三谷宏治の学びの源泉

[第20回] ビジネス誌・紙は縦・横に読む(横編)+祖母からの贈り物

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一つ遡って前回からを「学びの源泉Ⅱ」として、連載を続けていきたい。前々号までの18回が再編・加筆されて出版されることになったためだ。

書題は『突破するアイデア力 - 脱常識の発想トレーニング』
宝島社新書から9月9日、発刊の予定である。主な加筆部分は各節の末に「学びの効果」を付け加えたことと未発表の新章「家族 - 子に学び、祖母に学ぶ」を加えたこと。

新章の内容としては、「未来からの使者 - 子供を見れば未来が見える / IT教育先進国 アメリカの反省 / 収集力から編集力、そして...オリジナリティへ」「祖母からの贈り物 - 喪主代理という仕事:挨拶と順序付け / 贈り物① 五八人の親族 / 贈り物② 感謝の心 / そして、喪主代理として」
乞うご期待。

さて宣伝はこれくらいにして前回に引き続き、雑誌・新聞の読み方のコツを見てみよう。

#横に読む

時系列での比較や自らの問題意識があれば、一般情報の中からでも大事なものが見つけ出せる、というのが「縦」編であった。
「横」編は、そう、同じテーマを同時期に横に、メディア横断的に見比べてその差から真実に近づく方法だ。

中学の頃、活字マニア(活字なら何でも読む)だった私は、親に頼んで朝日新聞をとって貰った。当時、既に福井新聞、サンケイスポーツをとり、更に燐家に頼まれて赤旗(言わずと知れた共産党機関誌)をとっていたので、我が家には毎朝4つの新聞が配達されることになった(田舎なので夕刊はないが・・・)。毎朝、自宅で「やじうま新聞」状態だ。

朝1時間、帰ってから1時間、3紙(流石にスポーツ紙は・・・競馬欄だけ)を端から端までじっくり読むという習慣を高校卒業まで6年間続けた。大学時代からは日経新聞と朝日新聞の2紙を読んでいた。特に紙面の比較をしようと思って読んでいたわけではないが、自然と編集方針の差や、記者のスタンスの差が目に付いてはいた。

何よりも一面トップが全然違う。日本国民にとって最も大事なはずのニュースが、会社が変わると全然違うのだ。これには驚いた。
それでも変わらない部分が少なくとも「事実」なのだろう。でも知らされない事実なんていくらもある。

その点、インターネットは便利だ。興味さえあればどんどん横に比較をすることが出来る(まだ歴史がないので過去に遡るのはちょっと苦手)。体制的意見、反体制的意見、良く分かんない意見、何でもありなだけに面倒でもあるが、選別のしようでかなり便利な「横読み」ツールとなる。

#端から端まで読む

例え日経新聞一紙だけでも、端から端まで読んでいくと面白いことが分かる。
流石に「事実」(と称されるもの)が大きく変わるわけではないが、同じテーマに対して記事部分と論説部分で論調(肯定的・否定的)が違う、とか、ある産業や企業への見方(成長・成熟)が違う、とか。

横に読むことで、欲しいのは「意見の巾」だ。例えば、ある日、大手コンビニエンスA社に関する記事が数頁離れて2つ載っていた。一つはトップへのインタビュー記事で数段ぶち抜きの大きなもの。

そこでそのトップは様々な顧客や市場の変化について述べ、次への戦略論を展開する。「もう顧客は量や価格といったものには単純に反応しない」「高価格おにぎりも売れている」「増量は効かなくなった。コストが掛かる割にその分売上が伸びたりはしない」「これからは高付加価値な商品を・・・」等々。

数頁離れて同じA社の販促戦略について小さめの記事が謳う。「A社 8月から主力XXの増量キャンペーン実施」
しかも記事はこの「増量」戦略に対してかなり好意的な論調である。「増量はコストが大して掛からない割に、集客効果が高い」

まあ、大企業とは万事がこんなものかも知れない。よく言えば多面性、悪く言えば統合失調症だ。そして、大新聞とはこんなものかも知れない。記者が違えば、紙面が離れれば(デスクが違えば)、記事間の整合など取りようもない。
でも、それは我々にとってチャンスでもある。そこから様々な企業の本音、新聞記者の気持ちが漏れ見える。

#国横断で見る

NHK BS1、朝6:15からの「おはよう世界」も、完全な「ながら試聴」だが役に立つ。アメリカ・CNN、同・ABC、カタール・アルジャジーラ、イギリス・BBC、フランス・F2、スペイン・TVE、韓国・KBS、中国・CCTV、と主要どころを押さえ、そのトップニュースを伝えてくれる。

もちろん国々によってトップニュースは大きく異なる。それでも世界での関心事(問題)の幅広さを知るには丁度良いし、日本の関心事が(多くの場合)世界の無関心事であることもよく分かる。

靖国問題を取り上げるのは中国と韓国だけ。他の国にとっては50年前の戦争よりもっと喫緊のテロ問題があり、もっと深い宗教的怨念がある。

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#秘密の情報源・・・告白

告白しよう。1つだけほぼ定期的に読んでいる「特別な情報源」がある。割とメジャーなメールマガジンだとも思うが、それは「Hot Wired Japan」だ。米国 Hot Wired の翻訳記事が中心だが、その日本語訳のレベルがまず凄い。これだけ難しいテーマを、しかもHotでCoolな日本語で、実に流麗に訳してある。書き手の気持ちが伝わる翻訳だ。

内容はもちろん最高。といっても他と比べたことがないから知らないが、私の好きな最新の天文学ニュースから、スティーブ・ジョブズ(アップル社CEO)の名言集まで。実にクールな話題が満載だ。しかも過去の関連記事との関連リンクが整理されているので、興味があればどんどん遡り、突っ込んでいける。

これは私にとってはビジネスネタというよりは、人生ネタだ。世界の広さと深さ、色を教えてくれる。

永年お世話になってきた恩返しも含め、ここで告白・宣伝する。

最後に『突破するアイデア力』の新章の終わり部分を一部紹介して、再スタート号の締め括りとしよう。

#喪主代理という仕事:挨拶と順序付け

2006年4月のある日曜の夜、父方の祖母が亡くなった。
享年93、大正元年生まれの大往生である。
喪主である父の具合が悪いこともあり、その長男である私が、喪主代理を務めることになった。

まずは形式的に、喪主(代理)というものの仕事を並べてみよう。
介護施設で老衰による自然死を迎え、医師により臨終が宣告された後、彼女の遺体は自宅に移され安置された。

そこから膨大な相談事と様々な行事が始まる。

もちろん多くは喪主が指名した仕切り役(葬儀委員長)によって差配されるが、喪主でなくてはいけない仕事も数多い。一言で言えば、あらゆる手配内容の最終決定とあらゆる参列者とのコミュニケーション、金銭の管理といったところだろうか。

その中でも喪主の最も大切な仕事は「挨拶」だ。

非公式なものや小さなものは数限りなくあるが、公式な大きなものは今回の例で言えば、通夜と告別式の2回。これがメインとなる。

誰もこんなことに経験の深い人は居ないので「下手で良い」とは言われるが、親戚・友人・知人100名を優に超える参列者の前での「家」を代表しての挨拶は、かなりしびれる経験だった。しかも、スピーチ内容を考えているヒマなど殆どないし、眠気で頭も回らない。

こういうせっぱ詰まった時に(しかも個人の葬儀という場で)話せる内容とはなんだろうか。

結局それは、心に刻まれているその故人との想い出、あるとき抱いた感情、故人が明確にこの世に残したもの、そしてそれらが指し示す故人の生き方とその意味、といったものではないだろうか。

これを祖母からの「贈り物」として、私は挨拶で皆に述べた。

#祖母からの贈り物

祖母からの我々への第一の贈り物は、親族そのものだ。

彼女には5人の子供(もともとは8人)、13人の孫、22人の曾孫がいる(06年4月現在)。計40名、その配偶者も合わせれば58名が家系図上(もし書けば)彼女の下にぶら下がることになる。

これだけの人数が自然と互いに知り合い、助け合えることこそ、最大の価値だろう。これはひとえに「ルーツ」たる祖母のお陰である。

もう一つの贈り物は、感謝の言葉、だ。
彼女は若くして近所の八百屋(三谷家)に嫁ぎ、3男5女をもうけたが2女は幼くして亡くなった。

福井を襲った未曾有の大震災で家は全壊、見事にぺしゃんこ(ちなみにこの大地震によって以降、倒壊率80%以上という「震度7」が新しく設定された)。
それを再建した直後に、隣家からの失火で家は再び焼失。

53才で夫を亡くし、75才の時には長男を喪った。83才の時にはたった一人の兄弟も交通事故で亡くした。友人達も次々他界する中で、それらの葬儀の度「もう長生きしていたくない」と祖母は泣いていた。

でも、我々が思い出す普段の彼女はいつも笑顔だ。
会う度、私たちの手を取り、拝むようにして言う。
「ありがとのぉ」「ほんと、○○ちゃんのお陰や」「かてぇけの(健康ですか)」

顔をくしゃくしゃにして感謝の言葉と、健康への気遣いを繰り返す。耳が遠いので返答しても殆ど通じない。それでもいいのだ。こちらが微笑み返すことで意は通じる。「おばあちゃん、ボクは元気だよ。おばあちゃんも元気そうで、ボクも嬉しいよ」

#そして、喪主代理として

そんな祖母を、皆に覚えていて欲しくて、私なりに精一杯の挨拶をした。祖母が私たちに教えてくれたことを一生懸命伝えた。

「長生きすることは良いことなんだ」と。
そして、白木の棺に入った祖母に向かって、何度も語りかけた。
感謝の言葉を一杯掛けてくれてありがとう。

ヒトは褒められるために生きている。身近なヒトに、認められるために生きている。そういうことを教えてくれてありがとう。

4月、郷里は丁度、桜の開花の頃。ちょっと遅めの桜とともに祖母は多くの子供・孫たちに別れを告げた。

おばあちゃん、ご苦労様。そして、ありがとう。

読まれてのご意見ご感想、ご質問はこちらへ。筆者が直接お答えします。

プロフィール

三谷 宏治 氏

KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に子ども・親・教員向け)に注力し全国で講演・研修・授業を行う。 著書多数。『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『一瞬で大切なものを決める技術』はビジネス書賞を獲得。近著に『戦略子育て』『新しい経営学』『戦略読書〔増補版〕』など。早稲田大学ビジネススクールおよび女子栄養大学 客員教授。永平寺ふるさと大使。

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