ったところだろうか。それらの情報量は凄まじく、実に仔細な状況や情報が発信されている。
特にそこで得られる「満足」「不満」情報は貴重である。
戸建て住宅業界は極めて分散的な産業だ。最大手の積水ハウスですらシェアは数%に過ぎない。故に身近に「同じ商品を買った知人」を見つけ出すことは殆ど不可能である。
しかしネット上なら見つけられる。しかも同じ立場のユーザーとしての連帯感、親近感は非常に強く、個別の質問や相談にも乗って貰えることが多い。顧客側はネット上で連帯し、深く細かい情報や智慧を得られるようになっている。企業側のHPによる積極的な情報発信もそれに輪を掛けている。部材メーカーによるプロ向けの情報すら、簡単に手に入る。
そしてプロアマの道具の差も殆ど無い。間取りの検討ツール、外観のシミュレーションソフトなどは、無料のものから1万円弱のものまで様々だが、その質は相当高く、プロのそれと遜色ない。
#「施主に負けるな」
こうなってくると時間に追いまくられている企業側(営業担当者など)の方が不利になる。興味関心の高いことに対し、顧客は惜しみなく時間を掛ける。それこそアマチュアのアマチュアたる所以だ。ネットを検索し、企業・個人のHPを訪れ、質問をし、いくつものシミュレーションを創り上げる。
その間、案件を10も抱えたプロの営業担当者が出来ることは型どおりの検討であり、自分や同僚の経験の中からだけのアイデアに留まる。
「施主に負けるな」は、建築専門誌である『建築知識』2002年11月号での巻頭特集名である。そこでは企業側、とくに住宅設備を扱う読者(プロ)に対して、こう問いかけられている。
『インターネットや雑誌から得られる膨大な情報により施主の設備への要望がますます高まっています。そしてますます「設備通」な施主が増殖中です。打合せをしたら施主のほうがよく知っていた、という苦い経験をした読者も少なくないのではないでしょうか? 設備は毎年、進化し、変化し続けています。そんな住宅に採用する設備のすべてについてその都度、最新情報を把握するのは困難です。(後略)』
既にプロは顧客(施主)に負けつつあるのだ。
......以下の続きは本でお読み下さい。