#校庭三面分の本
前回に引き続き、6月におこなった吉野小学校での4.5年生向け授業「本の不思議」をベースに書いていこう。
前編では、漢字の歴史、書体の不思議、そして、グーテンベルグによる生産革命について述べた。後編では、アマゾンによる流通革命、グーグルによるデジタル革命の話へと進んでいく。
でも、子どもたちに大切なのは・・・・
2007年時点で日本最大の書店(店舗規模)は、八重洲ブックセンター。東京駅前 8階建てビルの延べ1200坪に、150万冊の書籍が列べられている。
1200坪は大体100m×40m。やや大きめの小学校の校庭くらいだろうか。そこにぎっしり書棚が列んでいる光景を思い浮かべてみよう。
毎年出版される7.6万タイトルの書籍と3000種の雑誌は、こういった場所を通って流れているわけだ。新刊の9割以上は1ヶ月を経ずして姿を消し、1割のみがしばしの滞留を許される。しかし安寧(あんねい)は許されず、長く売れ残れば結局は出版社へと戻され、裁断機のお世話になることになる。
駅前などの最高の立地を活かしたとしても、リアルな本屋さんではこれがおそらく限界点だ。
ではバーチャルではどうか。
アマゾンの日本向けサイトamazon.co.jpでは、現在、新刊・古本取り混ぜて、470万タイトルの本を取り扱っている。
八重洲ブックセンターのざっと3倍、校庭3つ分の本屋さんだ。書籍での売上高(日本)は年間およそ1000億円。八重洲ブックセンターの5倍、全国に60店舗を展開する紀伊國屋と同程度の売上を、たった一店舗で上げている。
それが歩いてゼロ分、各家庭の机の上にある訳だ。
それを可能にしたのがインターネットであり、アマゾンという企業なのだ。
#グーグルの野望
グーグルはそれを更に推し進めようとしている。
インターネット上にあるホームページの情報量は2005年時点で約135億ページ分、5000万冊分に達する。
これを検索可能にするだけでなく、「デジタル図書館プロジェクト(Google Print Library Project)」では、全世界の主要な図書館と提携し、その蔵書をスキャンしまくっている。
対象はハーバード、スタンフォード、ミシガン、オックスフォードの各大学図書館やニューヨーク公立図書館等。スキャンするのはその第一陣分だけで1500万冊。その後の提携図書館の分を含めれば、おそらく2500万冊近くが、グーグルの検索対象としてカバーされるようになる。
まさに「人類の知の一元化」と言えよう。誰でもが、いつでもどこからでも、過去の人類の叡智の結晶を、検察・閲覧できるようになる。そういった究極の世界まで、もうあと一歩のところまで来ている。
でも・・・それが何だというのだろう。
子どもたちにとって、そのデジタル化された数千万冊分の叡智は、何の意味があるのだろうか。
#知識の海に溺れぬように
一人の人間が一生の間に吸収しうる意味ある情報は、精々9GBと言われている(毎秒10~50bit X 70年分)。つまり本にして約7万冊分「足らず」だ。
1日2.7冊と考えると頭が痛いが、テレビもお喋りも全て含めてだから、大したことはない。
それよりは、世の中にある数千万冊分の知識からどう意味のあるものを選ぶのかの選択スキルの方が問題だ。いや、さらにそれ以前に、文字や画像といったデータから知識を読み取り、吸収する意欲と力(読解力)がなくては話にならない。
それは本で言えば、「本が好き」で「内容を読み取る力がある」ということだ。
子どもたちが付けるべき姿勢と力は、まずこれらが最優先。そうでなければ情報の海を喜々として泳げない。
ではどうやったら子どもは「本」が好きになるのか。絵本でもマンガでもゲームでもなく。
ここでは、「本を好きにならせる」ではなくて「好きな本を見つける」そして「そこから芋づる方式で展開する」方法をオススメしたい。そしてその鍵は「図書館」と「アマゾン」だ。
#魔法の本を、見つけよう
まずは立ち読みしまくって「好きになれそうな本」を見つけることだ。
どんな子どもにでも「魔法の一冊」が(たぶん)きっとある。文字が小さくて絵が少なくて文字ばっかりで、でも、なぜか引き込まれる、そんな本。
三女にとっては「王さまの本」がそれだった。
王さまシリーズは寺村輝夫氏(06年没)のライフワーク。1956年から40年以上にわたって31冊が刊行された。
どこかの国に住む、わがままな王さまが主人公のお話なのだが、真剣な学びや寓意があるわけではない。でも多分、そのわがままさと失敗(と成功)が楽しい、そんな本だ。
三女は小学3年生の時、これで「小さな活字がいっぱいの本」を読む楽しみを、初めて覚えた。
いろいろ試したけれど、最後まで読み通すことのなかった「小さい活字だけ」の本。そういった本の楽しみを「王さま」は無邪気に教えてくれた。それから彼女はひたすら王さまシリーズを読み続けている。
さあ、まずは立ち読みだ。自分に合うものを「探す」だけなのだから、買う必要なんてない。
その為の最適な場所は学校や地域の図書館であり、大手の書店であり、アマゾンだ。どんどん、ちょこちょこ、読もう。
そして魔法の本を、見つけよう。
#魔法の広げ方:アマゾン繋がり
首尾良くそんな本が見つかったら、次にどうするか。
同じシリーズがあればまずそれから。同じ作者で攻める手もあるだろう。もしくは同じようなテーマで、というのも。
結構面白い、有力な手がある。それが「アマゾン繋がり」だ。
アマゾンではどの本を選んでも、必ず「この本を買った人はこんな本も買っています」情報が出る。これを辿っていくわけだ。
王さまシリーズの第一作「おしゃべりなたまごやき」を買った人は、「エルマーのぼうけん」も買っている。うんうん、これも良い本だよねえ。
この著者は他にも本、出してたっけ。
ルース・スタイルス・ガネット、をクリックすると「エルマーと16ぴきのりゅう」や「エルマーとりゅう」が出てくる。
ああ、この三部作が代表作なんだ。講談社から英語でも出ている。コメント読むと中学生程度で読めそうかな。
こうやって、魔法の本の幅を拡げていく。
慌てる必要はない。本を読む習慣さえ付けば、その内、興味の範囲は拡がってくる。
私のように、高校卒業までほとんどSFと宇宙の本しか読まなかった、なんて偏る場合も出るかもしれないが。それでも、多分OK。楽しく量をこなしていれば、きっと「読解力」はついている。
#アマゾンじゃんけん
子どもたちにアマゾンへの興味を持って貰いたくて、アマゾンを使った遊びを考えた。
ルールは簡単。
自分の選んだ本の、アマゾンでの「ランキング」の数字が『大きい』方が勝ち。つまり順位の低い、より売れていない本を選んだ方が、勝つのだ。
但し、アマゾンに登録してなければ負け、ランキングが出ていないものも負け。
負けてもちょっと嬉しい、ジャンケンだ。
授業が終わっても、子どもたちが集まってくる。
ボクの本は何位?カチャカチャ・・・おー、23万位だ。
私のは?カチャカチャ・・・2000位だよ。
あ~、負けちゃったぁ。でも、何百万冊もあるのに2000位なんて凄いね。
子どもたちに必要なのは、本への興味と読解力。
それは「魔法の一冊」から始まる。
図書館へ行こう、立ち読みをしよう。そしてアマゾンを使いこなして、どんどん進んでいこう。
これで、「本の不思議」のお話しを、終わります。
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